二次創作小説(紙ほか)

第11話 グリモワール ( No.29 )
日時: 2013/04/20 20:24
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: ジムリーダーの容姿にはエースポケモンをモチーフにしている部分がある。

 シュンセイジムに見事勝利したフィアは、イチジクから受け取ったアドベントバッジをしばらく眺め、ポケットに仕舞い込む。
 それを見てイチジクは、
「あれぇ? フィアくん、バッジケースはどうしたのぉ?」
「……バッジケース?」
「うん、ジムバッジを保管する入れ物なんだけどぉ……一応バッジケースもないとポケモンリーグには挑戦できないよぅ?」
「え……そうなんですか?」
 コクリとイチジクは頷くが、フィアはそんな話は聞いていない。
「というかぁ、旅立つ時に普通は貰えるものなんだけどねぇ……場合にもるけどさぁ。きみはどうやって旅立ったのかなぁ?」
「えっと、ハルビタウンで博士に……」
 博士に、の後が何と言えばいいのか分からず詰まるフィアだったが、イチジクはそれだけで何かを察したらしく、ぽんっと手を打った。
「あぁ、なるほどねぇ……あの人かぁ。ハルビタウンの博士でしょ? たぶんあの人だったら普通に忘れてたんじゃないかなぁ?」
 連絡してみるといいよぅ、とイチジクに促され、フィアはターミナルを取り出す。昨夜覚えた通信機能を使い、博士に連絡。しばらく待機時間が経過すると、画面に博士の顔が表示された。
「おーぅ、フィアか。どうした? そろそろシュンセイジムも制覇したか?」
「えぇ、まぁ、お陰様で……あの、博士? 一つ訊きたいことが……」
「あ? なんだ?」
 フィアがバッジケースのことを博士に話すと、博士は思い出したように手を叩いた。
「そうだったなぁ、忘れてたぜ。バッジケースか……そうだな、今からハルビまで戻るのはだるいだろうし、つーか俺も俺で準備できてねぇし、ケースの準備ができたらどうにかしてそっちに送ってやるよ。それでいいか? いいな。んじゃまたな」
 プツッと、半ば強引に博士は回線を切った。
「……いい加減だなぁ、あの人も」
「まぁ、それがあのそこ博士だからねぇ……ところでフィアくん、これからどうするのぉ?」
 端に寄せた布団を抱えながら、イチジクはそんなことを聞いてくる。また寝るつもりのようだ。
「どうするって言われても……この島にはもうジムがないんですよね? だったら、次の島に行くしか……」
「それなんだけどぉ、今日の夕方くらいにイトゥルフ島への船が出るんだけどねぇ——」
 今日の夕方というと、今からすぐに近くの港へと向かえば間に合う時間だ。しかしフィアにはフロルという連れがいるし、イチジクもまだ何か言いたげだった。
「——きみはまだ、あの島には行かない方がいいと思うよぅ」
「どういうことですか?」
「あの島はねぇ、すっごく強いジムリーダーがたくさんいてぇ、初心者のきみじゃ太刀打ちできないかもしれないよぅ? 特に強い人が四人いてさぁ、ホッポウのジムリーダじゃ五指に入る強者なんだぁ」
 さらにイチジクは語る。その四人のジムリーダーについて。
「ホッポウ地方最大の軍隊を率いるムゲツシティのジムリーダー、トクサ。四天王カエデの妹でツチフルシティジムのジムリーダー、イロハ。死神と呼ばれ恐れられているヨイヤミシティジムのジムリーダー、リンネ。そしてぇ」
 一拍置き、緩やかな口調は崩さないものの緊張感のある空気を出してイチジクは続ける。
「ジムリーダーとしての公式戦記録は無敗、ホッポウ地方最強のジムリーダー、リッカシティのハッカ。いまだかつて彼を破った挑戦者はいないんだぁ」
「……!」
 いくらものを知らないフィアでも、その記録が凄いというのは分かる。いやむしろ、凄すぎてよく分からないレベルに達しているかもしれない。
 公式戦無敗、ジムリーダーとしては負けたことのない、ホッポウ地方最強のジムリーダー。確かに、そんな人にフィアが到底及ぶとは思えなかった。
「まぁ、ハッカさんは手加減容赦せずに挑戦者を薙ぎ払っちゃって、ジムリーダーとしての資質を本部に疑われてるんだけどねぇ……ぼくから言わせてみれば、あの人は負けて得るものを教えてると思うんだけどさぁ」
 それはともかくぅ、とイチジクはさらに緩く続け、
「だから今日は休んでぇ、明後日のクナシル島行きの船に乗るのをお勧めするよぅ。確かいっしょに港でバトル大会もあった気がするしぃ、挑戦してみたらぁ?」
 それじゃぁぼくはそろそろ寝るねぇ、おやすみぃ、などと言って、イチジクは布団に入ってしまった。
 やる気のなさそうな人だと思ったが、ジム戦後の進路相談までしてくれるとは、意外とイチジクは面倒見がいいのかもしれない。そんなことを思いながら、フィアはシュンセイジムを後にした。



