二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第二百三十話 破天 ( No.396 )
- 日時: 2016/10/01 21:06
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
下っ端の大群を突破し、セイラはただ一人、塔の中を突き進んでいた。
果てしなく長く続く螺旋階段を、セイラは登り続ける。
ずっと上へ上へと進んで行き、どれくらい登ったかわからなくなってきた頃、セイラは遂に頂上へと辿り着いた。
壁のような柵で周りを囲まれてはいるが、頂上はそこまで広くはない。空中都市の塔の一番上なので、風も吹き荒れている。
そして。
風に揺らめく一つの人影が、こちらを見据えて立っていた。
真っ黒な装束に身を包み、顔も同じく真っ黒なフードで覆った男。腕は傷だらけで、フードには大きくネオイビルの紋章が描かれている。
破天隊統率、序列四位——破天将メジスト。
「セイラ、だったな。お前が来ると思ってたぜ」
「ふふ。突き刺さるような貴様の気配を、この塔から感じてな。貴様の相手ができるのは恐らく私だけだ。あと——」
「そろそろ決着をつけたい。違うか?」
喉まで来ていたセイラの次の言葉は、先にメジストに言われた。
「……いいや。その通りだよ」
あっさりと、セイラはそう認めた。
その上で、
「貴様の口からそんな言葉が出てくるとは意外だな。個々の戦績には拘らず、ひたすらに戦いを求める戦闘狂だと思っていたんだが」
「その通りさ。リュードウに復讐を果たすって目的はあったが、基本的に俺様はやりたいことをやりたい時にやる人間だ」
だがよ、とメジストは続け、
「テンモンでリュードウをぶっ倒した時、ネオイビルに入ってまで果たしたかった俺の目的は忽然と無くなっちまった。この一ヶ月、ずっと考えてたよ。あっさりと目的を達成しちまった今、俺は何がしたいんだろうなってな。周りの奴らからは抜け殻みたいだとか言われてたようだが」
らしくもなく、メジストは真剣な口調で言葉を続ける。
「『ブロック』に大敗を与えた。復讐対象のリュードウも倒した。じゃあ、今の俺がやることは何だ。それを考え続けた結果、頭に出てきたのは、お前だった」
「私?」
「ああ。どうせこれで最後なんだ、正直に話すぜ」
メジストはそこで一拍置き、
「俺はお前に影響を受けてる。だからここで今度こそお前を倒して、俺が正しかったことを証明する」
メジストの顔を覆うフードが吹き飛び、猛獣のような鋭い眼が黒い光を放つ。
同時に、その額に竜の顔のような黒い模様が浮かび上がる。
「……私が貴様にどんな影響を与えたのか、正直なところ、私には分からない。だが、今やることは分かった」
そんなメジストの様子を見て、セイラはそっとモンスターボールを取り出す。
「決着をつけよう、破天将。今、ここでだ」
「いいぜ。完膚無きまでに叩きのめす。覚悟はいいな」
両者が、ポケモンを繰り出す。
「ひねり潰せ、リーフィア!」
「出て来い、シルドール!」
メジストのポケモンは、新緑ポケモンのリーフィア。すらりとした体型の四足歩行のポケモンで、体の所々に葉のような植物的な特徴が見られる。
対するセイラのポケモンは、両手に金色の盾を持ち、背中も長い髪のような巨大な盾で覆った白い人型の人形のようなポケモン。ドールポケモンのシルドール。
「耐久に厚いシルドールか。だが関係ねえ、全て蹴散らす! リーフィア、剣の舞!」
手始めにリーフィアは激しい戦の舞によって攻撃力を飛躍的に上昇させる。
「リーフブレード!」
そしてすぐさまリーフィアは前足に小さく生えた葉を大きな刃のように伸ばし、一気にシルドールとの距離を詰め、淡く緑色に光るその刃を振り抜いてシルドールを切り裂く。
「シルドール、毒々!」
対するシルドールは怯まなかった。
両手の盾で刃を受けきり、その瞬間に見るからに毒々しい液体を放ち、リーフィアに猛毒を浴びせる。
