二次創作小説(紙ほか)

第60話 ライウタウン ( No.155 )
日時: 2013/06/01 20:02
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
プロフ: ライウタウン大会一回戦、開戦!

「部長? 世界? なになに? どーいうこと?」
「フィア君、私には何を言っているのかさっぱりなんだけど……」
 フィアの事情を知らないイオンとルゥナは、フィアの剣幕にやや押されながらも、疑問符を浮かべている。
 それを理解したフィアはやや逡巡し、
「……イオン君もルゥ先輩も、もう赤の他人ってわけじゃないし、話してもいいかな……実は——」
 それからフィアは語る。自分の出自を。自分が元々どのような世界にいて、どのような事態に巻き込まれて、どのような経緯でホッポウ地方に来たのかを。
 正直、フィアは説明が得意ではないし、フィアが持つ情報も酷く断片的で欠落している部分が多い。それでも彼の必死さは伝わったのか、イオンとルゥナは黙って聞き入っていた。
 そして、
「——へー、そーなんだ」
「フィア君、たまに違う世界の人っぽい感じがすると思ったら、そういうことだったんだね。納得したよっ」
「……驚かないんですか?」
 あまりにも二人の反応が軽かったので、フィアの方が面食らってしまう。
「いやいや、かなり驚いてるって。でもまあ、別の地方だと大災害だとか時空の神だとかがあるみたいだし、そーいうこともあるかなって」
「私が働いてる機関の所長さんも、英雄の戦い? とかなんとかを経験したって言ってたし、伝説のポケモンが絡んでくるんだったら、別の世界から人が来てもおかしくないと思うよ」
「…………」
 たびたび思うことだが、この世界の人の感覚には絶句する。超常現象が実際に起こり得る世界、その前提があるからこその感覚だろうが、それは人格にもよるのかもしれなかった。
 もしかしたら自分は今自分の身に起こっていることを大事にとらえ過ぎているのではないのか、とフィアはふと思ってしまった。
「で、その、部長さん? をフィア君は探すんだよね?」
「はい。僕がこの世界に飛ばされたこととあの人の存在は無関係じゃないはず。とりあえず、一刻も早くあの人を見つけ出して、元の世界に帰る方法を——」
「待って」
 フィアが立ち上がったまま食堂から出ようとするのを、ルゥナが制する。
「こんな人混みの中、闇雲に探しても見つかるわけないよっ。その人はフィア君と同じようにこの世界に来たんでしょ? だったら向こうもフィア君のことをさがしてるはずだよ」
「それは……」
 普通に考えればその通りなのだが、彼女の考えは普通でないことをフィアは知っている。とはいえ確かに、無闇に人混みを掻き分けて探しても見つかる可能性は限りなく低い。特に今は、チャンピオンのバトルが見れるということで、見物人も多いのだ。
「だったらこっちから目立って、向こうに見つけてもらうのがいいよ。もしかしたらその人も、大会に参加してるかもしれないし」
 ルゥナの言うことは正論だ、返す言葉もない。
(やっぱり先輩なんだよなぁ、この人は……)
 どこか釈然としないフィアだったが、反論することもできず、ルゥナの案を採用することとなった。
 そして、これから——ライウタウン大会、本戦が開始される。



 本戦に出場する三十二名のトレーナーの名簿をチェックしたが、それらしい名前はなかった。つまり彼女は、少なくとも本戦出場はしていない。となると今度はこちらからアプローチをかける必要がある。
 アプローチ、即ち大会で活躍して目立つこと。どの道、大会で勝ち進むことが目的なのだから特に意識する必要はない。普通にバトルをすればいいだけだ。
 そしてそんなフィアの第一回戦の相手は、見知った顔のトレーナーだった。
「……っ、テイル君……!」
「よっ、またバトル出来て嬉しいぜ。今度は俺が勝つからな!」
 フィアと同年代の少年、テイル。かつてサミダレタウンのバトル大会でフィアと戦い、なんとかフィアが勝利を収めた相手だ。
 ちなみにフィアは彼を何と呼ぶか迷っていたが、年上ではあるがフィアと同年代であることと、テイルにさん付けは似合わないだろうということを考え、君付けに落ち着いた。
「サミダレタウンでフィアに負けてから、ずっと修行を積んだんだ。ジムバッジも三つゲットして、今は五個だぜ。今度こそ勝つ!」
 見るからにやる気と自信に満ち溢れたテイル。ジムバッジ五つということは、フィアよりも多くジムリーダーを倒していることになる。
 二人はそれぞれボールを構え、試合開始の合図を待つ。そして、

『試合、スタートッ!』

 戦いのゴングが、鳴り響いた。
「先鋒は任せたよ、ブースター!」
「最初はお前だ! 行け、シビビール!」
 フィアの一番手はブースター。そしてテイルが初手で繰り出したのは、円形の口を持つ鰻のようなポケモン。

