二次創作小説(紙ほか)

第41話 ベルフェ ( No.120 )
日時: 2013/05/06 22:10
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 新たな七罪人、現る。

 裏路地の奥へと進むと、そこに黒い制服を着たグリモワールの下っ端が三人。そしてその下っ端を従えるかのように、中央に男が佇んでいた。
 男と言っても、年齢は若く見える。以前戦った七罪人、ゼブルと同じくらいだろう。だが年齢は同じでも、恰好はゼブル以上に目を引くものだった。いや、いっそ異様と言うべきか。
 まず最初に目についたのは、褐色の肌。色合いからして、日焼けではなく元々そういう肌色の種族なのだろう。そして肌とは逆に、髪は白い。アンシンメトリーというよりは、不自然に垂らしたような髪型で、長い前髪の隙間から赤い無感動な瞳が覗いている。
「…………」
 そして何より異様なのは、彼の服装だ。一見すれば少し改造を加えただけのグリモワールの制服なのだが、腰だけでなく腕や足、胴体など、体の至るところが革製のベルトできつく締め上げられている。頬には湿布、首には首輪、手首には鎖の千切れた手錠が装飾品のように彼を怪しく飾っていた。
 フィアはその恰好を見て、拘束衣を想起させる。
「……来たか」
 褐色の肌の少年は無感動な瞳でフィアとレキを見据え、抑揚のない声をあげる。
「オレ、ベルフェ。怠惰の七罪人。お前、倒す」
 少年——ベルフェは片言のインディアン的な口調で名乗り、そう告げる。同時に剥がした湿布の下には獣の手のような三本爪の烙印が焼き付いており、やはり彼も七罪人のようだ。
 しかもこのベルフェは、まるでフィアがここに来ることを知っていたかのようだった。もしそうでなければ、フィアに向かって開口一番に倒すなどとは言わないはずだ。
 まさか誘き出されたのかと一抹の不安がよぎるフィアだったが、しかしベルフェにも不測の事態があったようで、
「だが……オレ、お前知らない」
 ベルフェは湿布を貼り直しつつ、レキを指差す。
「わたしは成り行きでここに来ただけですので、知らなくても無理はないでしょう」
 レキもレキで、肩を竦めるだけで多くは語らない。ベルフェもレキについては深く言及せず、
「……まあいい。オレの命令、一つ。お前、倒す」
 フィアに向き直り、ボールを取り出した。
「ググズリー、戦闘開始」
 ベルフェが繰り出したのは、緑色の熊のようなポケモン。

『Information
 ググズリー 猛獣ポケモン
 普段も大人しいとは言えないが、
 尻尾先端の球体を引っ張ると
 手が付けられないほど暴れまわる。』

「やっぱり、戦う気なんだね」
 チラッと後ろに視線を移すと、そこはベルフェを取り巻いていた下っ端三人が既に通行止めをしていた。
 フィアもボールを取り出し、一歩前に進もうとするが、
「フィアさん、ここはわたしに任せてください」
「っ、レキさん……」
 レキがフィアを制止する。
「ググズリーはノーマルと格闘タイプです……フィアさんがどのようなポケモンを持っているかは知りませんが、表情を見る限り有効打を持つポケモンは少ないのでは?」
「う、それは……」
 その通りだった。確かにブースターやヌマクローには格闘技があるものの、どちらもタイプ不一致。起死回生に至ってはピンチの時にしか効力を発揮しない。
「わたしのポケモンならググズリーに有効打を撃てます。それに——」
 一拍置いて、レキは一瞬だけ目を鋭く細める。ほんの一瞬だけだったが、凍てつく氷柱のような眼だった。
「——ポケモンバトルには、自信があります」
 レキはすぐに笑みを浮かべ、フィアを差し置いて前に出る。フィアは一瞬だけ見た冷たい視線が脳裏に焼き付いており、強く出れなかった。
「まあそういうわけで、あなたの相手はわたしが務めます。依存はありませんか?」
「…………」
 ベルフェは前に出たレキをジッと見つめ、
「依存……ある」
 やがて口を開く。
「オレの命令、フィア、倒すこと。お前、知らない。お前倒すこと、命令に、ない」
 あくまでも命令に忠実なベルフェ。忠実過ぎて融通が利かないようだ。
「そうですか……でも、わたしには関係ありませんよね」
 それを理解するレキも、ここは退かない。ボールを取り出し、ベルフェと戦う姿勢を見せる。
「……ルキ、言ってた。邪魔者、倒せ。邪魔、するな」
 ベルフェの中で何かが繋がったようで、ひとまずの標的はレキへと変更されたようだ。ベルフェもググズリーも、完全にレキに敵意を向けている。
「やっとこちらを向いてくれましたね……では、行きましょうか」
 スッと流れるような動作でボールを構え、レキはポケモンを繰り出す。
「おいでください、レジュリア!」
 レキが繰り出したのは、長い金髪に赤いドレスを着たような、限りなく人型に近いポケモンだ。

