二次創作小説(紙ほか)
- 第57話 ルキフェル ( No.150 )
- 日時: 2013/05/25 23:57
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
- プロフ: このサイト、修正での追加を含めたら最大文字数はどのくらいなんだろう……
果たしてブースターの決死の攻撃は、スターミーに届いた。だが、それだけだ。ニトロチャージは炎技、水タイプのスターミーには効果いまひとつ。大したダメージにはならない。その一撃でブースターは素早さがさらに上昇したとはいえ、フィアの不利に変わりはない。
しかし、
「……おい」
ルーメはスターミーに反撃の指示を出さず、フィアに呼びかけた。
「な、何ですか……?」
「お前の言ったことは、本当か?」
少しだけ、ルーメの視線が和らいだ気がした。フィアは首肯し、口を開く。
「……本当です。信じてくれるんですか……?」
「いや、まだ疑っている。だが、信じることもできると思っただけだ」
言いながらルーメは目線をブースターに向けた。
「人の言葉は信用に足らない。口先三寸、巧言令色、言葉だけで人をだます輩は多い。人間は嘘だらけだ。だが、ポケモンの行動に嘘はない」
「……?」
首を傾げるフィア。ルーメの言う言葉の意味がいまいち理解できない。
「要するにだ、お前のポケモンを見てると、どうもまっすぐに感じたんだ。とても悪人が育てたようには見えない動きをしていた。だからお前の言葉も、信用できる可能性があると踏んだ。そしてもしお前の言葉を信じるのなら、確かにここで戦っても無意味だ」
だが、とルーメは続け、スターミーが素早い動きでフィアの背後に回る。
「それでもお前を完全に信用したわけじゃない。もしお前が嘘をついていると分かれば、容赦なく攻撃する。そのつもりでいろ」
「……はい。ありがとうございます」
真後ろに控えるスターミーが気になるが、どうやらルーメはフィアの言葉を多少なりとも信じてくれたらしいことは理解できた。アスモがグリモワールであることは揺るぎなき事実であるので、フィアは安堵の溜息を吐くが、問題もあった。
「でも、あの子……アスモは見失ってしまいました」
夜の闇に包まれた森林だ。一人二人の人間を探すのは難しい。それがこちらから逃げているというのだからなおさらだ。だが、
「それに関しては問題ない。お嬢はこの山の神社に向かうと言っていた。とりあえずそこに隠れて難を逃れるつもりだったのだが、仮にお前の言葉を真実とするなら、そこで仲間と合流しているのかもな」
「なら急がないと。もしかしたら、フロルが一人で戦ってるかもしれない……!」
フィアはルーメとのバトルで時間を食ってしまった。なのでフロルが先に一人で神社に到着している可能性は高い。だとすると、フロルが追っている七罪人とアスモに加え、他に待ち構えているかもしれない他のグリモワールたちに囲まれている可能性もある。
「……そうだな。とりあえず急ぐか。神社への道はこっちだ」
そしてフィアは、ルーメにエスコートされながらカゲロウ山の最奥部にして最頂部、カゲロウ神社へと向かった。
幸か不幸か、フィアとルーメがカゲロウ神社に向かう途中でフロルとは合流した。リヴと呼ばれていた七罪人はジャローダに乗って移動していたが、もう一体のポケモンに追跡を妨害されて撒かれたらしい。それ自体はマイナスだが、フロルがアスモたちに集中攻撃されないことを考えるとプラスなので、とりあえずはよしとした。
そして三人が森林を走ること数分、カゲロウ神社の鳥居が見えた。
(意外と普通の神社だな……)
鳥居、境内、社……どれを取ってもフィアの知る神社と限りなく酷似していたため、安心感と違和感を同時に感じるが、今はそれどころではない。
カゲロウ神社の境内、社の正面には、三人の女が立ち塞がっていた。
一人は言うまでもなくアスモ。もう一人もフロルが追っていた少女。
だがその二人に挟まれるようにして仁王立ちしている女は、初めて見る顔だった。
