二次創作小説(紙ほか)
- 第61話 electric rat ( No.156 )
- 日時: 2013/06/01 17:45
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
- プロフ: 電気ネズミの良さが分かりかけてきた今日この頃。
「シビビール、噛み砕く!」
シビビールは円形の口を広げ、麻痺したブースターに飛びかかるが、
「ブースター、アイアンテールだ!」
ブースターは鋼鉄のように鋼鉄のように硬化させた尻尾を振るい、シビビールを弾き返してしまう。効果いまひとつだが、根性で火力が上がっているので威力は高い。
「っ、なんだよ、まだ動けるじゃん」
少し驚いたような顔をするテイル。電磁波で動きが鈍ったブースターを仕留めようとしたのだから、当然と言えば当然だが、しかしブースターが麻痺の影響を強く受けていないことも必然であった。
ブースターは事前に素早さを二段階上げている。その状態で麻痺を受けても、上がった素早さ自体は変わらない。加えてシビビール自身もそこまで素早くはない。小回りは利くようだが、それまでだ。
テイルが短期決戦に持ち込もうとするように、フィアもまた、根性による高火力で一気に勝負を決めるつもりなのだが、
「麻痺で動けなくなる場合もあるし、分の悪い賭けだったかな……?」
などと今更ながら後悔しかけている。
その点、テイルは考えにブレがなかった。
「根性が発動していようと、素早さが上がっていようと、麻痺は麻痺だ。一気に決めるぞシビビール! ワイルドボルト!」
シビビールは全身に電撃を纏うと、凄まじい勢いでブースターに突っ込んでいく。
「来るよブースター、迎撃だ。ニトロチャージ!」
ブースターも燃え盛る炎を纏い、その炎を推進力にするかのように地面を蹴り、勢いよく飛び出す。
しかし、
飛び出した直後、ブースターの動きが止まってしまった。
「っ、麻痺が……!」
これはフィアの不運だろう。単純に純然に、賭けに負けた結果だ。
もしブースターがシビビールと正面からぶつかり合えば、勝つのは十中八九ブースターだっただろうが、ここに来て麻痺が発動してしまい、ブースターの動きは完全に停止している。炎も消えてしまった。
そんな無防備を晒すブースターに、シビビールの容赦ないワイルドボルトが炸裂する。
「ブースター!」
飛び散った電撃による砂煙が舞い上がり、二体のポケモンの姿を隠す。二人はしばらく静止の状態が続いたが、やがてフィアの口から声が漏れる。
「っ、ブースター……」
倒れていたのはブースター。当然だ、体力が限界ギリギリまで削られていたところにワイルドボルトの直撃を喰らったのだから、戦闘不能にならない方がおかしい。
だが、倒れていたのはシビビールも同様だった。
「あー……反動に耐え切れなかったかぁ」
失敗した、と言うようにテイルは後ろ髪を掻いた。
ワイルドボルトは確かに強力な技だが、代わりに反動があるのだ。シビビールの一撃はブースターにとどめを刺す威力はあったが、同時にシビビール自身の体力をすべて削いでしまう威力もあったようだ。
なにはともあれ、先鋒同士のバトルは相打ちという形で終結した。
「戻って、ブースター。ありがとう」
「お疲れシビビール、よくやってくれた」
それぞれ倒れたポケモンをボールに戻し、テイルはすぐに次のボールを手に取ったが、フィアは少し思考する。
(テイル君のポケモンは、電気タイプが中心……でも前に見た映像と、さっきのシビビールから鑑みるに、特性とかタイプとかで地面技を無効化する。だったらヌマクローは保留かな)
テイルの所持しているポケモンがすべてフィアの考えと合致しているとは言い切れない以上、今はまだヌマクローを温存しておく。なのでフィアは、ヌマクローとは違う電気タイプに強いポケモンが入ったボールを手に取る。
「この折り返しは勝っておきたい。頼んだよ、パチリス!」
「第二ラウンドだ。行くぞ、エモンガ!」
フィアの二番手はパチリス。そしてテイルが繰り出したのは、どことなくパチリスと似た、モモンガのようなポケモン。
『Information
エモンガ モモンガポケモン
高速で滑空しながら電撃を放って
相手を痺れさせる。電気の力を速度
に変換し、高速で飛び回る事も可能。』
「俺の相棒だ。ちょっと早いけど、この折り返しのポイントは取っておきたいからな」
出て来たエモンガはターンし、テイルの肩に乗った。テイルの表情はシビビールの時よりも自信に満ちており、言動も含めてエモンガの実力が伺える。
「さ、バトルを始めるぞ。エモンガ、エアスラッシュ!」
先に動いたのはエモンガだ。エモンガは素早くテイルの肩から飛び立って滑空すると、空気の刃を飛ばしてパチリスを切り裂いた。
