二次創作小説(紙ほか)
- 第13話 evolution ( No.35 )
- 日時: 2013/04/21 13:23
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- プロフ: 追い詰められるフィアたち、活路を見出せるか……!?
フィアはとりあえずミズゴロウをボールに戻し、代わりにイーブイを繰り出した。
「イーブイ、目覚めるパワーだ!」
イーブイはコゴボーに向かって、赤い球体を発射する。炎タイプの目覚めるパワーなら、コゴボーの弱点を突けるのだが、
「モグリュー、岩石封じ!」
途中で地面が隆起し、岩石が目覚めるパワーを阻む。炎タイプの技では岩タイプ技の岩石封じを突っ切ることは出来ず、打ち消されてしまった。
「まだまだ! メタルクローだ!」
さらにモグリューは両手の爪を鋼鉄のように硬化させ、イーブイに接近。その爪でイーブイを切り裂いた。
「ああ、イーブイ!」
やはりイーブイ一体では、二体を相手取ることは出来ない。片方に目を向けているうちに、もう片方が攻撃してくるのだ。今のフィアでは、片手間にバトルをすることなんてできないだろう。
「どうすれば……イオン君」
「ごめん、こっちもしばらく動けそうにない……」
サンダースはまだコゴボーの砂地獄から脱せないでいる。バトルの時は非常に素早く動いていたイオンのポケモンだが、一度捕まってしまえばその機動力も無意味だ。
「一体どうすれば……あ」
フィアは一つ思い出し、サッと鞄の中を漁るが、
「しまった……ダイケンキはポケモンセンターに置いたままだ……」
今日はフロルのジム戦を観るだけだと思っていたので、ダイケンキの入ったボールを持っていない。ダイケンキならこのグリモワールのポケモンも倒せると思ったが、それも叶わなかった。
しかしフィアは、そこでダイケンキの入ったボールではない、別のものを見つける。
「これは……」
それは、石だった。常に熱を発している、炎のような石。
この時フィアは、博士の言葉を思い出していた。
『それと、そっちの石は炎の石っつーアイテムだ。そっちも、やべぇ時にイーブイに触れさせてみろ。まぁやばくない時でもいいが、使うかどうかはお前次第だ』
「使うなら、今だよね……!」
フィアは炎の石を引っ張り出し、強く握り締める。
「イーブイ!」
フィアは叫び、手にした炎の石を放物線を描くように投げつける。イーブイもフィアの意図を読み取り、大きくジャンプしてその石に飛びつく。
そして——
——イーブイは、光に包まれた。
「っ、これは……!」
「なっ、なんだ!?」
「何が起こっている!」
驚きの表情を見せるイオンや下っ端たち。そんな中、イーブイは光の中でその姿を変化させていく。
「イーブイ……!」
光が収まると、そこにいたのはもうイーブイではなかった。
赤い体色に、頭部や首回り、尻尾を覆う体毛。その姿は、あたかも炎を纏っているかのようだ。
『Information
ブースター 炎ポケモン
炎袋で溜めた炎は900℃以上
にもなる。非常に力が強く、鉄骨
を軽々と吹き飛ばすパワーを持つ。』
「ブースター……? イーブイの、進化系……?」
図鑑を開き、フィアはイチジクの言葉を思い出した。色々な進化の可能性を秘めているとは、こういうことだったのだ。
となると、このブースターが、フィアにとっての自分らしい進化の形なのだろうか。
「ブースター……」
ブースターはフィアを目を合わせ、すぐにモグリューとコゴボーに向き直る。そしてキッと目つきを鋭くし、臨戦態勢に入った。
「フィア君!」
突然イオンが大声を上げ、フィアはビクッと体を震わせた。
「っ、イオン君……」
「ブースターの技を見るんだ。ポケモンは進化すると新しい技を覚えることが多い。もしかしたら、この場を切り抜ける技を覚えているかもしれない」
「そ、そうなんだ」
言われてフィアは、図鑑でブースターの技を調べる。確かにブースターの技はガラリと変わっていた。
「えーっと、まずは……これかな。ブースター!」
フィアは図鑑に表示された技名を指でなぞり、ブースターに指示を出す。
「ニトロチャージ!」
ブースターは全身に炎を纏い、駆け出す。そして勢いよくコゴボーに突撃し、吹っ飛ばした。
「なっ、コゴボー!」
たった一撃でコゴボーは戦闘不能となってしまった。弱点を突いたとはいえ、その一撃でブースターの攻撃力はかなり高いことが分かる。
「くっ、モグリュー、穴を掘る!」
「させない! ニトロチャージ!」
モグリューは爪で地面を抉り、穴を掘って地中に身を隠そうとするが、それより速くブースターがモグリューに突っ込んだ。
