二次創作小説(紙ほか)

Re: サトミちゃんちの8男子〜幼馴染との再会〜 ( No.76 )
日時: 2016/01/02 17:23
名前: 美咲 (ID: jiumbMha)




すんごい久々の更新です笑
気分屋ですいません<(_ _)>








〜第十話「アップルパイと不器用な優しさ」〜





学校の正門を潜れば、いつも通りの帰路。


そこを亀のようなスピードでのろのろと歩くあたしは傍から見れば、変な人以外の何者でもないけど、今はそんなこと気にしようとする気分でもない。



「はぁ…」



あたしが一人誰にも聞こえることはないため息を吐いた、そんな時だった。





「お、サットミーー!!」




背後からの聞き慣れた声に、あたしは振り向いた。


少し離れた所で片手を大きく振っているミッチーがいた。



「ミッチー、まだ帰ってなかったんだ…」



ほっとしつつ、小走りなのに豪快な足音で駆け寄って来るミッチーに苦笑する。



するとミッチーは何か思い出したように目をキラキラと輝かせて、



「あのな、サトミ! 俺スゲーんだよ!」



あたしの目の前に茶色の小さい紙袋を掲げた。


“何が?”と口にしようとしたあたしの鼻孔をくすぐるのは、紙袋越しに伝わるほんのり甘い香り。


…すごく、美味しそうな匂いだなぁ。




「期間限定のアップルパイ! あのケーキ屋超人気でさー、学校帰り俺が行った時はいつも売り切れだったんだぜ? けどな、今日全力疾走で行ったら最後の一個だけ残ってたんだよ!」



確かにそう必死で嬉しそうに説明するミッチーの頬は冷たい空気の中走ったせいか、ほんのり赤い。


…だから、放課後になった途端あんなに勢いよく教室を飛び出していったんだ。



「そっか。良かったねミッチー」


「おう!」




あたしが歩き出すと、ミッチーも買ったばかりのアップルパイを頬張りながら横を歩く。


…こうしてミッチーと二人きりになるのは久しぶりかも。



ミッチー、前より随分背が伸びた気がする。



…前、か。
そういえば、一番最初に呪われてあたしに襲い掛かってきたのはミッチーだったよね。


思い立ったら即行動!…のミッチーが一番乗りというのも今ではすんなり納得できて笑えちゃう。



呪いが解けてからは、普段空気を読まずのミッチーだけど、肝心な時はいつだって何度でも助けてくれた。




「ねえミッチー。なんでウチの学校に転校してきたの?」



ふと気になっていた疑問を口にすると、ミッチーは“あーそれな”と呟いて一言。



「よーく考えたらよ、中学に通う連中の中で俺だけが違う学校じゃん? それはおかしいだろ?」



いやおかしくないよ。


もともとあたしの家に集った男子達はおばあちゃんの好みのイケメンであり、悩みに付け込まれ呪いをかけられたってだけの共通点しかないてんでバラバラな集団なんだから。


“呪われ仲間”ってだけでも充分な共通点なのかもしれないけど。



とにかく、あたしとシノとブンゴとゲンパチが同じ学校だっていう事実の方がおかしいんだって。





「もしかして、それだけ?」



ミッチーの性格上、そんな気がしてならない。



「ああ! そんでサトミと同じクラスにもなれたし、…えーっと、こういうの…二石一鳥っつうんだ!」


一石二鳥だって絶対。

あたしでもわかるって。


二つの石投げて一羽の鳥しか落とせなかったらどう考えても損じゃん。


真顔で誤った四字熟語をサラリと言って退けたミッチーに心底呆れたため息が零れる。








「なあサトミ」




そんなこんなで、ミッチーの馬鹿みたいな話に付き合っていたら、いつの間にか家の門の前に着いていて。


不意に立ち止まったミッチーにつられてあたしも足を止める。




「なんつーかさ、何かあった?」



珍しく真面目な声音に、あたしは息をのんだ。




「…別に、何もないよ?」



「そーか? いやーさっきから何か暗ぇ顔してるような気がしてさ。まあ違ったならいーや」



ミッチーってこんなに鋭かったっけ。

それとも、あたしが顔に出し過ぎていたの?




よく喧嘩するブンゴはともかく、あたしを本気で想ってくれている龍を傷付けてしまった。


そしてその後謝るどころか、“また”逃げてしまった。

もう逃げないって…ソウスケの二の舞にはしないって決めたばかりなのに。



あぁ、ダメだ。

ミッチーの前で平静を装っていたあたしの顔が再び暗くなり始めるのを感じた。





けれど次の瞬間。





「……ムフ!?」




誤魔化そうと開いたあたしの口に押し込まれた何か。




こんがり焼けたパイ生地とシナモンの香ばしい香りとマッチするほんのり甘い香り。


噛んでみれば、あっさりしたサクサクの後に果肉入りのトロトロのアップルフィリングの食感。




「…おいひぃ」


「な? うめーだろ!」



無意識に出たあたしの呂律が回っていない呟きに、ミッチーは誇らしげに笑って答えた。




「…ねぇ、どうしてあたしにくれたの? 今のはミッチーの貴重な四分の一でしょ」


「ああ! だから最後まで味わって食うんだぞっ」



全然理由になってないってば。



今の答えが意図的なものかどうかがわからなくって、ミッチーをジト目
で見やった。




するとそんなあたしに何を思ったのか。



「ちょ、ミ…ミッチーっ!?」




ミッチーは突然あたしの頭を撫で回し始めた。

…それはもう、ほんと何の前振れもなく。



しかも結構手加減がなくて痛い。





しばらくして、驚きと戸惑いでされるがままだったあたしからパっと手を放したミッチー。


見上げたその顔には、悪戯っ子のような無邪気な笑みがたたえられていた。



「ははっ、サトミ山姥(やまんば)みてぇになってんぞっ!」



「あんたがしたんでしょっ!」



ワケわかんない。





「次はサトミも一緒に買いに行こーな!」



今度はポンポンと、さっきのが嘘のように優しくあたしの頭を叩いて、ドアの方に走り去っていった。





…もう、グシャグシャじゃん…髪。


今日のミッチーの行動は全く読めない。





残されたあたしは門の前で一人苦笑する。





…ねえミッチー。

あたしこんなにあったかくて幸せな気持ちになれるアップルパイなんて知らなかった。


この際、気付かずしていた間接キスなんてどうでもいいや。
(…いや、ほんとは全然良くないけど。)





にしても、ミッチーに勘付かれるとは思わなかった。


普段怒らない人が怒ると怖いっていうのと同じように、普段馬鹿みたいで単純な言動が目立つ人に核心を突かれるとより一層緊張感が増すものなんだな…。




「きっと、大丈夫」



これからを案じる自分に言い聞かせるように呟いて、我が家に足を進めた。





————まだ残るホクホクとしたアップルパイの温かさが、……少しわかりにくいミッチーの不器用な優しさが、じわりと心にしみ渡っていくようだった。


                   


〜第十話終〜