二次創作小説(紙ほか)

第49話 seven-pointed star ( No.133 )
日時: 2013/05/12 22:51
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: そろそろ今までの伏線を回収しないと……まあまた張りますが。

 アーロンとのバトルを終えたフィアとイオンは、揃ってカゲロウジムを後にする——が、その時。
 またしても、懐かしい顔ぶれと出会った。
「フロル、ルゥ先輩……!」
 それは、サミダレタウンで別れた、フロルとルゥナの二人だ。
「フィア、久しぶりだね」
 久しぶりと言っても、ほんの数週間程度だが、その数週間で色々なことを経験したフィアからしても、確かに久しぶりという感はある。
「フィア君もジム戦? どうだった?」
「なんとか、勝てました……辛勝ですけど」
 と遠慮がちに言うと、フロルが、
「凄いね。わたしなんて、これで七回目の挑戦だよ」
 と、サラッと物凄いことを言う。
「ななっ……え、そんなに挑戦してるの!?」
 普通、六回も挑んで負け続ければ、諦めて別のジムに移るはずだ。というか勝てる見込みが出て来るまで特訓するのが普通なので、そんなに挑戦する方がおかしい。
 よく言えば素直だが、悪く言えば馬鹿正直なフロルだった。
「あれ? でもフロルが挑戦するんだったら、ルゥさんはどうすんの?」
 いつの間にかルゥナと親しげになっているイオンはそう問う。
 確かにフィアからしても、フロルとルゥナが、なぜ一緒に行動しているのかは疑問だった。
「ルゥちゃんせんぱいは、特訓に付き合ってくれてたんだよ、今まで」
「ルゥちゃんせんぱいって……」
 そんな呼び方してたのか、とフィアは内心思った。
 同時に、六回も挑戦して負け続けているフロルが、七回目のチャレンジでアーロンに勝てるのかと疑念を抱いたりもしたが、
「大丈夫だよフィア君。今回はとっておきの秘策もあるからさっ」
「秘策……?」
 むしろそれはもっと早い段階で使うべきだったのではとも思うが、口には出さない。
「まあ、何でもいいけど……頑張ってね、フロル」
「うん、今度こそ勝つよ」
 フロルを激励し、フィアとイオンは、今度こそカゲロウジムを後にした。



 それから一時間ほど経過し、ポケモンセンターの中に少女二人組が飛び込んできた。
「フィアっ! 勝ったよ!」
 フロルの満面の笑みで発せられる第一声はそれだった。
「おめでとう、フロル」
「やったじゃん」
 フィアとイオンも称賛し、フロルははにかむ。
「そういえば、ルゥ先輩はここのジムバッジ、ゲットしたんですか?」
「うん、したよ。と言っても、私がゲットしたのはサミダレタウンの大会より前だったけど」
 ちなみに今のバッジは四つね、とルゥナは付け足して言う。現在はフィアやイオンと同数らしい。
「さーて、じゃー折角みんな集まったし、全員で行かない?」
「? どこに?」
 イオンが人差し指を立てて、したり顔で言うが、フィアには何のことだが分からない。だがイオンは得意げに続ける。
「この日この街で行くとこといったら決まってるじゃん。祭り祭り、カゲロウ山のお祭りさ」
「祭り……」
 そういえば街の案内にもそんなことが載っていた。それにフィアのバトルを観戦する時、イオンがそんなことを言っていた気もする。
(祭りって、どんなものかな……僕のいた世界みたいな祭りなのかな)
 イオンの口振りからすると参加は自由っぽいので、期待に胸を膨らませるフィア。
 その時、不意に重い声が響く。
「その祭りのことだがな」
「うわぁ!?」
 驚いて振り返ると、そこには真っ赤な着物を着崩した男、カゲロウシティのジムリーダー、アーロンが立っていた。
「ア、アーロンさん……いつの間に……!?」
「わたしたちと一緒に来たよ? 気づかなかった?」
 全然気付かなかった。
「お前たちに頼みがある」
「た、頼み……? 何ですか?」
「カゲロウ山の祭りでは、毎年志願者を募ってバトル大会を開いている。だが今年は集まりが悪い、お前たちも参加しろ」
 頼みというわりには、命令口調だった。性分だろうか。
「案ずるな。お前たちほどの実力なら優勝も不可能ではない。それに、強い者が参加すれば、祭りも盛り上がる」
 つまりアーロンは、人数の足りない大会の数合わせに加え、実力者を入れることで大会を、ひいては祭りそのものを盛り上げて町興しを考えているのだろう。これはジムリーダーというより、カゲロウシティの市長としてのお願いのようだ。
「僕は……構いませんけど」
「オレも。大会ってことは、賞品とかもあるんでしょ?」
「わ、わたしも出たい……!」
「データ集まるかもだし、新しいことも試したいし……いい機会だから私も出るよ」
 ということで、フィア、イオン、フロル、ルゥナ。以上四名の出場が決定した。
「承知した。参加登録は俺の方で済ませておく。お前たちは……そうだな。祭りまでまだ少し時間もある。この街の温泉でも入って、汗を流すといい。手前味噌だが、この街の温泉はホッポウ一だ。浴衣の貸し出しもしている」
「温泉……」
 その言葉に、どことなく親近感を覚えるフィア。別段、フィアは温泉に強い思い入れや縁があるわけではないが、彼の世界の文化に広く浸透しているそれがこの世界にもあると知ると、思わず高揚してしまう。
(温泉か……中学の修学旅行以来かな……)
 ふとフロルの方を見ると、ルゥナと一緒になってキャッキャと喜んでいる。彼女たちも温泉が楽しみのようだ。
「……そういえば、一つ言い忘れていたが」
「? 何ですか?」
 祭りの準備があるらしく、立ち去ろうとしたアーロンは、足を止めて呟くように言った。
 ある意味、この上なく重大なことを。
「この時間、この街の温泉はすべて混浴だ」
「え……!?」
「それだけだ。じゃあな」
 アーロンに何を言っても無意味だが、この時フィアは立ち去るアーロンに非情さを感じた。
「フィア、早く行こうよっ」
「え、あ、いや……」
 フィアの服の袖を引っ張るフロル。もしかしたら今のアーロンの言葉を聞いていなかったのかもしれない。いや、フロルなら聞いた上で言っている可能性もなくはないが。
「えーっと、その……僕はいいよ……」
「オレも。広い風呂って落ち着かないんだよねー」
 仲間が増えた。とフィアは内心イオンを絶賛する。彼の場合、本心なのかアーロンの言葉を受けてなのかは分からないが。
「えー……わかったよ。じゃあルゥちゃんせんぱいと行ってくる」
「一時間後、カゲロウ山のふもとに集合、でいいかな?」
「はい……気をつけて……」
 少しがっかりしたフロルを見ると罪悪感が湧かないでもないが、混浴となればフィアも好き好んで入りたくはない。
 密かに楽しみにしていた温泉だったが、フィアもフィアで仕方なく、部屋に備え付けられているシャワーを浴びることとなった。



