二次創作小説(紙ほか)

第47話 ジムバトルⅣ カゲロウジム4 ( No.130 )
日時: 2013/05/12 17:42
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: 佳境に入るカゲロウジム戦、フィアの最後のポケモンは——

「さあ行くぞ、オオイナリ」
 アーロンの最後のポケモンは、キュウコンと同じ狐の姿をしているが、体は白く、尻尾や目元、そして首から下がっている護符のようなものは赤く染まっている。

『Information
 オオイナリ 狐ポケモン
 オオイナリが鳴くと幸せが
 訪れる。しかし誰のところ
 に訪れるのかは分からない。』

 オオイナリ。炎とエスパータイプのポケモンだ。
「うぅ……」
 炎とエスパーというのは、ブースターにとって非常に不利な組み合わせだ。なぜなら、ブースターの覚えている技はこの二つのタイプで全て半減されてしまう。
 しかもオオイナリの特性が貰い火である可能性もある。だとすれば炎技が無効化され、本格的にダメージを与える手段がなくなってしまうのだ。
「来ないのならこちらから行くぞ。オオイナリ、火炎放射」
 戸惑い焦るフィアとブースターに、オオイナリは容赦なく日照りで強化された炎を噴射する。
「っ、火炎放射!」
 ブースターも咄嗟に火炎放射を放ち、オオイナリの炎を相殺しようとするが、特攻の火力ではオオイナリの方が高いようで、ブースターの火炎放射は突っ切られてしまった。
「神通力」
 さらにオオイナリは、神々しい念力を発してブースターを持ち上げ、そのまま地面に叩きつける。
「くっ……ブースター、アイアンテール!」
 ブースターは起き上がると、跳躍して前方回転しながら鋼鉄のように硬化させた尻尾をオオイナリの脳天へと振り下ろす。
「オオイナリ、ソーラービームだ」
 だがオオイナリに鋼技は効果いまひとつ。怯むことすらない。
 オオイナリは全身に太陽の光を浴びて吸収し、それを凝縮して口腔から一本の光線を発射する。
「ブースター!」
 至近距離からソーラービームの直撃を受け、ブースターは大きく吹っ飛ばされて壁に叩き付けられる。
 ソーラービームは高威力だが攻撃する前に溜めが必要な技。しかし今のような日差しが強い状態なら、その溜めも必要ない。というより、瞬時に溜めることが可能だ。
「まだだ。神通力」
「く、う……火炎放射!」
 オオイナリが発する神通力を、ブースターの火炎放射が相殺するが、
「ソーラービーム」
 直後、太陽光を凝縮した光線が発射され、再びブースターを壁に叩き付ける。
「もう一度ソーラービームだ」
 間髪入れずにオオイナリはソーラービームを発射。日照りで攻撃の隙が少なくなり、弾速が速く、威力が高いソーラービームは驚異的だ。この攻撃を相殺することはブースターには不可能だろう。
「ブースター、火炎放射!」
 それでもブースターは炎を噴射し、光線の勢いを削ぐ。焼け石に水をかけるようなものだが、それでも少しはダメージを抑えられる。
「ブースター、アイアンテールだ!」
 ブースターは地面を蹴って勢いよく飛び出し、鋼のように硬化させた尻尾を勢いよく振るってオオイナリに叩き付ける。
「起死回生!」
 さらにブースターは、素早く切り返して尻尾をもう一度薙ぎ払い、オオイナリを追撃。ほぼ最高火力に達した起死回生は、効果いまひとつでもかなりのダメージを負わせることができるだろう。
「ブースター、起死回生!」
 再びブースターは尻尾を薙ぎ、続けてオオイナリを攻撃しようとする。しかし、
「オオイナリ、神通力」
 オオイナリの神通力で止まられてしまった。
 ブースターはそのまま地面に這いつくばらせられ、動きを拘束される。
「しまった……ブースター!」
 ブースターは必死に起き上がろうとするが、体力が限界に達しているブースターではその拘束を自力で解くことは出来ない。
「決めるぞ、オオイナリ」
 オオイナリは高い声で鳴くと、全身で太陽の光を浴び、体を薄く発光させる。
 そして、

「ソーラービーム」

 次の瞬間、這いつくばっているブースターにオオイナリのソーラービームが直撃する。至近距離から地面に押し付けるようにして放たれるソーラービームは、ブースターに吹っ飛ぶということすら禁じ、継続的に光線を浴びせ続ける。
「ブースター……!」
 実際以上に長い時間が流れ、やがてソーラービームは収まる。そしてその光線の標的となったブースターはぐったりと地面に伏せており、見るまでもなく戦闘不能だった。
「…………」
 声も出せないフィア。震える手でブースターをボールに戻す。
 これでフィアの手持ちは三体が失われた。使用ポケモンは残り一体、その一体をフィアは持っていないわけではない。
 ない、のだが、
「……ダンバル」
 ゆっくりと最後のボールを手に取り、フィアは目を閉じて思い返した。
 このダンバルを、戦わせないと決めた時のことを。



