二次創作小説(紙ほか)

第66話 decorative plant ( No.172 )
日時: 2013/07/14 20:20
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: ポケモンバトルの奇術師、いよいよ本領発揮か——

「戻って、パチリス」
 フィアはパチリスをボールに戻す。パチリスが与えたダメージは恐らくまた回復されてしまうのだろうが、リーフィスの弱点が判明しただけでも十分な収穫だ。
(リーフィスの弱点は鉢の内側。となると、小回りの利くポケモンがいいかな。メタングは……少し難しいかもしれないから、相性は悪いけど、ここは君に任せたよ)
 フィアは次のボールを握り締め、力強く放る。
「出て来て、ブースター!」
 フィアの二番手はブースターだ。リーフィスとの相性は良くないが、スピードに関してはフィアの手持ちでパチリスに次ぎ、自身で素早さを上げる術もある。弱点である水技も、リーフィス程度の特攻なら一発二発喰らったくらいではやられないだろう。
「ふぅん、リーフィスに対してブースターねぇ。熱湯で火傷することを嫌ったのかな? それ以外の目的もありそうだけど、どうやら手数で攻める気のようだね」
 全てではないが、フィアの考えは概ねハブラに見透かされてしまっている。ただまあ、ばれたところでさしたる支障があるわけでもないし、どうせすぐに露見することだ。隠すほどではない。
「行くよブースター。ニトロチャージ!」
 ブースターは全身に燃え盛る炎を纏い、それを推進力にしてリーフィス目掛けて突っ込む。
「リーフィス、光合成だ!」
 対するリーフィスは、迎え撃つことはせず、真っ先にパチリスにやられた傷を回復させる。そしてそのすぐ後、ブースターの突撃を真正面から受け止めた。
 鉢に当たったのでダメージは少ないが、しかしリーフィスの体が少し傾く。バランスが崩れかけているようだ。
「等倍程度じゃあリーフィスへの決定打にはならないけど、やっぱりブースターは力が強いね。熱湯!」
 リーフィスは体のバランスを崩したまま、熱く煮え滾る熱湯を噴射する。
 いくら威力の低い熱湯で、特防の高いブースターでも、水技は弱点だ。好き好んで喰らいたいものではない。ブースターはバックステップで後ろに下がり、リーフィスの熱湯を回避する。
「逃がさないよ。宿木の種!」
「それは効きませんよ。火炎放射!」
 リーフィスが追い打ちのように射出した宿木の種を、ブースターは燃え盛る火炎で焼き払ってしまう。
「ニトロチャージ!」
 そしてすぐさま炎を纏い突撃。リーフィスと正面からぶつかり合う。
「続けてアイアンテールだ!」
 ブースターは前足で地面を蹴りつけ、その勢いで跳躍。空中で一回転し、鋼鉄のように硬化された尻尾をリーフィスの脳天に叩き込む。
 効果はいまひとつだが、その一撃はリーフィスをのけぞらせるには十分な一撃だった。リーフィスがのけぞるということは、リーフィスに隙ができ、そしてリーフィス本体とガラス鉢の間に隙間ができるということ。
 つまり、
「そこだよブースター! 火炎放射!」
 ブースターはその隙間目掛けて炎を噴射する。ブースターの放つ炎は綺麗にリーフィスの首筋を通り、鉢の中に吸い込まれるようにして入っていく。
「っ! リーフィス!」
 再びリーフィスは絶叫する。それもパチリスの攻撃よりも大きい悲鳴だ。
「畳み掛けるよ! アイアンテール!」
 ブースターは一度地面に降り立ち、再び跳躍して今度は振り上げるような尻尾の一撃を繰り出す。弱点を攻撃されて悶え苦しんでいるリーフィスはさらなる追撃を受け、完全に態勢を崩してしまう。
「まずいな、なんとか立て直さないと……リーフィス、光合成だ!」
「させない! ブースター、ニトロチャージ!」
 リーフィスは天を仰いで日光をその身に浴び、傷を癒す。だがそこにブースターが炎を纏って突っ込み、光合成は中断されてしまった。
「怯むな! 光合成!」
 だがそれでも、リーフィスは粘り強く光合成をして体力を回復させる。しかし、
「火炎放射!」
 ブースターは飛び上がり、上空から炎を放つ。その炎はリーフィスの頭部を包み込み、そのまま鉢の内部へと移っていく。その過程で、リーフィスはまたも叫ぶ。
「くっ、このままじゃ回復が追いつかない……!」
 リーフィスはかなりタフで、ニトロチャージによる急な衝撃では中断したものの、燃え移った炎を受けても光合成を中断させていない。そのため今も体力は回復しているのだが、それ以上にブースターの炎が激しく、回復が間に合わない。
「仕方ない、火傷する危険もあるけど、一旦消火しようか。リーフィス、真上に熱湯だ!」
