二次創作小説(紙ほか)

第3話 black vortex ( No.11 )
日時: 2013/04/16 03:17
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 謎の黒い渦、再発。

「なんでこんなに早く……!」
 青年はギリッと歯軋りする。
 渦はどんどん大きくなっていき、その中心からなにか黒い物体を無数に射出した。
 物体はフィア達を取り囲むようにして放たれ、着弾。そこから長方形に広がっていき、その先は真っ暗な空間が延々と続いている。
「な、なに、これ……!」
 街で味わった時以上の恐怖を感じる。四方八方は黒い扉のような空間が広がるばかりで、フィアたちの逃げ道はほとんどない。
 それだけでなく、空間からはなにかが飛び出してくる。恐らく、ポケモンだ。しかし街で見たような小型のポケモンは少なく、大型のポケモンや、凶悪な形相、奇怪な形状のポケモンなど、見るからに恐ろしいものばかりだ。
「バンギラス、ミカルゲ、ネクロシア……! くそ、よりによってなんて奴らを呼ぶんだよ」
 青年は毒づき、素早くボールを取り出した。そして、
「出て来いダイケンキ! 吹雪で薙ぎ払え!」
 出て来たのは、頭部に一本の立派な角を持つ、海獣のようなポケモン。ダイケンキというようだ。
 ダイケンキは口から猛吹雪を放ち、扉から現れたポケモンたちを攻撃していく。大抵のポケモンはそれだけで吹っ飛ばされていった。
「す、凄い……ダンバル、僕らもやろう」
 黙って見てるだけでは悪いと思い、フィアはダンバルを敵に向かわせる。が、
「! 待って!」
 青年が制止するが、遅かった。
 ダンバルは巨大な怪獣のようなポケモンに、地面を抉るほど殴り飛ばされた。
「ダンバル!」
 怪獣はダンバルに近づいていき、さらに攻撃を叩き込む。もう戦えないはずなのに、痛めつけるよう、何度も、何度も。
「ダ、ダンバル……!」
「フィア君! 早くダンバルを戻すんだ! このままだと取り返しにつかないことになるぞ!」
 青年の言葉でフィアは我に変える。さっきダンバルを捕まえたボールを不慣れな手つきで手に取って、ダンバルをボールに戻そうとする、が
「あ、あれ、戻らない……!?」
 いくらボタンを押しても、ダンバルがボールに入らない。光はダンバルに当たっているのだが、そこで雲散霧消してしまう。
「な、なんで……!? このままじゃダンバルが……!」
「……あれか」
 青年は怪獣がいる方向とは別の方向を向いた。そこには、一羽の小さな烏のようなポケモンが飛んでおり、ダンバルをジッと見つめている。
「ヤミカラスの黒い眼差し……面倒なことするな。ダイケンキ、まずはダンバルを助けるよ! バンギラスにシェルブレード!」
 ダイケンキは両前脚から一振りの刀のようなものを抜き、バンギラスというらしいポケモンを切り裂いた。
「メガホーンだ! ヤミカラスにぶつけてやれ!」
 そしてそのまま大きな角でバンギラスを突き上げ、あろうことか空を飛んでいたヤミカラスのとこまで吹っ飛ばし、ヤミカラスを押し潰す。
「さあ早く! ダンバルを戻すんだ!」
「は、はい……っ!」
 さっきと同じようにボールを操作し、今度こそダンバルをボールに戻す。戻す前の傷は、酷過ぎて見ていられなかった。
「早く手当てしないと、ボールの中とはいえダンバルもやばいかもな……でもそれにはまず、こいつらをなんとかしないと……」
 気が付けば、周囲は完全にポケモンに包囲されていた。もう逃げることはできなさそうだ。
「ヘルガー、マニューラ……ズルズキンまでいるのか。これは厄介だな。フィア君、イーブイもボールに戻して」
「わ、分かりました。戻って、イーブイ」
 言われた通りに、フィアはイーブイをボールに戻す。ダンバルの二の舞になってはいけない。
「さて、こいつらをどう処理するか……」
 青年が厳しい面持ちで包囲網を眺めていると、突然、ポケモンたちは飛びかかってきた。
「う、うわあぁっ!」
「くそっ! ダイケンキ、フィア君を守るんだ! そして、頼んだ、ディザソル!」
 ダイケンキはフィアの側に寄り添い、襲い掛かって来るポケモンを薙ぎ払う。
 そして青年は、次のボールからポケモンを繰り出す。白い体毛に覆われ、頭には鎌のような漆黒の刃が二つある。禍々しくも神聖な雰囲気を醸し出す、不思議なポケモンだ。
 毛並みはかなり美しく、見惚れてしまいそうだが、フィアも青年も今はそんな場合ではなかった。特にフィアは恐怖と焦りで、青年が新しいポケモンを繰り出した、としか認識できていない。
「ディザソル、神速!」
 ディザソルは目にも止まらぬスピードで動き回り、周囲にポケモンたちを薙ぎ倒していく。
 ダイケンキも刀や角を使ってフィアを守り、ポケモンを倒していく。そんな時間が続くが、すぐに終わりを告げた。
「っ! 遂に来たか……!」
 扉を出現させた黒い渦。それがかなり大きくなっており、その裏側の影も、比例して大きくなっている。

キルキルキュルル ギュルギルギルギィギュルル ギュグググググ ギガガルルル……!

 刹那、影からおぞましい呻き声が聞こえる。発音が奇怪すぎて何と言っているのかは全く分からないが、呻き声も少しずつ大きくなっていき、それはやがて、叫び声へと変貌する——

 ギギュ ギギギギガガガギガ ギルルルギュルギグルルギ ギギャルギグギギュルルル ギルルルルルルルッ! 

 次の瞬間、黒い渦はさらに大きくなり——フィアたちを吸い込む。

「え、う、うわぁ!?」
 見えない力に引っ張られ、フィアは態勢を崩す。咄嗟にダイケンキに掴まったが、渦はダイケンキもろとも吸い込むつもりのようで、さらに吸引力を増していく。
「フィア君! ダイケンキ! くっ……!」
 青年の方にも、フィアを吸い込もうとするものとは違う渦が存在していた。あちらも吸い込まれないように体を支えている。
 しかし、それもすぐに限界が来た。渦はさらに吸い込む力を増大させ、フィアも、ダイケンキも、青年も、すべてを吸い寄せる。

 ギギャラギルララ ギルルルルルグ ギラララ ギギギギガガガギルルル ギガルラララギガララ ギガルルルルルルルル———————ッ!

「う、う、うわ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 そしてフィアは、巨大な闇の渦に、飲み込まれていった——