二次創作小説(紙ほか)
- 第72話 she ( No.180 )
- 日時: 2013/07/22 11:10
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: PNtUB9fS)
- プロフ: 混乱の渦中、そこに現れた彼女——
突如ライウタウンに大量発生した、凶暴なポケモンたち。そのポケモンたちの発生源は準決勝の試合が行われていた円形闘技場だが、ポケモンによる被害は闘技場の外にまで広がっていた。
逃げ惑う人々。多くのポケモンは近くのものを手当たり次第に破壊しているだけだが、中には外に出て来るものもいる。多くのポケモンが外に出れば、街中に凶暴なポケモンが跋扈し、被害は尋常なものではなくなるだろう。下手をすれば死傷者も出かねない。
人間は本能として危機感を持っており、現状の危険を、現状を理解していないにもかかわらず危険という事実のみを理解している。ゆえにその本能に従って、周りを見ずに逃げているのだ。
そんな人々の激流を逆走し、ゆったりと歩く者が一人だけいた。
まるで学校の制服のようなセーラー服を着た、背の高い少女だ。しかし少女というには大人びた雰囲気があり、現に大人も子供もパニック状態の中、ただ一人だけ非常に落ち着いている。
彼女も、周りと違う意味で周りを見ず、一つの建物——円形闘技場をまっすぐに見据え、歩を進める。その歩みに迷いは一切見られない。
闘技場の入口付近でひときわ大きな悲鳴が上がった。その悲鳴を合図に、蜘蛛の子を散らすが如く入口周辺の空間が空いた。
その理由は単純明快。凶暴化したポケモンのうち一匹が、外に飛び出して来たのだ。両手に鋭利な刃を装備し、背中には二対の翅と、どことなく昆虫のような意匠を感じられるポケモンだ。
『Information
ストライク 蟷螂ポケモン
目視不能なほどの速度で両腕の鎌を
振るう。その切れ味は斬れば斬る
ほど増していき、鉄すらも両断する。』
彼女は足を止め、周りを見渡した。もうほとんどの観客は闘技場から出ており、辺りに人はいないようだ。
その時、鋭い声が空気を震わせた。ストライクが両腕を上げ、威嚇している。凶暴化しているいない以前に、元々気性の荒いストライクのように見受けられた。
少女はそんなストライクに対し、片腕を伸ばし上げる。そして、まるで手招きをするように掌を空に向け、
くいっ、くいっ
人差し指を小気味良いリズムで縦に振った。
そんなあからさまな挑発に、ストライクは気勢を発する。どう見ても怒っており、挑発に乗っている。
彼女はそんなストライクを見て不敵に微笑むと、スカートのポケットからボールを一つ取り出し、開く。
中から出て来たのは、えらや鰭のある、半魚の哺乳類のようなポケモンだった。青い身体は潤いに満ちており、尻尾は人魚のように長く流線型を描いている。
『Information
シャワーズ 泡吐きポケモン
水の分子によく似た細胞を持つ
ポケモンで、水とほぼ同化する。
その性質で敵から身を守ってきた。』
シャワーズとストライク、片や落ち着いた佇まいで様子を窺い、片や極度の興奮状態で力を溜めている。
先に動いたのは言うまでもなくストライク。両腕の鎌を振り上げて飛びかかってきたが、
「シャワーズ、熱湯よ」
シャワーズも絶妙なタイミングで熱湯を噴射し、ストライクを押し飛ばす。直撃だったのでダメージはそれなりにあるだろうが、ストライクはすぐに起き上がり、また特攻してくる。
「熱湯」
再び熱湯を放つシャワーズ。しかし今度はストライクもただ喰らったりはせず、片方の鎌で熱湯を切り裂き、もう片方の鎌を振るって真空波を飛ばす。が、
「溶ける」
次の瞬間、シャワーズの姿はなくなっていた。真空波は何もない地面を抉るのみ。
シャワーズがどこへ行ったのかとキョロキョロと辺りを見回すストライク。次の瞬間には熱湯を背中から喰らって吹っ飛ばされていた。
「凍える風よ」
続けてシャワーズは、凍てつく風を吹きつける。熱湯で熱くなった体を急激に冷やされ、ストライクは苦しそうな呻き声を上げた。
だが、体は冷えてもストライクの興奮は冷めない。両腕の鎌を交差させ、懲りずに突っ込んで来る。
「凍える風」
対するシャワーズは、再び凍てつく風を吹きつける。しかしストライクは、減速はしたものの止まらない。
「熱湯よ」
だがそこに、シャワーズは間髪入れずに熱湯を噴射。今度は冷やされた後に熱され、ストライクも足を止めてしまい、吹っ飛ばされる。
これでストライクはかなりのダメージを負ったはずだが、しかしまだ闘志は尽きていない。まだ戦い続けるというような目で、彼女とシャワーズを睨み付けている。
そんなストライクを見て彼女は少し思案し、やがてポケットに手を突っ込む。そしてストライクに向かってゆっくりと歩を進めながら、シャワーズに指示を出す。
「シャワーズ、切り札」
刹那、シャワーズの周囲に、蒼色に煌めく長方形の光がいくつも浮かび上がる。カードのようなそれらはゆっくりとシャワーズの周りを旋回していたが、やがて停止し、途轍もないスピードで一直線にストライクへと向かった。
光はストライクの体を切り刻み、衝撃を与え、全身くまなく攻撃する。
この攻撃を喰らい、ストライクは立ち上がれない。体を震わせてはいるものの、起き上がれるほどの体力はもう残っていない。
そこに、歩を進めていた彼女が辿り着く。彼女はポケットから手を出し——その手に握っていたモンスターボールを、ストライクに触れさせる。
ストライクはボールの中へと納まり、彼女は捕獲が成功したかどうかも確認せずに、そのボールをすぐにポケットへと仕舞ってしまった。だがいつまで経っても出て来ないところを見ると、どうやら捕獲は成功したようだ。
シャワーズもボールへと戻し、彼女は再び闘技場に向かって進む。無数の傷が走ったその門を潜り抜け、闘技場の中へと、入っていく——
頭痛い……白黒はたまに、原因不明の頭痛に見舞われることがあるのですが、そんなことはどうでもよいです。文字数がいつもより短いのはおそらく頭痛とは無関係です。今回は遂に彼女の登場、まだほとんど出てないどころか、名前すら明らかになっていないのに、なんだかんだで手持ちのポケモンが既に三体ほど判明してしまいました。次回はフィアやイオンの方にスポットを当てるつもりです。凶暴化したポケモンたちを鎮圧する彼らの、一番の難敵が動き出します。次回もお楽しみに。