二次創作小説(紙ほか)

Re: 第二百二十三話 懸念 ( No.388 )
日時: 2016/09/23 10:00
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Ds4zVFnx)

ネオイビルに残された最後の基地で行われている、最後にして最大の計画。
そのための準備も、ようやく最終段階を迎えようとしていた。


「これで……! よしっ!」
ネオイビル第五研究所、モニター室。
画面とにらめっこを続けていた蒼天将直属護衛、シーアスが、バッと顔を上げる。
「正常な動作を確認! ソライト様、こっちも上手くいきました!」
シーアスが振り向いたその目線の先にいるのは、上司ソライト。
「ご苦労様です、シーアス。それでは……」
シーアスの言葉を聞いてソライトもこちらを振り向き、少し考え込むような様子を見せる。
「そうですね、一旦休憩にしましょうか。とは言っても、恐らく残りの仕事は私でないと出来ないものばかりです。休憩が終われば私はまた作業に戻りますが、貴女は休んでいて構いません。決戦に備えて、準備をしてください」
「分かりました。もし他に仕事があればすぐさま駆けつけますね!」
ソライトとシーアスは、共に休憩室へと向かう。


「全体的な進行度は、どんな感じなんですか?」
「最初の計画よりは少しだけ遅れていますが、ほぼ順調です。三日か四日後には、浮上させられるでしょう」
休憩室で、シーアスとソライトは紅茶を啜りながらそんな話をしていた。
「……の割には何だか浮かない顔をしてますね、ソライト様。懸念材料でもおありですか?」
「……まぁ、そうですね。とは言っても計画自体には特に問題点は見当たりません。問題なのは、精神面です」
シーアスの疑問に、ソライトは素直にそう返した。
「精神面?」
「ええ。天将の中に、心に何か深いものを抱えた者たちが出て来ています。私としては、そこだけが心配です」
……と言われても、シーアスにはあまり実感が湧かない。
根底にマターの指示はあれど、ある程度独断での任務や行動が多い天将に対し、直属護衛は基本的にそれぞれの天将の指示を受けて天将のために行動する。
そのため、天将に比べて同僚や他の上司との繋がりがあまり多くないのだ。
「セドニーは最近特に考え込むことが多くなっていますし、ラピスは精神が全く安定していません。メジストに至っては一ヶ月ずっと抜け殻のようにぼーっとしているだけです」
「抜け殻? メジスト様がですか!?」
シーアスからすれば、それが一番驚きだった。
元々、シーアスは気が荒い人間や野心的な人間が好みで、平和主義を嫌う人間である。
それに一番合致するのが、まさに破天将メジスト。
「こうしちゃいられない! ソライト様、今メジスト様はどこに?」
「……はい?」
「メジスト様の場所です! 私が直接会って元気を出させてきます!」
「……メジストは今特に仕事はありませんから、自室にでもいるのではありませんかね。ただあの精神状態ですから、入れてくれないと——」
最早ソライトの言葉も待たず。
ダン! とシーアスは勢いよく立ち上がり、部屋を飛び出していった。


反応がない。
メジストの部屋の扉をいくら叩いても、人が現れるどころか声すら聞こえない。
「メジスト様ー! いるなら開けてくださーい!」
物凄い勢いでシーアスは扉を叩くが、やはり同じ。
「……かなり落ち込んでるのかしら、メジスト様。それとも、初めからこの部屋にいない?」
ここでようやくシーアスはその結論にたどり着く。
しかしそうなってしまえばお手上げだ。ソライトに調べてもらえば分かるだろうが、恐らくソライトはもう仕事に戻ってしまっているし、それを邪魔することはできない。
ソライトの話しぶりだと、メジストはかなり酷い精神状態にあるし、そうでなくてもメジストは天将の中でも癖の強い人間だ。彼の思考回路など、シーアスには到底分からない。
と、そんな時。
「なんだなんだ、メジスト様の部屋の前で騒いでるのはどこのどいつだ?」
「って、あら、シーアスじゃない。貴女がこんなところに来るなんて、珍しいわね」
隣の通路から男女の二人組が現れる。
シーアスはそちらを振り向くが、男は白黒の仮面で、女は黒い紙袋で顔を隠しており、顔が見えない。
「ソライト様からの伝令かしら? それなら私たちがメジスト様に伝えておくけど」
「メジスト様は今ここにはいねえぜ。ついさっき部屋を出て行っちまった」
表情の分からない二人が、シーアスにそう話す。
どうやら、メジストはやはり自室にはいないようだ。
「今回はあたしの個人的なメジスト様への私用なの。メジスト様がどこに行ったか、知らないかな?」
キキとケケにそう尋ねると、姉弟は顔を見合わせ、
「ああ、そうなのね。どういう用件だか知らないけど、メジスト様ならラピス様の部屋に行ったわよ」
シーアスが一番求めていた答えを、キキはあまりにもあっさりと返した。
だが、
「ただ」
ケケが姉の後に言葉を続ける。
「ここのところメジスト様は明らかに様子がおかしい。魂が抜かれちまったみたいにぼーっとしてる。飯も食ってるかどうか分かんねえような状態だ。会ったところでお前の目的が伝えられるかどうかは分からんぜ」
「私たちだって、さっきメジスト様が突然部屋から出て来てびっくりしたのよ。それまでまともに部屋から出てこなかったから」
姉弟の言葉を受けて、シーアスは考える。
シーアスの知っているメジストは、狂気染みた笑い声と共に天性の能力や圧倒的な実力で敵を叩き潰す狂人だ。
そんなメジストが、正気をなくしたように動かないというのだ。よほどのことがあったに違いない。
しかし。
ここでシーアスはやはり、自分がなんとかしないといけない、という思考にとらわれてしまう。
その結果。
「分かった。二人とも、ありがとう!」
キキとケケに礼を言うが早いか、シーアスはラピスの部屋まで走り去っていった。
「……なんだったのかしら?」
「さあな。正直、あいつに今のメジスト様と会話が出来るとは思えねえんだが」
「奇遇ね。私もそう思ってるわよ」
はぁ、とため息をつき、姉弟は通路へと姿を消す。