二次創作小説(紙ほか)
- 第50話 festival ( No.134 )
- 日時: 2013/05/14 17:57
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
- プロフ: 白黒は最初サイコソーダはエスパータイプに効果があると思っていました。
各人温泉なりシャワーなりで汗を流しを終え、四人は時間通りにカゲロウ山のふもとへと集合した。
「した……のはいいんだけど、全員服はそのままなんだね」
イオン、フロル、ルゥナの三人を見ながらフィアが言うと、
「浴衣ってあれじゃん、なんかスースーするじゃん。あれって苦手なんだよね」
「いつもの格好の方が動きやすいし、バトルするならなおさらね」
というのがイオンとルゥナの弁。
「こっちの方がかっこいい」
そしてこれがフロルの弁。
「……まあフロルがそれでいいならいいけど……」
イオンとルゥナはともかく、やはりフロルの意見というか、感覚には同意しかねるフィア。キャミソールにトグルがすべて外れるほどボロボロになったダッフルコートの組み合わせのどこが格好良いのか。
(相変わらずセンスが飛んでるなぁ、フロルは……)
イオンとルゥナは、否定的な意見こそ出さないが、首を傾げていた。この二人もフィアからすればそれなりに奇妙な出で立ちなのだが、やはりフロルのセンスは到底理解できるものではないようだ。
「まあとにかく、登ろうか」
もう祭りも始まっている時間である。
フィアを先頭にして、四人はカゲロウ山の頂上へと続く石段を登っていく。
「わぁ……人多いね……」
「こんなに大がかりな祭りなんだ……」
階段を登り終え、山頂に着くや否や、フロルとフィアが発した第一声はそれだった。
だが確かに人は多い。非常に混雑していた。
石畳の通路の両端にはそれぞれテントを張って作った屋台があり、それがずっと奥にまで続いている。食べ物の屋台が多いのか、至る所から甘い匂いやら醤油の匂いやら焦げた匂いやらが漂ってくる。
「僕らは自然と一ヶ所に集まったけど、どうも山頂に行く階段は一つじゃないみたいだね。横の森林を抜ければ他の通路に出て、そっちにも屋台があるみたいだよ」
今更ながら、フィアはターミナルで祭りについて調べている。同時にこの祭りが本当に大規模であることも知る。
「うーん……それじゃあ、この人数で移動しても動きにくいし、誰かはぐれちゃいそうだし、なにより目的地はみんな一緒だし、大会が始まるまでは自由行動にしよっか」
と、ルゥナが提案する。外見こそフロルとそう変わらないほど幼いが、これでも一応、この四人の中では年長者。しっかりしたところもあるようだ。
その提案に異を唱える者もおらず、バトル大会が開催されるまでの一時間ほどは、各人自由に屋台を見て回ることとなった。
「それじゃあフロルちゃん、行こっか。こっちは混んでるから、あっちに行こう」
「うん」
「じゃーねー、フィア君。オレはあっちの方に行ってみるよ」
と言って、ルゥナとフロルは右の森林、イオンは左の森林へと走っていった。
「……それじゃ、僕も行こうかな」
と一人呟き、フィアも目の前へと歩を進める。
どうやら人が込み合っていたのは階段を登ってすぐの辺りのようで、少し歩くと混雑具合も大分落ち着いてきた。とはいえ、それでも十分人は多いが。
「屋台は和風というか……意外と普通だなぁ」
この場合の普通とは、フィアの知る世界でよくあるという意味である。
(もっとこの世界ならではのものが売ってたりとか、凄い独特なゲームがあったりとか思ってたけど、僕のいた世界とあんまり変わらないな)
右を見ればイッシュ地方特産ヒウンアイス。左を見れば手作り森のヨウカン。前を眺めればテッポウオ射的。後ろを振り返ればカラーアチャモ……この世界の文化が混じっては入るが、それでもフィアがいた世界にあるものとほとんど同じであった。