「うわ……凄い格好……」
その女の姿を見て、フィアの口から思わずそんな声が漏れる。
グリモワールのシンボルが描かれた鎧に漆黒のマントと、闇に紛れるような意匠に、一つに縛った煌びやかな金髪と整った顔つき。可愛い、綺麗と言うより、格好良い、凛々しいなどという感想が真っ先に浮上してくる。
向こうもこちらの存在に気付いたのか、三人とも目線がこちらを向く。
「あっちゃー、思ったよりも足止め効かなかったかー。ま、しょうがないね、念のための保険だったし」
「不全だ。準備は万全に整えるもの、保険であれ何であれ、不測の事態に対応できるだけの何かを用意すべきなのだ。アス、君はその場その場の対応はそれなりだが、事前の準備における周到さが欠落しているのが短所だな」
「はーい、ごめんなさーい」
アスモと中央の女が何やら言葉を交わし、アスモがクスクスと笑っている。
その光景は少しばかりの怒りを覚えながら、フィアたち三人は、グリモワールの三人の前に立つ。
「……その様子を見るに、この少年の言うことは正しかったようだな」
ルーメが怒気を含んだ声で、アスモに向けて鋭い言葉を発する。だがアスモはどこ吹く風で、
「言っとくけど、騙される方が悪いんだよ? ちゃーんとクライアントの情報くらいはチェックしなきゃ、ね?」
ルーメが眉根を寄せる。騙されたことと、アスモの態度。どちらも気に障ったのだろう。
今までずっとフィアの背後に張り付いていたスターミーがアスモたちの方に向くが、同時に中央の女も前に一歩、踏み出る。
「止まれ。先に言っておくが、我々に戦意はない。貴様らがそこで足を止めるのなら、我々は攻撃しないと約束する」
あまりにも威風堂々した佇まい。まっすぐというのなら、彼女の立ち振る舞いこそまっすぐだ。鎧にマントという出で立ちに態度も含め、まるでその姿は騎士のようであった。
「名乗りを上げよう。私の名はルキフェル。グリモワール、傲慢の七罪人、ルキフェルだ」
やはり、と心中で呟くフィア。彼女が七罪人の一人であろうことは、概ね察しがついていた。
フィアは手負いだが、それでも状況は三対三、ルーメの実力に関してはフィアが身を持って知っているので、この場でこの三人を倒すことも不可能ではないと算段を立てるフィアだったが、その考えはすぐに打ち砕かれる。
「宣言する。自身の力を誇示することはあまり好かないが、あえて言おう。私は七罪人の中では、序列二位だ」
「序列……? 二位……?」
「然り。即ち私は、我らが主を除けば、グリモワール内で二番目に強い罪人である」
表現が所々古めかしく、すぐには解さなかったが、やがてその言葉の意味を理解する。
(グリモワールで二番目に強い……って、それ、かなりまずいんじゃ……)
グリモワールのトップが誰でどのような人物かは知らないが、ここでわざわざそんなことを言うということは、それなりの実力はあるのだろう。そして力の誇示と、すぐに攻撃してこない事を考えると、彼女たちはただの時間稼ぎ、足止めの可能性が高い。
フィアが焦りを覚えながらもボールを構えると、鋭いルキフェルの言葉が飛んできた。
「忠告する。退け。貴様たちが戦う意志を見せるのなら、こちらもそれなりの対応をさせてもらう。もう一度言うが、私は序列二位の七罪人だ、貴様たちが無事でいる保証はできない」
「く、ぅ……」
ルキフェルの威圧に、フィアは思わず腕を下ろしてしまう。
それ以降は言葉も動きもない睨み合いとも言えない棒立ちが続いた。実際以上に長く感じる時間が経過したある瞬間、沈黙が破られる。
「……ルキ、アス。時間」
沈黙を破ったのは、ジャローダを戻して地べたに座り込んでいる少女。その言葉を聞き、ルキフェルは首肯、アスモは一仕事終えたように背伸びする。
「承知した。マモの方は、もう終わったのだな」
「ふいー、やっと帰れるのかー。でもちょっと名残惜しいかもね、お祭りとかもっと満喫したかった気もするし」
