二次創作小説(紙ほか)

第33話 ジムバトルⅡ ライカジム2 ( No.106 )
日時: 2013/05/05 13:25
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 変幻自在に姿を変えるロトム。フィア、ライカジム攻略なるか……!

「finトライアル、実験スタートです、ロトム!」
 クリのエースは、やはりロトムだった。
「遂に来たか……」
 昨日見たヒートロトムの火力は凄まじいものだった。あの火力に対抗できるのは恐らくブースターくらいだが、そのブースターも満身創痍。
 だが素早さだけは上がっているので、フィアは速攻で決めにかかる。
「ニトロチャージ!」
 ブースターは全身に炎を纏い、高速でロトムへと突っ込んでいくが、
「怪しい風」
 ロトムは妖気を含む突風を放ち、ブースターを攻撃。動きを止めようとするが、素早さが二倍以上になったブースターは止まらなかった。
「ならば、フォルムチェンジです」
 刹那、ロトムは本体もプラズマも、違う姿へと変形させる。
 しかし変形したロトムは、昨日のような電子レンジの姿ではなく、尻尾のようなホースがある洗濯機に酷似していた。腕の青いプラズマは洗濯バサミの形をしている。
 洗濯機の姿になったロトムはブースターのニトロチャージの直撃を受けるが平然としており、そのまま押し返した。
「電撃波です!」
 そしてすぐに波状の電撃を放つ。
「っ、躱して!」
 ブースターは跳躍して襲い掛かる電撃を回避しようとするが、電撃はブースターを追い、電撃を浴びせた。
「ブースター!」
 体力が残り僅かだったブースターはその一撃で戦闘不能となってしまう。
「電撃波は必中技、即ち絶対に攻撃が当たる技です。躱すのは諦めてくださいね」
 にっこりと告げるクリ。口調は丁寧だが、なかなかいい性格をしているようだ。
「戻ってブースター」
 フィアはブースターをボールに戻し、すぐに次のボールを構えた。
「相手は電気タイプ、それに絶対に当たる技があるなら、君に頼るしかないよね。早速だけど任せたよ、パチリス!」
 フィアの二番手はパチリスだ。ミズゴロウでは相性が悪すぎるし、パチリスは特性が蓄電なため電撃波は通用しない。
「パチリス、まずは帯電だ」
 パチリスはすぐには攻めず、帯電して攻撃能力を高める。
「火力を上げてきますか。ならこっちはぶしゃーっと一気に攻めましょう。ハイドロポンプ!」
 ロトムは体の一部であるホースを持ち、そこから大量の水を噴射する。
「……!」
 水鉄砲の比ではないその水量に驚愕するフィア。思わず指示を出すのを忘れてしまったが、パチリスも直感で喰らうとまずいということを理解したのか、勝手に跳躍して躱した。
「な、ナイスプレーだよ、パチリス。今度はこっちから行くよ、エレキボール!」
 パチリスは尻尾に電撃を凝縮して球体を生成し、尻尾を振るって投げ飛ばす。
「ばちっと磁力線です!」
 ロトムは磁力の波を放ち、電撃の珠を相殺する。
「もう一度!」
 さらに再び磁力線を放ち、パチリスを攻撃。効果はいまひとつなので、ダメージはさほど大きくない。
「接近だパチリス。噛みつく!」
「寄せ付けないでください、重力波!」
 ロトムは重力を伴った波を連射するが、パチリスは持ち前の機動力を生かしてその波を掻い潜り、ロトムへと接近。アンテナのような突起に噛みついた。
「種爆弾!」
 さらにパチリスはどこからかいくつもの種子をロトムの足元に落とし、離れる。直後、種子が炸裂してロトムに襲い掛かった。
 ウォッシュロトムは電気タイプに加えて水タイプを持つ。唯一の弱点である草技を喰らい、大きなダメージを受けてしまう。
「草技も持っていたんですか……侮るなかれですね。フォルムチェンジです」
 ロトムはここでフォルムチェンジし、今度は緑色のオーラを纏った芝刈り機のような姿に変貌する。
「カットロトム……電気+草で、パチリスの攻撃は通りにくいですよ。重力波!」
 ロトムは重力を伴う波を発射してパチリスを攻撃。しかしパチリスの体重はさほど重くない。重力波のダメージも微々たるものだ。
「パチリス、帯電だ」
 パチリスは重力波が飛び交う中、電気を帯びて攻撃と特攻を高める。カットロトムが電気と草タイプなら、パチリスの技は噛みつく以外すべて半減以下にされてしまう。それならこうやって決定力を上げ、補うしかないのだ。
「もう一度帯電!」
「磁力線です!」
 パチリスは再び帯電するが、そこにロトムの磁力線が飛ぶ。
 中断はされなかったが、磁力線の直撃を受けてパチリスは大きく吹っ飛ばされる。
「くっ、エレキボールだ!」
 空中でなんとか態勢を立て直し、パチリスは尻尾を振って電撃の球体を放つ。
「ロトム、磁力線!」
 ロトムも磁力の波を発して相殺しようとするが、帯電で威力が二倍以上に膨れ上がったエレキボールは止まらず、ロトムは雷珠の直撃を喰らう。
「威力は四分の一ですが、フォルムチェンジすると素早さががくっとしてしまいますからね。仕方ないです、あれで行きましょう」
 クリは少しだけ邪悪に微笑み、細い眼差しでパチリスを見遣る。そして、