「意外というかなんというか、変な所で肩透かしを食らうというか……ん?」
とその時、フィアは足元に違和感を感じた。というか、何かを踏みつけた。
「なんだろこれ? 財布、かな?」
拾い上げて確認すると、確かにこれはがま口の財布のようだ。口を開けて中身を確認すれば、中にはジャラジャラと小銭が入っている。意外と多い。
「誰かが落としたのかな。どうしよう、こういうのって事務局みたいなところに預けるべきなのかな。でもそんなのどこに……あ、アーロンさんに渡せば——」
などと若干無責任気味なことを言いかけたところで、フィアの耳に声が届く。聞こうとして耳に入れたのではなく、偶然耳に入って来ただけの声。人々がごった返す中の喧騒に紛れて、ある意味奇跡的にフィアが聞き取れた、少女の声だ。
「ねーねー、おじさん。いいでしょー? 後でちゃんと払うからさ」
「いや、でもなぁ……一応、こっちも商売なんだ」
「そんな堅いこと言わずにー。せっかくのお祭りなんだし、ちょっとくらいさ」
「そう言われても、嬢ちゃんが絶対に戻ってくる保証もないしなぁ……」
どうやら屋台の主と言い争っているようだ。言い争っているというより、少女がツケにしてくれと頼んでいる様子だ。
「というか嬢ちゃん、こういう時はちゃんとお金を持ってくるものなんだよ。分かってるかい?」
「分かってるよ。でもしょうがないじゃん、お財布落としちゃったんだもん。さっきまではあったはずなんだけどなー……だからさ、ね?」
身を乗り出して少女は一本のビンを店主に向ける。テントを見れば、どうやら飲み物を売っている屋台のようで、少女が持っているのはサイコソーダというらしい。
とそこで、フィアは手にした財布を見てその光景と結びつける。
そして、人込みを掻き分けながら少女のところへと歩いていき、
「あの……もしかして落とした財布って、これかな?」
「それにしても助かったよー。おにーさん、ありがと」
「いや……でも良かったよ、落とし主がすぐに見つかって」
内心、面倒なことがすぐに解決してホッとしているのだが、そんなことはおくびにも出さない。
結局、フィアが拾った財布はこの少女のものだったようだ。
ピンク色の髪を右側で結んでサイドテールにした少女。年齢は、外見だけで見ればフロルと同じくらいに見える。だが背丈はフロルやルゥナと同じが、下手したらそれ以上に低い。
しかし華奢なフロルやルゥナと違って、この少女は小柄な体躯や幼さに反して肉感的な体つきをしている。恰好が浴衣だからか、それがよく分かってしまう。
「そういえばおにーさんの名前まだ聞いてなかったね。なんていうの?」
「僕? 僕はフィア……その、まあ、トレーナーだよ」
名前と一緒に自分の社会的立場などを言うのはこの世界でも一般常識のようなので、とりあえずそう答える。決して間違ってはいない。
「へー、フィア君かー。あたしはアスモ、よろしくね」
と言って、アスモはウィンクしてきた。その仕草自体は整った顔立ちも相まって非常に可愛らしいのだが、このアクティブな感じはフィアが苦手とするものだった。
(こっち来てからはかなりマシになったけど、やっぱり女の子って苦手なんだよな……特にこういう子は)
別にアスモが悪いわけではないのだが、フィアはそう思ってしまう。軽い女性恐怖症のようなものだ。この年頃の男子なら、いないことはないだろう。
「ところで、おにーさんは一人でお祭り来たの? 彼女さんは?」
「彼女って、いないよ……今日は友達二人に、先輩と来てるんだ。今は別行動なんだけど……そういうアスモちゃんは? 友達とかと一緒じゃないの?」
「あたし? あたしはね——」
とアスモが言おうとしたところで、その言葉は遮られた。
「お嬢、見つけたぞ」
