二次創作小説(紙ほか)

第2話 darkness sanctuary ( No.10 )
日時: 2013/04/15 20:06
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 辿り着いたのは、薄暗い遺跡の中……

「……ここは?」
 目覚めた時、我が目を疑った。そこはさっきまでポケモンがはびこっていた街ではなく、薄暗い石造りの建物だった。
 所々ボロボロで、地面は抉れ、壁は崩れ、柱は折れている。相当老朽化しているが、どこか神秘的な雰囲気がある。
「僕はさっきまで街にいたはずじゃ……いや、それよりも。部長! どこにいるんですか!?」
 叫んでみるが、虚しくこだまするだけだった。彼女の声はどこからも聞こえてこない。
「まさかあの爆発で……いや、そんなことは……。……っ!?」
 その時、何かを踏んだ。慌てて足をどけると、そこには茶色くて毛むくじゃらの生き物が——
「って、イーブイか」
 爆発に巻き込まれ、一緒にここまで来たようだ。イーブイは尻尾を踏まれて怒ったような顔をしている。
「ご、ごめん。暗くて、よく見えなかったんだ」
 慌てて弁明するが、イーブイはそっぽを向いてしまう。
「ほ、本当にごめんさい……」
 平謝りしつつ、イーブイを抱きかかえる。薄暗い神殿は肌寒く、イーブイの温もりがあるだけで体温だけでなく心も安らぐ。
「とにかく、部長を探さないと」
 きょろきょろと辺りを見回すが、前も後ろも闇がひしめいており、先が見えない。不安が押し寄せてくるが、イーブイを抱きしめつつ、歩んでいく。



