二次創作小説(紙ほか)
- 第34話 ゼブル ( No.108 )
- 日時: 2013/05/05 13:37
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- プロフ: ライカ山道を進むフィア。道中、見覚えのある影が差す。
ライカジムを制覇して次なる街、オボロシティに向かうフィアは、ライカシティとオボロシティを繋ぐライカ山道を歩いていた。
「そう言えば、ハブラさんが言ってたっけ。一昨日の停電は、この山道のポケモンによるものだって」
正確には主犯のデンチュラが他の電気タイプのポケモンを率いて山道を降りたのだろうが、ところどころ不可解な点がある。
特にポケモンたちが街まで降りた理由。この山道は至る所に電気が発生する場所があるので、電気タイプのポケモンがわざわざ街まで降りて電気を喰らう理由はない。
しかし、もしポケモンたちが街に降りなくてはならない理由があるとしたら、それは確実に、この山道に異変が起きているということになる。
「なら、どうせここを通るんだし、解決までは行かなくても、真相を突き止めるくらいはしたいよね……」
などと我ながら積極的になったなぁ、と妙な感動に浸るフィアの耳に、何やら話し声が聞こえてきた。
「……? 何だろ……?」
どうやら三人ほどの男が、道を外れた場所で会話しているようだ。
普通なら素通りするはずのフィアだが、会話している男たちの格好を見れば、そういうわけにもいかなくなる。
(グリモワール……!)
そう、会話していたのは、黒い隊服に身を包んだ、グリモワールの下っ端だった。
フィアは迂回して木陰に隠れ、三人に気付かれないよう近付き、聞き耳を立てる。
「——で、街まで追いやったはずのポケモンがこぞって戻ってきやがったんだよ。しかも先導のデンチュラが半端じゃなく強くてよー。俺の手にはおえなかったぜ」
「はぁん。だからあんなに時間がかかったのか」
「本来なら、昨日のうちには終わってたはずだもんな」
「まったくだ。ったくよ、円滑な仕事のために発電ポイントを塞いでポケモンを追い出したってのに、全部が水の泡だぜ」
「まあしかし、最終的には良かったんじゃないか? もうすぐあれも終わるんだろ? 最後まで邪魔がなかったんだ。結果オーラいってやつさ」
「前向きだなぁ……」
一部フィアには理解できないものがあったが、しかし停電騒ぎがこのグリモワールの手によるものだということは理解できた。相も変わらず口の軽い下っ端ったちだ。
そうと分かればフィアも黙ってはいない。見たところ下っ端たちはさほど強くない。フィア一人でも三人を相手取ることは可能だろう。フィアはブースターとミズゴロウ、パチリスをボールから出し、わざと大きく音を立てて飛び出す。
「! 何だ!?」
「何者だ!」
慌てふためく下っ端たち。それでも咄嗟にボールを構える辺り、まだ立派だと言えなくもない。
「まさか今の話を聞かれたのか? ならばただでは帰さねぇ。出て来い、コイナリ!」
「行け、ロコン!」
「やっちまえ、バードン!」
下っ端が繰り出したのは、白い狐と赤い狐、そして燃える鳥のようなポケモンたちだ。
『Information
コイナリ 狐ポケモン
幸運をもたらすポケモン。
コイナリの近くでは木の実
の成長などが速くなる。』
『Information
ロコン 狐ポケモン
人魂のような炎を飛ばして
攻撃することから、霊的な
ものとの関係性が研究されている。』
『Information
バードン 怪鳥ポケモン
非常に獰猛で警戒心の強い
ポケモン。出会い頭に襲って
くることは日常茶飯事。』
「三体とも炎タイプか……ならミズゴロウ、水鉄砲!」
先頭に立ったミズゴロウは勢いよく水を噴射してコイナリとロコンを吹っ飛ばす。予想外に耐久力が低く、コイナリはそれだけで戦闘不能になった。
「ブースター、アイアンテール! パチリス、エレキボール!」
ブースターも鋼鉄の尻尾をロコンに叩き付け、パチリスは雷球をバードンに直撃させる。
やはりと言うかなんと言うか、あっと言う間に下っ端三人は全滅した。
「おいおい、なんだよこれ……」
「こいつ強いぞ……」
「俺たちのポケモンが一瞬で……」
焦る下っ端たち。とりあえずフィアは背後に隠し持ったターミナルで警察に連絡しようとするが、その時だった。
「なにば騒いどる?」
道を外れた獣道の奥から、声が聞こえてくる。まだ若い、変声期を迎えたばかりのような男の声だ。
「ゼ、ゼブル様!」
下っ端たちが背筋を伸ばして声の方向に敬礼した。フィアもつられてそちらに目を向ける。
