二次創作小説(紙ほか)

第4話 another world ( No.12 )
日時: 2013/04/16 19:28
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 再び見知らぬ地に飛ばされたフィア。そこには……

 音が聞こえてくる。なにかが匂ってくる。
 水のせせらぐ音、草の匂い。今までこのような感覚はあまり感じたことはなかったが、いざこうして感じてみると、意外と分かるものだった。
「……ね……て……ぇ……っ……ば……」
 せせらぎの他に、違う音……いや、声が聞こえてくる。
「だい……ぶ……ね……きて……ってば……」
 重い体を転がし、仰向けになった。光りが眩しい。うっすらとしか目を開けられない。
「あ、生きて……かった……。……じょうぶ?」
 聞こえてくるのは少女の声だ。そして、目に映るのも、少女だった。
「ぶ、ちょう……?」
「え? なに?」
 やっと光に目が慣れてきた。普通に目を開くと、まだ目ヤニで霞んでいるが、少女の姿をはっきりと捉えた。
 小柄な少女だ。かなり幼い顔立ちで、少々癖のある黄緑色の髪をポニーテールにしている。
「黄緑……?」
 フィアは驚きを隠せない。自分の髪の色も大概だが、まさかリアルでこんな色の髪を見るとは。
「きみ、だいじょうぶ? ケガとかない?」
 少女は覗き込むようにしてフィアに問いかけてくる。フィアはゆっくりと起き上がった。
「怪我は……ない、と思う……」
「よかったぁ……こんなところに倒れてるから、どうしたのかと思ったよ」
 少女はほっと胸を撫で下ろす。そして気付いたが、この少女、髪色だけでなく格好も奇妙だった。
 藍色のプリーツスカートに白いキャミソールのような上衣と、かなり薄着だ。しかもその上にやたら年季の入ったボロボロのダッフルコートを着ているものだから、ますます奇妙である。コートはトグルが全て外れていて、前は全開だ。その様子は、まるで浮浪者である。
「……浮浪者?」
 そしてフィアは思ったことをそのまま口に出してしまった。すると少女は当然ながら、怒ったように頬を膨らませる。
「あ、ひどい! ちがうよ、これはこういうファッションなの! かっこよくない?」
「いや、別に……」
 少女の若干ずれたファッションセンスに同意することなく、フィアは軽く返した。
「そんなことよりも、ここは……?」
 周りを見渡すが、そこはさっきまでいた遺跡ではない。小さな原っぱで、少し先には建物が見える。
「ここ? ここはハルビタウンだよ?」
「春日……?」
 少女はさも当然というようにそう言うが、フィアの感覚からすれば当然でもなんでもない。そんな町の名前は寡聞して知らない。
 そんなフィアの態度に、少女は疑問符を浮かべる。
「知らないの? シコタン島の南にある町だよ。ポケモン研究所があるから、結構有名だと思ったんだけど……正式な研究所じゃないからかな?」
「えっと……」
 よく分からないが、フィアの常識と少女の常識がずれていることは理解できた。そして少女がポケモンと言ったということは、この場所も、彼女やあの青年となにか関係があるのかもしれない。
「それよりも、このポケモンはきみの?」
「え?」
 少女が視線を向けた先には、フィアを守り、傷だらけになったダイケンキの姿があった。どうやら一緒に飛ばされて来たらしい
「ダイケンキ……!」
「さっきイーくん——博士を呼んだから、だいじょうぶだよ。たぶんそろそろ来ると……あ、来た!」
 少女が声をあげ、フィアはまた視線を移動させる。そこには、一人の少女の姿。
「よーぅ、フロル。倒れている男ってのは、こいつか?」
 粗雑で荒っぽい口調とは裏腹に、可憐な容姿。長いこげ茶の髪をポニーテールにし、白衣を羽織っている。さっき博士と呼ばれていたのは、この白衣があるからだろうか。
 博士はしゃがみ込んでフィアと目線を合わせ、ペチペチと頬を叩いてくる。そしてスクッと立ち上がると、
「ま、大丈夫だわな。見たところ怪我はなさそうだし、唾でもつけときゃ治るぜ」
「えー……」
 かなり適当な発言だったが、確かにフィアはどこかを怪我しているわけでも痛めているわけでもないので、不服ながらもその診断は正しい。
「それと……こっちがダイケンキか。懐かしいぜ。俺の息子の相棒もダイケンキだったなぁ……いつかぜってーリベンジしてやる」
 などと言いながらダイケンキに歩み寄る博士。息子などとよく分からない単語が飛び出た気がするが、フィアは聞こえないことにした。
「どう、博士? そのダイケンキ」
「大丈夫だと思うぜ。このダイケンキ、よく鍛えられてる。並みのトレーナーじゃここまで鍛え抜くのは難しいくらいだ……つーかこのダイケンキ、どっかで見たことあるような……」
 博士はしばらくぐったりしているダイケンキの診察を続けた。その表情は、時間が経つごとに険しくなっていく。
「は、博士? どうしたの、顔が怖いよ……?」
 少女の言葉を無視し、博士はフィアの方を向いた。
「こいつぁ……おい、お前」
「えっ、はい……」
「このダイケンキ、どこで見つけた。いや、このダイケンキのトレーナーを、どこで見た?」
「えっと、その……」
 フィアにもまだ状況がよく分かっていないので、説明が難しい。なにより今のフィアは、落ち着いて説明ができるような状態ではない。
 博士はそんなフィアの心情を察したのか、
「……とりあえず、このダイケンキを運ぶか。話は研究所で聞かせてもらうぜ。俺の予想が正しければ、お前、この地方の——いんや、この世界の人間じゃないんだろ?」
「えっと……はい」
「え? な、なに? どういうこと?」
 慌てふためく少女をまたも無視し、博士は長方形の機械を取り出して操作する。そして、
「じゃ、行くぜ。ハルビタウンのポケモン研究所にな」



あっぶねぇ……僕としたことが、初っ端からあとがきを書くの忘れてました。前作を知っている人ならお馴染みのあとがきです。ちなみに近々目次を作りますが、第3話までは序章で、今話から本格的なストーリーに入ってきます。今作での主人公は気弱な少年、フィア。ポケモンに関する知識がほぼ皆無という、超初心者トレーナーです。前作の主人公は結構知識面でも優れていましたが、今回は当たり前のことでも彼にとっては知らない事なので、その辺を上手く書ければいいなと思っています。それでは次回、ハルビタウン研究所です。何が起こるかは、ご想像にお任せします。では、次回もお楽しみに。