二次創作小説(紙ほか)

第63話 shoot down ( No.162 )
日時: 2013/06/17 23:41
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: 一回戦、フィア対テイル、決着——

「身代わりだよ」
 困惑するフィアに、テイルが呼び掛けるように口を開く。
「身代わり……?」
「そうだ。身代わりは自分の体力の一部を削る代わりに、自身の分身を作り出す技。この身代わりはほとんどの補助技を無効化し、相手の攻撃も本体に変わって受けてくれる優れものだ。ま、ある程度のダメージを受けると壊れるんだけどな」
 つまり今の一合、ロトムはヌマクローのスプラッシュを喰らう寸前に身代わりを発動し、身代わりに攻撃を受けさせた。そしてすぐにヌマクローの背後まで移動し、攻撃を仕掛けた、ということなのだろう。
「さあ、どんどん行くぞ! 怪しい風!」
「っ、スプラッシュ!」
 ロトムがまたも妖気を含む突風を放つ。ヌマクローは全身に水流を纏い、水飛沫を散らしながらロトムへと突っ込む。
 小さいわりに意外と特攻の高いロトムだったが、ヌマクローのスプラッシュを押し返すことは出来ず、そのまま接近を許してしまうも、
「ロトム、身代わり」
 ロトムは自身の身代わりを作り出し、それを盾にヌマクローの一撃を回避する。そして、
「怪しい風だ!」
 今度は側面に移動し、怪しい風を吹かす。
「くっ、水の誓!」
 怪しい風を耐え切り、地面から間欠泉のように水柱を噴出させて反撃を試みるが、
「それはもう喰らわねぇ! ロトム、電撃波だ!」
 四方八方から襲い掛かる水柱を、ロトムは波状の電撃で相殺してしまう。
「続けて怪しい風!」
「スプラッシュ!」
 反撃にロトムは妖気を含む風を放つが、水流を纏ったヌマクローがそれを強引に突破し、ロトムに拳を突き出す。
「身代わり!」
 が、その拳もロトムの身代わりに阻まれ、
「怪しい風だ!」
 すぐさま怪しい風による反撃が飛んでくる。
 ここで流石に、フィアの焦りが表情にも表れ始めた。
(まずい、もうこっちのパターンが読まれてる……!)
 最初にフィアが危惧していたことが起こってしまった。スプラッシュは身代わりで防御され、水の誓は電撃波で相殺される。身代わりを使わせれば体力を削れるものの、恐らくは怪しい風のダメージ量の方が多いだろう。
(それに後ろにはエモンガも控えてる、ここではあまり消耗したくない……)
 だが現実はそう上手くは行かない。ヌマクローの攻撃はロトムに通じず、ただひたすら体力を削られるだけ。
 そんな状況を認識してしまったフィアに、悪魔のような声が囁く。
(……よく考えれば、別に僕はここで無理に勝つ必要はないんだ。部長にこちらの存在を知らせるにしたって、あの人がそんな簡単に寄って来るわけがない。むしろここで早々に敗退して、残り時間を部長を探すことに費やした方がいいんじゃ——)
 ヌマクローが入るべきボールを掴むフィア。
 マイナスになった思考。決着が着く以前から負けを認めることは、トレーナーにとって愚の骨頂。完全なる敗者の姿だった。
 だが、そんなフィアを認めない少女が一人、いた。

「フィアっ!」

 観客席の一角から、幼いが、真剣で必死な少女の声が耳に届く。その声の主を辿り、顔を上げると、
「っ、フロル……!?」
 が、立ち上がって叫んでいた。表情もいつもの抜けた感じはなく、真剣そのもの。凄まじい剣幕で、怒っているようにさえ見えた。
「諦めちゃダメ! ぶちょーさん言ってたよ! わたしも応援してるって! それって、他にも応援する人がいるって意味だよね! それって——その人って、フィアのことだと思う! ぶちょーさんもフィアに会いたいし、頑張ってほしいはずだよ! だから、諦めないで——勝って!」
 叫び過ぎて息も絶え絶えになっているフロル。あまりに唐突であったため、隣に座っていたイオンやルゥナですらぽかんと呆けている。
「なに、あの子? フィアの友達?」
 テイルも疑問符的なものを浮かべながら、首を傾げていた。
 俯いて、乾いた笑みを浮かべているのは、フィアだけ。しかしその笑みは、決して負の感情から来るものではなかった。
「……はは、本当にフロルは部長のことが分かってないなぁ。まあ、まともに面識があるわけじゃないから当たり前だけど。あの人がそんなまともな思考をするわけないのに。そうだ、あの人が僕を素直に応援したり探したりすることはないんだ」
 でも、とフィアは呟く。
「このまま僕が負けて、あの人を探そうとしても、あの人は見つからないんだろうなぁ……定石通り、素直にあの人を探し回っても、あの人が見つかるはずない。それなら、向こうに見つけてもらうしかないよね」
 そこで、バッとフィアは顔を上げる。その表情には、さっきまでの諦めが完全に消え失せている。
「そうだ、どうせ探しても部長がみつかるはずがないんだ。だったら徹底的に目立って、向こうに見つけてもらおうじゃないか。意地でも見つけさせてやる」
 自棄になったと思われるような態度のフィアだったが、対戦相手のテイルや観客席のフロルなど、フィアを少なからず知る者は感じていた。彼に起こった変化に。
(定石を投げ捨てる部長のスタイル……探して見つからないなら、見つけさせる。攻略できない相手なら、その根本から突き崩す!)
 フィアは深呼吸し、ジッとロトムを見据える。テイルはそんなフィアの眼光に、臆するどころか喜ぶような笑みを浮かべていた。
「なんだよなんだよ、なんか楽しくなってきたじゃんか。ビリビリしてきたぜ! ロトム、怪しい風!」
 ロトムも嬉々とした表情で妖気を含む突風を放つ。それに対しヌマクローは、
「水の誓だ!」
 地面から水柱を噴射し、突風をシャットアウトしてしまった。勿論、水柱も散らされるが、ほぼ完全に攻撃を防いでいる。ヌマクローの特性、激流で水技の威力が上がっているのだ。
「ヌマクロー、続けて水の誓!」
 再びフィアは水の誓を指示。それを聞き、テイルとロトムは周囲の地面を警戒し、水柱に備える。しかし水柱はどこからも立たなかった。その時に起こったのは——

