二次創作小説(紙ほか)

Re: 第三十三話 能力 ( No.83 )
日時: 2013/08/15 13:55
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)

「ちくしょう、完全に警戒が足りなかったな……」
アカノハに戻った頃には、日が傾きかけていた。
正直、先ほどの破天のメジストとの勝負は、油断していたわけではないが、完全に警戒が足りなかった。
あのグライオンの技をハサミギロチンの他に見なかったので一概には言えないが、一撃必殺を警戒していれば勝てたかもしれなかった。
それだけに、先ほどの敗北は悔しいものがある。
「そうだ。父さんに、ソライトの正体を教えてあげないといけないな」
リョーマの話を聞いたときに、父親に連絡しようと思っていたのだが、すっかり忘れてしまっていた。
レオはライブキャスターを起動し、父の番号にかける。
すぐに通話がつながった。画面が開き、見知った父親の顔が画面に映る。
「おお、レオか。旅は順調か?」
はずだったのだが。

画面に映り、いかにも親しげに話しかけてきたのは、見たことのない金髪の男だった。

「……?」
思わず硬直するレオ。
無言で通話を切り、再び父親の番号にかけなおす。
今度はすぐにつながった。やはり見知らぬ金髪の男が画面に映る。
「どうしたんだ、レオ。さっきは急に通話が切れたが、何かあったのか?」
レオはもう一度目をこする。画面に映る人物は変わらない。
「……父さん……?」
「何だ? その私が誰か分からないような言い方は」
「……あ……確かに声と顔は父さんだね……」
怪訝な表情を浮かべるライオだが、レオはそれどころではない。
レオが大声でリアクションしないのは、驚いていないからではない。驚きすぎで逆に声が出ないからである。
「……あのさあ、何で金髪なの?」
よく見ると、ライオの髪型はただ金髪なだけでなく、まるでライオンの鬣のように髪を立たせている。
「あ? ああ、もしかしてそんなことで驚いていたのか?」
ようやくレオの微妙なリアクションの理由に気付いたようで、ライオは笑いながら言葉を返す。
「私はこっちではいつもこの髪型だよ。ウチセトでは、せっかく近所の人たちが見送ってくれるのに、こんな軽い恰好は出来ないだろう?」
「そりゃあ、そうだけどさ……」
と、話題がずれてきたところで、
「ところでレオ、私に連絡してきたということは、何か理由があるのだろう?」
ライオが話題を元に戻す。
「あ、そうだった。ソライト博士が、実はN・E団の一員だったんだ」
それを聞き、ライオの表情が途端に険しくなる。
「……そうか。通りで最近メガキの研究所が開かないわけだ」
「でさ。父さんがソライトにあげたデータって、何のデータだったの?」
レオはそれが一番心配だった。もしも伝説のポケモンなどの機密情報を渡していれば、それがN・E団に悪用されてしまう。
しかし、
「それなら心配いらない。私が送ったデータは、ポリゴンという人工ポケモン製作のデータだ」
「ポリゴン……確かソライトがポリゴン2を使ってたから、そこに利用したのかも」
「おそらくそうだろう。だから私が送ったデータについては安心してくれ。また何かあったら、連絡を頼む」
「うん。母さんによろしく伝えといてね」
そしてレオは、ライブキャスターの通話を切り、次は『ブロック』アカノハ支部へと向かう。


「おや、レオ。どうしたんだ?」
支部に入ってすぐ、リョーマとテレジアに会った。
「実はさっき、コウホクシティへの道の中腹辺りで、破天のメジストとか言う天将と戦ったんですけど……」
レオは何気なくそう言ったが、
「何ッ!?」
途端にリョーマの表情が険しくなる。テレジアも驚いた表情を浮かべ、
「それで、それで貴方は……無事なのですか?」
「え? あ、はい。普通に無事ですけど……」
その言葉を聞き、リョーマとテレジアは顔を見合わせる。
そして、
「レオ。君、もしかして——失礼なことを聞くようだけど——速攻で負けたってことか?」
「はい。グライオンがハサミギロチンを持っていると知らずに突っ込んで、すぐに負けてしまいました」
「なるほど。それは、幸運でしたね」
テレジアが呟く。その言い方に少々レオは苛立ちを覚えるが、
「いいか。よく聞け。気を悪くしたら申し訳ないが、君が破天のメジストにすぐに負けたのは、本当に幸運なんだよ」
「言ってる意味が、よく分からないんですけど……」
レオは首をかしげる。リョーマとテレジアが言っていることが、純粋に分からない。
「よく聞け。破天のメジストは、理由は不明だが、天性の能力を持っているらしい」
「その能力が、戦っている相手の精神力や戦意を徐々に奪っていく、というものなんです」
「……え?」
正直、レオには二人が言っている意味はよく分からない。
だが、二人の言葉には、聞き捨ててしまうにはあまりにも重い内容が含まれている気がする。
「破天のメジストは、N・E団に入る前は凶悪な犯罪組織の長として俺達『ブロック』や国際警察に指名手配されてたんだ。その組織は俺達が潰したんだが、破天のメジストだけは逃亡し、N・E団に入団した」
「問題は、なぜ、メジストを捕らえられなかったのか、という理由なのですわ」
「そう。奴と戦ったものは皆、精神力や戦意を尽く奪われ、地に伏してしまった。その中には、戦意の喪失が酷すぎて、トレーナーを引退してしまった奴も何人かいたのさ」
「ですから、貴方は力を奪われる間もなく負け、心に重傷を負わずに済んだのですわ」
ようやく、レオは理解した。そして、それを理解した瞬間に、背筋が凍った。
「僕はそんな危険な奴と戦ってたのか……」
「破天のメジストは、N・E団で最も危険な男とも言われている。奴と戦って無事なのは、強い精神力を持った者か、決して自分のペースが乱れない者だけだ——ここのジムリーダーなら大丈夫だろうな」
最後の呟きは、レオには聞こえなかった。
「ところで、何であいつはあんなところにいたんでしょう?」
「そうだ。そのことだが、こっちでもコウホクシティへの通信がつながらないんだ。丁度俺達もコウホクへ向かうところだった」
「コウホクシティで、何かが起こっていると考えた方がよさそうですわね」
「そう言えば、あいつは明日の昼までコウホクシティには来るなって言ってました」
「……やはりコウホクシティで何か起こってるな」
とりあえず、日も暮れている。
その後、レオはリョーマとテレジアと別れ、ポケモンセンターに戻った。
コウホクシティで何が起こっているかは分からないが、とにかく明日こそはコウホクシティに出発である。