「はぁ……温泉、結構楽しみだったんだけどな……」
 ポケモンセンター宿舎に備え付けられているシャワー室で、フィアは一人ごちる。今更そんなことを言ってもどうにもならないというのに。
「まあ、別に温泉に入れるのは今日だけじゃないし、また今度、機会がある時でいいかな……」
 と言いつつ、ノズルを回してお湯を出し、それを頭からかぶる。
(そう言えば、結局まだ元の世界に帰る方法は見つからないな……)
 ライカシティで青年のポケモンであるデンチュラを見つけたが、あの時に得た情報だけでは何も解決しない。まだ謎は深いままだ。
(部長だってどこにいるのか分からないし。というかあの人はこの世界にいるの? いやそれ以前に生きて——)
 そこで一旦、フィアは思考を止めた。このまま行くと、どんどん深みにはまってしまいそうだったため、一度思考停止する。
 ノズルを閉めてシャワーを止め、目を開く。
「ん……? なんだろ、これ……」
 すると、フィアの視界にあるものが映る。
 それはフィアの腹——ではあるのだが、厳密には違う。厳密というか、正確に言えば彼の腹に異常なものがあるのだ。
 異状というと悪いように取られてしまうが、実際はなんてことのないもの。痣だ。
 だが普通の痣にしては、少し奇妙だった。
「赤い、のはいいけど、星……? なんだっけこれ、いち、に、さん……七つだから、七芒星?」
 簡単に言えば、五角形の辺を延長して出来た星型の図形が五芒星。六角形なら六芒星。フィアの腹にあるのが、七角形の辺を延長した星型の図形、七芒星である。五芒星や六芒星はメジャーだが、七芒星となるとなぜかマイナーなため、フィアも思い出すのに時間がかかった。
 とにかく、フィアの腹——へそよりも少し下の位置に、赤い七芒星の痣があるのだ。
「いつの間にこんなの出来たんだろ、不気味だな……ていうかこんなに綺麗に痣ってつくものなの?」
 などと疑問を覚えるフィアだったが、不意に顔を上げると時計の針がかなり進んでいる。
「そろそろ出ないと、時間、間に合わないな……」
 フィアはシャワー室から出ると、少し急いで着替え、持ち物をチェックしてから集合場所のカゲロウ山へと駆けだした。



 カゲロウ山のバトルフィールドで、設営の最終調整を進めるアーロンは、あることを考えていた。
(フィア……バトルの筋は悪くないが、どこか別世界のような匂いを感じるトレーナーだったな)
 それに、と胸中で続け、
(奴のメタング、いやダンバル。あのダンバルは、元々かなりの実力があったようだが、バトルの経験はほぼ皆無、ないように見えた。奴の口ぶりからしても、戦わせたことはなかったのだろう。だが、あの局面で進化した)
 ポケモンの進化の形態は様々だ。イーブイのように道具を使用するものもあれば、他人と交換したり、時間に関係する種もいる。
 中でも一般的なのは、戦いの経験を積むこと。これで進化するポケモンが大半を占め、ダンバルもそれに該当する。
(なんの経験もなしでいきなり進化……奴のダンバルに対する思いが奇跡を起こした、などと言えば絵本の世界なら綺麗に収まりがつくが、生憎この世界は現実だ)
 現実では、そんな簡単には済ませられない。
(フィア……奴には、何かあるな……)



今回はバトルのない回……というかどこのラノベだよ、みたいな展開になってしまった感があります。いや、これが悪いとは思ってないですけど、なんかしっくりこないです。それはともかく、この辺りから物語は急展開……とは行かないまでも、結構物語の深いところに潜っていく予定です。フィアの体の痣や、アーロンの思考からもそれは読み取れると思います。さて、それでは次回、お祭りです。次回こそ新キャラ出したいですが、こればっかりは文字数次第なので分からないです。では次回もお楽しみに。