二次創作小説(紙ほか)

第42話 tyrant ( No.123 )
日時: 2013/05/09 22:57
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 暴君乱入!

「ザキさん……!」
 突如現れた男を見るや否や、レキの顔はパァッと明るくなっていく、どうやら彼の名前はザキというようで、恐らく反応からすると彼女の探していた人物なのだろう。
 ザキはフィアをスルーし、レキの横まで歩くと、軽く辺りを見回し、
「とりあえず、どういう状況かは理解できた。お前がこういう奴らを放っておけないのは知ってる、それは咎めたりしねぇ……がいい歳して迷子になってじゃねぇよ」
「申し訳ないです」
 口ではそう言うが、レキはあまり申し訳なさそうな顔をしていない、謝罪の念よりザキに会えた喜びが勝ったのか。
「……はぁ。まあ早く見つかったことだ、今回はチャラにしてやる。ただし」
 と言って、ザキはベルフェを睨み付けるように見据える。
「選手交代だ。ちょうどイライラしててどっかで暴れたかったところだ、折角目の前にいい獲物がいることだし、八つ当たりでも憂さ晴らしでもしてやる」
 そしてザキはボールを構える。フィアの時は食い下がったレキだが、今回は潔くレジュリアをボールに戻し、引き下がった。
「……邪魔、するな」
「うるせぇ。てめぇは俺のストレス解消のためにサンドバックにでもなってればいいんだよ。黙っとけ」
 ベルフェの言葉を理不尽に一蹴し、ザキは構えたボールを投げ、ポケモンを繰り出す。
「暴れるぞ、テペトラー!」
 ザキが繰り出したのは、正に河童の如きポケモン。ザキ同様、鋭い眼光でベルフェのググズリーを睨み付けている。

『Information
 テペトラー 河童ポケモン
 非常に力に優れたポケモン。
 ただ力任せに殴るのではなく
 体の捻りを使って相手を攻撃する。』

「先手なんてやらねぇぞ、一発目から殴り倒してやる。テペトラー、サイコパンチ!」
 ザキの言葉通り、先に動いたのはテペトラーだ。テペトラーはググズリー急接近し、念力を纏わせた拳でググズリーの顔面を殴る。
 効果抜群で無防備なググズリーの顔面にクリーンヒット。普通ならかなりのダメージになるはずだが、
「ググズリー、ドレインパンチ」
 ググズリーはしっかりと両足を踏ん張って耐え切り、逆にテペトラーを殴り飛ばしてしまう。
「っ! テペトラー!」
 殴り飛ばされたテペトラーは壁に激突して落下するが、すぐに起き上がる相当なタフネスだ。
「……妙な攻撃だな」
 今の一撃を見て、ザキはぼそりと呟く。そうしている間でも、ググズリーは攻めてこない。
「カウンター狙い——にしても露骨すぎるというか、無防備すぎる……とにかくもっと攻撃をぶち込まねぇと分からねぇか。テペトラー、スプラッシュだ!」
 今度は水流を纏い、飛沫を散らしながらテペトラーは突貫。ググズリーに激突する。
「ドレインパンチ」
 だがまたしてもググズリーは余裕で耐え、光る拳を振りかざしてテペトラーに殴り掛かるが、
「サイコパンチだ!」
 テペトラーも同時に念力を纏った拳を突き出し。拳同士でぶつかり合う。
 初めは双方とも激しく競り合っていたが、やがてググズリーが押し勝ち、テペトラーはまたも吹っ飛ばされた。
「……おいテペトラー、こんくらいでへばんなよ」
 ザキがテペトラーを見ずに言うと、テペトラーも無言で立ち上がり、構えた。
 その様子を見てフィアは唖然としていた。
「凄い……あのテペトラー、まだ立ち上がれるんですか……」
「あれがザキさんのポケモンです、彼と同じで不屈というか不死身というか……特にあのテペトラーは別格ですね。わたしも数年前に一回だけしか倒せませんでした」
 レキのレジュリアを一撃で戦闘不能寸前まで追い詰めたググズリー。その拳をまとに二回喰らってまだ立ち上がるテペトラーは、確かに不屈の闘志を持っているのかもしれない。
 ザキは少しだけ笑みを浮かべ、ベルフェを見据える。
「少しずつだが分かって来たぜ、お前のバトルスタイルの秘密がな……テペトラー、氷柱落とし!」
 言ってからテペトラーは、虚空から何本もの氷柱を落とし、ググズリーに突き刺す。数も大きさもウルシのゴートン以上だ。
 そんな氷柱の直撃を喰らったググズリーは全く怯むことなく、一度構えてから地面を蹴り、テペトラーへと突っ込む。
「ググズリー、ギガインパクト」
 凄まじい気迫と殺気を伴い、ググズリーはテペトラーへと突撃する。まだポケモンの技には疎いフィアだが、この技が相当な破壊力を持つことくらいは見て分かった。ザキも少しだけ苦い顔をしている。
「ちぃ……テペトラー、インファイトだ! とにかくあいつの勢いを削げ!」
 もうググズリーは止まらないと見たのか、テペトラーはググズリーを留めることよりも、勢いを削いでダメージを減らす策に出た。突っ込んできたググズリーに向かって、カウンターのように溜めた拳を勢いよく振り抜く。
 次の瞬間、両者のフルパワーの一撃がぶつかり合い、破裂音のような凄まじい音を響かせながら——テペトラーが吹っ飛んだ。
「あぁ!」
 途轍もない勢いで壁に激突するテペトラーを見て、思わず声を漏らすフィア。しかしザキにはこの展開は予想通りだったようで、テペトラーは舞った砂煙の中からすぐに飛び出した。
 そして、

