二次創作小説(紙ほか)
- 第53話 shrine ( No.137 )
- 日時: 2013/05/19 15:05
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
- プロフ: 今回は文字数少なめ。2000字台で更新したのは久しぶり。
「タツゴン、連続で頭突きだ!」
タツゴンは高速移動で強化された脚力を生かし、フカマルの周囲を旋回しながら頭突きを喰らわせる。
「フカマル、砂地獄!」
「躱して水の波動!」
フカマルも流砂を発生させてタツゴンの動きを止めようとするが、タツゴンは流砂をジャンプで躱し、球状の水を発射する。
「龍の息吹だ!」
さらに、水の波動を受けて怯んだフカマルに、龍の力が込められた息吹を吹きつけて追撃。効果抜群なので、ダメージは大きい。フカマルの体力ももう限界だろう。
『これは……凄い連撃ですね。もしかして、アーロンさんが追い詰められたのは、タツゴンの方ですか?』
『この様子を見れば、もしかしなくともそうだ。だがあえて言うなら、俺が苦戦したのはタツゴンではなく、あいつだ』
と言って、アーロンはサングラス越しにイオンを見据える。
『イオン選手ですか。確かに指示も的確で、攻撃のスピードが速いですね』
『ただ単純に速いのであれば、俺も対策のしようがあったがな』
『はい?』
意味深なアーロンの言葉に、首を傾げるアナウンサー。
『あれは速いというより、隙がない。攻撃する前後の予備動作が失われているかの如き隙のなさだ。その隙のない動きの結果が、素早い連撃に見えると言うだけの話。結果だけで言えば、どちらも同じだがな』
『はぁ……』
そして意味も分からず曖昧に頷く。
『その攻撃前後の予備動作を省略する戦闘技術が奴の天賦の才なのか、努力の賜物なのか、なんらかの力が働いているのか……大元の正体はつかめないが、奴は俺が今まで戦ってきたトレーナーの中では、群を抜いてセンスを感じる。五指に入るほどの強さかもしれんな。陳腐な言葉を使えば、奴は天才だ。それも才能にかまける天才ではなく、それ相応に努力を積み重ね、基礎を固めていると見た』
『……随分と評価しますね、イオン選手を』
『事実と俺の思ったことをそのまま述べただけだ』
とその時、
「フカマル、ダブルチョップ!」
「タツゴン、龍の息吹!」
フカマルが飛び出して両手に構えた手刀を振り下ろし、タツゴンもそれを迎撃すべく口から龍の力が込められた息吹を放つ。
フカマルの手刀とタツゴンの息吹がぶつかり合うが、結果は目に見えている。タツゴンの連続攻撃を受け続けたフカマルは疲弊しきっており、体力も限界。そんなフカマルの手刀ではタツゴンの息吹を断ち切るには至らず、やがて吹っ飛ばされてしまった。
「フカマル!」
吹っ飛ばされたフカマルは地面に落下。体力が限界を超え、戦闘不能となってしまった。
『決着——ッ! Bブロック一回戦の勝者は、イオン選手となりました!』
アナウンサーの声に合わせ、会場が沸き立つ。イオンは彼なりの真顔らしい、余裕を含んだ笑みを浮かべながら手を振ったりしている。余裕があるのはバトルだけでなく心にもあるようだ。
「……ありがとうフカマル、がんばったね。戻って休んでて」
フロルは倒れたフカマルをボールに戻す。
ふと時計を見れば、時間はほとんど進んでいない。長いバトルに思えたが、実際は五分も経っていなかった。
「あ……そうだ」
フカマルのボールを仕舞いつつ、フロルは思い出した。試合前に見た光景と、同時に感じた何かの気配。
「フィア、どこに行ったんだろ……?」
フロルはそそくさと会場から出ると、フィアが消えていった森林へと走り出した。
カゲロウ山は山頂へ向かう道や、その他の道も整備されているのだが、それはなにも祭りのためだけではない。むしろ、祭りは道が整備されているからこそ行われていると言ってもいい。
この整備された道の本来の目的は参拝や祈祷、即ちカゲロウ山の奥に存在する神社で行われる神事のためだ。
今は祭り時なので神社に人気はない。普通は祭りに乗じて神社も活気立つものなのだが、ここカゲロウシティでは祭りは祭り、神社は神社と分けられているため、祭りがおこなわれている間に神社を訪れる者はいない。いるとしたら酔いを醒まそうとする酔っ払いか、よほど酔狂な人物か——他に目的を持つ者だ。
「ここ? その、なんとかってなんとかがある祠だかなんだかは?」
「間違いない。この社の奥に、我々が求めるものが安置されている」
そんな人気のない神社の境内に立つのは、二人の女。正反対とも言えるほどまったく別種の雰囲気を纏う二人だが、共通点としてはどちらも背が高く、そしてどちらも改造されたグリモワールの制服を着ているということだった。
片方は、グリモワールの制服を作業着のように改造している。後ろが跳ねた黒髪に軍手をはめ、口からは八重歯が覗いている。
サミダレタウンでフィアの敵対したグリモワール、強欲の七罪人、マモン。それが彼女の、グリモワールにおける立ち位置と名前だった。
もう片方は、マモンよりも背が高く、凛々しい顔つきの女だった。金糸のように細く繊細な金髪を後ろで一つに縛っている。
服装は、改造されたグリモワールの制服、というよりそれはもはや服とは呼べない代物だった。鎧、もしくは甲冑と呼ぶのが適切であろう。顔以外の全身を覆う漆黒の鎧、ある程度軽量化したものだろうが、同色の黒いマントと相まって、温暖なカゲロウシティではかなり暑そうだ。
だが彼女は、そんな気配を微塵も感じさせない涼しい表情で続けた。
「確認作業だ。マモ、貴様がなすべき事は」
「このなんとかって神社で、なんとかってもんを盗ってくんだろ。そんくらい楽勝だって、誰もいねーしな。でもルキ、お前はどうすんの? あたしが戻ってくるまでずっとここで突っ立てるつもり?」
「然り。とはいえ、何もしないまま立っているつもりはない。貴様が社で探索をしている間、私は邪魔が入らぬよう見張りをする。同時にゼブ、ベル、リヴ、アスの四人と連絡を取る」
「はーん、大変だなぁ、ルキも。ったくよ、サタはいつもこういう時は不参加なんだよなー。ちったー仕事しろっての」
「仕方あるまい。サタは七罪人の中でも、我々とは立場が違うものだ」
「そんなもんかぁ? 本当に大将の考えてることはよく分かんねーな」
不服そうにしながらも、マモンはそこで話を切り上げ、境内を進んでいく。
「最終確認だ。目的の物を見つけ次第、連絡を入れろ。さすれば——」
「大将が送ってくれんだろ? それくらいは覚えてるって。んじゃ、行ってくるわ。誰も通さんでくれよな」
「承知した。元より誰も通すつもりはない」
「あっそ。それは良かった」
そして二人は、そこで別れた。片や神社の奥へ消えて、片や灯篭の火さえない闇に紛れて——
フロル対イオン、決着です。ですが、フィアとアスモのその後は書けなかったです。いやまあ、これは文字数云々じゃなく、単にどうしようかまだ迷ってるだけなんですがね。それと後半、グリモワールが動き出しました。まだ名前は公開されていませんが、ルキも登場です。これで七罪人は大体出ましたかね? 断言していないのもいますが。さて、それはさておき、次回こそはフィアとアスモのその後を書きたいところです。ではでは、次回もお楽しみに。