 後日、フィアはフロルと共にジムの前まで来ていた。二人で旅をしている以上、フロルもジムをクリアしなければならない。今日はフィアは観戦だ。
「フロル、大丈夫……?」
 ジムを前にして立ち止まるフロルを見て、フィアは声をかける。
「うん、だいじょうぶだよ。昨日すっごいポケモン捕まえたから、この子で今日こそイチジクさんに勝つんだ」
「そう……ならいいけど」
 しかしやはり緊張はしているようで、少し手が震えている。しかしそれでも、フロルは意を決して足を一歩踏み出した。その時、
「フィア君! いいところに! ちょっと来て!」
「え? え? な、なにっ? 何事!?」
 一陣の黄色い風が吹き、フィアがさらわれた——もとい、凄い勢いで走ってきたイオンが、偶然見つけたらしいフィアの手を取り、強引に引っ張っていった。
「あ、あれ? フィア?」
 あまりに唐突だったため、フロルはなにが起こったのか理解ができず、周りをきょろきょろと見渡す。近くにフィアの姿はない。
 少しして、フロルのターミナルが震えた。
「……あ、メールだ。フィアから?」
 ターミナルを開き、メールを読む。そこには短い一文が書かれていた。

『ごめん、先にジム戦してて』



「ポケモン泥棒!?」
 イオンに連れて行かれたフィアは、現在イオンと並走し、どこかしらへと向かっている。その途中でイオンから話を聞くと、なんとポケモン泥棒が発生し、イオンはその犯人を追っているところらしい。
「そーそー。オレもあんまこーいうのに首は突っ込みたくないけど、目の前でされちゃぁ、流石に見て見ぬ振りもできないっしょ。つーわけでフィア君も手伝って。相手は二人組だったから、こっちも二人だ」
「うん、まあそれはいいけど……犯人はどんな人? どこに向かってるの?」
「犯人はグリモワールっていう組織だと思う。オレもあんま詳しいことは知らないけど、なんでも犯罪者を解放してる組織だって話だ」
「犯罪者を解放?」
 イオンの言葉を、フィアは復唱する。
「どういう意味?」
「そのまんまの意味。警察機関を襲って、檻から犯罪者を脱獄させてるんだよ。んで、脱獄した犯罪者の大半は所在がつかめず。警察はグリモワールが組織に引き入れたんじゃないかって推測してるらしーよ?」
 ということは、そのグリモワールという組織は、犯罪者の集団ということになる。それを子供だけで追うのは危険じゃないのかとフィアは思ったが、
「ま、大丈夫っしょ。オレたちにはポケモンがいるし、こすい泥棒なんてしてる奴らには負けないって」
 イオンがそう言うということは、そういうことなのかもしれない。どうにもこの世界だと、フィアの常識が通用しないところがある。
「それで、そのグリモワールっていう人たちは、どこに?」
「もうすぐ着くよ——っと、ここだ、ここ」
 イオンが止まったのは、大きな岩の壁にぽっかりと空いた穴。中は洞窟のようになっており、奥に続いているようだ。
「犯人が逃げるならここ、砂礫の穴しかないっしょ」



 砂礫の穴、というらしい。
 その名の通り、穴——洞窟の中は土ではなく大量の砂や礫が地面を覆っている。
 こんな場所はすぐに崩れてしまうのではないかとフィアは思ったが、イオンが言うには、この穴は元々ポケモンが巣穴で、壁が崩れないようポケモンが岩などで硬くコーティングし、それが長い年月を経て固まったため、今のような地形になったという。
 分かったような分からないような説明だが、フィアの常識ではこの世界は測れないようなので、無理やり納得した。
「オレも特訓で何度もこの穴に入ったけど、かなり広くて奥まで行けなかったんだよねえ。だからこそ、逃げ込むならここと思ったわけ」
「でもそれ、どっちにしても探すの大変じゃない……?」
 取り逃がすよりはマシだろうが、それだけ広いなら探すのも難しいだろう。
 そう思っていたら、前方から話し声が聞こえてきた。



今回は色々ありましたが、まず言わせてください。前回、敵対組織が登場とか言いましたが、名前しか出せませんでした。ごめんなさい。それと、今回素性が判明した四人のジムリーダーですが、登場人物紹介には載せますが、まだ使用タイプ等は書き入れません。街やジムリーダーの名前、イチジクの言った特徴から推察してください。そして犯罪者を解放する組織の名はグリモワール。犯罪者集団と書くと、その通りなのになんだか凄く嫌な響きになります。ロケット団とかも犯罪者集団なのに、なぜでしょう。ちなみにグリモワールとは、魔術書のことです。興味のある人は調べてみてください。それでは次回、グリモワールと対決です。お楽しみに。