二次創作小説(紙ほか)
- 第40話 people looking ( No.119 )
- 日時: 2013/05/06 19:40
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- プロフ: バトルのない話の割合が増えてる気がする今日この頃。
ウルシを倒し、オボロジムを制覇した翌日。フィアは旅立つ準備を終え、オボロシティ内を歩きながら次に向かう街の選定をしていた。
「ここから一番近いのは……やっぱりカゲロウシティかな……」
ターミナルに表示されたタウンマップと睨めっこしながらそう呟くフィア。見たところカゲロウシティの近くには港も他の街もある。その時の指針に合わせて、この島に残るか別の島に移るかも選択できそうだ。
「そうと決まれば、早く街から出よう。カゲロウシティまでは、結構距離もあるみたいだし——」
と力強い一歩を踏み出すフィアの出鼻を挫くように、背後から声がかかった。
「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい……?」
ほぼ反射的に振り返り、フィアは思わず目を見開いて息を飲む。
(うわ、美人……)
声に出さなくて良かったと胸を撫で下ろしつつ、フィアは自身の心拍数が上がっていることを自覚する。浮いた話などとは縁遠いフィアだがそれでも年頃の男子だ。女性に興味がないとは言わない。
フィアに声をかけてきたのは、フィアが思っているように女性だ。淡い水色のワンピースを着ており、色白で背は若干高め、スタイルも良い。背中ほどもある明るい青のストレートロングヘアーに、赤いヘアピンが映える。
「……? どうしました?」
硬直するフィアに首を傾げる女性。女性の声で、フィアは我に返る。
「あ、いえ……えっと、何か、ご用でしょうか……?」
「はい、実は人を探しているのですが……ご存じないでしょうか?」
どうやらはぐれたらしい。フィアは軽く辺りを見回すが、混雑は行かずともそれなりの人込みだ。油断しているとはぐれてしまうこともあるだろう。
「その、どんな人ですか……?」
とりあえずフィアは、はぐれた人物の特徴を尋ねる。すると女性は顎に人差し指を当て、考え込むように天を仰ぐと、
「そうですね……男の人なんですけど、背は少し高いです。わたしより頭半分くらい上でしょうか」
背は高め、しかしそれなら普通の成人男性とさほど変わらないだろう。
「髪は赤いです……あ、赤いと言っても純色の赤ではなく、ちょっと黒っぽい赤です」
赤黒い髪なら目立つし、それなりの特徴になるだろう。
「服装は黒っぽくて……そうそう、チェーンとかブレスレットとか、アクセサリーを付けていますね。あ、あと目つきは鋭いです。人を睨んだような目と言いますか」
「…………」
フィアは黙った。しかし女性は構わず続ける。
「あの人の特徴を一言で言うなら……そうですね、不良みたいな人です」
(いや、みたいじゃなくて完全に不良だよ、それ……)
女性があまりにも嬉々として話すので、心の中だけのツッコミに収める。
黒っぽい服装にアクセサリー、人を睨んだような目……ここから想像できるのは、柄の悪い男だ。
勿論これはフィアのイメージなので、実際はもっと違う人物かもしれないが、女性自身はもう不良みたいと言ってしまっているので、フィアのイメージは不良で固定されてしまった。
「とまあ、そういう感じの人なんですが、ご存じないでしょうか?」
「いえ……見てないですね……」
見ていないというか、見たくないというのがフィアの本音だった。
「そうですか……」
期待を裏切られたかのようにしゅんとなる女性。自分よりも大人であるの女性なのだが、フィアは保護欲に近い感情が沸き上がり、女性を放っておけなかった。
そのためか、ついこんなことを口走ってしまう。
「良かったら、一緒に探しましょうか?」
思わず言ってしまった一言で、フィアは女性と共に、女性の連れを探すこととなってしまった。
「一緒に探してくださるなんて、ありがとうございます。わたしはレキです」
「あ、僕はフィア……です」
人込みを掻き分けつつ辺りを見回して、それらしい人物を探すフィアとレキ。その途中で、様々な会話をしていた。
「フィアさんもトレーナーなんですね。ということは、ジムバッジを集めているんですか?」
「はい、まあ……昨日、三つ目のバッジを手に入れたところです」
「そうなんですか。この街のジムリーダーはこの地方の十傑に入るほどの猛者と聞いていますし、フィアさんはお強いんですね」
「いえ、そんな……」
お世辞で言っているのだろうが、それにしてはまっすぐなレキの言葉。ここまでまっすぐな人も珍しいと、フィアは内心呟いた。