『Information
 シビビール 電気魚ポケモン
 丸い模様が発電器官になっている。
 獲物に巻きつき、電流を流して痺れ
 させてから大口で齧り付いて捕食する。』

「サミダレタウンの時はシビシラスだったが、やっと進化したんだぜ!」
 自信満々なテイル。しかしすぐに警戒するような目つきに変わった。
「しっかしブースターかぁ……前のバトルでは、根性で逆転されちまったからな。電磁波は使えないか」
 少し表情を暗くするテイルだが、すぐさまいつもの明るい表情を取り戻し、
「だが、補助技がなくても俺のシビビールは十分強い! 一気に攻めて押し切るぞ! ワイルドボルト!」
 先に動き出したのはシビビールだ。シビビールは全身に弾ける電撃を纏うと、うねるように地面を這ってブースターへと突っ込んでいく。
「っ、ブースター、火炎放射だ!」
 対するブースターは口から炎を噴射しシビビールを止めようとするが、電撃を削ぎ落しただけでシビビールの動き自体は止められず、シビビールの体当たりがブースターに直撃する。
 さらに、

「怒りの前歯!」

 続けてシビビールは大口を開け、ブースターに噛みついた。
 それだけで、ブースターは絶叫を上げる。
「ブースター!? ぐっ……アイアンテール!」
 ブースターは反撃にと鋼鉄のように硬化させた尻尾を振るうが、シビビールも素早く後退しており、攻撃は回避された。
「逃げられた……それより、今の攻撃は……?」
 攻撃の勢い自体はそこまでではなかったが、ブースターの受けたダメージがかなり大きい。体力の半分は持って行かれただろう。
 フィアが怪訝に思っていると、テイルが口を開いた。
「怒りの前歯は、ある意味で相手に固定ダメージを与える技だ。正確には、相手ポケモンの体力を半分に削る攻撃だけどな」
「体力を、半分に……?」
 つまり実際にブースターは体力を半分削られたようだ。
「一撃で体力の半分のダメージを受けるのは痛いな……一撃ごとに受けるダメージは減るけど、他の技もあるし……」
 なんにせよ、たった一回の攻撃でテイルに体力のアドバンテージを与えてしまった。
「どんどん行くぞ! 噛み砕く!」
「うぅ、躱してニトロチャージ!」
 シビビールが大口を開けて飛びかかるが、ブースターはそれを横に跳んで回避。そして炎を纏って突撃する。
「アイアンテールだ!」
 続けて鋼鉄の尻尾を叩きつけ、シビビールを吹っ飛ばす。だが効果いまひとつなため、ダメージはさほど大きくない。
「火炎放射!」
「ワイルドボルトで突っ切れ!」
 ブースターはさらに火炎放射で追撃をかけるが、シビビールも電撃を纏って突撃し、炎を突き破ってブースターを吹っ飛ばす。
「今度はこっちが追撃だ! シビビール、噛み砕く!」
 シビビールの勢いは止まることなく、大口を開けてブースターに飛びかかるが、
「ブースター、前に出て! アイアンテール!」
 ブースターはあえて前進し、シビビールの懐に潜り込んで鋼鉄の尻尾を振り上げて攻撃を中断させる。
「ニトロチャージだ!」
 さらに炎を纏って突っ込み、シビビールを押し返す。
「反撃するぞシビビール、噛み砕く!」
「躱してアイアンテール!」
 シビビールは鋭い歯を剥いてブースターに襲い掛かるが、その攻撃はジャンプで躱され、シビビールの脳天に鋼鉄の尻尾が叩き込まれる。
「やっぱニトロチャージはきついなー……でも電磁波も使いにくいし」
 シビビールは攻撃力は高いが、スピードはそれほどでもない。素早さを上げればブースターでも対抗できなくもない。
 だが逆に言えば、その素早さを奪われればブースターに残るのは火力のみ。動きの鈍ったブースターにシビビールの攻撃が直撃すればひとたまりもないだろう。
「ま、根性にビビッてばっかでもしゃーないしな。覚悟を決めるぞシビビール、電磁波だ!」
 遂にテイルとシビビールは決心した。
 シビビールがブースターに接近し、口から微弱な電磁波を発する。それだけでブースターの体は痙攣し、麻痺状態となってしまった。
 これでブースターは機動力を失ってしまったが、代わりに特性、根性が発動し絶大な火力を手に入れた。だが先に述べたように、火力が上がっても機動力がなければ先制して攻撃され、やられるだけ。しかし、
「……よし」
 フィアは思惑通りと言わんばかりの、不敵な笑みを浮かべていた。



というわけで部長探しが始まりました。捜索と言うには受動的ですが。そしてフィアの一回戦の相手は再登場のテイルです。それでは文字数もギリギリなのでこの辺で。次回、テイル戦の続きです。お楽しみに。