二次創作小説(紙ほか)
- Re: 第三十六話 大男 ( No.88 )
- 日時: 2013/08/15 13:57
- 名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)
レオは急いでポケモンセンターへ向かった。
三十分たったら襲ってくる下っ端が怖い訳ではなく、この町の人の中でどれくらいの人が無事なのかを早く確認したかったからだ。
ポケモンセンター付近にも下っ端はいたが、レオの方を睨むだけで、襲ってはこなかった。
理由は分かってはいるが、その現象に違和感を感じつつ、レオはポケモンセンターへと入る。
二十人ほどの人が集まり、何かを話し合っていた。よく見るとアスカもいた。
そしてその集まりの中心にいるのは、座っていても背が高いことがよく分かる大男。
おそらく、立てばその身長は二メートル弱はあるだろう。
その男は、オレンジ色の髪を立たせ、炎のような真っ赤なジャージを着ており、非常に体つきがいい。
そして、その集団はポケモンセンターの扉が開いたことに気づき、こちらを振り向く。
次の瞬間、赤いジャージの男が、バッ! と立ち上がった。本当に大きい。
「N・E団め、ついにここまで攻め込んできたか。見たところ下っ端ではないな、天将とやらの一人か」
「え? いや、違いま——」
「だがそうはさせないぞ。コウホクジムリーダーの名に懸け、このカラタチ、全力でお前を叩き潰す!」
「ちょっ、だから違——」
「問答無用! 出て来い、チャーレム!」
レオの言葉など全く聞かず、カラタチと名乗った男は、人に近い姿をし、赤い脚はやや膨らんでいるポケモン、瞑想ポケモンのチャーレムを出す。
そのチャーレムは、ポケモンセンターの床を蹴り、拳を構えて一直線にレオへと突っ込んでくる。
しかし、
「カラタチさん、待ってください!」
間一髪で、アスカがカラタチを止めた。
「彼は私の幼馴染です。N・E団ではありません」
「何!? チャーレム、止まれ!」
レオの顔面に、拳が激突するまであとわずか。すんでのところで、拳はレオの顔を潰さずに終わった。
そして、カラタチはすぐにチャーレムを戻すと、レオに頭を下げた。
「すまなかった。町がこんな状況だったとは言え、もう少しで何の罪もない少年に重傷を負わせてしまうところだった」
「いえ、僕は無事でしたから。それにこの状況では仕方がありませんし」
冷や汗をかきつつも、レオはそう言った。
「本当にすまなかった。しかし、そうだとしたら君は何者なんだ?」
「僕の名前はレオです。さっきこの町に来たら、町の人は何も見当たらず、輝天のトパズとかいう天将と戦い——」
「レオ?」
突然、その集団の中から、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
しかし、それはレオを呼んだようには聞こえなかった。むしろ、名前だけ知っているひとを話題に出すような言い方だった。
レオとカラタチはそちらを見る。一人の少女が立ち上がった。
やたらと跳ねているピンクの髪を、無理に束ねてポニーテールにし、紅色の浴衣とサンダルという、あまり場に合わない格好をした少女。
しかし、レオはその少女の顔を見ていた。
その少女の顔に何かが付いているわけではない。一目惚れしたわけでもない。
その少女の顔が、とある知り合いによく似ていたのだ。
一年前、ウチセトの旅の途中で出会った、シアンという少年に。
周りの目が自分に向けられていることには気も留めず、その少女は立ち上がり、
「あんたがレオ君かー。何か思ってたんと少しちゃうなー」
あたかもこちらのことを知っているように話しかけてくる。
これは、もしや、
「お前……もしかしてシアンの兄妹か……?」
レオがそう言うと、その少女はにんまりと笑い、
「せや。うちはシアンの双子の妹、マゼンタ。よろしゅうなー」
そう、名乗った。
「おや、二人とも、知り合いか?」