「は、速い……!」
「ニトロチャージは攻撃と同時に素早さを上げる技なんだ。モグリュー程度じゃ、もうブースターには追いつけないよ」
驚くフィアに、イオンが解説をする。ブースターはパワーだけでなく、スピードも手に入れたようだ。
「よし、このまま行くよ。アイアンテールだ!」
「くっそ、鉄壁!」
ブースターは鋼鉄のように硬化させた尻尾を振るい、同じく鋼鉄のように身を固めたモグリューに叩き付ける。
鉄壁で威力は軽減されたが、それでもブースターの攻撃を完全に殺すことは出来ず、モグリューは派手に吹っ飛ばされた。
「今だブースター! 火炎放射!」
そして、ブースターは口から燃え盛る火炎を放射する。火炎は容赦なくモグリューを包み込み、その身を焼き焦がしていく。
「モグリュー!」
火炎放射は特殊技なので、鉄壁の影響を受けない。炎が晴れると、モグリューは戦闘不能となっていた。
「さーて、観念してもらおうかな?」
下っ端二人を撃破したフィアとイオン。下っ端たちはもうポケモンを持っていないらしく、唸りながら少しずつ後退していく。
「ま、まずいぞ……どうする?」
「どうするもこうするも、どうしようもないぞ、これは……」
焦る下っ端たち。フィアとイオンはジリジリと下っ端に詰め寄っていき、圧力をかけていく。
その時だった。
「騒がしいな……何をしている?」
砂礫の穴のさらに奥から声が響く。
フィアたちが声のする方向に目を向けると、そこには大柄な一人の男がいた。
男にしては長い金髪で、前髪の間からは非常に鋭い目が覗いている。
服装は、素肌の上から特攻服のように改造されたグリモワールの制服を直接羽織っており、フィアの第一印象は『不良』か『ヤンキー』だった。
「サ、サタン様……!」
その男の姿を見るや否や、下っ端たちはビシッと姿勢を正す。どうやらこの男は下っ端の上司、グリモワールの幹部クラスの人間のようだ。
サタンと呼ばれた男は下っ端たち、フィアとイオン、そして盗まれたボールにそれぞれ目を向け、
「……成程な。何があったのかは大体察した。おいてめえら、くだらねえことばっかしてんな」
ドスの利いた声で、サタンは下っ端たちを叱咤する。
「強くなりてえと思うことは悪かねえが、ほいほいポケモンを持ってきたところで強くなれるわけがねえだろうが。こういうのはな、結局のところ正攻法でしか強くなれねえんだよ」
「し、しかしサタン様……」
「あぁん?」
「ひっ……」
サタンが凄むと、それだけで下っ端は黙り込んでしまった。
「それと、てめえらもだ」
サタンは今度はフィアたちの方を向き、睨むように目を向ける。
「大方、この馬鹿どもが馬鹿なことしたのを見てここまで来たんだろうが、場合が場合ならそれは無謀ってもんだ。だりいし今回は見逃してやるが、他の連中が相手なら、無事じゃ済まねえだろうよ」
言ってサタンはフィアたちの脇を通過し、
「あんまり俺たちみてえなのに首を突っ込まねえ方が身のためだ。覚えとけ、ガキ共」
それだけ言い残すと、出口へと歩いて行った。下っ端たちも急いでそれを追い、やがてこの場にはフィアとイオンだけになった。
「……?」
ふとフィアは振り返り、サタンの後姿を見る。すると彼の背に描かれた、グリモワールのシンボル——アルファベットのGを円形に記号化したもの——が目に入った。
それは今まで下っ端たちの制服にも描かれていたのだが、サタンの背にはそれだけでなく、シンボルマークに斜めの線が引かれていた。
「あれは……?」
その斜線は、まるでグリモワールという存在を、否定するかのようだった。
その後、イオンが盗まれたポケモンを持ち主に返し、フロルは無事イチジクに勝利してジム戦を終えたようだった。
「フィア、明日はどうするの?」
「うーん、イチジクさんから聞いた話だと、明日はクナシル島行きの船があるらしいよ。あと、港でポケモンバトルの大会もあるから、参加してみたらどうかって」
イチジクに言われたことをそのまま話すと、フロルは普通に同意し、明日の予定は決まった。
明日は港町——ハルサメタウンに向かい、バトル大会に出場。そして大会が終われば、クナシル島に向けて出港だ。
さて、無事グリモワールとの戦いも終わりました。イーブイは唯一王と名高いブースターに進化し、下っ端を蹴散らしました。白黒はブイズの中ではブースターは好きな方なので、XYでは強化されて欲しいところです。それと今回は新キャラ、グリモワールの上層部に位置する人物、サタンの登場です。そして次回は港町、ハルサメタウンでバトル大会です。今作は島が多い地方なので、港町が多く出ます。というわけで、次回もお楽しみに。