二次創作小説(紙ほか)

第44話 ジムバトルⅣ カゲロウジム1 ( No.127 )
日時: 2013/05/12 16:38
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: 始まるカゲロウジム戦、四対四のバトル——

「最初は頼んだよ、ヌマクロー!」
「行くぞ、キュウコン」
 フィアの一番手は、アーロンが炎タイプ使いであることを考慮してのヌマクロー。
 そしてアーロンが最初に繰り出したのは、九つの尻尾を持つ山吹色の狐のようなポケモンだ。

『Information
 キュウコン 狐ポケモン
 九人の聖者が合体して生まれた
 と言われるポケモン。最近は
 太陽の化身であるという説もある。』

 キュウコンが場に出ると、ふと辺りが明るくなった。それだけでなく、なにやら熱を感じる。日差しが照りつけるような暑さだ。
 何が起こっているのかと思い、フィアが顔を上げると、
「な、なにあれ……!?」
 ジムの天井付近に、一つの巨大な炎の塊が浮かび上がっていた。
「擬似太陽だ。キュウコンの特性、日照りで日差しが強い状態になっただけだ」
「擬似太陽って、それに日照り……えっと——」
 急いでターミナルを開き、日照りという特性を調べるフィア。
 日照りとは、場に出るだけで天候を日差しが強い状態に変える特性。そして日差しが強い状態だと、炎タイプの技が強化され、
「……! 水タイプの技が半減する……!?」
「そういうことだ」
 つまり実質的にヌマクローは水技でキュウコンの弱点を突けないということになる。
「なんだよなー……オレもあの日照りに随分と苦戦させられたよ」
 観戦しているイオンが、誰に言うでもなく呟く。
 なんにしてもこの日照りは、アーロンのポケモンが強化されるだけでなく、炎タイプの弱点である水技を抑える働きもある。攻撃と防御を同時に行うような、有用な戦術だ。
「……いや、でもヌマクローには地面技もある。まったく戦えないわけじゃない」
 フィアはなんとか自身を奮い立たせ、ヌマクローに指示を出す。
「ヌマクロー、マッドショット!」
 ヌマクローは大きく息を吸い、口から勢いよく泥を噴射するが、
「キュウコン、神通力」
 キュウコンが放つ神々しい念力で泥は全て散らされてしまう。さらに、
「鬼火だ」
 キュウコンの尻尾の先端に青白い火の玉が浮かび、九つの火の玉はすべてゆらゆらと揺れながらヌマクローへと向かっていく。
「う……ヌマクロー、水の誓!」
 咄嗟に地面から水を噴出して火の玉を防ごうとするヌマクローだが、火の玉は水柱を潜り抜けてヌマクローに近づき、その身を焼き焦がしていく。
「ヌ、ヌマクロー……」
 ダメージはないようだが、ヌマクローの体は火傷を負ってしまった。これでヌマクローは時間と共に体力を削られ、しかも攻撃力も落ちてしまう。
「まだ終わらんぞ。キュウコン、祟り目」
 キュウコンはジッとヌマクローを見据え、祟るような視線を向ける。するとヌマクローはも悶え苦しみ、その場に蹲ってしまう。
「ヌマクロー!」
 祟り目は相手が状態異状になっていれば威力が倍増する。ヌマクローへのダメージは大きいだろう。
「ヌマクロー、頑張って。マッドショット!」
「神通力」
 ヌマクローはなんとか起き上がって泥を噴射するが、神通力で散らされてしまう。
「熱風だ」
 キュウコンは静かに息を吐き、高熱の熱風を吹き放つ。日照りで強化されているため、熱がフィアの所まで伝わってくる。
「水の誓!」
 即座にヌマクローも水柱を立てて防御しようとするが、強化されている熱風と弱化している水の誓では、タイプ相性で勝っていても熱風が勝つ。
 水柱は瞬時に蒸発し、熱風がヌマクローに襲い掛かった。
「うぅ、こうなったら接近戦に持ち込むしか……ヌマクロー、瓦割り!」
 熱風が吹き止むと、ヌマクローは拳を構えてキュウコンへと走り出す。
「止めろ、神通力」
 キュウコンは神通力を発してヌマクローを止めようとするが、ヌマクローはなんとかそれを躱してキュウコンに接近。拳の一撃を叩き込む。
「水の誓!」
 さらに周りから間欠泉のように水を噴射して追撃。キュウコンを攻撃するだけでなく、一時的にだがキュウコンの動きも止められた。
「…………」
 アーロンはサングラス越しにその様子をジッと見つめ、キュウコンに指示を出さない。
「もっと攻撃だよ、ヌマクロー。スプラッシュだ!」
 両腕に水流を巻きつけ、飛沫を散らしながらキュウコンに叩き付ける。日照りで実質等倍だが、それでもそれなりにダメージは通る。
「瓦割り!」
「祟り目」
 ヌマクローが続けて拳を繰り出そうとすると、そこでキュウコンは祟るような視線でヌマクローを見据え、動きを止めた。
「神通力だ」
 さらに神通力を発し、今度はヌマクローを吹っ飛ばして引き剥がす。
「くぅ、マッドショット!」
 素早く起き上がり、反撃にヌマクローは泥を発射するが、
「熱風」
 すぐさまキュウコンも熱風を放ち、マッドショットを打ち消してそのままヌマクローも攻撃する。
 攻め一辺倒というわけではないが、キュウコンの攻撃は勢いがある。攻撃と防御の切り替えが的確で、守るべき時にだけ最低限守り、後は攻めていく、そんな感じのスタイルだ。
「キュウコン、熱風だ」
 再びキュウコンは熱風を放つ。日照りで強化されており、ヌマクローの攻撃では相殺することすら出来ない攻撃だ。だからといってヌマクローのスピードで避けられる攻撃でもない。ならば、
「ヌマクロー、スプラッシュで突き抜けるんだ!」
 攻撃を喰らうことを前提とし、少しでもダメージを減らす。そしてすぐに攻撃に移る。それがフィアの判断だ。
 ヌマクローは全身に水流を纏い、飛沫を散らしながらキュウコンへと突っ込む。途中で熱風が襲ってくるが関係ない。水はすべて蒸発したが、熱風は広範囲に放つ分、一点に対する攻撃の密度が薄い。蒸発した瞬間に、ヌマクローは熱風の中を走り抜け、突っ切った。
「今だ! 瓦割り!」
 強引に熱風を突き抜けたヌマクローは、拳を突き出してキュウコンを殴りつけ、
「スプラッシュ!」
 両腕を振り下ろし、水飛沫と共にキュウコンを吹っ飛ばす。
 ヌマクローも相当ダメージを受けたが、キュウコンもヌマクローからそれなりに攻撃を喰らっている。ダメージは蓄積しているはずだ。
「ヌマクロー、マッドショット!」
「キュウコン、神通力」
 ヌマクローが噴射する泥を神通力で相殺し、キュウコンは起き上がり態勢を立て直す。
「祟り目」
 態勢を立て直したキュウコンはすぐに動かず、じっとヌマクローを見据える。
「っ、水の誓だ!」
 ヌマクローはすぐに地面から水を噴射し、キュウコンの視界を塞ぐように攻撃。あれ以上見つめられていれば、ヌマクローは戦闘不能になっていたかもしれない。
(祟り目は見つめてから動くことができないし、攻撃まで時間差もある……決して防げない攻撃じゃない)
 神通力はなんとか回避でき、熱風もスプラッシュなら、多少ダメージは受けるものの突破できる。
 最初は日照りと相まって強力なキュウコンだと思ったが——その事実は変わらないが、それでも攻略不可能ではない。
「このまま押し切れれば……ヌマクロー、マッドショット!」
 ヌマクローは大きく息を吸い、口から多量の泥を噴射する。
「神通力」
 が、その泥は神通力で散らされて相殺されてしまう。そして、
「キュウコン、熱風だ」
 キュウコンは静かに息を吐き、高熱の熱風を放つ。
 熱風は広範囲に放たれ回避が難しい、かつ日照りで強化され、威力も高い。しかしそれを突破する術を、既にフィアは発見している。
「スプラッシュだ!」
 ヌマクローは全身に水流を纏って突貫、水は蒸発するが、熱風を突っ切ってキュウコンへと接近——しようとするが、

