二次創作小説(紙ほか)

第58話 チャンピオン ( No.151 )
日時: 2013/05/26 22:59
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: やっぱり今作、バトルのない回が多いな……これは良いのだろうか?

 フィアが次に向かう街、リッカシティはイトゥルフ島の南部に位置している。つまりその街へと向かうためには、どこかの港町から船に乗らなくてはならない。
 なのでフィアは、クナシル島で一位二位を争う巨大な港町、ライウタウンを訪れていた。
「何だかこの街も凄いな……」
 ライウタウンは同じクナシル島に位置する港町、サミダレタウンとよく比べられるのだが、規模自体はどちらも同じくらいだ。しかし趣は全く違う。
 サミダレタウンが機械やスタジアムなどを導入した近未来的な港だとするのなら、ライウタウンは古代から形を変えずにいる円形闘技場が存在する伝統と歴史のある港である。
 とはいえ人の手が全く入っていないわけではなく、昔からある闘技場は中央の最も大きなもの一つで、後から増設された闘技場がそれを取り囲んでいる。
「円形闘技場……つまりはコロシアム、コロッセオとも言うんだっけ? それがあるってことは……」
 フィアは恐る恐るターミナルを開き、この港町における現在の情報を開示する。するとそこには、

『ライウタウン・バトル大会——』

 という一文が表示されていた。



 大昔は神聖なる決闘の場や、欲望に塗れた賭博場と化していたこの闘技場。それが現代ならどう使われるのか、そんなことは明白だ。
 ポケモンバトル。現代で闘技場を有効活用するのなら、これ以上の催し物はあるまい。
 そういうわけで、今日この日、ライウタウンではバトル大会が催され、それにフィアも参加したのであった。
「へぇ、予選があるんだ。思ったよりも大きな大会だなぁ……本戦も使用ポケモンは三体で、優勝するには五回も勝たなきゃいけないんだ……」
 何度かこの手の大会は経験しているフィアだが、ここまで大きい大会は初めてである。
 そんなことを思っていた時、不意に背後から声がかかった。
「あ、フィアっ!」
 聞き覚えのある幼い声。特に意識せず後ろを向くと、見慣れた顔が三つ。
「あ、本当だ。フィア君じゃん」
「やっほー、フィア君」
「フロル、イオン君、それにルゥ先輩も……」
 カゲロウシティで一度別れたはずなのだが、どういう因果か、また四人集まってしまったようだ。
「フィア君もここ大会に参加するの?」
「はい、そのつもりなんですけど……思った以上に大きい大会で、少し戸惑ってます」
「だよねー。オレもここまで大規模な大会は初めてだよ。参加人数もかなり多いらしいし?」
 サミダレタウンで催された大会も大規模だったが、あちらはトレーナーの実力ごとに部門が分けられていたため、一つの部門での参加者数はそこまで多くなかった。しかし今大会は一括しているため、参加者数は相当数いるようだ。予選があるのもそのためらしい。
「ま、しょうがないよ。なんたって今回の大会にはね——」
 ルゥナが少しだけもったいつけて言葉を発するが、それを続けたのはフロルだった。

「チャンピオンって人が来るんだってさ」

「チャンピオン……?」
「フロルちゃん、それ私の台詞……」
 しょんぼりとうなだれるルゥナはさておき、チャンピオン。フィアもポケモンリーグについての知識は大してあるわけではないが、その肩書きの意味くらいは理解している。
 チャンピオンとは、即ちその地方における最も強いトレーナーを意味し、少なくともその地方のトレーナーにとっての最大目標だ。
 そんな人物が、この大会に来ている。
「なんでも大会の優勝者は、チャンピオンとエキシビジョンマッチが出来るんだってさ。ま、人も集まるわけだね。募集は今日だけらしーけど」
「イオン君、それも私が言おうと思ってたんだけど……」
 ことごとく台詞を奪われるルゥナは置いておくとして、チャンピオンとのエキシビジョンマッチ。
 エキシビジョンとは非公式、つまり記録に残らないバトルになるわけだが、しかしどのようなトレーナーにとってもチャンピオンとバトルをすることに意味を見出すだろうし、トレーナーとしてより強い相手と戦いたいのは当然だろう。
 かくゆうフィアも、少しだけそのチャンピオンには興味があった。
(チャンピオン、ホッポウ地方で一番強いトレーナー、か)
 それは、フィアがこれから戦うことになるであろう男。ホッポウ地方最強にして無敗のジムリーダーハッカと、どちらが強いのだろうか。
 そんなことを思いながら、フィアたちはアナウンスに促され、会場となる闘技場へと向かった。



