二次創作小説(紙ほか)

第54話 アスモ ( No.140 )
日時: 2013/05/22 00:07
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: 邪淫≒色欲 大体同じ意味だと思ってください。

 アスモに手を引かれ、フィアはどんどん森林の奥へと入っていく。思ったよりも深い森林だ、下手したら出れなくなるのではと思ったが、アスモがこうして迷いなく誘導しているということは、少なくともアスモは帰り道が分かるはずなので、その心配はないだろう。
「ほらほら、こっちこっち。おにーさん早くっ」
「ちょっ、待って……!」
 ただ、アスモは力ずくと言ってもおかしくないくらいぐいぐいとフィアを引っ張っており、しかもやたら足が速く、腕を引かれているフィアとしてはかなりきつい。
(というか、浴衣って普通は走りにくいんじゃ……いや、でも浴衣って、そもそもは寝巻きみたいなものだからむしろ軽装なのかな? 実はだったら走りやすい? いやいや、でも靴はサンダルだし、やっぱり走りにくいはずだよね。それに……)
 などと、遥かにどうでもいいことを思いながら、フィアはアスモから少しだけ目を逸らす。気候などから考えて軽装なのは結構だが、浴衣は着用が楽な反面、脱げやすい。
 つまり端的に言うと、アスモの浴衣がはだけそうなので目のやり場に困っているだけである。
(本当にやりにくい……)
 幼いからか、元からそういうことを気にしないタチなのか、はたまた別の理由があるのかは分からないが、やはりフィアにとってアスモは苦手な相手である。
 と思ったその時、アスモの足が止まった。
「とうちゃーく。着いたよ、おにーさん」
「着いたって……?」
 着いたと言っても、フィアは首を傾げるだけだ。なぜなら、そこには何もなかったから。
 森林の奥、ある程度開けてはいるが、ただそれだけの場所。辺りを見回しても、それらしいものは何もない。
「何もないけど……それとも、何かするの?」
「うーん、ま、正解と言えば正解かな?」
 小首を傾げつつ、どこか含みのある笑みを浮かべながらアスモは言う。けれども曖昧な解答だ。
 しかし、何かするにしても、こんなところで出来ることなど限られているだろう。出来ることといったら、精々ポケモンバトルくらいだ。
「というか、こんなところに来てまですることなのかな……?」
 もっともな疑問である。だがそんな疑問に対しても、アスモは曖昧に、そして意味深に返す。
「あるよー。だって、ここで待ってねって約束したし、このくらい離れないとジムリーダーの人に見つかっちゃうし」
「……? アスモちゃん? 君は、何を——」
 言っているんだ、と言おうとしたところで、フィアの言葉は遮られた。その理由は——

 ——闇夜の中から、グリモワールの制服を改造した少女が現れたからだ。

「……っ! 君は、確かサミダレタウンで……!」
 座った姿勢。傷だらけになったグリモワールの制服、それを質素なメイド服のように改造している。全く手入れをしていないような痛んだ黒髪は片目を隠し、身を小さくする姿勢に加えて全体的にブラックカラーが多かったため闇にまぎれていたのだろう。
 彼女は、かつてサミダレタウンでフィアと衝突した七罪人、マモンの逃走を助けた人物。リヴと呼ばれていた少女だ。
「……久しぶり」
 彼女はぼそぼそと呟くような声で言う。同時に、前に進んだ。座った姿勢のままだ。その様子に思わず一歩後退するフィアだったが、やがて種が判明する。
 少女と共に闇の中から出て来たのは、ポケモンだ。緑色の蛇のような姿をしており、胴体に少女を乗せている。

