二次創作小説(紙ほか)
- 第59話 clue ( No.154 )
- 日時: 2013/06/01 20:04
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
- プロフ: 始まるライウタウン大会。フィアの探し人、現る——!
「ブースター、ニトロチャージ!」
ブースターは全身に炎を纏い、手足の生えたテントウムシのようなポケモンを吹っ飛ばす。
『Information
レディアン 五つ星ポケモン
体は貧弱だが、非常に知能の
高いポケモン。進化によっては
人間を従えることもできるらしい。』
吹っ飛ばされたレディアンは身を焦がしながら壁に激突し、戦闘不能となった。
ライウタウン大会の予選は、一対一のポケモンバトルによる総当たり戦。A〜Dのブロックから上位八名を選出し、その選ばれた者が本戦へと進むことができる。
そしてフィアは今まさに、予選の最後の試合を勝ち星で通過したところだ。
予選が終わり、控室に戻る。予選の結果はターミナルに送られてくるらしいので、その時を不安と期待を抱きながら待つ。そして、
「……っ、やった、残ってる……!」
予選通過者の一覧には、フィアの名前があった。順位などは明かされていないようだが、恐らくギリギリの通過だったのだろう。
「お? フィア君も予選突破したんだ。よかったじゃん」
不意に、いつの間にか近くにいたイオンに声をかけられた。
「イオン君……君も予選は抜けたの?」
「勿論。らくしょーらくしょー。全試合勝ってきたよ」
「全試合……!? 凄いね」
参加者が多いこともあって、試合回数もそれなりに多かった。それを全試合勝ち星に収めたのだから、やはりイオンはかなりの強者だ。
「それと、ルゥさんとフロルも抜けたっぽいねー。なんだ、全員揃って本戦進出じゃん」
「そうだね、良かったよ」
カゲロウシティの祭りの頃に思ったが、フィアとフロル、そしてイオンにルゥナ、この四人はどういうわけか縁があるように感じる。良い意味で何かの思惑が働いているようだった。
「あ、そうだフィア君。本戦は明日からだよね?」
「え? うん、そうだったと思うよ」
「さっきルゥさんが提案してきたんだけど、明日、皆で一緒に朝ご飯食べようってさ。フィア君はどうする? オレは行くつもりだし、フロルも行くみたいだけど」
「皆で朝食か……」
食事とは、人とコミュニケーションを取るにあたって、その距離を一気に縮める手段でもある。異文化であれ異種族であれ、主事を通せば人類は友好的になれる、らしい。
(食事なんて、家族くらいとしか一緒にしなかったな……学校でも、特に親しい友達とかいなかったし)
と寂しいことを思っていると、ふとあることを思い出し、胸中で訂正した。
(いや、そういえば部長とも一緒に食べたな……あの人、わざわざ下級生のクラスまで来て、僕を部室に引っ張り込んでたっけ)
それでも共に食事をする相手が少ない事実は変わらない。それを思えば、今こうして親しい人間が増えたことは、フィアにとっては大きな成長かもしれなかった。
それを踏まえて、フィアは、
「うん、じゃあご一緒させてもらおうかな」
翌日。
ライウタウンの闘技場周辺は、それだけで一つの建物になっており、中に多種多様な店舗が並ぶ造りになっている。仕組みはデパートなどに似ているが、形式は商店街に近い。
ともあれそんなライウタウン闘技場近くの食堂で、フィアとイオン、そしてルゥナが席に着いていたのだが、
「……フロルちゃん、遅いね」
「そうですね……何かあったんでしょうか……?」
「普通に道に迷ってるだけだと思うけど、誰か一緒にいればよかったね」
フロルがまだ来ていない。彼女は彼女でどこか抜けているところがあるので、道に迷うくらいなら驚かないが、下手すれば朝食抜きで本戦に駆り出されることになってしまう。それは流石に酷というものだろう。身体的に。
「ターミナルで連絡しようにも、繋がらないし……部屋に忘れてきたのかな?」
「探しに行けばこっちが迷子になるかもだしねー、下手には動けないかな。かなり混んでるし」
「うーん……もう少し待って、それでも来なかったら私が探しに行くよ。大丈夫、こう見えても人混みは得意なんだっ」
「そうですか……それじゃあ、その時はルゥ先輩に任せます」
「その前にフロルが来るのが理想だけどねー」
などと雑談しながら、三人はフロルの到着を待っている。
その頃、フロルはライウタウンを走っていた。理由は単純明快、フィアたちのいる食堂へ行くためだ。今はまだ待ち合わせた時間にはなっていないが、到着するにしてもギリギリだろう。原因は分かりきっている、ただの寝坊だ。昨日の予選の疲れが溜まっていたからか、起きるのが少し遅くなってしまった。かなり急いで部屋を飛び出たので、ターミナルは置いて来てしまい、髪も下ろしたままだ。寝癖がないのが不幸中の幸いと言えるだろう。