各人口々に言うが、特に行動は見られない。口振りからするとこの場から去るようだが、そのような素振りは見られない。
「んじゃばいばい、フィア君、フロルちゃん、それからルーメさん。また会おうね」
そして次の瞬間、アスモが消えた。
「っ!?」
驚くフィアを余所に、残る二人も消えてしまう。ほんの一瞬で、まるで魔法のように三人は消えてしまった。
「テレポートだな」
不意に、ルーメが呟く。
「エスパータイプのポケモンを待機させていたのか。テレポートかサイドチェンジか、その辺りの技で別の場所に飛ばしたんだ。しかし気配も何も感じなかった……相当な実力者と見るべきだろう」
ルーメの開設に納得するフィアだが、種や仕掛けはこの際どうでもいい。問題は、何も分からず、何もせずグリモワールを逃がしてしまったことだ。
「それに関しての非、あたしにもある。人間を読み違えた……お前には後日、改めて謝罪する。悪かったな」
「い、いえ、そんな……」
あれだけ敵意を剥き出しにされた後なので、対応に困る。ただ愛想が欠けているので、あまり謝られた気はしないが。
なにはともあれ、多くのわだかまりを残しながらも、このカゲロウ山におけるグリモワールの脅威は、去ったのだった。
後日、フィアはカゲロウシティを後にする前に、当然ながら昨日の出来事をアーロンに話していた。
「そうか、俺がいない間、お前たちに負担をかけたようだな。悪かった」
「いえ、そんな別に……」
目上の者に謝られると、フィアとしてはたじろいでしまう。昨日もこんなことあったなと思うフィアだった。
「それより、グリモワールはこの街の山や神社で何をしていたんでしょう?」
「さあな。あの山、そして神社は俺が管理しているわけではない。神社については後で神主たちとと共に調べておこう。もしかしたら、グリモワールの目的も分かるかもしれん」
言われて気付いたが、フィアはグリモワールの目的を知らない。何を目指している組織なのか、何を目的としている組織なのか、最終目標は何なのか、まったく分かっていない。どころか今まで、彼らが何をしてきたのかも理解していない。精々、マモンの独断行動でフロルがポケモンを盗んだこと、そしてベルフェにピンポイントで狙われたことくらいだ。
「フィア、お前は次に向かう街は決めているか」
「え? いえ、特には……」
急に話題を変えられ、フィアは少し詰まってしまう。
「ならば、次はリッカシティに向かえ」
リッカシティ、その街の名前には、聞き覚えがあった。
(イチジクさんが言ってた街……確かそこのジムリーダーは——)
胸中で呟くフィアの続きは、アーロンが紡いだ。
「ホッポウ地方最強にして無敗のジムリーダー、『自然支配者』、ハッカ。奴は草タイプの使い手だが、俺も奴に勝ったことはない」
「……何で、僕にそんな人のいるジムを勧めるんですか……?」
初心者は脱しただろうが、フィアはまだトレーナーとして実力者と言えるほどではない。アーロンに勝ったのだってギリギリだ。それなのにそれほど強いジムリーダーと戦っても勝てるわけない。
だがアーロンもそれは分かっている。その上で、
「お前は徹底的な敗北を経験しておいた方がいい。今後のためにもな」
多くは語らず、そう言った。
なし崩し的というか、半ば強引によく分からないまま、フィアの次の行き先はリッカシティへと決定した。
そしてこの時が、フィアの狂った運命の始まりだったのかもしれない——
色々言いたいことはあるのですが、文字数がアレなので短めに切り上げます。今回はルキことルキフェルの登場です。彼女は七罪人序列二位、ナンバー2です。序列に関しては今後少しずつ明かすつもりなので、適当に予想してみてください。そして後半、フィアの次の行き先が決定しました。さて、ここいらでホッポウ最強にして無敗のジムリーダーが誰か、分かってきたのではないでしょうか。さてそれでは次回、港町でまたバトル大会です。しかし今回は今まで以上に壮大な大会にする予定です。遂にあの人も登場する回に突入です。お楽しみに。