二次創作小説(紙ほか)

Re: 第三十二話 破天将 ( No.82 )
日時: 2013/08/15 13:54
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)

アカノハシティからコウホクシティまでの距離は、言うほど遠くない。
「このペースなら、日没までには着けそうだな」
山道なので、少々歩き辛かったりするが、特に問題はないだろう。
特に珍しいポケモンにも遭遇せず、アカノハとコウホクの中間地点くらいまでやってきた、その時。
レオの視界に、何かが入った。
「?」
目を凝らしてみると、少し離れたところに、通行者を遮るように人が立っている。
「何だ、こんなところで。何してんだ?」
不思議には思いつつも、レオはその人間のほうへと歩いていく。
だんだんとその人間の姿が見えてくる。
そして、
「……!」
次の瞬間、レオの表情が一瞬で変わる。
その人間は、真っ黒なフードを被っていた。かろうじて口は見えるが、目や鼻がまったく見えない。
服も完全に真っ黒で、両腕は無数の切り傷が刻まれている。左腕には、蛇のようにも見える不可思議な模様の刺青が刻まれており、身長はそこまで高くないが、全体的に不気味なオーラを放っている。
しかし、レオが戦慄を覚えたのはその姿からではない。
その原因は、

顔を覆うフードに大きく描かれた、N・E団の紋章。

「ここは通行禁止だ」
そのフード人間が、口を開く。声からして男のようだが、この男、とんでもない威圧感を持っている。
レオでさえ、押しつぶされそうな威圧感を。
「……お前、誰だ」
その男から発せられる恐ろしいほどの威圧感にレオは押し負けそうになるが、何とかそれを押しのけ、レオは質問する。
するとその男は残忍な笑みを浮かべ、
「貴様になら名乗ってもいいだろう。天将の何人かにも会っているようだしな」
「誰だと言ってるんだ」
「破天のメジスト」
そのフード男は、あまりにもあっさりとその正体をばらした。
破天のメジスト。それがこのフード男の名前らしい。
「ってことは、天将の一人か。序列は」
「さあな。貴様には教える必要もない」
不気味な笑みを浮かべ、メジストはレオの質問を一蹴する。
「お前は、ここで何をしてるんだ?」
「見ての通り、通行止めだ」
何の為かは知らないが、このメジストは、ここから先に進む者を追い返す役割を与えられているようだ。
「話し合いで分かるような相手じゃないと思うけど、ここを通してほしいんだが」
「どんな返事が返ってくるかくらい分かってんだろ」
「……ああ。だったら力づくで通らせてもらう」
そう言って、レオはボールを取り出す。
すると、
「ギャヒャヒャヒャ! いいねえ、そうこなくちゃ始まんねえよなあ! だけど、お前が勝ったらここを通らせるのに、俺が勝っても何もなしってのは、少々つまんねえよなあ?」
下品な笑い声をあげ、メジストは人差し指を突き立てる。
「賭けをしようぜ。お前が勝てば、俺は道を譲るとしよう。でも、俺が勝てば、こっちの命令を聞いてもらうぜ」
命令、と聞き、わずかに身構えるレオだが、
「ギャヒャヒャ! そんなに身構えなくたっていいだろうがよ。同性のガキを弄ぶ趣味なんざ俺にはねえしなあ。こっちの命令は簡単だ。アカノハに引き返し、明日の昼になるまでコウホクに来るなってことだよ」
そして、メジストもボールを取り出した。
「悪い話じゃねえだろう? バトルは一対一だ。文句ねえな?」
「その賭けならどうってことないぜ。勝負だ!」
その言葉を引き金に、二人はポケモンを繰り出す。
「頼んだぜ、ポッチャマ!」
「叩きのめせ、グライオン!」
レオのポケモンはエースのポッチャマ。
対するメジストのポケモンは、大きな羽を持った紫色のサソリのようなポケモン。牙が鋭く、両手の大きな鋏、尻尾の先も短い鋏状になっている。
グライオン、牙サソリポケモン。地面・飛行タイプ。
「地面タイプか。それならこっちに分があるぜ。ポッチャマ、冷凍ビーム!」
まずはポッチャマが先攻。ポッチャマは冷気の光線を発射し、効果抜群を狙う。
「グライオン、躱しな!」
対して、グライオンは尻尾で地を蹴り、風に乗って飛び上がる。
「だったらアクアジェット!」
水を纏って、ポッチャマは地を蹴って跳び、一直線にグライオンへと襲い掛かるが、
「馬鹿め! グライオン、捕まえろ!」
ポッチャマの水を纏った突撃を、グライオンは左の鋏で食い止める。
そしてすかさず、グライオンは右の鋏を突き出し、ポッチャマを挟み込み、捕えてしまう。
そして、

「決めちまえ! グライオン、ハサミギロチン!」

ポッチャマを挟んでいる右の鋏が光り、まるで断頭台の刃のように大きく伸びる。
次の瞬間、鋏が容赦なく閉じられ、ポッチャマはその刃に切り裂かれる。
「!? ハサミギロチンだと……!?」
ハサミギロチンは一撃必殺技。つまり、当たればどんな状態の敵だろうと一撃で戦闘不能に追い込む技。代わりに命中率が低いのだが、捕まっていたポッチャマには、避けられるはずもなかった。
勝敗など、わざわざ確認するまでもない。
「くっそ……ポッチャマ、よく頑張った」
地に伏したポッチャマを、レオはボールに戻す。
「ギャヒャヒャヒャヒャ! まあ仕方ねえよなあ、何たって一撃必殺だもんなあ。あー楽しい、こういう一方的なバトルはたまんねえなあ!」
天を仰ぎ、破天のメジストは大声で笑う。
「僕の負けだ。アカノハに引き返す。だけど、最後に一つだけ質問していいか」
「あぁ?」
「お前は、序列何位だ」
先ほど突っぱねられた質問を、レオはもう一度聞き直す。
「ギャハハ! そんなに気になるのかよ、俺がどれだけ強いかがよ。だったらしょうがねえ。教えてやる」
破天のメジストは凶悪な笑みを浮かべる。フードが少しずれ、右目が見えた。まるで猛獣のように、鋭い眼光を放つ右目が。

「俺の序列は。この破天のメジスト様は、七天将第二位だ」

N・E団七天将第二位。破天のメジスト。
一瞬で叩きのめされ、レオはアカノハに引き返す。
圧倒的な実力差を、感じさせられながら。