二次創作小説(紙ほか)
- 第62話 scapegoat ( No.159 )
- 日時: 2013/06/06 21:20
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: FLZh3btT)
- プロフ: 技を縛られるパチリス、高速のエモンガにどこまで食らいつけるのか——!
「エモンガ、エアスラッシュ!」
またしてもエモンガの放つ空気の刃がパチリスを切り裂く。避けきれないなら技で相殺しても良いのだが、アンコールで帯電しか使えないパチリスにはそれができない。
「まだまだ! 連続でエアスラッシュ!」
「くぅ、パチリス、躱して!」
エモンガはひたすらエアスラッシュを連射する。パチリスもフィールドを駆けまわって出来る限り攻撃を回避するが、スピードなら圧倒的にエモンガが上。どうしても先回りされて攻撃を受けてしまう。
「悪いな、こっちはエアスラッシュしか有効打がないから、こうでもしないとまともにダメージを与えられないんだ。だけどこれもバトルだから、恨みっこなしだぜ。エモンガ、エアスラッシュだ!」
再三エアスラッシュが放たれ、パチリスが切り裂かれる。一撃一撃は効果いまひとつなこともありさほどダメージはないが、それでもパチリスの体力はダメージが蓄積し、残り僅かとなっているだろう。
「いつになったら解けるんだ……パチリス、必殺前歯!」
フィアが指示を飛ばすが、しかしパチリスは困ったような顔で身振り手振りをするだけで、何も起きない。まだアンコールは解けていないようだ。
「エアスラッシュ!」
「だったら……躱して帯電!」
このままエモンガの攻撃を喰らい続けていてもダメージが溜まるだけ。パチリスはなんとか空気の刃を躱し、体に電気を帯びることで攻撃能力を高める。が、しかし、
「エアスラッシュだ!」
そこにエモンガの空気の刃が放たれ、パチリスは切り裂かれた。しかも今度は急所を切り裂いたようで、かなりのダメージを受けたように見える。あと一撃でも喰らえば戦闘不能になりかねない。
「もう一押しだ。一気に行くぞエモンガ、エアスラッシュ!」
「躱してパチリス!」
エモンガが放つ空気の刃を、パチリスは跳躍して回避する。だがそれがいけなかった。
「跳んだな! 決めろエモンガ、エアスラッシュ!」
空を飛べない限り、空中は生物にとって無防備になる場所。動きが限定され、相手の攻撃を回避することができない状態だ。
そんな状態のパチリスに、エモンガは空気を固めた刃を飛ばす。
「しまった……!」
フィアも自分のミスに気付く。このままではエアスラッシュがパチリスを切り裂き、戦闘不能になってしまう。
一瞬の逡巡の後、フィアは口をつくようにして指示を飛ばしていた。
「一か八かだ……パチリス、種爆弾!」
アンコール状態のパチリスでは、使用できる技は帯電しかない。しかし、もし仮にアンコールが解けているのなら、他の技も使用できる。
果たしてパチリスは、どこからか取り出した種子型の爆弾を襲い掛かる空気の刃に投げつけ、相殺した。
「なにっ、もうアンコールが解けたのか!」
炸裂する種子。帯電でかなり攻撃能力を上げていたため、爆発も大きく、エモンガにもその余波と、相殺されなかった種子が届き、地面に叩き落とされた。
「今だ! パチリス、必殺前歯!」
地面に降り立ったパチリスは、アンコールが解けて自由になったからか、嬉々とした表情を浮かべている。だがすぐに真剣な目つきへと変貌し、鋭い前歯を剥いてエモンガへと飛びかかった。
この一撃が決まれば、エモンガは致命傷は免れないだろう。上手く決まれば戦闘不能もあり得る。んにせよこの一撃で、一気に状況はパチリスが優勢になる——と思われたが。
しかし、
「エモンガ、躱してエアスラッシュ!」
パチリスがエモンガに飛びかかった瞬間、エモンガは飛び立ち、パチリスの背後に回る。そして素早く空気の刃を飛ばし、パチリスを切り裂いた。
「っ!? パチリス!」
その一撃で遂にパチリスは体力の限界を迎え、ばたりとその場に倒れ込んでしまう。
あの必殺前歯が決まっていれば、パチリスの勝ちだったかもしれない。フィアが抱いた期待と余裕が油断を生み、隙を作り出してしまった。ここ一番の重要な場面においての対処は、テイルの方が一枚上手だったようだ。
「危ない危ない、電気エンジンが発動してなきゃ避けられなかったな、あれは」
だがテイルも内心は焦っていたようで、さっきまでの自信ありげな表情を崩していた。
「……戻って、パチリス」
フィアはパチリスをボールに戻す。これでフィアの手持ちは残り一体。
(テイル君のエモンガ相手じゃ、スピードではまず勝てない。けど先制技を持つメタングなら対抗できるはずだし、岩雪崩で弱点も突ける)
