二次創作小説(紙ほか)

第45話 ジムバトルⅣ カゲロウジム2 ( No.128 )
日時: 2013/05/11 20:52
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 日差しが照りつけるカゲロウジム戦、アーロンの次鋒が駆ける——

 フィアは苦い顔をしながら、戦闘不能となったヌマクローをボールに戻す。そして少し悩み、次のボールを構えた。
「パチリス、頼んだよ」
 フィアの二番手はパチリスだ。
「パチリス、まずは帯電だ」
 パチリスはすぐには攻めず、パチパチと電気を帯びて攻撃能力を高める。
「キュウコン、鬼火」
 そんなパチリスに、キュウコンは九つの揺らめく火の玉を放つが、
「エレキボール!」
 鬼火は軌道が不規則だが弾速が遅い。パチリスは尻尾に集めた電撃の球体を投げ飛ばし、鬼火を突き破ってそのままキュウコンを攻撃する。
 すると鬼火は消え、キュウコンもドサッとその場に崩れ落ちた。
「……戻れ、キュウコン」
 アーロンは淡々と戦闘不能になったキュウコンを戻し、新たなボールを取り出す。
「行け、ウインディ」
 アーロンの二番手は、赤い体に黒い線が走り、薄橙色の体毛に覆われた犬のようなポケモン。

『Information
 ウインディ 伝説ポケモン
 強い正義感を持ち、悪さを
 するポケモンを退治する。
 書類などで誤表記が多い。』

「ウィンディ……ガーディの進化系か」
 フィアは以前、イオンが持つガーディに敗れたことがあるので、少しだけ表情が暗くなる。
「ウインディ、炎の牙」
 ウインディは鋭い牙に炎を灯し、地面を蹴ってパチリスへと突っ込む。
「躱してエレキボール!」
 パチリスは素早く横に移動してウインディの牙を回避し、雷球を飛ばして攻撃。帯電で威力も上がっているので、そこそこのダメージだ。
「もう一度エレキボール!」
 再び雷球を生成し、パチリスは尻尾を振るってウインディへと投げ飛ばす。
 ウインディは連続でエレキボールの直撃を受け、少し顔をしかめた。
「……中々の素早さだな」
 パチリスのエレキボールの威力を見て、アーロンは呟くように言う。
 エレキボールは素早さが高いほど威力の増す技。つまりパチリスのエレキボールの威力が高いということは、それだけパチリスが素早いということだ。
「ならばこれはどうだ。ウインディ、バークアウト」
 ウインディは低く唸ると、次の瞬間、けたたましい叫び声をあげてパチリスを吹っ飛ばした。
「うっ、これか……」
 フィアは露骨に顔をしかめた。
 バークアウトは攻撃と同時に特攻を下げる技。イオンのガーディに負けた時も、この技で敗れたようなものだ。
 幸いパチリスはそれほどダメージを受けていない。しかし今のバークアウトで特攻が下がり、帯電で上げた分が下がってしまった。
「バークアウト」
「パチリス、躱してエレキボールだ!」
 ウインディはパチリスに向かって駆け、咆哮のように叫んでパチリスを攻撃。
 パチリスはバークアウトを躱しきれなかったが、それでも尻尾に雷球は作り出し、尻尾を振るってウインディへと投げ飛ばす。だがウインディへのダメージは明らかに落ちている。
「だったらもう一度上げる。パチリス、帯電だ」
 パチリスは再び帯電して、攻撃と特攻を上げるが、
「上げられたならならば下げるまでだ。ウインディ、バークアウト」
 ウインディも叫び声を放ち、パチリスを攻撃。帯電で上昇した特攻はまたも下げられてしまう。
「燕返しだ」
 さらにウインディは高速でパチリスに接近し、鋭い爪で切り裂く。
「炎の牙」
「っ、躱して!」
 続けて牙に炎を灯して齧りつこうとするが、パチリスは地面を転がってそれを回避する。
「逃がさん。雷の牙」
 ウインディは牙に灯った炎を消すと、今度は電流を流し、地面に牙を突き立てる。すると電気が衝撃波のように地面を伝ってパチリスに襲い掛かった。
 しかし、
「む……」
 ここで初めて、アーロンは驚いたような顔をする。いや、表情は読めないので、驚いたような声を上げる、が正しいか。
 アーロンが驚く理由はパチリスだ。地面を伝って衝撃波のように放たれた電撃を喰らっても、パチリスはまったく動じない。どころかむしろ元気になっている。
「蓄電か……パチリスでその特性は、稀有だな」
 アーロンの言うように、このパチリスの特性は蓄電。電気タイプの技を無効にし、そのまま自分の力に変えて体力を回復する特性だ。
「やった……パチリス、帯電だ」
 偶然だが体力が回復できたのはパチリスにとってはプラスだ。ここでさらに帯電し、攻撃能力を高めるが、
「バークアウトだ」
 そこはアーロン、抜け目なくバークアウトが放たれ、パチリスの特攻はまたも下げられる。
「でも、バークアウトは特攻は下げられても、攻撃は下げられない。今度は物理技で攻めるよ、パチリス」
 パチリスは両頬をパチパチと弾けさせ、ジャンプする。
「種爆弾だ!」
 そして空中から多量の種子をばら撒き、ウインディを爆撃する。効果はいまひとつだが、パチリスの攻撃は三倍以上になっているので、それなりのダメージは見込める。
「噛みつく!」
 パチリスはそのまま落下し、ウインディの背に乗ると、鋭い前歯をウインディに突き立てた。種爆弾と違って等倍なので、ダメージは大きいのだが、