 ——怪しい風を防いでいる水柱から一塊の石礫が飛来し、ロトムを地面へと撃ち落としたということだけだった。

「なっ……ロトム!」
 地に落ちたロトムは上手く浮遊できず、何度も地面に落下している。
 その現象に困惑しつつ、テイルは一つの答えに帰結した。フィアもターミナルで検索し、同様の解を知る。
「撃ち落とす……!」
 撃ち落とすとは、岩タイプの物理技で、それほど威力のある技ではない。しかしこの技は、名前通り飛行タイプのポケモンや特性浮遊のポケモンを“撃ち落とす”技。
 つまり——
「ヌマクロー、マッドショット!」
 ヌマクローは口から大量の泥を噴射し、ロトムを押し飛ばした。
 ——特性、浮遊が消えたロトムに、地面技を当てることが出来るようになるのだ。
「瓦割りだ!」
 さらにヌマクローは拳をロトムに叩きつけ、吹っ飛ばす。
 マッドショットがよほど効いたのか、瓦割りが急所に当たったのか、はたまたその両方か、たった二撃でロトムは戦闘不能。テイルの手持ちも残り一体だ。
「ここで撃ち落とすを覚えるとか、おっかなびっくりだ。少しまずいことになったけど、頑張ってくれよ、エモンガ!」
 テイルの最後のポケモンはエモンガ。機動力の高い強敵だが、まだエモンガ戦での傷は癒えていない。それに今のヌマクローなら、エモンガにも有効打が打てる。
「ヌマクロー、撃ち落とす!」
 ヌマクローは一塊の石礫を掴むと、エモンガへと投げつける。
「躱せエモンガ! エアスラッシュだ!」
 だがそこは流石エモンガ。空中を滑るように礫を躱し、そのまま空気の刃を飛ばすが、
「スプラッシュで突っ込むんだ!」
 ヌマクローは襲い掛かる刃などものともせず、水流を纏ってエモンガに飛びかかる。激突こそはしなかったが、エモンガの四肢を完全にホールドした。
「しまっ……エモンガ!」
「撃ち落とす!」
 直後、エモンガが地面へと叩きつけるように撃ち落とされる。エモンガはまた空を飛ぼうとするが、上手く風に乗れず、地を這うように動いている。だがその動きは、鈍足なヌマクローから見ても遅い。
「確実に決めるよ、マッドショット!」
 ヌマクローは空中から泥を噴射してエモンガを攻撃。弱点を突き、大ダメージになるだけでなく、エモンガの素早さも落とせる。地に落ちて機動力が下がったところにさらに素早さを落とされ、エモンガの回避能力はないに等しい。
 そしてヌマクローは落下点をエモンガが這っている位置に定め、拳を振り上げた。その拳には、飛沫を散らす水流が渦巻いている。
「ヌマクロー、スプラッシュ!」
 次の瞬間、ヌマクローの水流を纏った拳がエモンガに振り下ろされる。盛大な水飛沫が散り、しばらく視界が塞がれるが、やがて水滴は全て地に落ちていく。
「エモンガ……!」
 果たしてエモンガは——戦闘不能となっていた。



白黒大復活です! やっと部活にひと段落がつき、更新が再開できます。とはいえ全国行きが決定しているので、またしばらくしたら多忙の日々に逆戻り、更新が停滞すると思いますが。近況報告はこれくらいにして、フィア対テイル、決着です。前にフィアは電気タイプに対して強いからテイルの天敵のよう、と述べましたが、今回でヌマクローが撃ち落とすを覚え、さらにテイルキラー具合に磨きがかかってしまいました。どうしましょ、これ。というか撃ち落とすなんて効果も含めてまともに描写したの初めてです。でも飛行と浮遊を無効にするって、結構汎用性高そうですね。では次回、二回戦です。お楽しみに。