『Information
 ジャローダ ロイヤルポケモン
 最近の研究によると、嗜虐本能が
 備わっているとされている。特に
 メスは、その傾向が強いらしい。』

「あー、リヴったらダメだよ。あたしがお膳立ててから呼んであげようとおもってたのにー」
「……ごめん、アス」
 少しだけ不満そうにしているアスモに、少女は謝罪する。その光景だけで、フィアの中では様々なものが繋がっていく。理解したくない事実を理解してしまう。
 もう分かっていることだ。分かっていることなのだが、フィアは思わずアスモに尋ねる。
「アスモちゃん……君は一体、何者なんだ……!?」
 フィアの問いに、アスモは邪悪で小悪魔的な笑みを浮かべ、右手で自分が着ている浴衣の襟元を乱暴に掴む。
「自己紹介ならしたはずだよ? あたしはアスモ——」
 そしてグイッとそのまま襟元を開いた。
「グリモワール、邪淫の七罪人、アスモ。改めてよろしくね、おにーさん——いや、フィア君」
 彼女の胸元には、丸みを帯びた黒い十字形の烙印が焼き付いている。アスモ自身も言っているが、やはり彼女も七罪人で間違いないようだ。
「それと……服もいつものにしとこっかな。正装、正装」
 言いながらアスモは左手でシュッと帯を解き、右手で掴んだままの襟を思い切り引っ張り、浴衣を脱ぎ捨てる。
「……っ!?」
 一瞬たじろぐフィアだったが、気付けばアスモは全く違う格好になっていた。白いブラウスに黒いブレザー、黒いチャックのミニスカートと、グリモワールの制服を学校の制服風に改造した服装だ。
 いわゆる早着替えというものであろう。浴衣の下には何も来ていない風に見えたので、脱ぐと同時に着衣を終わらせていることになる。はっきり言って常人離れし過ぎだ。フィアとしてはそちらの驚きも大きい。
「アスモコレクション№1、あたしのノーマルな格好だよ。ちなみにこっちの浴衣は№6、変装の意味も込めてリバーシブルだよ。ほら」
 と言ってさっき脱いだ浴衣の裏地を見せる。裏地は黒で、胸の辺りにグリモワールの紋章があった。変装ということは、フィアにグリモワールであることを悟らせないために紋章がない方を表にして着ていたのだろう。
 そして、ここでやっとフィアの頭が現状に追いつく。つまりアスモはグリモワールの七罪人で、どういう目的かは分からないがフィアを陥れるために近づき、
「僕を、騙したのか……!」
「でも嘘は言ってないよ?」
 どこ吹く風で答えるアスモ。その態度は温厚なフィアの逆鱗を掠めるが、今は怒っている場合でもないし、怒って解決する状況でもない。
 現状、フィアは七罪人二人に挟まれた状態だ。わざわざ挟み撃ちの状況を作り出すということは、ここでフィアは二人と戦うことになるのだろう。現にリヴと呼ばれた少女はジャローダから降りて(しかし立たずに地べたに座り)構えさせ、アスモもボールを取り出している。完全にやる気だ。
「くぅ、ただでさえ今まで七罪人に勝ったことはないのに、それが二人なんて……!」
 かなりまずいことになった。フィアは今、メタングが戦闘不能なため、実質ポケモンは三体。たった三体のポケモンで、七罪人二人を相手取らなければいけない。
 そんなフィアの
「あはは! そんなに気負わなくてもいーんだよ? だってあたしとリヴは、七罪人の中でもワースト2の強さだからね。序列七位と序列六位。ゼブとかベルみたいなひっどい能力があるわけでもないし、安心していいよ。まあでも——」
 途中で言葉を区切り、アスモはニヤリと笑みを浮かべる。悪魔的な邪悪な笑みだ。
「——あたしたちは七罪人だからね。中級者程度のトレーナーに負けたりはしないよ?」
 自信に満ちたアスモ。少女の方も表情こそ変えないが、負けるつもりはないのだろう。そもそも確実にフィアを倒すために、この二人は二人で手負いのフィアを挟み撃ちにしているのだ。
「やるしか、ないか……!」
 正直に言って、勝てる気はしない。しかし隙を見て逃げ出すくらいのことは出来るかもしれない。そう思いながら、フィアはゆっくりとボールを手に取り、構える。
 その時だった。

 一陣の緑色の風が、ジャローダを切り裂く。



久々の更新です。実際はどうだか分かりませんが、体感的には久々です。というわけで今回、やっと新たな七罪人、アスモが登場です。まあ今までちょっと伏線張ってましたし、オボロシティでベルがアスって愛称出してましたし、アスモデウスという悪魔を知っている人なら予想は付いたでしょう。ちなみにこのアスモ、かなり性格に悩みました。というかどう動かすかに悩みました。好色なキャラは書いたことないですし、限度を守らないといけないので。それにしても、リヴは相変わらずまだ名前が明かされませんね……いやまあ、どこで明かすかは決まっているんですけどね。さて、ではあとがきはこの辺にして、次回予告です。予告ってほどじゃないですが。次回はあの子の登場、というか救援です。ジャローダを攻撃したのは何か、誰なのかが明かされます。では次回もお楽しみに。