二次創作小説(紙ほか)

第43話 カゲロウシティ ( No.126 )
日時: 2013/05/10 20:10
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 最近行き詰り気味……どうしたものか。

 カゲロウシティ。ホッポウ地方、クナシル島の北部に位置する街。
 この街はホッポウ地方の熱源とも呼ばれており、地方に散らばる無数の火山の中で最も大きな火山がそびえていて、その火山の熱でホッポウ地方は北にありながらも温暖な気候を保っていうらしい。
 とはいえ流石にこの話は誇張のようで、実際は海底火山が多く存在するからホッポウ地方は暖かいのだそうだが、どちらにせよカゲロウシティに巨大な火山が存在し、その火山の熱の影響でこの街の気温が高いという事実は変わらない。ちなみに、この街の名物は火山の熱を利用した温泉と、火山の頂上で催される祭りらしい。
「……へぇ、つまりこの街は、ホッポウ地方でも有数の観光の名所ってわけか」
 街の案内を読み終え、フィアはターミナルを閉じる。
 オボロシティからほぼ丸々一日費やして到着したカゲロウシティ。案内を見る限りは観光名所として有名らしいが、フィアが来た理由はそこではないし、カゲロウシティが人で賑わっているのも温泉や祭りがあるからだけではない。
「この街のジムリーダーは炎タイプ使い。ここはヌマクローが活躍してくれるかな」
 フィアは事前にある程度はジムリーダーの情報を集めるようにしているのだが、そこで分かった情報によると、どうやらこの街のジムリーダーはかなりの有名人らしい。
 有名人というより、ホッポウ地方のジムリーダーで最高齢の人らしい。ホッポウ地方は世代交代が頻繁に行われ、そのため若い世代のジムリーダーが多い中、カゲロウシティのジムリーダーは二十年もの間ジムリーダーとしての地位を保ち続け、現在はホッポウ地方のジムリーダーを統括するほどの人物だそうだ。
「たぶんかなり強い人なんだろうな……でも、僕らだって十分強くなってるはずだし、仮に勝てなくてもいい勝負くらいはできるよね」
 前向きに考え、フィアはポケモンセンターから出る。そしてターミナルの地図を頼りに人込みを掻き分けて歩き、数十分ほどでジムに着いた。
 着いたと同時に、懐かしい顔も見ることになる。
「お? あっれー、フィア君?」
「……イオン君!」
 ちょうどジムから出て来たのは、以前フィアと何度か戦い、共闘もしたことがある少年、イオンだった。
 イオンはいつも通りの独特なペースでフィアに言葉を投げかける。
「ひっさし振りだねー、シコタン島以来? バッジはいくつになった?」
「三つだよ。ちょうど一昨日、オボロシティで三つ目のバッジをゲットしたところ」
「へぇ、オボロシティには行ってないなー……あ、俺は四つね」
 と言ってイオンはバッジケースを広げる。そこには確かに四つのバッジがはめられていた。うち二つはアドベントバッジとプラズマバッジ、イチジクとクリに勝利することで与えられるバッジだ。
「フィア君は今からジム戦?」
「うん、そうなんだ。イオン君はもうジム戦終わったんだね」
「まーねー。でもここのジムリーダー、すっげー強いよ? 俺もかなりギリギリで勝てたし」
 イオンの表情からも察するに、やはりこの街のジムリーダーはかなりの強者のようだ。
「まーでも、バッジをもう三つもゲットしてんだし、フィア君なら勝てると思うよ?」
「そう、かな……」
「そーそー、俺が保証するさ。いや、いっそもうフィア君のバトル見よ。祭りまでどうせ暇だし」
 つーわけで見てもいい? と尋ねるイオン。フィアとしては断る理由もないので、いいよ、と返した。
 フィアはそのまま一歩踏み出し、イオンと位置を交代。イオンを引き連れるように扉を押し開ける。
「し、失礼します……」
「……なんでそんな弱気なの?」
 素直に疑問符を浮かべるイオン。フィアとしてはジムの扉を開けるたびに緊張してしまうのだ。
 だが今までは、シュンセイジムでは布団が敷かれており、ライカジムでは停電騒動で世話になったクリがいて、オボロジムではそもそもジム自体が特殊だった。そのためその緊張はすぐさま吹き飛んだ。
 しかし、今回は違った。
「……挑戦者か。立て続けに来るとはな」
 フィアを出迎えたのは、布団でも見知った顔でも特殊なフィールドでもない。一人の男だ。
