二次創作小説(紙ほか)
- 第52話 small dragons ( No.136 )
- 日時: 2013/10/21 00:40
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: SMalQrAD)
ルゥナに敗北し、特にすることもなくボーっと試合を観戦していたフィア。次はフロルとイオンが戦う番だと思い返していると、声がかかった。
「おにーさんっ」
かかったというより、後ろから抱きつかれた。
「っ……アスモちゃんか。どうしたの? ルーメさんは?」
初めての感じる柔い感触のせいで高鳴る鼓動を抑えつつ、振り返ってアスモと目を合わせる。
「ちょっと別行動。ところでおにーさん、残念だったね」
「ん、ああ……まあルゥ先輩が相手だったからね」
サミダレタウンでフィアがルゥナに勝てたのは、ただ単に相性が良かっただけだ。地力ではルゥナの方が強いだろうし、なによりルゥナはこのような公の場では、技合成を使うことができない。もし彼女の能力をフルに活用されれば、フィアでは太刀打ちできないだろう。
「それにメタングの攻撃は、全部効果いまひとつだったし。負けても仕方ないさ」
「でもおにーさん、けっこーカッコよかったよ?」
あまりに直球だったため、フィアは思わず言葉を失ってしまう。今まで褒められたことなど、特に格好良いなどという褒め言葉を受けたことはほとんどなかったため、照れてしまう。
「う、うん、ありがとう……」
目線を逸らしつつ、社交辞令だからとでも言いたげに礼を言うフィア。しかしアスモはそんなフィアには構わず、フィアの服の袖を引っ張る。
「それよりおにーさん。ちょっといいかな?」
「な、なに?」
「おにーさんについて来てほしいというか、おにーさんと一緒に行きたいところがあるんだよ。来てくれる?」
一緒に行きたいということは、露店かどこかに付き合ってくれということだろうか。しかしそれなら、わざわざフィアが行かずとも良いような気もする。
「ルーメさんは? 僕じゃなくても、いや僕よりもあの人の方がいいんじゃないかな……?」
次がフロルとイオンのバトルだということもあり、フィアはルーメの名前を出すが、アスモは頑なだった。
「だーめっ。今すぐ、そんでもっておにーさんと二人で行くのっ。決定事項!」
「うぅ、弱ったな……」
ちらりとバトルフィールドに目をやると、今まさにフロルとイオンのバトルが始まるところだった。
(フロル……まあ、イオン君が相手だし、大丈夫だよね……?)
何が大丈夫なのかは分からないが、ぐいぐいと袖を引っ張るアスモを無視するわけにもいかず、フィアは歩を進めた。
だが、不意にもう一度振り返る。すると今度は、偶然にもフロルと目が合った。彼女はキョトンとした表情で首を傾げている。
フィアは問題ない、頑張れ、とジェスチャーで伝えようとしたが、その手の動きは人込みの壁で塞がれてしまい、意味をなさなかった。
(フィア……?)
フィアが会場から離れていくのを見て、フロルは何かを感じた。漠然とし過ぎていて何なのかはよく分からないが、とにかく何かの気配を感じた。
「——ねー? ねーってばさ。どーしたの? さっきからボーっとしてさ」
「っ」
イオンから声がかかる。フロルは手にボールを持ったまま動かず、不審に思ったらしい。
「ううん。なんでもないよ」
と返しつつ、フロルは手にしたボールを降ろし、違うボールと入れ替える。
『それでは、両者準備が整ったところで。バトル——スタートッ!』
戦いのゴングと共にアナウンサーの掛け声が発せられ、フロルとイオンは同時にポケモンを繰り出す。
「出て来て、フカマル!」
「サクッとやっちゃおうか、タツゴン!」
フロルが繰り出したのは、丸っこく青い体、その体格にしては大きすぎる口、頭のヒレには切れ込みが入っており、例えるなら鮫の頭部のみを極端にデフォルメ化したようなポケモンだ。
対するイオンのポケモンも、翼のない小さな龍のようなポケモン。頭が大きい水色とオレンジの体で、真ん丸な目に愛嬌を感じる。
『Information
フカマル 陸鮫ポケモン
好奇心旺盛なポケモン。大きな口で
何でもかんでも噛みつき、時には他の
ポケモンの攻撃までも食べてしまう。』
『Information
タツゴン 水龍ポケモン
体に反して体が大きいため、重心が
ぶれてよく転ぶ。しかし転ぶことで
体を鍛え、進化の時を待っている。』
『フロル選手とイオン選手のバトルは、ドラゴンタイプ同士のバトルになりましたッ!』