それからしばらく探索していても、それらしい人影は一つも見えない。一息つこうと、二人は近くの公園で休憩することにした。
「そういえば……ターミナルか何かで、連絡を取ることは出来ないんですか?」
ベンチに腰掛けながらそんなことを尋ねるフィアだったが、それは愚問だとすぐに気付く。もし連絡ができるのならとっくにそうしているはずだからだ。
しかしレキは嫌な顔一つ見せず、にこやかな笑みで言葉を返す。
「それが出来ないんですよ。わたし……というより彼はイッシュ地方という地方の出身でして、こっちの地方の携帯端末を持っていないんです。わたしの古い仲間がその端末を作っているので、貰いに行こうと思っているのですが……彼、なかなか頑固なものでして」
イッシュ地方と言われてもフィアにはなんのことだか分からないが、とりあえずホッポウ地方とは別の地方、とだけ認識しておく。
「あの、これは単なる興味本位なんですけど……レキさんと、その連れの方は、どうしてホッポウ地方に……? 観光か何かですか?」
ふとフィアが思ったのは、地方によって連絡手段が違うのであれば、それだけ各地方の繋がりは薄いのではないかということ。なら何かしらの目的があってわざわざホッポウ地方に来たのではないかと、そう思った。
本当に単なる興味で聞いただけなのだが、レキは微笑みながら返した。
「人……というか、妹を探しているんですよ。妹と言っても彼の妹ですけど……でも将来的にはわたしの義理の妹です」
「え……?」
一瞬だけ思考が停止するフィア。レキの連れの妹が、将来的にレキの義理の妹になるということは、つまりレキとその連れの男は婚約関係ということに——
「おっと、少し言いすぎました……ダメですね、口調を直してから口が軽くなってしまって。なんでもありません。とにかく彼の妹さんを探しているんですよ」
レキの方も失言だと思ったのか、口に手を当てて誤魔化す。完全に手遅れだが。
レキのカミングアウトに戸惑うフィアだったが、その時、フィアの視界にある人影が入ってきた。
それはレキが探しているという男ではない。レキが求めるものではなく、逆にフィアが求めてはいないもの。フィアが知る者であり、敵視するもの。
それは即ち。
「グリモワール……!」
フィアとレキは男を探すことを一時中断し、街中を駆けるグリモワールを追っていた。
「グリモワール……聞いたことがあります。確か犯罪者を脱獄させて、取り込んでいる組織でしたか」
どうやらレキもグリモワールのことは聞き知っているようだ。
「フィアさんは、グリモワールと接触したことがあるんですか?」
「はい、まあ……友達のポケモンを盗まれたことがあるんですよ。その時は、あるトレーナーに助けてもらって事なきを得たのですが」
「そうですか……」
なんにせよ、グリモワールがここにいるということは、また何かしでかす可能性が高い。ならば今度はそれを未然に防ぐべきだ。
「あの、レキさん。今更こんなこと言うのもなんですけど、無理について来なくてもいいんですよ? このことはレキさんは無関係ですし……」
フィアはそう言うが、レキはふるふると首を横に振った。
「いいえ、フィアさんに関係があることなら、わたしにとっては無関係ではありません。フィアさんにはあの人を探すお手伝いをしていただいていますし」
それに、と続け、
「わたしとしては、そのような組織を見て見ぬ振りは出来ません。むしろ一度ちゃんと会ってみたかったのですが……今まで接点がありませんでしたからね。むしろここで関わりを持てて、好都合というものです」
「……そうですか」
なにやらレキから強い意思を感じる。それもフィアのような敵対視にゃ正義感とは違う、何かだ。
下っ端と思しき黒い制服を身に纏ったグリモワールを追いかけ、フィアとレキは裏路地に入った。そこで一度、下っ端を見失ってしまう。
「逃げられた……どこに行ったんだろう……?」
「……フィアさん、向こうから人の気配を感じます」
キョロキョロと辺りを見回すフィアに、レキが裏路地のさらに奥を指差し、小さく告げる。
「強い気配です……先ほどの下っ端とは一線を画す人物でしょう」
「ていうことは、七罪人か……」
相手が七罪人ともなると不安を覚えるフィアだが、逆に言えば七罪人を動員するほど相手の目的は重大ということだ。
覚悟を決め、フィアとレキは、裏路地の奥へと歩を進めていく。
今回は一応の新キャラ、レキの登場です。あえて詳しくは言いませんが、この作品では一応新キャラです……いやもうばらすか。はい、口調こそかなり違いますが前作で出て来た彼女です。名前も違いますけど。さて、それでは次回、恐らく新たな七罪人が登場です。お楽しみに。