「ロトム、リーフストームです!」

 ロトムは口の部位からブォーンという激しい駆動音を鳴り響かせ、バチバチとプラズマを弾けさせる。
 そして次の瞬間、ロトムは大量の葉っぱを射出した。
「!? なに、この量……!」
 一枚一枚が鋭利な葉っぱが何百という大軍でパチリスに襲い掛かる。しかも広範囲に放たれており、とても躱せそうにはない。
「くっ……ならせめて威力を削ぐ。パチリス、エレキボール!」
 パチリスは尻尾に電気を凝縮し、今までで一番巨大な雷球を生成する。その雷球を飛ばさず盾のように構え、パチリスは襲い掛かる葉っぱの大軍に備える。
 刹那、リーフストームがパチリスに襲い掛かった。葉っぱは容易く雷球を突き破り、パチリスを切り刻む。
「パチリス!」
 葉っぱの嵐が収まると、そこには辛うじて立っているパチリスの姿。高めの特防と、気休めのエレキボールが役に立ったのだろう。
 だがパチリスがまだ戦闘不能でなかったとしても、状況は全く好転しない。
(まずい、パチリスはブースターみたいに起死回生があるわけじゃないし、ミズゴロウみたいに激流も発動しない。ピンチはピンチのままだ)
 しかも、ロトムは今のリーフストームで特攻が大きく下がったが、クリのポケモンは元のフォルムに戻ると能力変化がリセットされる。次あの威力の攻撃が放たれれば、パチリスは終わりだ。
(何か、何かないのか……? ロトムの弱点とかは……)
 フィアは必死に思考を巡らせ、フィールド内をを見渡す。その時ふと、フィアはあるものを見つけた。とてもありふれたそえと、脳裏に浮かぶ昨日のある光景がフィアの中で結びつく。
「ロトム、磁力線です!」
 フィアの思考を遮るかのように、ロトムは磁力の波を発する。
「パチリス、エレキボール!」
 だがパチリスはすぐに雷球を放って磁力線を軽く突き破り、ロトムに攻撃。特攻が大きく下がっているので、威力があまり出ないようだ。
「ふぅむ、やはり元に戻らないといけませんか。少し隙が出来ちゃいますけど、まあくたくたのパチリスが相手ですし、大丈夫でしょう」
 などと呟きながら、ロトムの姿が変化していく。
 この一瞬がロトムの隙。本来ならその隙を突いて攻撃するのがこのロトムの攻略法だ。それはクリ自身も分かっており、分かっていてやっていることである。ロトムの強さはクリの手持ちの中で飛び抜けており、あえて隙を晒さなければ倒せないほどだ。以前フィアと戦ったトレーナー、テイルもそこに目を付けて勝利した。
 だからフィアもその隙を利用する。しかし、それはロトムを倒すためであっても、ロトムを攻撃するためではない。そもそもフィアの狙いは、最初からロトムではない。
「パチリス、エレキボールだ!」
 パチリスは尻尾に雷球を作り出し、フィアが指差した方向に投げ飛ばす。その先にいるのは元の姿に戻ったロトムではない。パチリスが、そしてフィアが狙ったのは——

