二次創作小説(紙ほか)

第35話 オボロシティ ( No.109 )
日時: 2013/05/05 17:57
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 進化したヌマクロー、暴食の七罪人にその力は通用するのか……!

「ヌマクロー、進化した君の力、早速見せてもらうよ」
 ヌマクローはフィアの言葉にコクリと頷き、大きく息を吸う。
「マッドショット!」
 次の瞬間、ヌマクローは口から大量の泥を噴射し、クイタランを攻撃する。効果抜群なので、大ダメージが期待できる。
「続けて行くよ! 瓦割り!」
 今度は拳を構えて接近し、クイタランの腹を殴りつける。さらに、
「ヌマクロー、スプラッシュ!」
 両腕に水飛沫の立つ水流を巻きつけ、クイタランに叩き付けた。
 効果抜群の攻撃も交えた連続攻撃。さしものクイタランも堪えたことだろう。クイタランは両腕をだらんと下げ、俯いている。
「……成程な。攻撃力がかなり上がっとるし、スピードもそこそこ。なにより攻撃の正確さが際立ってっと。進化して能力がかなり上がってとる……ばってん」
 ゼブルは目を閉じてそんなことを言い、クイタランは目を見開きバッと面を上げた。

「そいがどうした」

 刹那、クイタランの口からしゅるしゅると舌が伸びる。どこまでも伸長する細長い舌は、瞬く間にヌマクローに巻きついた。
「しまっ……ヌマクロー!」
 フィアは叫ぶが、もう遅い。

「クイタラン、ギガドレイン!」

 次の瞬間、ヌマクローは絶叫を上げ、しばらくしてぐったりとうなだれる。そんなヌマクローと対照的に、クイタランはノーダメージであるかのようにピンピンしていた。
「ヌマクローは水と地面の複合タイプ、弱点は草一つ。ばってんその弱点は四倍になって致命的。一撃もらうだけで戦闘不能はほぼ確実や」
 冷たく吐き捨てるようにそう言うと、ゼブルは睨むようにフィアを見つめる。
「さて、これでこん勝負は俺の勝ち。お前の処遇ば決める時間や」
 と言って一歩、フィアに近づこうとゼブルが足を踏み出した瞬間、
「……!?」
 ゼブルは膝を着き、その場に倒れ込んでしまった。
「っ!?」
「ゼブル様!」
 驚くフィアと下っ端たち。下っ端の一人がゼブルへと駆け寄る。
「ぐ、うぅ……」
「だ、大丈夫ですか? 一体なにが——」
 ゼブルは苦しそう腹を押さえていた。そして次の瞬間、ゼブルが倒れた原因が明らかになる。

ギュルルルル……

「……え?」
 緊張感のない、しかし日常的によく聞く、腹から発せられる音。胃袋の中に何もない時、ガス作用で発生する人体の現象の一つ。
 つまりは、空腹を知らせる音だ。
「腹……減った」
「は?」
「そういや、今日はまだ三食しか食っとらんかったな……」
「いえ、あの、まだ昼前ですが……」
「帰る」
 ゼブルはそう言うと、クイタランをボールに戻してふらふらと立ち上がり、かなり危なげな足取りでフィアの横を通り過ぎる。
「え、あの、ゼブル様!?」
「腹ば減ったらなにもできん。帰ってリヴになんか作らせゆっ。話はそれからや」
 まだいまいち状況が呑み込めないフィアに、ゼブルは顔色悪く最後に告げる。
「たぶんサタ辺りも言ったと思うが、一応忠告ばしとく。あんま俺らに関わんな。下手に関われば、最後に悪夢ば見っとはお前ぞ」
「…………」
 黙っているフィアに、じゃあな、と軽く手を振ってゼブルと下っ端、グリモワールたちはその場から消え去った。
 最後に残されたフィアは、倒れたヌマクローをボールに戻すと、そのままオボロシティへと進むのだった。



 オボロシティはクナシル島の中央付近に位置する街で、教育機関が発達していることで有名だ。
 特にこの街を象徴する教育機関とも言えるオボロ学園は、各分野、各学科ごとに細かく分けられており、専攻したい科目を生徒が自由に選択できるようになっている。
「学校かぁ……いい響きだよ」
 学校という響きはフィアに安心感を与える。こちらの世界に来る前は、ほぼ毎日学校に通い、勉強したり遊んだり部活をしたりしていた。一日のサイクルのうちほとんどを学校で過ごしていた。そんなフィアにとって、学校いうものが存在するだけでどことなく気分が高揚する。
「……まあ、学校もいいけど、まずはジム戦だよね。とりあえず今日はもうポケモンセンターで休んで、明日のジム戦に備えよう。ヌマクローも休ませなくちゃいけないし」
 などと呟きながら、フィアはポケモンセンターへと向かう。