「急がないと……確か、あそこの角を曲がれば近道だったはず……っ」
おぼろげな記憶を頼りに、フロルは近道を選んで人通りの少ない通路を進もうとするが、その時、目の前に何かが立ち塞がった。
というか、単純に人とぶつかってしまった。
「あぅ」
「おっと」
尻餅をつくフロル。見上げれば、その人物は女性だった。年齢はかなり若く、少女と言っても差し支えないだろうが、彼女のどこか大人びた空気がそれを躊躇わせた。
「大丈夫? ダメよ、ちゃんと周りを見ないと」
「ご、ごめんなさい……」
彼女に引き上げられ、フロルは立ち上がる。フロルの背が低いことを考慮しても、彼女の背は高かった。恐らく、フィアよりも高いだろう。
「急いでたみたいだけど、せめて道くらいはちゃんとした通路を通ることをお勧めするわ」
と言って、彼女はポケットからカードの束を取り出し、適当にシャッフルする。やがてその手を止めると、彼女は一番上のカードを捲った。
「『№XVⅢ・月』正位置……不安定な裏道なんて通らないで、素直に安定した大通りを進んだ方がいいわ。たとえ待ち合わせに遅れそうになってもね」
「……?」
フロルには、彼女の言っている意味がよく分からなかった。しきりに首を傾げ、その意味を考えるが、そうしているうちに彼女はフロルの脇を通り過ぎてしまう。
「あなたも大会に参加しているんでしょう? 応援しているわ、頑張って」
それだけ言い残し、彼女はフロルの視界から消えた。
「えっと、あの……」
慌ててフロルは振り返るが、その先に彼女はいない。フロルの視界に映るのは、喧騒の元となる人混みだけだ。
「なんだったんだろう、あの人……?」
妙に意味深な言葉だったが、フロルでも理解できることが一つだけあった。
「裏道じゃなくて、大通りを通る、だよね」
フィアたちが待つこと十分ほど、そろそろ探しに行こうかとルゥナが立ちあがったところで、目的の人物であるフロルが現れた。
「ご、ごめん、みんな……遅れちゃった」
「いや、大丈夫だよフロルちゃん。まだ本戦までは時間あるし、今からならまだ食べる時間残ってるよ」
ちなみに三人は既に朝食を半分以上たいらげている。フロルは待ったが、空腹は待てなかったのだ。
フロルは席に着き、とりあえず髪を括っていつものポニーテールにする。それから事前にルゥナが運んだ朝食に手をつけた。
「それにしても、けっこー遅かったね。いや、責めるつもりはないけどさ、何かあったの?」
「うん、寝坊しちゃったんだ。それと」
「それと?」
パンを頬張るフロルの言葉を、フィアが復唱する。咀嚼を終えフロルがすぐに繋げた。
「女の人と会ったんだ」
「女の人? なに、どういうこと? どんな人?」
「うーんとね、わたしが慌ててここに来る途中、ぶつかった人なんだけど……変わった人だったよ」
「どんな風に?」
イオンの問いに対し、フロルは思い出すように考え込み、やがて口を開く。
「なんかね、変わったカード持ってて、なんばーえいてぃーん、とか、せーいち、とか言ってた」
ガタンッ!
とその時、椅子を蹴飛ばすようにしてフィアが立ち上がった。
「……ど、どうしたのフィア君? なんか、凄い顔してるけど……?」
若干引き気味にルゥナが言う。だがフィアは、自分の顔など気にしていられる状況ではなかった。捲し立てるようにフロルに問う。
「フロル、その人、どんな人だった?」
「え? えっと、背が高くて、服は……せーらー服? だっけ? っていうのを着てて……あと、ちょっと赤っぽい髪だった、かな? それと、髪も二つにくくってたよ」
フロルの言葉を聞き、さらにフィアの表情が真剣なものとなっていく。黙っているだけでも物凄い剣幕だ。
ふと、フィアが呟く。
「……だ」
「え? なに?」
「……部長だ」
「ぶちょー? それって——」
フィアがこの世界に来る直前に出会った人物。フィアがこの世界に来る切っ掛けを与えた人物。
その彼女が、この街にいる。
「やっぱり、部長もこの世界に来てたんだ……!」
フィアが元の世界に戻る手掛かり。その一つが、彼女。
フィアは遂にその手掛かりの手掛かりを、見つけ出したのだった。
急展開、というか本格化ですね、話の。というわけで遂にフィアがトリップする契機となった部長についてです。どのタイミングでどう出るのかは、今後のお楽しみですがね。ちなみにレディアンの図鑑説明はポケウッドのアレです。アレは正直、軽くトラウマになりまし。では次回、ライウタウン大会本戦の開始です。お楽しみに。