二次創作小説(紙ほか)

第64話 illusionist ( No.166 )
日時: 2013/06/21 22:17
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: 二回戦、フィアが相手取るはポケモンバトルの奇術師。

 一回戦を突破したフィアは次の試合が始まるまで会場内や街中を駆け回ったが、彼女と思しき人物は見受けられない。しかし目撃情報は多からずもあったので、この街にフィアの探し人がいることはまず間違いないようだ。
 そして二回戦、フィアの相手は、またも見知った顔の人物だった。
「やぁ、久しぶりだね、フィア君」
「ハブラさん……」
 クールな印象を与える燕尾服の青年、ハブラ。
 ライカシティで起こった停電騒動。解決に導いたのはフィアとクリだが、あの事件で死傷者がいなかった功績の多くは彼にあるのだ。
「あの時は共に手を取り合ったけど、今回はバトルの大会だからね。遠慮せずに行かせてもらうよ」
 と言いながら、ハブラはボールを大仰に構える。フィアも若干押されながらも、ボールを取り出した。
「さぁ、『ポケモンバトルの奇術師』の力、存分に見せようじゃないか! 出て来い、ファントマ!」
 ハブラの一番手は、人魂のような紫炎のポケモン。球状の体の回りには、炎の破片が舞っている。

『Information
 ファントマ 幻影ポケモン
 大気の温度を上昇させ、周囲に
 蜃気楼のような幻影を発生させる。
 幻影の覇者と呼ばれることはない。』

「炎タイプか、だったら好都合だ。最初は君だよ、ヌマクロー!」
 フィアの一番手はヌマクローだ。水と地面タイプなため、攻防共にファントマとは相性が良い。
 だがハブラは、相性が悪いにもかかわらず、むしろこちらが好都合だと言いたげに微笑む。
「へぇ、ヌマクローか。確かにファントマを相手取るにはベストなチョイスかもしれないね。でも、ポケモンが苦手なタイプの対策をしていることは当然のこと。そこが少し甘いかな」
 滔々と流れるように指摘し、
「ファントマ、エナジーボール!」
 ポケモンへの指示で締め括った。
 ファントマは目の前に自然の力を凝縮した緑色の球体を生成し、ヌマクローへと放つ。
「草技……! ヌマクロー、躱して!」
 ヌマクローはその攻撃を転がるように紙一重で回避する。
「マッドショットだ!」
 そしてすぐさま起き上がり、大量の泥を噴射して反撃に出るが、
「それは効かないよ」
 ヌマクローの放った泥はファントマへは届かず、地面に落ちてしまった。
「ファントマの特性は浮遊だ。それがどんな形であれ、地面技は効かない。さぁファントマ、エナジーボール!」
 ファントマは悠然と浮遊したまま、再び自然の力が凝縮された球体を放つ。
「地面技が効かないのか……ヌマクロー、躱して瓦割り!」
 今度は先程よりも余裕を持ってエナジーボールを回避し、ヌマクローはファントマに接近。そしてそのまま拳を叩き込んだ。
「物理技で攻めてくるか。だったらファントマ、怪しい光だ!」
 一瞬、ファントマの動きが止まる。ヌマクローの視線に合わせ、その目の動きを追っている。
「……っ!」
 不意にフィアの背筋に冷たいものが走った。頭の中で警笛が鳴り、危険信号を送っている。
 口をつくように、しかし考えなしではなく、フィアはヌマクローに指示を飛ばした。
「スプラッシュ!」
 ヌマクローは水龍が巻かれた拳を地面に叩きつけ、その衝撃で水飛沫を散らす。その飛沫により、視界が塞がれた。
 ファントマの視界が、ではない。ファントマの視界も塞がれたが、フィアが塞ぎたかったのは、ヌマクローの視界だ。
「へぇ、水飛沫で怪しい光をシャットアウトするなんて、やるじゃないか。ファントマ、熱風」
 ファントマは高温の熱風を発し、飛び散る水飛沫を一瞬にして蒸発させてしまう。
「熱い……ヌマクロー、瓦割り!」
 熱風の威力はなかなかだが、ヌマクローには効果いまひとつ。大きなダメージにはならないので、ヌマクローはすぐに反撃に出られた。再び拳を突き出し、ファントマを殴りつける。
「スプラッシュだ!」
 続けて水流を纏った腕も振り下ろしたが、これは躱された。やはり効果抜群の攻撃だけは喰らいたくないようだ。