 リーフィスは鉢の中で燃え盛る炎のダメージに耐えながら、正に間欠泉の如く真上に熱湯を噴射する。真上に打ち上げられた熱湯はしばらくして落下し、リーフィスに降り注ぐ。熱い水がリーフィスに襲い掛かるが、しかし鉢の中の炎は消火できた。あのまま燃やされ続けるよりは断然マシだろう。
「あんな方法で炎を……凄いなぁ」
 フィアはというと、その捨て身の防御に素直に感心していた。だがすぐに切り替え、
「ブースター、ニトロチャージ!」
 ブースターが炎を纏ってリーフィスに突進する。
「今度はしっかり耐えてくれよ、光合成!」
 対するリーフィスはどっしりと構え直し、照りつける太陽光をその身に浴び、体力を回復させる。その途中でブースターが突っ込んできたが、今度は予め攻撃されることが分かっていたので、中断することなく耐え切ることが出来た。
「あんまり期待はできないけど、ついでにこっちからも回復しておこうか。リーフィス、ギガドレイン!」
 光合成を終えたリーフィスは、地面から蔦のような植物を伸ばす。蔦はうねり蠢き、つかみどころのない動きで瞬く間にブースターに絡みつく。
「ブースター!」
 そしてブースターは、その蔦を通じてリーフィスに体力を吸われてしまう。とはいえ、特殊攻撃なら特防の高いブースターには通りにくく、しかも効果はいまひとつ。受けたダメージも回復量も大したことはないが、
「おまけだ、熱湯!」
 蔦から解放された直後、ブースターは熱湯の直撃を受けて吹っ飛ばされてしまった。
 致命傷と言うほどでもなく、熱湯によるダメージは少ない。しかしパチリスの時と同じように、悪いことは重なるもの、そして連鎖するものだ。
「? ブースター……?」
 フィアはブースターの実に異変が起きていることを察する。ブースターは体を小刻みに震わせており、体が少しふらついている。顔色も悪い。
「どうしたの……?」
 まさか熱湯が急所にでも当たって、意外とダメージが大きかったのだろうかと思ったが、これは単純に大ダメージを受けた様子ではない。熱湯は攻撃と同時に火傷状態を引き起こすことのある技だが、そもそもブースターは炎タイプ、火傷状態になるはずもないので、その可能性もない。
 だが、ふとフィアの脳裏にある単語が浮かび上がる。それと同時に、口をつくようにしてその言葉を呟いた。
「まさか……毒?」
 毒状態。状態異状の一つで、徐々に体力が失われていくという点では火傷に似ているが、攻撃力は低下しない。だが猛毒状態という毒状態のさらに上の状態なら、時間の経過と共に失われる体力量が増加するというおぞましいものとなる。
 耐久型のポケモン、特に毒タイプのポケモンが得意とする状態異状なのだが、ブースターの症状はその状態とよく似ている。
「でも、リーフィスが繰り出したのは熱湯、毒状態にできる技じゃない。他の技もそうだし……じゃあ、何で……?」
 フィアの疑問は最もである。熱湯でもギガドレインでも宿木の種でも光合成でも、相手を毒状態にすることはできない。
 その答えは、ハブラが示した。
「まぁ、こればっかりは説明しないと分からないだろうね……と言っても、詳しく説明できるほど自分でも理解しているわけでもないけどね。ただこれは、そういうことなんだ。そういう現状が起きてしまう僕がいる。もっと言えば、僕のポケモンはこういうことができるんだよ。どんな技でも状態異状が起こりうる。ポケモンの技に状態異状の追加効果を与えるって言えば分かりやすいかな? 状態異状付加、なんて言えばそれっぽいけどね」
 長々と饒舌に語るハブラだったが、フィアは彼の言い分からこの現象が何なのか、概ね察しはついた。以前にも経験していることなのだが、その時の現象とはかなり違っていたので分かりにくかったが、なんとか思い出せた。
(これって、ルゥ先輩の技合成みたいな能力だよね……技合成に比べたら地味だけど、厄介だ)
 厄介だ——が、この状況は決してフィアにとって悪いものではない。技に状態異状の追加効果を付加させるという能力は確かに厄介で、それが耐久型のポケモンとなればなおさらだ。
 しかしフィアのブースターは、そんな逆境でこそ真価を発揮する。
「っ」
 ハブラが少し後退する。その視線の先には、熱湯を喰らって吹っ飛び、今まさに起き上がったブースターの姿。毒に侵されて顔色を悪くしているブースターがいるが、その気迫は尋常ではなかった。途轍もない圧力が発せられ、気圧されそうになる。
「ブースター、ここからが本番だよ。ここからが、君の独壇場だ」



というわけでハブラ戦その三です。ここで初めてハブラの能力が明らかになりました。ちなみに今作では、能力という概念自体を知らないトレーナーの方が多いという設定です。知っているのはルゥナのような機関に属する者か、その関係者くらいです。ジムリーダーとかは大抵の人は知っていますが。さて、それでは次回、そろそろ二回戦も終えたいなーということで、次回もお楽しみに。