 それはシュンセイシティに、フィアとフロルが到着した時だ。あの時は最初にフロルがジム戦をし、フィアはその間、ポケモンセンターの地下でイオンとバトルをしていた。
 だがそのバトルの前に、フィアはジョーイさんと話をしていたのだ。それも与太話などではなく、もっと深刻な話を。
 フィアはこの世界に来る前、彼女からイーブイを譲り受けた。この世界に来てから、博士にミズゴロウを託された。ライカシティでは、パチリスを迎え入れた。
 だがこれより以前、フィアが前の世界から離れ、この世界を知覚する前に訪れた場所がある。それが、ダイケンキやデンチュラのトレーナーである青年と出会った、暗闇の遺跡だ。
 あの遺跡で青年の協力の下、初めて捕獲したポケモンが、ダンバルである。言ってしまえば、フィアが初めて自分で捕まえたポケモンだ。
 そのダンバルを、今までフィアがバトルに出さなかった——手持ちポケモンの数を偽ってまで戦わせなかったのには、当然ながら確固とした理由がある。
「やっぱり……外傷はないけど、脳神経が傷ついているわね。普通に動くだけなら問題はないと思うけど、あまり激しいことはさせない方がいいかもしれないわ」
 シュンセイシティでジョーイさんの告げられたのは、そんな言葉だ。
 遺跡で青年と離ればなれになる前、フィアたちは多数のポケモンに襲われた。その時、フィアの些細なミスでダンバルは大きなダメージを受けてしまった。いわばその後遺症が残っているのだ。
 激しいこと——つまりバトルはさせない方がいいという言葉がなくとも、フィアは自責の念から、ダンバルをバトルに出すつもりはなかった。そしてはいけないと思ったし、そうしたくないと思った。
 だからフィアは、これからもずっと、ダンバルをバトルに出すことをしないと決意したのだ——



(そうだ。あの時ダンバルは、僕のせいで傷ついたんだ……だからこれ以上、傷つけさせることはできない)
 ゆっくりと目を開き、フィアは手にしたボールを下ろした。
「……アーロンさん」
 そして、呼びかけるように、アーロンに告げようとする。
「この勝負、僕の——」
 ——僕の負けです、と言おうとしたところで、フィアの手の中で、何かが開いた。
「っ!?」
 何かなんて、言うまでもない。フィアが今手にしているのモンスターボールだ。それが開いたということはつまり、中のポケモンが勝手に出て来たということ。そして、そのポケモンとは、
「ダ……ダンバル!?」
 だった。
「な、何で出て来たの——って痛っ!」
 ダンバルはフィアの正面まで浮かび上がると、一つ目の頭でフィアの額に頭突きをする。ダンバルの頭は鋼鉄なので、頭蓋骨が粉砕する恐れのある、洒落にならない攻撃だ。
 フィアは額を押さえながら、ダンバルを見据える。
「ダンバル……ダメだよ、君はバトルをしちゃいけないし、僕は君をバトルに出したくない——ってだから痛い!」
 フィアの言葉を否定するように、ダンバルは怒った瞳でフィアを睨み、頭突きする。
 その時だった。
「戦わせればいいさ」
「え……?」
 不意に、アーロンが口を挟んだ。
「そいつが戦うことを望むのなら、戦わせればいい」
「で、でも……」
 フィアの意志を抜きにしても、ダンバルは戦うことを許されていない。厳禁ではないが、ダンバルは戦うべきではないのだ。
「お前はそのダンバルを思って戦いを止めるのだろうが、それがそいつやお前の糧になるか」
「……?」
「仲間とは、守ったり助けたり、救ったりするものばかりではない。時として見捨て、見放し、無謀な戦いにも送り出す。それが当人の意志を尊重するものならな」
「ダンバルの、意志……?」
 ダンバルは今まで戦ってこなかったが、それでもボールの中からブースターやヌマクロー、パチリスのバトルを見ていた。
 もしかしたらダンバルも、戦いたいと思っていたのかもしれない。
「俺は最初に言ったぞ、全力で来いと。お前自身まだダンバルという余力を残している。そしてそのダンバルは、戦いを望んでいる……あとはお前次第だ、フィア」
 アーロンに促され、フィアはダンバルに視線を移す。しばし互いに見つめ合い、そして、
「そうだね……そうだったね、ダンバル。今まで君と一緒に戦ったことはなかったけど、それでも他の皆と同じで、君が僕のポケモンであることは、変わりないんだよね」
 フィアは一度目を閉じ、開く。ダンバルを強く見つめて。
「ダンバル、君の力が必要だ……僕と一緒に、戦って欲しい」
 フィアの、今の本心からの言葉がダンバルに届く——

 ——そして、ダンバルが光り輝いた。

「ダンバル……これって」
「……進化か」
 光の中で、ダンバルはその身を変化させていく。
 円盤状の青いボディ、そこから伸びる両腕と爪はダンバルの姿を連想させる。

『Information
 メタング 鉄爪ポケモン
 磁力で宙に浮かんでいる。進化して
 ジェット機と衝突しても傷つかない体
 と鉄板を引き裂く鋭い爪を手に入れた。』

「ダンバルが、進化した……メタング!」
 フィアの声に、メタングも黙って返す。その鋼鉄の体からは、溢れる力が感じられる。
「……それが、お前の全力か」
「はい」
「そうか……ならば委細なし。本気でかかってこい」
「はい!」
 アーロンに力強く言葉を返すフィア。そしてフィアはメタングを一瞥し、口を開いた。
「やろう、メタング。僕と君の力で、オオイナリを——アーロンさんを倒すんだ!」
 その言葉にメタングは、拳を構え、オオイナリと相対し——応えた。



ふぅ……遂にここまで来てしまいました、カゲロウジム戦その四です。この辺までは前作の更新が止まっている間に白黒が考えていたところですね。逆に言えばこの先はつい最近考えていたところで、まだ設定や構成が固まりきっておりません。ほぼノープランです。それはともかく、随分前に登場したダンバルが今になってやっと出て来ました。というか今までダンバルが出て来なかったことに対して疑問を覚えていた方々の謎が解けたのではないでしょうか。さてさて、では次回、カゲロウジム戦決着です。初陣で進化してアーロンのエースと直接対決。メタングはオオイナリに勝てるのか、次回をお楽しみに。