「熱風」
「二連続でスプラッシュ!」
 ファントマの反撃に熱風が発せられるが、ヌマクローはまず一撃目に水飛沫を散らして熱を削ぎ、二撃目に水を纏って突貫した。一撃目で威力を落としたので、ヌマクローは簡単に熱風を突っ切ってファントマに突撃することができた。
「ファントマ、熱風だ」
 だがそれでもファントマは熱風をやめない。またも高温の風を吹かす。
「ヌマクロー、スプラ——ん?」
 ヌマクローに指示を出そうとするフィアの声が途切れる。その理由は、違和感を感じたから。
 違和感というか、ファントマが明らかにおかしな動きを見せているのだ。
(なんだろう、あれ。ファントマがおかし——)
 と思った次の瞬間、フィアの視界の端に紫色の何かが映った。
「っ——瓦割り!」
 咄嗟に指示を出す。ヌマクローも半ば慌てたように拳を振るい、いつの間にか真横に接近していたファントマを殴り飛ばして距離を取った。
「うーん、やっぱり水技があると、思うように蜃気楼を作り出せないなぁ……」
 弱ったようにハブラが呟く。
 ファントマは自身の熱と能力を併用することで、蜃気楼を発生させることができる。ファントマを使用するトレーナーもこの原理を利用し、相手を惑わしながら戦うのだが、こと水技を使う相手ではこの戦術が使いにくいのだ。
 理由は単純明快、気温が下がるから。ファントマの作り出す幻影は、非常に繊細な温度調節を要する。そこに水技を使われてしまえば、その場の気温が下がり、幻影が不自然になってしまう。先ほどフィアがファントマの接近に気づけたのも、ヌマクローのスプラッシュで気温を下げられ、ファントマの蜃気楼が不安定になったからだ。
「このままじゃ『ポケモンバトルの奇術師』の名が廃ってしまうな。少し攻め方を変えてみようか」
 ぶつぶつと一人ごちるハブラ。しばらくして顔を上げると、ファントマへ指示を出す。
「ファントマ、エナジーボール!」
 ファントマは自然の力を集めた緑色の球体を生成し、放つ。
「ヌマクロー、躱して!」
 草技はヌマクロー唯一の弱点、しかも喰らえばダメージは四倍だ。少し大袈裟に地面を蹴り、横っ飛びしてその球体を回避するが、
「続けて熱風!」
 直後、ファントマは熱い風を発し、ヌマクローを追撃。効果いまひとつでダメージもそこまで大きくないが、ヌマクローの動きが止まる。そして、
「悪巧みだ!」
 その一瞬の隙に、ファントマは脳を活性化させ、特攻を一気に上昇させる。
「……っ」
 フィアは歯噛みする。比較的特攻の高いファントマがさらに特攻を上げられては厄介だ。特に熱風は、ヌマクローでは完全に回避することが不可能なため、一撃の威力を上げられたらたまったものではない。それになにより、
「エナジーボール!」
 間髪入れずにファントマは緑色の球体を発射。その弾速や大きさは、悪巧みを使う前のものとは段違いだ。
 なにより、エナジーボールが強化され、躱し難くなってしまうことが脅威である。
「ヌマクロー、躱して!」
 ヌマクローはとにかく攻撃を回避する一心で横っ飛びし、転げるようにエナジーボールを回避するが、
「熱風だ!」
 ファントマは続け様に熱風を吹きつける。悪巧みで威力が倍増しているため、効果いまひとつでもダメージが大きい。
「もう一度!」
「これ以上まともに喰らったら危険……連続でスプラッシュ!」
 再びファントマが熱風を吹きつける。それに対しヌマクローは、水流を巻きつけた拳で地面を何度も殴りつけ、水飛沫を何度も散らす。それで熱風が遮断できるはずもないが、威力はかなり減衰されたようで、ダメージは大分と抑えられた。
 だが同時に、フィアの視界の端で紫色の何かが蠢くのも捉えた。
「ファントマ、怪しい光!」
 不完全ながらも蜃気楼を利用したのだろう、いつの間にか接近していたファントマは文字通り目を光らせる。瞳に映る光は次第に大きくなっていき、やがて眩い閃光となることは直感で分かった。
 この距離だ、回避することは不可能だろう。しかしかといって、今から接近し、攻撃するには間に合わない。遠距離攻撃のマッドショットも通じない。
 だがヌマクローには、もう一つ、ファントマに有効な技があった。