「今だテペトラー、インファイト!」

 ググズリーの正面に降り立ったテペトラーは、こちらもこちらで凄まじい勢いの拳を連続で繰り出し、ググズリーを殴打する。
 数秒間のラッシュが続き、最後に力を溜めたフルパワーの一撃がググズリーの腹に叩き込まれ、今度こそググズリーは吹っ飛ばされた。
「…………」
 ベルフェはその光景を見て、少しだけ目を見開く。今まで一貫して表情が変わらなかったベルフェの表情が初めて変わった時だ。それほどググズリーが吹っ飛ばされたことに驚いているのだろうか。
 それならググズリーにも大ダメージが入ったと見ることもできる。インファイトは格闘技の中でもトップクラスの威力を誇り、おまけにググズリーには効果抜群。タイプ一致まで加わり、この連撃で戦闘不能になっていても不思議はない。
 ないのだが、しかし、

「ググズリー、ギガインパクト」

 刹那、砂煙の中からググズリーが飛び出す。それも、膨大なエネルギーを纏って。
「……! スプラッシュ!」
 テペトラーもダメージと攻撃の疲れがあるはずにも関わらず、咄嗟に水流を纏って突進したのは流石だ。しかし今回のギガインパクトは、威力が桁違いだった。
 明らかに一回目のギガインパクトよりも威力が増している。フィアにもそれは肌や感覚で分かった。
 やがてググズリーとテペトラーがぶつかり合うが、勝敗は分かりきっている。容易くテペトラーが吹っ飛ばされ、再三壁に激突する。壁の方も亀裂が入り、さらに衝撃を加えれば崩れてしまいそうだ。
 この一撃でテペトラーも戦闘不能……になるはずだが、
「テペトラー、根性出せ……まだ圧政は終わってねぇぞ」
 テペトラーは必死で体を支え、しかし目つきは鋭いまま、立ち上がる。もう戦闘不能となんら変わらないような状態だろうに、それでもテペトラーは戦う意思を見せる。
「無駄」
 そんなテペトラーを見て、ベルフェは口を開く。
「お前、俺に勝てない。お前の力、俺の力、相性悪い」
「確かにそうみてぇだなぁ。何度も殴られたせいでお前の力……いや、こっちじゃ能力っつーのか? が分かってきた」
 また少しだけ笑みを含ませて言うザキ。その言葉に、ベルフェは眉根を寄せる。
「成程な、能力っつーのはこういうことを言うのか……便利なもんだ。だが制約もあるみてぇだし、そこまで使い勝手はよくないのかもな。だがお前の能力に限って言えば、確かに俺のスタイルとは相性が悪いみたいだ」
 だがな、とザキは続け、
「種さえ知れちまえば、対策は簡単だ。今からそれを見せ——」

 ピリリリリ!