前方から声がかかる。女の声だ。
顔を上げると、やはりそこに立っていたのは女だった。年齢は成人しているかどうかくらい、背中くらいまでの灰色の髪に、黒いロングパーカーと紺色のジーンズという出で立ち。フィアが言えたことではないが、あまり祭りの雰囲気とマッチしていない。
「あ、ルーメさん」
「お嬢、あまりあたしから離れるな。もしあんたの身に何かあったら……」
「大丈夫だよ。ほら、ピンピンしてるでしょ?」
「今はな……で、お嬢。こいつは誰だ?」
ルーメと呼ばれた女はフィアに視線を向ける。口調が口調だからか、妙に威圧感がある。
「あ、その、僕は……」
「フィアくんだよ。さっきあたしのお財布拾ってくれたの」
戸惑っているフィアの代わりに応えたのは、アスモだった。ついでに出会った経緯も交え、ルーメの視線も少し和らいだ。
「そうか。あたしはルーメだ。お嬢が世話になった」
「いえ、いいんですけど……お嬢って?」
と何気なく気になったことをフィアが聞くと、ルーメは、
「仕事でな。あたしは用心棒……みたいなものだ。と言っても今回は用心棒っていうよりボディーガードみたいなものだが。これ以上は依頼人の個人情報に関わるから言えん」
と答えた。いや、フィアの疑問にはまったく答えていないのだが。
するとアスモが、また横槍を入れる。
「別に言ってもいいよ。おにーさんにはお財布拾ってもらった恩があるし」
「……お嬢はある富豪の娘だ。それゆえに狙われることもあるらしい。だから今回の祭りに参加するにあたって、あたしが護衛をしてるってわけだ。お嬢と呼んでいる理由は……まあ、本人の希望だがな」
「そーゆー風に呼ばれたことってないからさー。呼んでみてほしかったりしたんだよね」
「はぁ、そうなんですか」
なにやらフィアには実感できない話だったので、曖昧に頷いておく。
「そういえば、おにーさん」
「ん? なに?」
「おにーさんはあれ出るの? ほら、この祭りのビックイベントの——」
「ポケモンバトルの大会だな。なんでも今年は、ジムリーダーを破った四人が出場するとかで、かなり賑わっているらしい」
「…………」
その四人の中に自分が含まれているのが分かるフィアとしては、妙な気分になる。持ち上げられてうれしいような、騒がれて気まずいような。
「で、どうなの? おにーさん?」
「……一応、出るよ」
ここで無闇に騒がれたくはないので、フィアは出場の旨だけを伝えた。
「じゃあ、あたしおにーさん応援しよ。頑張ってね」
「う、うん。ありがとう」
またウィンクされた。こういう積極的な少女は対応に困る、とフィアは胸中で嘆く。
「出場するのは結構なことだが、もうそろそろ時間じゃないのか?」
「えっ?」
ルーメに言われ、フィアは慌ててターミナルで時間を見る。大会が始まるまで、残り五分くらいしかない。
「やばっ、早く行かないと……!」
フィアは軽くアスモとルーメに別れを告げると、人込みを掻き分け、急いで通路を進んでいく。
「……バトル、楽しみにしてるね。フィア君」
ぼそりと、アスモは呟いた。
そしてその呟きは、祭りの喧騒に飲まれて消えていく。
テスト期間に部活あるなんて聞いてない……まあただのメンバー決めでしたが。なにはともあれ更新です。正直ハイペースかなと思ったりしますが、もし全国行きが決まればこの夏はほぼ更新できないと思うので、今のうちに行けるところまで行きます。XYが発売されたら今度はそっちに傾いちゃいますしね。そういうわけで新キャラです。まず一人目はアスモ、何人目になるのかまた幼げなキャラが出て来ました。そして二人目は、大光さんのオリキャラであるルーメ。キャラ崩壊などの不備があればお申し付けください。さて、それでは次回、バトル大会です。今作は本当にこういうの多いですね。まあ僕がそうしたんですが。では、次回もお楽しみに。