「速い……! パチリス、種爆弾!」
パチリスは反撃にいくつもの種子を投げつけるが、エモンガは軽快な動きでそれらを全て回避してしまう。
「だったらこれ、必殺前歯!」
鋭い前歯を剥き、パチリスはエモンガへと飛びかかるが、
「フラッシュだ!」
エモンガはその場で眩い閃光を発し、パチリスの視界を塞いで動きを止めてしまう。そして、
「エアスラッシュ!」
その隙に空気の刃を飛ばしてパチリスを切り裂く。効果はいまひとつなので、ダメージが少ないのが幸いか。
「うぅ、こっちも決定打があるわけじゃないし……せめて一撃の威力を上げるしかないかな。パチリス、帯電!」
本来フィアのパチリスは手数で攻めるのが基本戦術だが、スピードではエモンガに及ばないと見て方針を転換。帯電で攻撃能力を上げ、一撃の威力を高める。
「もう一度!」
「させるか! エモンガ、エアスラッシュ!」
二度目の帯電は、エモンガの放つ空気の刃で阻害されてしまった。
「よっし、行くぞエモンガ。エレキボール!」
「パチリス、反撃するよ。エレキボールだ!」
エモンガとパチリスはどちらも尻尾に電気を凝縮させ、電撃の球体を作り出す。その球体が最大まで圧縮されると、互いに標的を見定め、同時に尻尾を振るった。
どちらも同じタイミングで雷球が放たれる。
一見すれば帯電で特攻も上がっているパチリスの方が威力が高いように思えるが、エレキボールは素早さが高いほど威力も高くなる技。この場合、パチリスよりもエモンガの方が素早いため、実際の威力はどちらも同じくらいになるだろう。
けれども双方の雷球はぶつかり合うことなく紙一重ですれ違い、互いに狙った標的へと吸い込まれるように向かっていく。
そして——
——どちらの雷球も、両方のポケモンに吸収された。
『え?』
フィアとテイル、二人の声がはもる。どちらも何が起こったのか分からない、と言ったような顔をしている。
フィアはすぐにターミナルを開き、テイルは少し考え込む。そして互いの疑問が氷解するのもまた、同時だった。
「電気エンジン……電気技を吸収して、素早さを上げる特性……!」
「そのパチリス、蓄電なのか……珍しいな」
パチリスの特性は蓄電、エモンガの特性は電気エンジン。どちらも電気技を吸収してしまう特性だ。要するにどちらにも電気技は効かず、パチリスは体力を回復し、エモンガは素早さを上げたのだ。
「そうか蓄電か。俺にはちょっとやりにくい特性だけど、種さえ割れればあとはどうにでもなる。エモンガ、エアスラッシュだ!」
エモンガはすぐに滑空し、空中から空気の刃を飛ばしてパチリスを切り裂いた。
「うっ……やっぱり速い、電気エンジンもあるからなおさらだよ。となるとやっぱり、僕らは火力で勝負するしかない。パチリス、帯電!」
パチリスは自身の体に電気を帯び、攻撃能力を高める。だが、テイルはそれを狙っていた。
「そこだエモンガ! アンコール!」
突如、帯電するパチリスにスポットライトのような光が差す。エモンガも拍手をするようにパチパチと手を叩いており、フィアには何が何だか分からず困惑してしまう。
「エモンガ、接近だ!」
そうこうしているうちに、エモンガは速度を上げてパチリスへと一直線に突っ込んで来る。
「何が起こったのか分からないけど、迎え撃つよパチリス。必殺前歯!」
しかし、パチリスは動かなかった。フィアの指示通りに必殺前歯を繰り出さない——否、繰り出せない。
「パチリス……!?」
またフィアは戸惑う。ここですぐに回避を指示すれば良かったものの、気付いた時にはもう遅かった。
「エモンガ、エアスラッシュ!」
パチリスはエモンガにかなりの接近を許してしまい、至近距離から空気の刃をぶつけられる。効果いまひとつと言えど、この距離ではダメージはそれなりに大きい。
いまだ困惑から脱せていないフィアに対し、テイルが口を開く。
「説明するとだ、アンコールは相手が事前に使用した技を続けて使わせる技なんだよ。つまりそのパチリスはしばらくの間、帯電しか使えないのさ」
「そ、そんな……」
これではエモンガが隙を見せたとしても、そこに付け入ることが出来ない。ただでさえ素早いエモンガを捉えるだけでも骨が折れるのに、そこに技の制限間までかけられてはたまったものではない。
「どうしよう……!」
エモンガにはいまだ一撃も入れられず、動きは縛られるばかり。フィアの胸中には、焦燥感が募っていく——
フィア対テイル、ライウタウン大会その二です。最近あまりキーが乗らなくてやばいです。何がやばいのかは分かりませんが。さてさて、遂に実現しました、電気ネズミ同士のバトル。現状ではパチリスが不利、ここからどう転ぶのかは、次回をお楽しみに。