二次創作小説(紙ほか)

Re: ハリーポッターと無名の生き残り ( No.23 )
日時: 2013/07/04 18:34
名前: プリア ◆P2rg3ouW6M (ID: PR3Fak4z)

 指揮者とソプラノ歌手の方の一礼の時間さえ、もどかしい。
 指揮棒が振られ、すうっと水が流れ出すように、演奏がはじまった。
 
 さまざまな楽器の音が混じりあい、豊かなメロディーとなって、コンサート中に音が響いていく。その中に、ソプラノ歌手のたっぷりとした艶のある声が混ざったとたん、美沙は、自分の心が震えるのがわかった。

 そして、何曲か歌った後、ソプラノ歌手から挨拶の言葉があった。この次に演奏する曲が、今日のコンサートの最後になるのだと言う。そしてその曲は、自分にとって、思い入れのある大切なものだから、魂を込めて歌いたいと。

 そうして、他の演奏者が去り、バイオリンの奏者とソプラノ歌手だけが、その場にとどまる。
 つかの間の静けさの後、ゆっくりと曲がはじまった。

 ソプラノ歌手の方がゆっくりと祈るようにして歌いだした時、美沙の中で何かがうずいた。自分はこの曲を知っている、と。緑の閃光が、目の前で散る光景が頭をかすめる。

「ちょっと、あなた……この曲は……!」

 美沙が心を震わせていると、おばさんがおじさんにすがりつくようにささやいた。

「わかっている……だが今は……」
「でも、あのチェリー・ライリーがよく聞いてた曲じゃない……!」

 美沙はハッとしておばさんの方を見た。
 チェリーとは、美沙の母親の名だ。
 自分の母が聴いていた曲を、今、ここで聴いている。
  
 ——お母さんも、歌が好きだったんだ。

 思い出の中に、お父さんもお母さんもいない。
 けれど、この歌のように、お母さんたちにつながるものの中には——。

 自分の中に芽生えた思いに戸惑いながらも、美沙は耳に刻み込むよう、じっと曲を聴いていた。
 しかし、自分の両親が不快に思っているのに、美沙が快く歌声を聞いていることに、理紗子は腹をたてたらしい。

「ねえ、美沙……」

 美沙を呼び、美沙がそっと理紗子の方へ顔を近づけた瞬間、理紗子は美沙の首筋をくすぐった。

「や、やめ……キャハハ!」

 くすぐったがりやの美沙は、思わず声を立てて笑ってしまい、慌てて口を押さえた。
 周辺の席にいた人が、不快そうにおじさんやおばさん、理紗子、美沙のことをチラリと見やった。
 周囲からよく思われることを何よりも優先するおじさんだ。
 おじさんは、キッと美沙を睨んだ。

「ち、違うよ……だって理紗子が……」
「いい加減にしろ……! お前にはうんざりだ……!」

 おじさんにそう言われた時、美沙の中で怒りが燃え上がった。
 せっかく歌声を聴いていたのに、邪魔をされた挙句、おじさんに怒られるなんて。

 美沙がイライラした気持ちを抑えて理紗子を見ると、理紗子と目が合った。

 すると、急に理紗子の肩が震えだした。笑いの発作を抑えているように口に手をあて、肩を震わせている。やがて口の端から声が漏れ始め、我慢できないと言ったように、ケラケラと笑い出した。

「リサちゃん……! どうしたの!」

 おばさんが周りをみながらオロオロと言うが、理紗子は笑い転げていて、答えることが出来る状態ではないらしい。

「いいいい、一体、どうしたんだ……!?」
 
 おじさんも動転して、理紗子の肩をゆすっている。
 オロオロしているおじさんを尻目に、ケラケラと笑い転げている理紗子。
 その様子がなんだか面白くて、美沙は笑いを押さえ込んだ。

「アハハハ……み、美沙と目が合ったら……急に……キャハハハッ」

 理紗子がようやく答えた時、笑いをこらえてクスクスしている美沙と、動転したおじさんの目が合った。そのとたん、おじさんの目に怒りが燃え上がったのを、美沙ははっきりと見たのだった。

 それから先は、思い出したくもないほど最悪だ。
 ソプラノ歌手の方と話した時も、館長と話した時もあまりよく覚えていない。

 一つだけ覚えているのは、おじさんが必死に平然を保っていたことと、美沙がその場にいてもいないような扱いをされていたことだけだ。
 理紗子の笑いはコンサート終了後に収まったが、おじさんの怒りは、残念なことに収まらなかった。

 家へ帰ると、バツとして、美沙は学校を一週間休ませられた。学校の行き帰りに心を弾ませながら眺めていた花すら見ることが出来ない、退屈な日々だった。

 一人の時間は好きだが、ずっと一人でいるのは寂しい。

 退屈を紛らわすために、自分の部屋を掃除しようと試みたが、結局面倒になってすっぽかしてしまった。 
 
 両親がいないことに寂しさを感じていても、人前では決して弱音は吐きたくない。それでも、両親のことを思うと、時々どうしようもない虚しさに襲われることがあった。この家のどこにも両親の写真はないし、美沙自身、思い出そうとしても両親のことは何も思い出せなかったのだ。

 美沙はベッドの上に膝を抱いて小さく座り、ため息をついた。

 おじさん、おばさんには隣町に住んでいるイギリス人の友人が二人いる。美沙たちが小さい頃から、よくこの家に遊びに来てくれているおかげで、理紗子も美沙も、影響を受けて英語が話せようになっていた。

 日本人離れした美沙の顔立ちは、イギリス人たちにとってお気に入りらしい。他のお客が来た時は部屋にいるよう言われる美沙も、イギリス人たちが来た時には、一緒に会話してもいいことになっていた。

 夏になると、イギリス人たちは、毎年イギリスへ戻る。そのたびに、美沙はいつも一緒にいけたらいいのに、と思った。おじさんたちにイギリスに行ってみたいと、ねだったこともあったが、おじさんたちは何かを恐れておるかのように、決して許してくれなかった。

 美沙はもう一度、やれやれとため息をついた。



☆第二章、なんとか終了しました^^;
第三章までは事前に文章をまとめてあるので、更新ペースは早めです。