二次創作小説(紙ほか)

第70話 パワーvsスピード ( No.178 )
日時: 2013/07/19 02:39
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
プロフ: 力のブースターと速度のサンダース、せめぎ合う両者の間に——

 一つの街における異常とは何だろうか。
 たとえば地方ひとつを騒がせるテロリストが潜伏している、建物が次々と倒壊していく、人が失踪する——数え上げればキリがないが、逆に言えば異常というものは普通ではない状況なら何にでもあてはまるということだ。
 そう、たとえば——無数のポケモンたちが大きなイベントで人気のあまりない街を暴れ回っていても、それは異常ということになる。



「ここまで来たからには、絶対に勝つよ。ブースター!」
「残念だけど、オレだって負けるはないよ。サンダース!」
 準決勝の実質的な最後のバトルともなれば、観客も大いに沸き上がる。
 フィアの最後のポケモンはブースター、対するイオンのポケモンはサンダースだ。
「ブースター、イオン君のポケモンはサンダースだよ。今度こそ勝とう」
 フィアがそう言うと、ブースターはコクリと頷く。
「よし、それじゃあブースター、まずはニトロチャージだ!」
 ブースターは全身に炎を纏い、それを推進力としてサンダースに特攻するが、
「遅い遅い! 高速移動!」
 次の瞬間、サンダースの姿が消えた。
「えっ……!?」
 いや、消えたのではない。文字通りの高速移動でどこか別の場所へと瞬時に移動しただけだ。
「どこに……?」
 キョロキョロと辺りを見回すフィアとブースター。すると、
「シャドーボール!」
「っ! 上か!」
 頭上から影の球が何発も放たれ、ブースターに襲い掛かる。
「さらに磁力線!」
 サンダースは着地するより早く磁力の波を放ち追撃をかける。効果いまひとつだが、ブースターの動きを一瞬でも止めるには十分だ。
「どんどん攻めるよ、マッハボルト!」
 その一瞬で着地し、態勢を安定させてからサンダースは全身の体毛を針のように鋭く立たせる。そして次の瞬間、無数の電撃が機関銃のようにサンダースから射出され、ブースターの体を豪雨のように殴りつける。
「う、ぐ……やっぱり速い……!」
 フィアの目には、シャドーボールからマッハボルトまでの一連の動きがほぼ一瞬の出来事のように感じられた。イオンのポケモンはどれも攻撃前後の隙が異様なまでに存在しないのだが、サンダースはその中でもずば抜けている。
「シャドーボール!」
「打ち返して! アイアンテール!」
 サンダースが放つ影の球を、ブースターは鋼鉄の尻尾で強引に弾いてしまう。
「素のスピードも速いし……ブースター、ニトロチャージ!」
 スピードにはスピード、ブースターもニトロチャージで対抗しようとするが、
「だから遅いよ! 高速移動!」
 ニトロチャージは当たらなければ意味がない。サンダースの高速移動でまたも回避され、背後を取られてしまう。
「連射、マッハボルト!」
 そしてまたマッハボルトを連射。ブースターにマシンガンのような電撃が襲い掛かる。
「くぅ、火炎放射だ!」
 だがそこでブースターも意地を見せる。無理やり体を捩じり、電撃を突き破る炎を噴射してサンダースを攻撃する。
「おぉっと!? 高速移動で回避!」
 サンダースはギリギリのところで高速移動を使い、大きく跳躍して回避するが、イオンは珍しく驚いたような表情を見せる。
 だがその驚きを、ここで止めるフィアではない。
「ブースター、アイアンテール! サンダースを叩き落とすんだ!」
 サンダースが程よい位置まで落ちてくると、ブースターも跳び上がり、一回転しつつ鋼鉄のように硬化された尻尾をサンダースへと振り下ろす。
「うっそ、マジで? まさか直撃を喰らうなんて……」
 イオンが今大会で注目されていた理由は、一回戦から今に至るまで、このサンダースでは一度も相手の技の直撃を喰らっていないからだ。そんなサンダースに、フィアが効果いまひとつと言えども直撃を喰らわせたため、会場はさらに沸く。
「まだまだ! アイアンテール!」
「回避だ!」
 続けてブースターは落下しながら鋼鉄の尻尾を振り下ろすも、今度はサンダースに避けられる。しかし、
「起死回生!」
 ブースターもとことん喰らいつく。前足に力を込めてサンダースへと突っ込み、勢いよく突き出すが、
「高速移動!」
 サンダースは高速で後退し、攻撃を躱す。しかも反撃するための距離は最低限保っており、突かず離れずの距離だ。
 そして、その距離が仇となる。
「っ、サンダース!?」