 直後、ウインディが大きく吠えた。

「っ!? なに……!?」
 ウインディはそのまま体を揺らしてパチリスを振り落す。その目はギラギラと光っており、獰猛だが正義感に満ちている。
 アーロンが何かを言う気配はないので、フィアは自分でターミナルを開き、急いで検索をかける。
「正義の心……」
 フィアが見つけたのは、ウインディの特性、正義の心だ。
 この特性は蓄電のように、あるタイプの攻撃を受けると発動する特性だ。蓄電は電気技だが、正義の心は悪技を受けると発動する。
 蓄電との違いは、受けた技を無効化しないこと。そして、技を受けても体力は回復せず、代わりに攻撃力が上がることだ。
「要するに、悪技を受けるたびに攻撃力が上がるってことか……」
 それはフィアにとってはあまり良いことではなかった。
 帯電で攻撃が上がっているとはいえ、種爆弾はウインディに効果いまひとつ。決定打にはなりにくい。なので噛みつくを主軸にして攻めようとフィアは思っていたのだが、ウインディにこのような特性があるなら噛みつくでも攻撃しづらい。かといってエレキボールはバークアウトで威力が落ちる。
 つまり、パチリスの攻撃は全て、ウインディに出し難くなってしまったのだ。
「だなら、一回の攻撃力を上げれば……パチリス、帯電」
「バークアウト」
 パチリスは帯電しようとするが、今度は帯電する前に咆哮が放たれ、帯電は中断、パチリスも吹っ飛ばされる。
「燕返しだ」
 続けてパチリスに急接近し、鋭い爪で切り裂く。攻撃力が上がっているので、効果いまひとつでもある程度のダメージは通る。
「炎の牙」
 さらにウインディは、パチリスに炎を灯した牙を剥く。
「うぅ……パチリス、種爆弾!」
 流石に炎の牙はまずいと思ったのか、パチリスはすぐさま種子を投げつけて炸裂させ、ウインディを怯ませて距離を取る。
「エレキボール!」
 パチリスは尻尾に生成した雷球を飛ばしてウインディを攻撃するが、バークアウトで威力が落ちており、ダメージは微々たるもの。もう特殊攻撃は通用しないと見た方が良さそうだ。
「種爆弾も期待薄だし……こうなったら一か八か。パチリス、噛みつく!」
 ここでフィアは勝負に出る。パチリスも前歯を剥き出し、ウインディへと駆け寄って齧りつこうとする。
 噛みつくならウインディにも大きなダメージが期待できる。しかし何度も噛みついていたらウインディの攻撃力がどんどん上がり、やがて手がつけられなくなってしまう。その前に仕留めるのがベストだが、相手はアーロンだ。そう上手くは行かないだろうとフィアは考えていた。
 だがその考えは杞憂に終わるのだった。

 凄まじい勢いでパチリスの前歯がウインディに突き刺さり、ウインディは雄叫びではない絶叫を上げた。

「……!」
 ここでまた、アーロンの表情が驚きに変わる。今度は確実に表情が変わった。
 ウインディはパチリスの噛みつくを受けたはずだが、それにしてはダメージが大きい。それに正義の心も発動していない。
 となれば答えは一つ、パチリスが噛みつくでない技を使ったのだ。
「……必殺前歯か」
 アーロンは呟く。フィアも図鑑を開き、パチリスの技が噛みつくから必殺前歯に変更していることを確認した。
「必殺前歯を覚えたんだ……凄いよ、パチリス!」
 フィアがパチリスを称賛すると、パチリスはしたり顔とウィンクで返した。
「必殺前歯はノーマル技、これなら正義の心も発動しないし、威力も高い。決めるよパチリス、必殺前歯!」
「迎え撃つぞ。ウインディ、炎の牙」
 パチリスとウインディはそれぞれ前歯と牙を剥き、駆け出す。
 そして互いに交錯し、背中合わせになると停止した。
「パチリス……」
「…………」
 静寂の時間がしばらく流れる。そして——

 ドサッ

 ——ウインディが、倒れた。



カゲロウジム戦その二です。アーロンの二番手はウインディですが、図鑑説明は完全にネタです。というか白黒も半年くらい前まで『ウィンディ』だと思っていました。小説内でも誤字があるかもしれないです。さて、パチリスが必殺前歯を習得してウインディを下し、次回のカゲロウジム戦その三に移ります。お楽しみに。