横にいたカラタチが会話に入ってくる。
「いえ、僕が知っているのはこの子の双子のお兄さんです」
「ほう。そこのアスカちゃんといい、君はどうやら顔が広いようだな」
「いえいえ、偶然ですよ。それほど顔が広い方ではありません」
一応レオの父は博士ではあるが、そっちの方面の知り合いもほとんどいないので、レオはそんなに顔は広くない。
「シアンがやられたゆーて、いっぺん会ってみたかったんやけど、こないなとこで会えるとは思ってなかったわ」
「それほ僕もだよ。自分を知ってる人とこんなところで会えるとは思わなかったよ」
「二人とも」
初対面なのに話が盛り上がってきている二人を、アスカが呼ぶ。
「盛り上がってるとこ悪いんだけど、カラタチさんの話が途中よ」
「あ、せやったなー。ほな、ジムリーダーさん、話の続きを。レオくん、あんたも来いや」
「あ? あ、うん」
アスカの声で、マゼンタはレオを引っ張り、カラタチを中心としたそのグループに戻る。
そして、カラタチが口を開く。
「見てのとおり、現在この町は危機的状況にある。一応予備の食料などもポケモンセンターにはあるが、それがいつまで持つかは分かったものではない」
そこでアスカが手を挙げる。
「どうした?」
「N・E団は、どうしてこの町を襲ったのでしょう? 本拠とするなら、もう少し小さく、目立たないところの方が良かったはずなのに」
「おそらくは、この町がホクリクのほぼ中心に位置しているからだろう。中央の町を抑えてしまえば、以降の周りへの侵略はぐっと楽になる。その分目立つのは間違いないが、それを抑えるだけの自信があるのだろう」
一旦言葉を切り、さらにカラタチは続ける。
「輝天のトパズは強い。一対一のバトルならまだしも、奴は戦闘というものをよく知っている。レオ、君は知らないだろうからもう一度言っておくが、奴はこの町に奇襲を仕掛けてきたわけではない」
「え?」
「奴は私に手紙を送りつけて来た。時間を指定し、その時間にコウホクに攻め込むと。そしてその時間丁度にやってきた。大軍を率いてな」
その言葉を聞いてレオは息をのむ。他の皆はすでに聞いている話らしく、特に反応はない。
「私やジムトレーナーを中心として、この町全体で戦った。しかし勝てなかった。町の住民の多くが捕まった。他の町から来ていたアスカやマゼンタにも迷惑をかけてしまった」
となると、ここにいる多くのトレーナーはジムトレーナーなのだろう。
「しかし、レオ、君がここに来たことで、私たちはある程度外の状況が分かるかもしれない。何か知っていることはあるか」
カラタチがそういうと、周りの視線が一斉にこちらへ向けられる。
「え、えーっと、あ、そうだ。僕は昨日、破天のメジストと名乗る天将と戦いました。そいつに負けてしまったんですが、そいつは敵の精神力を奪うという厄介な能力を持った奴だったんです。そいつが、もう少ししたらここに来るらしいと、下っ端が言っていたのを聞きました」
あと、とレオは話を続け、
「こっちは吉報です。アカノハシティの『ブロック』の人たちも、もう少ししたら来るといっていました」
『ブロック』が何か分かるかどうかが心配だったが、カラタチは分かったようだ。
「おお、そうか。それはよかった。——ああそうだお前たち、『ブロック』というのは、犯罪団体壊滅組織だ。レオ、『ブロック』と連絡は取れるか?」
「はい。ライブキャスターで——」
その続きの言葉は、カラタチやアスカたちの耳には入らなかった。
ズガァン!! と。
ポケモンセンターの外で、爆音が響き渡ったからだ。
「何事だ!?」
慌ててカラタチが立ち上がる。
「なんや、まさか今言うとった破天のメジストが攻めて来よったんちゃうか?」
「そうだとしたらまずいわよ。敵の精神力や戦意を奪い取る敵なんて……」
後ろでマゼンタとアスカが話す声が聞こえた。
その時。
ポケモンセンターのドアが開いた。
「よう。大変なことになってんなあ、コウホクシティ」
軽い口調で入ってきた、その男は、