そこにいたのは、男というより少年だ。フィアと同い年くらいの少年。凛々しい顔立ちで、黒い髪を細く一本に縛っており、赤が多く含まれる色鮮やかな民族衣装のようにグリモワールの制服を改造している。もはや原色がほとんど失われているが。
ゼブルと呼ばれた少年は下っ端とフィアを交互に見遣り、
「成程。つまりこいつがお前らば攻撃したと。そうことか?」
「は、はい……」
戸惑いながらも下っ端は肯定する。そしてフィアも、聞き慣れぬ言葉に戸惑っていた。
(たぶん方言だよね……この世界にも方言ってあるんだ)
フィアは方言の知識はあまりないのだが、なんとなく南方っぽい訛りだと思った。服装と合わせて、民族的な匂いのする少年だ。
少年はフィアをジッと見つめると、思い出したように口を開く。
「もしかしてお前、マモば言ってた奴か?」
フィアが答える前に、少年は話を進めてしまう。
「俺の名はゼブル。暴食の七罪人や」
名乗って舌を出すゼブル。彼の舌には、パイプと鎖に繋がれた角のような烙印が焼きつけられていた。
「さて、俺としてはお前のことなんかどうでもよかが、下っ端とはいえ部下が攻撃されたんを見過ごすこともできん。お前にはちかっと痛い目みてもらうっとよ」
言ってゼブルは、素早くボールからポケモンを繰り出した。
「喰い尽くせ、クイタラン!」
ゼブルが繰り出したのは、尻尾がパイプのようになっており、暖色の体を持つアリクイのようなポケモン。
『Information
クイタラン アリクイポケモン
アイアントの天敵だが、クイタラン
が勝つ姿を見たトレーナーは
ほとんどいないらしい。』
「炎タイプ……ならここは君に任せるよ、ミズゴロウ」
フィアはブースターとパチリスをボールに戻し、ミズゴロウを残した。
「三対一でも構わんが、お前が一体でやるんなら止めはせん。ばってん、後悔ばすんなよ」
鋭い目つきでフィアを睨み付けるゼブル。そして、クイタランは動き出した。
「熱風!」
クイタランは口から灼熱の熱風を吐き出す。途轍もない熱量で、フィアは思わず顔を覆ってしまう。
「くぅ、ミズゴロウ……!」
効果はいまひとつなのだが、ミズゴロウはかなりのダメージを受けている。何度も攻撃を受けてはいられないだろう。
「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」
ミズゴロウは反撃に水を噴射するが、クイタランは動じない。口の中でもぐもぐと何かを咀嚼しているだけだ。
というか、ミズゴロウの攻撃はまったく通じていない。
「終いか? ならクイタラン、マグナムパンチ!」
クイタランは拳を握ると、大砲のような勢いでミズゴロウを殴り飛ばした。
「ミズゴロウ!」
地面を転がるミズゴロウ。たった二回の攻撃で、ミズゴロウは満身創痍、瀕死寸前だった。
「耐えたか。思ったより根性あるな。ばってんこれで終いや」
のしのしとミズゴロウに接近するクイタラン。口先からちょろちょろと炎を吹き、ミズゴロウに圧力をかける。
「くぅ……!」
甘く見ていたわけではない。同じ七罪人のマモンも強かったので、簡単に勝てる相手とは思っていない。しかしそれでも、ここまで一方的とは思わなかった。
クイタランが拳を振り上げる。その、次の瞬間。
ミズゴロウが光に包まれた。
「……!」
「これって……」
以前、フィアはこれと同じ光を見たことがある。それは砂礫の穴で、イーブイがブースターへと変貌した時の、進化の光だ。
「ミズゴロウが、進化する……!」
光が晴れると、そこにはミズゴロウとは違うポケモンが直立していた。ミズゴロウよりも大きく、二足歩行で人間に近い体型をしている。
『Information
ヌマクロー 沼魚ポケモン
陸上の移動は遅いが、水中だと
素早く泳ぐ。泥の中だと別の生き物
と思うほど速いスピードで進んでいく。』
「ミズゴロウの進化系、ヌマクロー……!」
図鑑を開き、フィアの表情が明るくなる。進化をすればポケモンは強くなる。それはブースターの時に証明されていることだ。
「このタイミングで進化……か」
ゼブルは何か思うことがあるのか、ヌマクローをジッと見つめ、呟く。
なにはともあれ、フィアとゼブルのバトルは、まだ終わらない。
今回は新キャラ、暴食の七罪人ゼブルの登場です。彼の口調はフィアが言及してますが、佐賀や福岡辺りの方言がベースです。あまり聞き慣れないと思いますが、白黒もよく分かっていません。でもなんか好きなんですよね。そして今まで出番がほとんどなかったミズゴロウがヌマクローに進化です。進化した力で、クイタラン撃破なるか。では次回をお楽しみに。