二次創作小説(紙ほか)

Re: 《イナクロ》カゲロウデイズ ( No.11 )
日時: 2013/04/19 19:28
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: O59cZMDb)
プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode

第5話   蝉の音





 大量の『時間』。
 大切な『時間』を封じ込めた『時計』は、カチコチと音を立てることなく、ピタリと静止していた。

 静かに止まったままの『時計』が、カゲロウによって——鮮血をつけられた。


          ☆          ☆          ☆          ☆


 目に飛びこんできたのは、まっ白な天井。


「ん……?」


 ずいぶん、変な夢を見ていたらしかった。代にある形態を手にとる。

——8月14日午前12時03分——

 まだ、朝早い。
 だが、目がさめてしまっていた輝は、窓をふり返った。

 なぜだか、輝の耳には、みょうにリアルな蝉の音がこだましていた。


          ☆          ☆          ☆          ☆


 また、夢と同じ公園にいる。不思議なことに、夢と現実がまったく同じで、今日は事前に、公園に集合して、映画を見に行こうという約束をしていた。


(待ちきれなくて、きっと、あんな夢を見たんだよ。……それが、単に悪夢になっただけなんだよ、きっと。)


 だが、あまりにも似て過ぎている。
 映画に向かっている今も、夢の通り、黒猫を腕に抱き、彼女はそれの背中を撫でていた。会話までも、まったくいっしょ。

 あびタイミングも。


「あのね、ひか……あっ。」


 するりと、腕から抜けた黒猫を追いかけようと、風花が駆け出す。
 その瞬間、脳裏である夢がよみがえる。

 くちびるから赤い筋をコンクリートの床に流す、風花の姿が。

 輝は風花の腕を、強く掴み、彼女を止めた。


「えっ……輝?」


 いきなり止めた輝を、風花はおどろいたような顔で見上げる。


「ごめん、風花……。」

「え?」

「……今日は、帰ろう。」


 輝は、静かにそう言った。
 風花は、輝の表情から、なにか感じとったらしく、黙ってうなずいてくれた。