そう考えたフィアが掴んだのはメタングの入った。ボールをすぐにそのボールを取り出して構え、メタングを繰り出そうとするが、
「戻れ、エモンガ」
その時、テイルがボールへとエモンガを戻してしまった。
「上がった素早さを下げるのは勿体ないけど、意外にさっきの種爆弾は痛かった。エモンガも結構ダメージ受けちまってるし、ここは素直に交代させるぜ」
と言って、テイルも違うボールを握り正面に突き出した。
(……どうしようか)
ここでフィアは上げかけていた腕を下ろす。
(テイル君のポケモンは電気タイプが中心。三体目のポケモンもそうだと断言は出来ないけど、その可能性は高そうだ。だったらメタングよりもヌマクローか……けどまた浮遊や飛行と複合してる可能性もあるし、それでも電気タイプじゃメタングの攻撃も通りにくい……)
しばらく迷った後、フィアはボールを取り換え、構え直した。
「じゃあ……頼んだよ、ヌマクロー!」
フィアが繰り出すのはヌマクローだ。地面と複合しているため、電気タイプには相性が良い。
しかし、
「相手は残り一体だ。エモンガの出る幕がなくなるくらいに戦おうぜ、ロトム!」
テイルの最後のポケモンは、なんとロトムだったのだ。
「ロトム……そんな……」
フィアは以前、ライカシティのジムリーダー、クリのエースであるロトムと戦ったことがある。その時は勝ったが、あの時は素のロトムの強さをあまり実感していなかったし、勝ち方もルール違反スレスレ。バトルにこそ勝ったものの、ロトム自体に勝ったという感じはしていなかった。
無論、クリのロトムとテイルのロトムが同じ強さだとは思わない。しかしここで重要なのは、ロトムがゴーストタイプであり、特性が浮遊であることだ。
(浮遊を持つポケモンが来ることは覚悟してたけど、まさかゴーストと複合するロトムなんて……これじゃあ、マッドショットだけじゃなくて瓦割りも通じないよ……)
つまり必然的に、ヌマクローの攻撃技はスプラッシュと水の誓の二つに絞られる。たった二つの技だけでは戦略の幅が縮まるし、攻撃も読まれやすくなってしまう。メタングならシャドークローで弱点を突けるのだが、完全にフィアが選出を誤ってしまった。
「今度はヌマクローか、どうしても俺に電気技を使わせたくないみたいだな」
そう、ここでテイルが言うように、テイルのロトムにしたってヌマクローへの攻撃手段が絞られているのだ。つまり、状況はほぼ互角。にもかかわらず、フィアは一方的に不利を感じている。だがテイルは逆に、自身に満ちていた。
性格の問題もあるのだろうが、この辺りがフィアの決定的な弱さの表れだった。
「行くぞロトム、怪しい風!」
ロトムは妖気を含む突風を放ち、ヌマクローを攻撃する。意外と威力が高い攻撃だ。
「く、うぅ……ヌマクロー、スプラッシュだ!」
怪しい風を耐え切り、ヌマクローは水流を纏って突っ込む。
「回避! そして怪しい風!」
だがヌマクローの攻撃は虚しく空振り、そのまま妖気を含む突風の直撃を喰らってしまう。
「もう一度!」
「これ以上はさせない、水の誓!」
三度ロトムが怪しい風を放とうとするが、ヌマクローが拳を地面に叩きつけ、間欠泉のように水柱を噴射してロトムを攻撃し、中断させる。
「瓦——は効かないから、スプラッシュ!」
ヌマクローとロトムの距離は近い。本来なら瓦割りを叩き込んでいるところだが、ロトムには通じないためヌマクローは腕に水流を巻きつけて振りかぶる。
「この距離じゃあ流石に避けられないか……だったらこれだ! ロトム、身代わり!」
直後、ヌマクローの腕がロトムに叩き込まれ、盛大な水飛沫を散らす。直撃なので、喰らえばかなりのダメージになるだろう。
そう、喰らっていれば、の話だが。
「ロトム、怪しい風!」
刹那、ヌマクローの背後から妖気を含む突風が吹き、前のめりになっていたヌマクローは態勢を崩して吹っ飛ばされる。
「っ、ヌマクロー!?」
フィアが慌てて視線を動かすと、そこには悠然とロトムが浮遊していた。ヌマクローの攻撃を受けた形跡は一切見られない。
「何が、起こったの……?」
その一瞬の出来事に、フィアは疑念と不安を募らせる——
最近、部活が忙しくなり始めて更新が停滞気味です。ご容赦ください。というわけで電気ネズミ対決は、テイルのエモンガが制しました。続く両者の三番手はヌマクローとロトム。今更気づきましたが、フィアって電気タイプに強いポケモンが多いですね。電気吸収のパチリスに、無効のヌマクロー。ブースターも間接的ですが、根性が発動するから麻痺にしにくく電気タイプを出しづらい。そう考えるとテイルの天敵みたいですね、フィアって。ですがかなり追い込まれています。では次回、テイル戦決着です。お楽しみに。