 翌日。
 フィアはターミナルの地図を片手にオボロシティを歩き回り、ジムの付近までやって来た。
 やって来た、はずなのだが。
「ここって学校……だよね?」
 フィアの目の前に構えているのは立派な校門。その奥には広いグランドがあり、さらに奥には綺麗な外装の校舎。どの角度から見てもまごうことなき学び舎である。
 ターミナルに表示された現在位置とジムの場所は限りなく近い。方向からしても、確実のこの門の先なのだが、それらしきものは見当たらない。
 そう思っていると、不意に声をかけられた。
「あれ、君……」
「?」
 振り返ると、そこには若い男性が立っていた。上着を脱いだ背広に、銀色のネクタイと金色のネクタイピン。整った黒髪。
 手にはいくつかの書籍を抱えており、この学校の関係者だと思うのが自然だろうが、フィアはそんなことは思っていなかった。というより、この男に見覚えがあったのだ。
(確か、サミダレタウンで解説してた、え−っと……)
 記憶を探り、フィアはなんとか彼の名前を引っ張り出す。
「ウルシさん……?」
「君は、フィア君だったかな? 直接会って話すのは初めてだね。サミダレタウンでのバトル、見事だったよ」
「あ、ありがとうございます……」
 やはりサミダレタウンで解説をしていた、オボロシティのジムリーダーのウルシだ。相手がフィアだからか、口調がフランクになっている。
「まさかこんなところで会えるなんてね……いや、君はトレーナーだし、この街に来るのも不思議じゃないか。一応聞くけど、ジム戦希望かい?」
「は、はい。そうです」
「そうか。じゃあついて来て」
 そう言うとウルシは門扉を開き、学園の中に入る。フィアもその後を追う。
「あ、あのウルシさん。ウルシさんは教師もしているんですよね?」
「うん、そうだね」
「教職の方は大丈夫なんですか……? 今も、教師としてこの学校に来たんじゃ……」
「大丈夫さ。僕は教師よりジムリーダーの仕事を優先するよう言われているからね。教師は他にもたくさんいるけど、この街のジムリーダーは僕一人なんだから」
 軽く笑うウルシ。その風貌は、正に教師という感じだった。
 しばらく歩き、グランドや校舎から遠ざかっていくが、今度はさっきとは違う校舎が見えた。
 大きさはさっき見たものよりも小さく、見栄えもさほど良くない。金属的で質素な感じさえする。
 その校舎の玄関まで来ると、ウルシは足を止め、
「さあ、着いたよ」
 振り返ってフィアにそう言った。
「え?」
 思わず聞き返すフィア。するとウルシはまた軽く笑い、
「なにを驚いているんだい。ここが君の求めているオボロジムだよ」
「え? え? でも……」
 そこにあるのはただの校舎だ。フィアが今まで見たジムとはまるで違う。しかし、
「これは今の校舎が新築されてから使われなくなった旧校舎で、特別に改装してジムとして使わせてもらうことになったんだ。門にポケモンジム公認の印があっただろう? 見なかったかい?」
 全然見てなかった。
 それはともかく、校舎の中に案内され、一階の廊下でフィアとウルシは向かい合った。
「さて、それじゃあ早速始めようか」
 そう言って、ウルシは戸惑うフィアにジム戦のルールを説明する。
「使用ポケモンは三体。交代は挑戦者のみ認められているよ。そしてフィールドはこの校舎と旧校舎のグランド、旧敷地全域ってところかな」
 かなり広いフィールドだ。しかもただ広いのではなく、学校の中なので入り組んでおり、立体的だ。
「それから、このジムのフィールドは広くて、籠城戦みたいになったり、かくれんぼになったりすることが多々あるんだ。だから時間制限と互いの位置を確認できるようにするよ」
 言ってウルシは、三本指を立ててターミナルを掲げた。
「制限時間は三時間。三時間以内に僕のポケモンを倒せなければ君の負けだ。そして互いの位置はターミナルで確認できる……特殊ルールはこのくらいかな」
 変則的なフィールドと制限時間、そして互いの位置を確認する仕様……この特殊なルール下では、今までと違った動きが求められそうだ。
「以上だけど、大丈夫かな?」
「あ、はい……なんとか」
 今までにない変則ルールに戸惑うフィアだったが、なんとか気を奮い立たせ、バトルに臨む。
 フィアの三回目のジム戦、オボロジム戦が今、始まった。



さてさて、今回は進化したヌマクローが大暴れかと思いきや、クイタランに軽く一蹴されてしまいました。しかしゼブルはとんでもない理由で撤退します。この辺が、ゼブルが暴食の七罪人である由縁ですかね。クイタランもそうですけど。そしてそして、サミダレシティ以来のあの人、ウルシが登場です。というか今回、敬語キャラ多いな。変則的だけどミキやクリも敬語で、ウルシはフィアにはフランクだけど基本的に敬語。書き分けが大変そうというか、ウルシは没個性気味です。それはともかく次回、オボロジム戦の開始です。校舎がフィールドという今までにないバトルを書きたいと思っていますので、次回をお楽しみに。