 ホッポウで最高齢のジムリーダーと聞いてはいたが、老人というほどではない。しかしそれでもそれなりの歳ではありそうだ。恐らく、四十後半から五十くらいだろう。
 筋肉質な体に真っ赤な着物を纏い、右腕だけ袖を通さず胸元から出しており、腰には赤い護符のようなプレートが数枚、瓢箪が一つぶら下がっている。グローブと一体化した手甲を付け、目元にはサングラス、黒い短髪と、一言で言って渋い。渋い男だった。
「俺はアーロンだ。お前は誰だ」
「あ、えっと……フィア、です」
 男——アーロンに促されて、フィアはやっと言葉を発した。今の今まで、アーロンの言いようもない気迫に飲まれかけていた。
 アーロンは無言でフィアを見つめていると、ふいに視線をイオンに移し、
「それと、お前はさっきの——」
「あ、俺はただの観戦です。さっきこの友達とばったり会って、せっかくだから祭りまでの時間つぶしに見てよっかなーと」
「そうか」
 アーロンは短く答える。寡黙というか、必要以上のことは話さない、というような口数の少なさだ。
 フィアは戦う前からアーロンに怖気づきそうになるが、それでもなんとかフィールドまで歩を進め、相対する。
「バッジはいくつだ」
「え……?」
「バッジはいくつ持っているのかと聞いているんだ」
 あまりに唐突だったため、フィアは面食らってしまい、アーロンに言い直されてやっと質問の意味を理解した。
「三つ……です」
「何のバッジだ」
「えっと……アドベントバッジ、プラズマバッジ、それからメテオバッジです」
 指折り数え、フィアは今まで手に入れてきたバッジの名前を挙げていく。
「イチジクにクリ、それにウルシか……まだ若いとはいえ、ホッポウの十傑のうち三人を既に倒しているということか」
 サングラスと高い襟でアーロンの表情が読めない。そもそも顔に出ているとも思えないが。
 なんにしても、アーロンはフィアが今まで戦ってきたジムリーダーの名前を聞き、しばらくして静かにボールを取り出す。
「使用ポケモンは四体、交代は挑戦者のみが可能だ」
「えっ?」
 アーロンはポケモンを繰り出す前にルールを軽く説明する。その内容自体は普通のジム戦のレギュレーションなのだが、フィアは予想だにしなかったとでも言うような声を上げた。
「四体……いやでも、僕は——」
 三体しかいないんです、と言おうとしたところで、先にアーロンに制された。
「お前のポケモンは四体いるのだろう。他に二体ほど、別の者のポケモンも連れているようだがな」
 アーロンの的確過ぎる、狙い澄ましたような指摘にフィアは驚愕で目を見開いた。
「な、何でそこまで……!?」
「見れば分かる。これでもトレーナーとして、ジムリーダーとして、長いつもりだ」
 多くは語らないアーロンだが、要するに経験で分かると言いたいのだろう。
 それはともかく、フィアは焦るように表情を曇らせる。四対四、ポケモンを四匹使用したバトル。それはフィアが今まで避けてきたバトルだ。
 それをここで、行うことになってしまった。
(……でも、楽観し過ぎだけど、それならこっちが三体のうちにアーロンさんを倒せればいいんだ。幸い僕のポケモンに炎技が苦手なポケモンはいない。上手く立ち回れば、三体でも勝てるはず)
 そんなことを思いながら、フィアもボールを手に取った。
「分かりました……じゃあ、そのルールでやります」
「……ああ。全力で来い」
 こうして、フィアの四つ目のジムバッジを賭けたバトルが始まった。



『Information
 ジムリーダー アーロン
 専門:炎タイプ
 異名:爆炎武人ブレイズウォリア
 兼業:カゲロウシティ市長』



これでフィアのジムバッジは四つ目か……イチジクとクリの間を考えるとかなりハイペースで進んでますね。もうジム戦も中盤ですよ。それはともかく、今回はイオンが久々に登場、そしてカゲロウシティのジムリーダーは渋い男、アーロンです。白黒は基本的に低年齢のキャラが好きなのですが、こういう渋い感じのキャラは高齢でも好きです。というかある程度の年齢だからこその威厳ですね。さて、もしかしたらお気づきの方もいるかもしれませんが、このジム戦がフィアの一つ目の転機となります。あのポケモンの秘密(?)も明かされます。それでは次回、カゲロウシティジム戦です。お楽しみに。