 ライウタウンにおける大会では、正式な開会式があった。この手の式はフィアにとっては退屈なものだったので聞き流すように開会の言葉を聞いていたが、最後に主催者がチャンピオンの紹介と挨拶をすると言ったので、そこでフィアの退屈も吹き飛んだ。
(チャンピオンかぁ、どんな人なんだろう)
 特に意味もない期待を膨らませながら、フィアは壇上に上がる人物の姿を映す。その瞬間、フィアの首が傾いた。
 壇上に上がり、マイクを手渡されたのは小柄な人物。オレンジ色のサングラスをかけているため顔は見えないが、体つきからして女だ。
 淡くくすんだ、黄緑色のセミロングの髪。胸までしかない唐草色のTシャツに同色のホットパンツを黒いサスペンダーで繋いでおり、オレンジ色のジャケットを羽織っているとはいえ、妙に露出の多い服装だった。
 そしてその女——チャンピオンは、ゆっくりとサングラスを外す。

「初めましてー! 私がホッポウ地方のチャンピオン、ユズリでーす! 大会参加者の皆さん、今日は楽しいバトルを見せてねー!」

「…………」
 絶句するフィア。イメージと180°どころか三周くらい回ってかけ離れている。もっと凛々しい好青年か、厳つい老人が出て来ると思っていた。
 だが蓋を開けてみれば、少女とも言えそうなほど童顔——というか緩んだ顔をした女。こんな人が本当にホッポウで一番強いトレーナーなのかと疑いたくなる。
 それからもチャンピオン・ユズリは他愛もない与太話とも言えるどうでもいい話を続けていたが、そのうち大会関係者に止められていた。どこか抜けているというか、変にずれている人だ。
「なんか時間もないみたいだし、最後にこれだけ言わせて! 皆、自分自身が持てる最高の力で、自分らしいバトルをしてね! それじゃあこれで終わり! お疲れ様でした!」
 いやまだ終わってないしお疲れでもない、とフィアは胸中でツッコむ。
 これで開会式は終了し、予選が始まる。予選が行われるのは、中央の巨大な闘技場を取り囲む、四つの小さな闘技場だ。
 その移動の途中、フィアはたまたま近くにいたルゥナに今の心境を吐露する。
「なんというか、意外な人でしたね、チャンピオン……」
「そうだね。でもあの人、三年間ホッポウ地方のチャンピオンの座を守ってる人だから、バトルはかなり強いはずだよ」
 ルゥナ曰く、ホッポウ地方はジムリーダーも四天王もチャンピオンも世代交代が激しく、そのほとんどが若い世代だそうだ。そしてチャンピオンに至っては、その座を守り抜いた記録が最長三年。つまりユズリはその最長記録に届き、現在四年目、記録を更新しかけているのだそうだ。
「なんか、あんまりチャンピオンって感じはしない人でしたけど、やっぱり凄いんですね。あのテンションには、ついていける気がしないですけど……」
「そうだね……そういえば、チャンピオンはイッシュ地方の出身らしいよ。テンションの違いはそこじゃないかなっ?」
「そうなんですか……?」
 地方が違えば気質も変わるのだろうか。フィアにはよく分からない。
「……とっ、じゃあフィア君、私こっちだから」
「あ、はい。分かりました」
「頑張ってね……じゃなくて、お互い頑張ろうねっ」
「はい!」
 予選会場が違うフィアとルゥナは、そこで一旦別れた。



 本戦が行われる闘技場の観客席に、一つの人影があった。まだ少女とも言える年齢だが、どこか大人びた雰囲気を醸し出しており、その呼称を躊躇わせる。
 まだ予選も始まっていないこの時では闘技場には誰もいない。だが彼女は、地面を削っただけの石製のベンチに腰を降ろし、カードの束を引き抜いては重ね、引き抜いては重ねを繰り返し、シャッフルしていた。
 彼女はやがてシャッフルするその手を止め、カードの束の一番上を捲る。
 カードに描かれているのは、天を衝くようにして、高く高くそびえ立つ塔。そして捲られたカードは、彼女から見て反対側を向いている。
「『№XVI・塔』逆位置……これは、一波乱起きそうね」
 スクッと立ち上がると、彼女はカードの束をポケットの中に仕舞い込み、彼女はその闘技場の出口へと歩を進め、闘技場の出入り口にはめられた重厚な扉を押し開ける。
 そんな彼女の右手の甲には、水色の七芒星が浮かび上がっていた——



というわけでまたバトル大会です。ですが今回はかなり大がかりで、しかもチャンピオン、ユズリが出て来ました。が、実はこの人、前作で既に出ているキャラです。ただ、まず分からないと思いますし、設定などもほとんど今作のオリジナルです。ちなみに最後の塔とか逆位置とかはタロットカードのことです。気になる人は調べてみてください。それでは次回、ライウタウンバトル大会スタートです。お楽しみに。