二次創作小説(紙ほか)

第56話 conflict ( No.149 )
日時: 2013/05/25 21:35
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: 欺くアスモ、対立するフィアとルーメ——

「それじゃあお願い」
「ああ。念のためにトコヤミをつけておく。何かあったら声を上げろ」
「うん、分かった」
 軽く言葉を交わすと、アスモはルーメから離れて森林の奥へと消えていく。
「っ、待て——」
「待つのはお前だ」
 フィアが駆け出してアスモを追おうとするのを、ルーメがボールを突き出して制す。
「見てくれも雰囲気もただの少年にしか見えなかったから油断した。お前がお嬢を狙う輩だったんだな」
「は……? え?」
 頭がついて行かない。何のことか、フィアには理解できない。しかしルーメはそんなフィアのことなどは意にも介さず、話を進める。
「お嬢が財布を落としたのは偶然だろうが、お嬢に好意的に接し、近づいたのも罠か。彼女はまだ幼い、好意を示せばなびくのは道理。方法自体はともかく、少女を相手にするのは外道だ」
 それは逆だと、フィアは心中で反論する。ルーメの言うようにアスモが財布を落としたのは偶然としか思えないが、もう一人の七罪人と合わせてフィアを襲おうとしたことから、アスモの方が元々フィアに近づくつもりだったに違いない。
 そう思いながらフィアの中でピースがはまっていき、ルーメはさらに言葉を放つ。
「極めつけは、身ぐるみを剥いだことか。お嬢がたまたま元の服を持っていたからともかく、下手をすれば助けを求められない状況にすらなっていた。最初は気の弱い少年だと思っていたが、獣じみた面もあるんだな」
 ここでやっと、フィアの中で合点がいった。全てのピースが埋まり、遂に状況が理解できた。
(あの子、この人に嘘を吹き込んだな……!)
 もっと落ち着いていればすぐに分かったかもしれない。つまりアスモは、自分にとって都合のいい情報をルーメに吹き込んだのだ。そしてルーメを自分の味方につけ、フィアの前に立ち塞がせている。今にして思えば、わざわざルーメをボディガードにつけたのも、こういう状況を想定してのことだったのかもしれない。
 ルーメは厳しい視線をフィアに向けながら、突き出したボールを構える。
「他にも仲間がいるのか、それともお前一人なのかは知らないが、とにかくお前をひっ捕らえるのが優先事項だ。出て来い、スターミー!」
 ルーメが繰り出したのは、紫色で五芒星を二つ重ねたような体、中央には赤く光るコアを持つポケモン。