 とザキが言いかけたところで、どこからか電子音が鳴り響いた。
 フィアはまず自分のターミナルを確認するが、自分ではないようだ。レキも同じように首を振る。ザキは何も仕草を見せないが、たぶん違うのだろう。とすると、
「……ルキ、アス、任務達成。オレ、任務終了。帰還する」
 ベルフェだ。
 ベルフェはぼそぼそと何かを呟きながらターミナルに酷似した携帯端末を弄り、音を止める。そしてググズリーをボールに戻し、違うボールからポケモンを出した。
「アイアント、穴を掘る」
 出て来たのは全身を鋼の鎧に包んだ蟻のようなポケモン。

『Information
 アイアント 鉄蟻ポケモン
 天敵であるクイタランを
 集団で襲う。最近の研究だと、
 勝率はアイアントの方が高いらしい。』

 アイアントは素早くコンクリートを砕いて地面に穴を掘り、ベルフェもそこに入って姿を消してしまった。
「あ……」
 フィアは咄嗟に手を伸ばすが、もう遅い。
 そこにはアイアントが掘った穴と、気絶している下っ端が三人いるだけだった。



 その後、下っ端は警察に引き渡され、フィアたちもオボロシティから旅立とうとしていた。
「ではフィアさん、今日はお世話になりました」
「いえ……結局、僕は何もしてませんし、むしろレキさんやザキさんに助けられましたし……」
 フィアの言うように、グリモワール——特に七罪人、ベルフェとのバトルでフィアは一切手を出していない。戦ったのはレキとザキだけだ。
「つっても、奴の目的は時間稼ぎだったみたいだがな……大方、お前の動きを封じてる間に、別の仲間がどっかで何かしてたんだろうよ」
 ザキが口を挟む。だが彼の言っていることは恐らく正しいのだろう。ベルフェの独白も交えれば、そう考えるのが自然だ。
 それにベルフェがわざわざフィアの足止めに動いたということは、フィアがグリモワールにマークされているということ。それだけフィアは、グリモワールと深くかかわってしまったということになる。
「まあ、ここで暗くなっても仕方ないですよ。フィアさんもフィアさんのやることがあるのでしょうし、まずはそちらに集中するべきです」
 フィアの顔に陰りを感じたのか、レキは努めて明るく振る舞うように言う。
 そしてレキとザキはフィアに背を向け、
「それでは、お気をつけて。ジム戦、頑張ってくださいね」
「はい、ありがとうございます。レキさんとザキさんも、その……」
 そこでフィアはレキの言葉を思い返し、少し赤くなりながら、
「お幸せ、に……?」
「おいこら、てめぇ」
 すると、すぐさまザキがフィアに詰め寄った。
「てめぇまさか、俺とあいつが恋仲だとか思ってんじゃねぇのか?」
「え、違うんですか……? でもレキさんは……」
「違うに決まってるだろうが!」
 怒鳴るザキに怯え、声が出せずにいるフィア。レキはそんなザキをなだめるように、彼の肩を軽くつかむ。
「そう怒らずに、ザキさん。もうお義父さんとお義母さんとミキちゃんにも認められていますし、むしろお三方とも勧めているのですよ? これは家族の意志を尊重すべきでは?」
「本人の意思を尊重しろ! 家族の前に当事者だろうが!」
 付き合いきれん、と言わんばかりにザキはレキに背を向けて歩き出してしまった。待ってくださいよ、などと笑いながらレキもそれを追う。
「……まあ、楽しそうだな、あの二人も……」
 ザキは本気で嫌がっていたようだが、とりあえずフィアはそうまとめた。



数日更新してないだけでかなり久々な気がしますね。とりあえず今回はオボロシティの回が終結、バトルに乱入したあいつはザキです。前作から出ているキャラですね。個人的にはそれなりに思い入れのあるキャラです。荒っぽいけれど洞察力もあるザキがベルフェの能力を見抜いていましたが、彼の能力についてはもっと先で語られることになると思います。なにはともあれ、次回は四つ目のジムがあるカゲロウシティです。感じにすれば陽炎ですね。お楽しみに。