「っ、やっぱ硬えな。おまけに毒々と来たか。少しずつ体力を削り取る考えだろうが、そうはいかねえ! リーフィア、剣の舞!」
刃の効き目が薄いと見ると、再びリーフィアは戦の舞によって攻撃力をさらに高めていく。
「シザークロス!」
リーフィアの両前足の葉が伸び、リーフィアが地を蹴って飛び出す。
鋏のように二つの刃を交差させ、シルドールを切り裂く。
盾で受け止めるシルドールだが、その顔が痛みで僅かに歪む。
「ようやく効いたか。リーフィア、ポイズンリーフ!」
リーフィアが毒を含んだ紫の無数の葉の刃を飛ばす。
飛来する無数の毒の葉を、シルドールはまたも両手の盾で受け止める。
「シルドールは致命的に遅い。だから相手からの攻撃は躱せず、盾で防御するしかねえ。だが、相手は剣の舞をひたすらに積んだリーフィア。さあ、どこまで耐えられるかねえ? リーフィア、リーフブレード!」
口元を吊り上げてメジストが笑い、リーフィアは淡く光る葉の刃を振るい、立て続けにシルドールに斬撃を与えていく。
しかし、
「ふふ、それはどうかな。シルドール、自己再生!」
シルドールの体が白い光に包まれる。
リーフィアの連続攻撃によって受けた傷が、みるみるうちに癒えていく。
「……チッ、自己再生か! 厄介な回復技……! リーフィア、剣の舞!」
それを見たメジストが小さく舌打ちする。
リーフィアはさらに戦の舞を舞い、遂に攻撃力は最大まで上昇した。
「斬り裂け! リーフィア、シザークロス!」
リーフィアの両前足の葉が、リーフィアの全長よりも大きく伸びる。
一瞬でシルドールとの距離を詰め、巨大な刃を交差させて振り抜き、シルドールを切り裂いた。
「攻撃を止めるな、畳み掛けろ! リーフィア、リーフブレード!」
前足の刃が、淡い緑の光を帯びる。
シルドールの周囲を飛び回りながら、リーフィアは連続でシルドールを切り裂いていく。
いくら耐久の高いシルドールと言えど、この連続攻撃は痛いはず。
「シザークロス!」
リーフィアがシルドールの目の前に立ち、前足の刃を交差させる。
そのまま巨大な二対の刃で、シルドールを両断する。
しかし、
「シルドール、サイコバーン!」
その直前。
リーフィアの連続攻撃が一瞬止まった、その瞬間を狙い、シルドールが念力の爆発を起こして衝撃波を飛ばし、リーフィアを吹き飛ばした。
「ふふ、危なかったよ。気づいていたかどうか知らないが、シルドールに念力を溜め込ませてひたすらタイミングを待っていた。最後の一撃を放ってくる、その瞬間をな。シルドール、自己再生だ」
リーフィアを吹き飛ばし、シルドールは傷を癒して体力を再び回復する。
先ほどまでリーフィアが猛攻を仕掛けていたはずなのに、体力の消耗はリーフィアの方が激しい。
なぜなら、
「さあ、毒のダメージが少しずつ大きくなっているだろう。シルドールには回復技があるが、そのリーフィアはいつまで持つかな」
普通の毒と違い、猛毒は時間を重ねるに連れて少しずつダメージが増えていくからだ。
「だったら少しでもダメージを与えろ! リーフィア、シザークロス!」
「シルドール、サイコバーン!」
リーフィアが前足の葉を伸ばし、シルドールは溜め込んだ念力を爆発させて衝撃波を起こす。
当然攻撃力ではリーフィアのほうが圧倒的に高く、念力の衝撃波は二つの刃に破られる。
しかしその刃は盾に阻まれ、シルドールへ深い傷は負わせられない。
「リーフィア、もう一度だ! 連続でシザークロス!」
先ほどと同じ連続攻撃、しかし、今度は効果抜群のシザークロス。
シルドールの受けるダメージも、先ほどよりも大きい。
しかし、
「……!」
目に見えてリーフィアの攻撃の速度が落ち出した。
毒のダメージがかなり響いているのだろう、そろそろリーフィアの体力も限界のようだ。
「最後に一撃、ぶちかませ! リーフィア、シザークロス!」
前足を交差させ、刃を思い切り振り抜き、渾身の力を込めてシルドールを切り裂く。
強固な防御力を誇るシルドールの体が、遂にぐらりと揺れる。
しかし、その直後。
限界を超えたリーフィアの体が傾き、ゆっくりと崩れ落ちた。