 ブースターの起死回生は躱されてしまったが、しかし空振った攻撃はそこで終わりではない。ブースターの攻撃はそのまま地面を抉り、そして小さな岩塊を飛ばしたのだ。
 その岩塊をぶつけられ、サンダースはよろめいてしまう。
「ブースター、ニトロチャージ!」
 そこにブースターが炎を纏って突撃。サンダースを吹っ飛ばした。
「やっば……やばやばだ。サンダース!」
 サンダースは空中で回転しつつ、なんとか態勢を立て直し、着地。
「やるねー、フィア君。前に戦った時より断然強いじゃん」
「僕だって、いつまでも負けてはいられないからね」
「へぇ、ま、そうだよね。そんじゃー反撃開始! 磁力線!」
 サンダースは磁力の波を放つ。不可視の攻撃なので、避けるのは難しいが、
「だったら突き破る! ニトロチャージだ!」
 ブースターは炎を纏って突撃し、強引に磁力線を突っ切ってしまう。
「やっぱそう来るかー。ならなら、高速移動! そんでもってシャドーボールだ!」
 サンダースは高速移動でブースターの突撃を躱し、背後に回る。そして影の球を生成して撃ち出した。
「来るよブースター。アイアンテールで弾き返す——」
「マッハボルト!」
 ブースターが尻尾を鋼鉄のように硬化させて構えた瞬間、電撃がブースターに襲い掛かった。
「っ!?」
 さらに次の瞬間には、シャドーボールがブースターを直撃する。
「シャドーボールだ!」
 何が起こったのか理解が追いつかないフィアをよそに、サンダースの攻撃は続く。
「くっ、今度こそ跳ね返して! アイアン——」
「マッハボルト!」
 しかし、ブースターの攻撃はマッハボルトによって中断され、直後に影の球が襲い掛かる。
 先にシャドーボールを撃ったにもかかわらず、マッハボルトが先に襲い掛かる謎の現象。とはいえ、フィアがその現象のからくりを理解するにはそう時間はかからなかった。
「そうか、時間差……!」
 時間差というより、攻撃スピードだ。
 当然だが、マッハボルトは先制技で、先制技はほとんどの技に対して先に攻撃できる。つまり攻撃スピードが速い。そしてシャドーボールは先制技ではないため、マッハボルトよりも後に攻撃することになる。
 つまりイオンのサンダースは、先にシャドーボールを撃ってブースターのアイアンテールを誘い、続けてシャドーボールよりも弾速の速いマッハボルトを撃つことでブースターの動きを止め、そのままシャドーボールを当てているのだ。
「種が分かれば避ければいいだけだよね。ブースター、火炎放射だ!」
 ブースターは口から炎を噴射する。
「磁力線……よりもこっちがいいか。高速移動!」
 サンダースは瞬く間にブースターの背後へと高速移動する。そして、
「マッハボルト!」
 至近距離から電撃を連射。一撃一撃は軽いが、それでもこんなバルカン砲のように連射されれば流石にダメージは大きくなる。
 だがしかし、一撃が軽いのなら対処のしようはある。対処というには、些か強引ではあるが。
「ブースター、起死回生!」
 ブースターはマッハボルトの連射を喰らいながらも、起死回生の一撃を繰り出す。まだフルパワーではないが、それでも十分な破壊力を持った一撃だ。
「っ、サンダース!」
 寸でのところで身を退いたサンダースだが、それでも直撃を避けたというだけで、かなりのダメージを受けてしまった。
 だがサンダースも、ただではやられない。
「磁力線!」
 吹っ飛びながら、態勢を立て直しながら、サンダースは磁力の波を放ってブースターを攻撃し、反撃を止める。さらに、
「シャドーボールだ!」
 一際大きい影の球を生成してざりざりと地面を滑りながら発射。影の球はブースターに直撃し、吹っ飛ばす。
 互いのポケモンは元々の位置まで押され、心身ともにイーブンな状態となった。
「ふぅー、思った以上に強くなってるねー、フィア君」
「そういうイオン君だって、前よりもずっと強いよ。全然気が抜けない」
「はは! まーオレなら当然かなー? ……つっても、オレもオレで実はかなりギリギリなんだけど」
 軽く会話を交わす二人。
 ブースターもサンダースも、残り体力はそう多くない。もうすぐこの準決勝も決着が着くだろう。
「よっし、そんじゃー決めるか、サンダース!」
「全身全霊全力で、迎え撃とう、ブースター!」
 サンダースがバチバチと電気を弾かせ、ブースターも激しい熱気を放つ。
 両者共に最後の力を出し切り勝利するべく、自身を奮い立たせている、その刹那——
「え?」
「ん?」

 ——二体のポケモンの間に、一つの影が落下した。



ひとまずこれで、今大会のフィア対イオンのバトルは終了です。そして次回からはちょっと……どころではありませんが騒動ありで物語が大きく進みます。とりあえず次回は、街に何が起こったかの説明ですかね。というわけで、次回もお楽しみに。