「ヌマクロー、撃ち落とす!」

 ヌマクローはバトルで削れた地面から石礫を一つ掴み、素早くファントマへと投げつける。
 今まさに閃光を放とうとしたファントマはその礫の直撃を喰らい、文字通り地面へと撃ち落とされた。
「っ、ここで来たか……!」
 歯噛みするハブラ。彼もフィアの一回戦を観ているので、ヌマクローがこの技を覚えていることは承知していたが、まさかこんな一か八かのタイミングで来るとは思わなかったようだ。
 そこまでフィアが計算に織り込みこの技を指示したのならば格好がつくのだが、しかしこの時フィアが思っていたことと言えば、
(下手に技を見せて対策されたら敵わないし、どのタイミングで撃つか迷ったけど……結果的に当たって良かったよ)
 などと少しずれていた。
 何はともあれ、ヌマクローの撃ち落とすがファントマに直撃し、ファントマは地に落ちた。となれば当然、ファントマの特性、浮遊が打ち消されるわけで、
「なっ、ぐ……ファントマ!」
 ファントマは浮遊できない、つまりそれは、ファントマの動きを完全に止めることと同義であった。浮遊することでしか移動できないファントマから浮遊の特性を奪えば、動けなくなることは明白だ。
「ヌマクロー、マッドショット!」
 動けずにいるファントマに、ヌマクローは容赦なく泥を浴びせる。浮遊が消えたので地面技も通じ、効果抜群なのでダメージもそれなりに大きい。
「くっ、エナジーボールだ!」
 ファントマはせめてもの抵抗にと巨大な緑色の球体を発射するが、地面に這いつくばったままでは上手く軌道がコントロールできないようで、明後日の方向へと飛んで行ってしまう。
「スプラッシュ!」
 その間、ヌマクローは全身に水流を纏ってファントマへ突貫。全身全霊の水の体当たりをかまし、壁まで吹っ飛ばした。
「ファントマ!」
 効果抜群の攻撃を連続で喰らい、終いには壁に叩き付けられたファントマは、見るまでもなく戦闘不能となっていた。



三者懇談、科目選択、進路調査……二年生と言えども、やらね蹴ればいけないことは多いのですね。部活に区切りがついたのに、更新は相変わらず停滞気味です。はい、というわけで二回戦、フィア対ハブラです。ファントマの説明文、最後の一行は完全完璧にネタですね。正直に言えば、書くべきことが思いつかなかっただけですが。それにしても、ヌマクローの撃ち落とすは意外と役に立ちますね。ゲームでも地味な技ですが、今作品では意外と活躍するかもしれないです。もういっそ、今作では地味な技を活躍させるという方針に転換してもいいかもしれません。それでは次回、ハブラ戦その二です。お楽しみに。