 どれくらい歩いただろうか。ずっと一本道の通路を歩き続けていると、不安感も増してくる。もしかしたらこのまま、ここから出られないのではないか。彼女も見つけられないのではないか。そう思えてしまう。
 しかしその時、少し先の通路の脇に入口らしき穴が見えた。そこからは、微かだが光が漏れている。
「……もしかしたら、部長かも。行ってみよう、イーブイ」
 そうして小走りに通路を抜け、穴を通過する。
 穴の先は広間のようだった。何十メートルもありそうな高い天井の、円形の広間。その中央には誰か人がいるようで、パチパチと火を焚いている。
「あれは……部長じゃない、かな……?」
 煙で顔はよく見えないが、見たところ男性のようだ。
 彼女でないのは残念だが、それでも人と出会えたのは幸運だ。とりあえず話を聞いてみようと足を踏み出すが、崩れた石の破片を踏みつけ、滑って転んでしまった。
 ドテッ、と間抜けた音が部屋の中に響く。
「! 誰だ!」
「わっ! い、いや、別に怪しい者じゃ……」
 転んだ音に反応して男性は立ち上がり、こちらへと駆け寄って来る。
 近付いて分かったが、かなり若い。男性というより青年といった方がしっくりくる。年齢は二十歳そこそこというくらいだろう。顔にはまだ幼さが残っているが、同時に逞しさも感じる。
 青年はこちらの存在に気付くと、警戒心を緩めたように表情を緩める。利発そうな顔立ちで、人が良さそうだった。そして今度は、不思議そうな顔で疑問符を浮かべる。
「君は……どうしてここに? 普通のトレーナーじゃあ、ここには来れないはずだけど」
「と、とれーなー?」
 聞かない言葉だった。いや、聞いた事はあるが、こんな状況で使う言葉だったかと疑問に思う。
 それを察してか、青年は手招きして焚火の側へと誘導した。落ち着けということだろうか。
 とりあえず誘導されるままに焚火の側に腰を下ろし、青年と向かい合った。
「まず、名前を聞こうか。君、名前は?」
「あ、えっと……フィア、です」
 あまり自己紹介はしたくなかったが、こんな状況では仕方ないことだ。
 青年は名前を聞くや否や、考え込むように顎に手を当てた。
「フィア? うーん……?」
「あ、あの、変な名前ですよね! これは母親が外国人で、その関係でこうなったものでして……」
「いや、この世界じゃ普通だよ。それより君——いや、フィア君か。君は、トレーナーを知らないのかい?」
 フィアの言い訳を流して、青年はそんな問いかけをする。なのでフィアは、自分が知るトレーナーの知識を語ったのだが、青年の反応は芳しくなかった。
「うーん、なんだろう。僕らと違う文化なのかな? じゃあ、流石にポケモンは知ってるよね。イーブイ連れてるし」
「あ、はい。いやでも、まだ分からないとこだらけですけど……」
 とりあえず、フィアは今までの経緯を説明した。突然自分たちの街にポケモンという生き物が現れたこと。黒い影のようなものに飲み込まれたこと。フィアが部長と呼ぶ彼女を探していること。
 フィアはお世辞にも説明が上手とは言えなかったが、それでも青年は黙って聞き、相槌を打ちながら、最後まで聞いてくれた。そして、
「そうか。やっぱり君が……ってことは、君はあのポケモンに連れてこられたのか。なら、その部長って人は……」
 また青年はぶつぶつ呟き始めた。独り言が癖なのだろうか。
「あ、あの……」
 たまりかねてフィアは声をかけると、青年はすぐに顔を上げた。
「ん、ああごめん。そうだね、僕はその部長って人がどこにいるのかは知らないけど、この神で……遺跡の出口なら知ってるから、よければ案内しようか」
「え? 本当ですか?」
「うん。なんにせよ、ここはあまり安全な場所とは言えないからね。今はまだ大丈夫だと思うけど、そのうち奴が来る」
 青年はスクッと立ち上がった。それに合わせてフィアも立ち上がるが 、
「っ? うわっ!」
 なにかがフィアの足にぶつかってきた。なのでフィアはバランスを崩し、その場にしりもちをついてしまう。
「大丈夫かい? って、ダンバルか。珍しいポケモンだね」
「ダ、ダンバル……?」
 引き起こしてもらいながら足元を見ると、確かにそこには、ポケモンと思しき生き物がいた。
 青い鋼鉄の体。三本の爪に、頭部は球状で赤い眼玉が一つある。
「フィア君は、イーブイ以外にポケモン持ってるの?」
「あ、いえ。持ってないです」
「ならちょうどいいし、捕まえておきなよ。野生のダンバルなんて滅多に見れるものじゃないよ。それにこのポケモンは、育てるとかなり強いしね。僕も苦戦したことがあるよ」
「はぁ……」
 だが捕まえろと言われても、どう捕まえればいいのか分からない。確かイーブイは、モンスターボールという球体に入っていたが。
「ん? ああ、そうか。ボールがないんだね。はいこれ」
「あ、ありがとうございます……」
 フィアは青年から球状の機械、モンスターボールを受け取る。一度に五つも貰ってしまったが、そんなに必要なのだろうか。
「白いボタンの部分をポケモンに当てればいいんだよ。そうすれば捕まる……かもしれない」
「かもしれないって……えっと、こうですか?」
「あ、ちょっと——」
 言われた通りフィアはボールのボタンをダンバルに押し付けた。するとボールが開き、ダンバルがその中に吸い込まれていく。
 ボールはフィアの手の中から抜け出して地面に落ちる。するとカチカチと何度か揺れ、カチッと最後に音が鳴ったきり動かなくなった。
「…………」
「えっと、これでいいんですか?」
「……あ、うん」
 どうにもリアクションが微妙だった。
「凄いね……ダンバルはかなり捕まえにくいポケモンなのに、ダメージも与えず一発捕獲なんて」
「ダメージ?」
 聞いてみると、ポケモンは捕獲の際、ダメージを与えたり、状態異状にすると捕まえやすくなるらしい。なのでポケモン捕獲の際は、一度戦って、ダメージを与えてからボールを投げるのがセオリーなんだとか。
「というより、普通のポケモンならダメージを与えて弱らせないと、ボールから出て来るよ。誰だって好き好んで捕まりたくないしね。まあ、例外はあるけど」
「そうなんですか」
 それ以外にも、青年は色々なことを教えてくれた。彼女は断片的かつ端的な説明しかしなかったが、青年は丁寧で分かりやすく教えてくれたので、フィアでも概ね理解できた。
「よく知ってるんですね」
「まあ、ね。幼馴染がトレーナーズスクールっていう、トレーナーの学校で先生をしてて、その繋がりで。そんなことより、変なところで寄り道しちゃったね。早くここから出よう——」
 と、青年が一歩踏み出したところで、ぞわりと、嫌な感覚が全身を襲った。
「っ!」
「……!」
 二人は自然と同じ方向を向く。すると、そこにはフィアが吸い込まれたものと同じ、黒い渦があった。あの時よりもよりはっきりと見える。その背後にある、禍々しい影も。
「な、ま、また……!?」
 黒い影は、黒い翼をもつ龍のようであった。しかし翼は朽ちたようにボロボロ……影だけだが、そんな風に見える。