 ——ブレーカーだ。

 がくんっ、という音と共にジムの内部は闇に包まれる。
「ひ……っ」
 小さくクリが悲鳴を上げる。ジムの中は真っ暗なのでフィアには見えないが、きっと彼女は蹲っているのだろう。
「う、あ、あぁ……」
 そして聞こえてくるすすり泣く声。
 フィアは昨日の一件で知っている。クリは強い、こちらの戦術をも利用し、必要に応じて力技で押すこともある。トレーナーとしては一流だ。
 しかし彼女は、暗い場所を恐れる、暗所恐怖症なのだ。この真っ暗なフィールドで平静を保っていられるわけない。実際、今まさに泣いている。
 しかし本来、フィールドが真っ暗になればフィアもパチリスも相手の居場所が分からず、動きようがなくなる。しかしロトムは体がプラズマで出来ている。つまり、暗所でも発光するのだ。
 クリの姿は見えないが、ロトムの姿はフィアとパチリスからははっきりと見えている。
「パチリス、噛みつく!」
 主人が泣いてしまい、どうすればいいのか分からずおどおどしているロトムに、パチリスの鋭い歯が喰い込む。通常状態のロトムに悪タイプの技は効果抜群だ。
「種爆弾だ!」
 さらにパチリスは、サッとロトムから離れ、種子を投げ飛ばして炸裂させ、追撃する。
 そして、
「エレキボール!」
 最後に最大の電気を凝縮した雷の球を生成し、パチリスは大きく尻尾を振るう。巨大な雷球が一直線にロトムに向かって飛び、直撃した。
「っ……! ロトム!」
 その時、審判がバトルに支障をきたすと思って予備電源を作動させたようだが、時既に遅し。
 ロトムはパチリスの連続攻撃を喰らい、戦闘不能となっていた。



「うぅ、恥ずかしいです……まさかあんな手で負けてしまうなんて……」
 バトル後、クリは目尻に涙を浮かべ、赤面しながらフィアの所まで歩み寄って来る。自分の暗所恐怖症という弱点を突かれて負けたのがよっぽど恥ずかしいようだ。
「今後の私の課題は、暗所恐怖症を克服することですね……」
 と言いながら、クリは白衣のポケットから平らな直方体の箱を取り出し、フィアの方を向けながら蓋を開く。
「これは私を倒し、ライカジムを制覇した証ですよ」
 箱の中には、水色で二つの稲妻が交差した形をしたバッジが収められていた。
「プラズマバッジです。受け取ってください」
「はい、ありがとうございます!」

 天使のような微笑みに称えられながら、フィアは見事、二つ目のバッジを手に入れることができたのであった。



今回はライカジム戦、決着です。イチジクはポケモンの身体的弱点を付いて勝利したフィアですが、今度はトレーナーの弱点を突いての勝利です。この倒し方は前作を執筆している時から考えていました。そしてやっと手に入れたプラズマバッジ、プラズマの意味は、言う必要はないですよね。さて次回は、ライカ山道です。今回の停電騒ぎの真相が明らかに……というほど大仰ではないですが。グリモワールが出る予定です。お楽しみに。