「キュウコン、神通力」

 キュウコンへと接近する途中で、神々しい念力を受け、ヌマクローの動きは止められてしまう。
 フィアはここで、ヌマクローは吹っ飛ばされるのだと思っていた。接近してくる相手は遠くに押しやるのがセオリーということを、フィアはもう知っているからだ。
 しかし、キュウコンはヌマクローの動きを止めたまま、動かさない。どころか、
「そのまま押さえつけろ」
 ヌマクローをうつ伏せに地面に這いつくばらせると、完全に体を固定してしまう。ヌマクローはなんとか脱出を試みるが、火傷で力が落ちており、上手く脱出できないでいる。
 ここでフィアは、アーロンの狙いに気付いた。
「火傷……!」
「そうだ」
 ヌマクローはキュウコンの鬼火を受け、火傷状態。だからヌマクローがあれだけ攻撃しても、キュウコンはまだ立っているのだ。
 そして火傷状態だと、時間の経過と共に体力が削られる。つまりアーロンの狙いとは、火傷でヌマクローの体力が尽きるまで、ヌマクローを束縛するつもりなのだ。
「炎は戦の象徴、即ち攻撃を意味する。だが、攻撃の形は、技を繰り出すだけではない」
 アーロンが告げるように静かに口を開く。するとキュウコンの神通力が解け、ヌマクローは解放された。
 しかしその時ヌマクローは、戦闘不能となっていた。



やって来ましたカゲロウジム戦、アーロンの一番手は日照りキュウコンです。技も和風っぽい技を選びました。ちなみにキュウコンが最後にヌマクローを倒した戦法は前作(正確には前々作)でも出ています。さて、文字数もギリギリなのであとがきはこの辺で。次回はカゲロウジム戦その二です。お楽しみに。