『Information
 スターミー 謎のポケモン
 宇宙から来たと言われるポケモン。
 宇宙からの電波を受信する際は、
 中央のコアが光り輝くらしい。』

 いきなりポケモンを繰り出され、フィアは慌てて抗議する。
「ちょっ……ちょっと待ってください! 僕は戦うつもりなんて——」
「戦う気がない? なら好都合だ。大人しくしていれば、無駄に怪我することもないからな」
「いや、だからそうじゃなくて……」
 ここは、はっきりとアスモのことを言った方がいいだろうと思い、フィアは意を決して口を開く。
「あの子——アスモはグリモワールで、七罪人の一人なんです! だから、あなたに言ったことは全て嘘で、今も何か企んでいるはずなんです!」
 フィアはルーメとは戦いたくない。戦っても勝てないだろうことは肌で感じて分かるし、今すぐアスモを追いかけたい。ここで時間を食うわけにはいかないのだ。しかし、
「クライアントとただの少年、どっちの言うことが信用できると思う?」
 ルーメは対立の姿勢を崩さない。頑としてここを通すまいと睨みつけ、むしろフィアを攻撃するタイミングを窺っているようにも見える。
「う……で、でも、事実です! 信じてください!」
「信じられないな。それに足るだけの証拠もない。お前を信じるだけの材料がない。そして何より、優先順位は依頼人の方が上だ。あまりにしつこいようだと、容赦はしないぞ」
「で、でも……」
「くどい」
 次の瞬間、轟音が鳴り響く。気がつけばフィアの頬に水滴がかかり、斜め後ろに視線を動かせば、その部分の地面は大きく抉れていた。
「次はお前自身を狙うぞ。安心しろ、警察に突き出すために気絶させるだけだ。殺しはしないさ」
 静かに告げられるルーメの言葉。だが逆に、フィアにとってその言葉はは死刑宣告のように感じられた。
「く、うぅ……やるしかないのかな……!」
 不本意だが、フィアはゆっくりとボールを取り出し、まずは戦えないであろうパチリスをボールに戻す。そしてそのボールと入れ替わりに違うボールを構えた。
「出て来て、ヌマクロー!」
 メタングは戦闘不能で、ブースターはスターミーと相性が悪い。よって消去法で選ばれたのはヌマクローだ。
「やっとやる気になったか。スターミー、冷凍ビーム!」
 スターミーはコアに冷気を充填し、その冷気を圧縮して光線のように発射する。
「ヌマクロー、躱して!」
 地面を蹴り、大きく横っ飛びして冷凍ビームを躱そうとするヌマクローだが、スターミーの攻撃は速く、躱しきれずに掠めてしまう。
「う……ヌマクロー、反撃だよ。マッドショット!」
 ヌマクローは大きく息を吸い、口から大量の泥を噴射するが、
「躱して悪巧みだ!」
 スターミーは回転しながら空中を動き回り、マッドショットを回避。さらにコアを点滅させ、脳を刺激して特攻を急上昇させる。
「マッドショットだ!」
「冷凍ビーム!」
 ヌマクローは泥を噴射するが、スターミーも同時に冷気を圧縮した光線を発射し、泥を貫いてヌマクローを攻撃する。悪巧みで強化された冷凍ビームは、一撃でヌマクローの体力のほとんどを奪い去ってしまった。
「やっぱり強い……ヌマクロー、スプラッシュ!」
 最後に、ヌマクローは決死の覚悟で特攻をかける。特性、激流で強化された水技。全身に纏う水流の勢いは正に激流の如く。凄まじい勢いでスターミーへと突貫するが、
「押し流せ、ハイドロポンプ!」
 スターミーもコアの正面に渦を生成し、そこから大量の水を噴射して迎え撃つ。水鉄砲などとは比べ物にもならないほどの水量と勢いを持って、その水流はヌマクローを押し流してしまう。
「っ、ヌマクロー!」
 ヌマクローは水流に流され、太い木の幹に激突。水流の勢いが強すぎたため、木の幹はばっきりと折れてしまい、ヌマクローのすぐ横に鈍い音を立てながら倒れた。
「……! 戻って、ヌマクロー……」
 絶句し、フィアはヌマクローをボールに戻す。悪巧みで特攻を上げているとはいえ、かなりの威力だ。
「ヌマクローで勝てなかった相手、タイプで不利な君が勝てるとも思わないけど……頼んだよ、ブースター!」
 不承不承、フィアは二番手にブースターを繰り出す。
「ブースター、火炎放射だ!」
 ブースターは息を吸い、口から灼熱の炎を噴射する。しかし、
「そんな攻撃があたしのスターミーに効くかよ。ハイドロポンプ!」
 スターミーも凄まじい勢いで水流を発射し、火炎放射を軽く打ち消してしまう。
「っ、くぅ! ブースター、ジャンプだ! アイアンテール!」
 この一撃を喰らえば、ブースターではほぼ確実に戦闘不能になる。なのでブースターは素早く跳躍して水流を回避し、鋼鉄のように硬化させた尻尾を振り下ろす。
「! 躱せ!」
 だがブースターの攻撃はスターミーには届かない。回転してかわされてしまう。
「十万ボルト!」
「火炎放射!」
 そしてすぐさま高電圧の電流を放つ。ブースターも口から炎を放射するが、やはり特殊攻撃ではスターミーには及ばず、突き破られてしまった。
「ハイドロポンプだ!」
 続けてスターミーは正面に渦を生成し、凄まじい勢いの水流を噴射する。
「躱してニトロチャージ!」
 ハイドロポンプだけは絶対に喰らえないブースターだが、多少隙が出来ても大きく飛んで躱そうとせず、最小限の動きだけで水流を回避。炎を纏ってスターミーに突撃した。
「くっ、スターミー、距離を取って冷凍ビームだ!」
 初めて攻撃を喰らったが、スターミーには効果いまひとつ。スターミーは怯まずブースターから離れ、冷気を圧縮した光線を放つ。
「火炎放射で相殺して!」
 ブースターも火炎放射で迎え撃ち、なんとか冷凍ビームを相殺した。
「アイアンテール!」
 そしてすぐさま地面を蹴り、スターミーに接近。鋼鉄の尻尾を振るい、叩きつける。
「ニトロチャージか、やりにくい……スターミー、早めに決めるぞ。ハイドロポンプ!」
 スターミーは空中で態勢を立て直し、目の前に渦を作り出して凄まじい勢いの水流を噴射する。
 ブースターはちょうど着地したところで、今から左右に避けようとするとワンテンポ遅れてしまう。後ろに下がれば追って来るだろう。なので、
「ブースター、ニトロチャージ!」
 ブースターは再び跳躍し、炎を纏ってスターミーに突っ込む。すぐ真下には水流が放たれており、勢いが足りずに少しでも高度が落ちればすぐさま激流に流されてしまう、生死の境目とも言えるギリギリの状態。そんな状態で、ブースターはスターミーへと突貫する。
 そして、ブースターの決死の一撃は——



今回はアスモが仕組んだフィア対ルーメです。やはりフィアが押されていますがね。そういえば、図鑑の分類に助詞が入るというか、名詞でないのはスターミーだけだそうですね。では文字数もギリギリなので今回はこの辺で。たぶん次回でカゲロウシティの回は終了だと思います。お楽しみに。