『まだ進化もしていない種のポケモンだが、やりにくい相手だった。特に片方の小龍には、かなり追い詰められた』
『アーロンさんが追い詰められたと? それはどちらでしょうか? やはりフカマルですか?』
ここでアナウンサーがフカマルだと思うのは、自然なことだ。
フカマルは地面と複合しており、タツゴンは水と複合しているドラゴンタイプ。一見すれば炎タイプのアーロンに対しては、抵抗力となるタイプを二つ持つタツゴンが有利だと思うだろう。しかしアーロンは初手でキュウコンを繰り出し、特性、日照りで水技の威力を半減させるため、タツゴンでは水技が通りにくくなる。
だからこそ、アーロンを追い詰めるほどの龍は、日照りの影響を受けにくいフカマルだと思ってもおかしくはない。だがその考えは、ポケモンだけを見た場合だ。
トレーナーのことは、考慮されていない。
『……見ていれば分かる』
言葉数少なく返し、それっきりアーロンは黙り込む。そして、フロルとイオンのバトルを静かに観戦していた。
「こっちから行かせてもらおうかな。タツゴン、頭突き!」
先に動いたのはタツゴンだ。タツゴンは姿勢を低くして頭を突出し、地面を蹴ってフカマルに突っ込む。
「フカマル、突進だよ!」
フカマルも飛び出し、勢いよくタツゴンとぶつかり合う。
素の攻撃力でも技の威力でも、タツゴンはフカマルに劣る。フカマルがタツゴンを押し切り、タツゴンは吹っ飛ばされた。
「そのまま砂地獄!」
さらにフカマルは、タツゴンの落下点に流砂を発生させ、タツゴンを捕えようとする。
「うへー、オレ砂地獄には嫌な思い出しかないんだよねー……ま、だからこそ対策もしてるけどさ。タツゴン、真下に向けて龍の息吹!」
タツゴンは空中で姿勢を変え、真下を剥いて口から龍の力がこもった息吹を放つ。その息吹が推進力となり、タツゴンは流砂に巻き込まれず地面に着地した。
「まだまだ、水の波動!」
着地してすぐさまタツゴンは水球を発射する。波動が流し込まれた水流は一直線にフカマルに飛んでいき、直撃した。
「フカマル!」
吹っ飛び越ししなかったが、フカマルはその一撃で態勢を崩してしまい、後ろに倒れ込んだ。、
「休ませないよ。タツゴン、頭突き!」
その隙にタツゴンはフカマルに突っ込んで頭突きを喰らわせる。
「もう一撃! 頭突き!」
タツゴンは怯んだフカマルにもう一度強烈な頭突きをかまし、今度は吹っ飛ばした。
「龍の息吹!」
「っ、噛みつく!」
タツゴンが追撃として放った龍の息吹を、フカマルはその大口で噛みつき、飲み込んでしまった。
「おぉっ? すっげー、ポケモン技食べるフカマルなんて初めて見た」
純粋に驚くイオン。観客たちも沸き上がる。
図鑑説明にもあるように、フカマルは時としてポケモンの技すらも喰らう。しかしそれは簡単にできることではないし、失敗した時のリスクが大きいのでやろうとすることもない。普通なら回避しようとする。
「でも、その防御方法はいつまで保つかな? タツゴン、龍の息吹だ!」
タツゴンは再び龍の息吹を発射。それに対し、フカマルは避けようとせず、
「来るよ、噛みつく!」
大口を開け、その息吹を飲み込んでしまう。二度目となるその光景に、観客たちは一度目が偶然でないと分かり、さらにざわめきが大きくなった。
しかし、
「水の波動!」
フカマルは続けて放たれた水の波動を喰らい、吹っ飛ばされてしまった。
「高速移動だ!」
間髪入れずにタツゴンは追撃しようとするが、その準備として自身の脚力を一気に強化し、一瞬でフカマルとの距離を詰める。
「タツゴン、頭突き!」
そして頭を突き出し、振り下ろすようにしてフカマルを地面に叩きつけた。
「うぅ……フカマル、がんばって! ダブルチョップ!」
「遅い遅い! 躱して水の波動!」
フカマルはカウンターに手刀を二度振るうが、タツゴンは素早く後ろに下がっており、二撃とも回避して水球を撃ち込む。
「もう一発!」
さらにもう一発、水の波動を発射して追撃。フカマルが反撃に出る余地もない。
「イオくん、強いよぅ……うぅ」
涙目になりながら、フロルは攻め続けるイオンとタツゴンを、ただ見つめていた。
さて、イオン対フロルです。ドラゴンポケモン同士のバトルになりましたが、完全にイオン優勢ですね。最初はそんなに強いキャラじゃなかったはずですが……フィアもフィアでアスモとのフラグが立っていますが、このフラグがどう転ぶかは、次回のお楽しみです。というわけで次回、フロル対イオン決着、そしてフィアとアスモのその後、みたいな感じです。次回はイオンのバトルスタイルについても触れようと思います。それでは次回もお楽しみに。