『Information
 レジュリア 人型ポケモン
 しなやかな体で優雅にダンスを
 踊る。レジュリアのダンスを見ると
 身体の自由が利かなくなってしまう。』

 レジュリアは氷とエスパータイプ。氷の弱点である格闘技はエスパーで相殺され、逆にエスパー技で格闘の弱点を突ける。ググズリーには相性が良い。
 両者のポケモンが場に出て、一触即発の空気が流れる中、どちらもにらみ合いを続ける。
「……?」
 ここでレキは眉根を寄せた。レジュリアが攻めないのはただの様子見だが、ググズリーも攻撃してくる気配がない。ググズリーの能力を考えれば速攻で殴り掛かってきてもおかしくないのだが、ベルフェのググズリーは動かない。どころか構えてすらいない。
「このまま睨み合っていても埒があきませんね……そちらが攻めてこないのなら、こちらから速攻で決めさせてもらいます」
 痺れを切らしたレジュリアは、地面を蹴ってググズリーへと接近。それでもまだググズリーは構えない。
「レジュリア、サイコバーン!」
 レジュリアは手を振り、念力の爆発を引き起こす。その威力は凄まじく、しかもググズリーには効果抜群だ。レジュリアの特攻も考えれば、一撃で戦闘不能になっていてもおかしくはない。
 しかし、

「ググズリー、ドレインパンチ」

 直後、爆発で発生した煙の中から、ググズリーの拳が突き出される。
「っ!? レジュリア!」
 レジュリアはその拳を回避することができず、大きく吹っ飛ばされて壁に激突する。
 ググズリーは攻撃力が高く、レジュリアは防御が低いのだが、それにしてもダメージが大きい。まだギリギリ戦闘不能ではないようだが、一撃で体力のほとんどを持って行かれた。
「なんて威力……いや、それよりも……」
 レキが驚愕しているのは、ドレインパンチの攻撃力より、サイコバーンを耐えた耐久力。
 レジュリアの防御が低いように、ググズリーは特防が低い。そこに高火力でタイプ一致、しかも効果抜群のサイコバーンを喰らえば、戦闘不能になってもおかしくはないし、そうでなくとも致命傷になるはずだ。
 しかしググズリーは、大ダメージこそ負ってはいるが戦闘不能には至らない。受けたダメージが少なすぎる。
「特防を特化させていた……? いや、そうは見えません……じゃあ、一体……?」
 レキはググズリーの異常な耐久の理由を考えるが、今の一合では推測すらも難しい。
 そうこうしているうちにググズリーの反撃の手が伸びて来る——かと思いきや、ググズリーは反撃どころか構えすら取らず、ジッとレジュリアを見つめていた。
「どうやらカウンターを得意とするスタイルのようですが、それでも構えすらしないとは……」
 ベルフェのググズリーのバトルスタイルは、あえて相手から攻撃を喰らい、すぐさま反撃するカウンタースタイル。そこまでは見抜けたが、そこまでだ。それ以上は分からない。
「レキさん……」
 いきなり不利な状況に陥るレキ。フィアはその様子を不安を覚えながら見つめる。その時だった。

 後方で三人の下っ端が吹っ飛んだ。

「っ!? な、なに……っ!?」
 正確には、三人と三人のポケモンが吹っ飛んだのだが、そんなのは些末な差だ。問題は、後ろでいつの間にかバトルがあったということだ。
「……何事だ」
「も、申し訳ありませんベルフェ様……いきなり、暴君のような男が襲ってきて——」
 吹っ飛ばされて強く頭を打ちつけた下っ端二人は気絶し、残る一人もガクッと気を失う。
 そして、下っ端が塞いでいた通路から、一つの人影が現れる。
「はぁ……ったく、いい歳して迷子になってんじゃねぇよ。しかもこんな面倒なことに巻き込まれやがって……だが」
 現れたのは、男だ。黒みがかった赤い髪に、鋭い眼光。黒を基調としたラフな格好をしており、腰にはチェーン、腕には青緑色の腕輪を付けている。
 男はこの場の光景を見て口の端を吊り上げ、笑った。
「——面白そうなことしてるじゃねぇか。俺も混ぜろよ」



はい、今回は新しく怠惰の七罪人、ベルフェの登場です。もっと怠け者が出て来ると思いましたか? 残念ながらこいつはそんなに単純ではありません。怠け者のベクトルが普通とは違います。それでは次回、突如現れた男の正体が明らかに……まあ、分かる人は分かると思いますが。そういうわけで次回もお楽しみに。