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第１０話　　　犠牲





　最後の、賭け。



　いや、ちがう。これは、もう……。

　考えているひまはない。
　輝は意を決し、止まったままの自分を通りこし、彼女の前におどり出て。
　とん、と優しく、彼女を後ろに押してやった。

　世界が、いろどりを取り戻した。
　時が、正常に流れだしていた。


「えっ……？」


　背後で、風花の訳の分からないというつぶやきが聞こえた。

　きれいごとだけでは廻ってくれない、現実世界。
　この世界も、同じことなのだろう。きっと、夢の中もきれいごとだけでは廻ってくれない。
　誰かが……風花ではない誰かが、犠牲になったら？

　寸前まで迫っていたトラックが、輝をはねる。




　赤黒いモノが、輝の視界をよごした。