二次創作小説(紙ほか)

第15話 バークアウト ( No.40 )
日時: 2013/04/21 21:37
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 新紙ほかは旧紙ほかよりも最大文字数が少ない気がする。

 ハルサメタウン、バトル大会二回戦。フィアの相手は、一回戦でフロルを敗ったイオンだ。
「おー、フィア君。最初にトーナメント表見た時にまさかとは思ったけど、二回戦まで勝ち上がってきたんだねー」
「うん、まあ……」
 陽気に声をかけてくるイオンに対して、フィアは曖昧に頷く。そして互いに、ボールを構えた。
「出て来て、ミズゴロウ!」
「行くよっ、ガーディ!」
 フィアのポケモンはミズゴロウ。そしてイオンが繰り出したのは、赤い犬のような姿のポケモンだ。

『Information
 ガーディ 子犬ポケモン
 どんな相手にも勇敢に立ち向かう
 ポケモンと言われるが、ピンチに
 なると大きく吠えて追い払うこともある。』

『さあ、いよいよ二回戦も開始されました。フィア選手はミズゴロウ、イオン選手はガーディをそれぞれ繰り出し、バトル開始です!』
 アナウンサーの威勢の良い声がフィールド内に響き渡った。そして、一回戦での戦績を元に軽い解説を入れる。
『一回戦イオン選手は、フロル選手のアチャモを、なんと開始一分足らずで倒しています』
『攻撃が速いというか、攻撃前後の隙がほとんどないから結果的に攻撃速度が高いんだよねぇ。あのスピードにはぼくもやられちゃったよぅ』
『そしてフィア選手は、タイプ相性でキク選手のバジルスを押し切って勝利を収めました。さあ、この一戦はどうなるのか』
『一回戦と同じように、タイプの上ではフィアくんが有利……だけど、一回戦みたいに上手くいかないだろうねぇ』
 イチジクの含みのある発言に、アナウンサーは喰いついた。
『それは、どういうことでしょうか? なにかガーディに、水タイプ対策があるということですか?』
『まぁ、見てれば分かるよぅ』
 フィアとイオンのバトル、先に動いたのは、イオンのガーディだった。
「ガーディ、燕返し!」
 一瞬でミズゴロウとの間合いを詰めたガーディは、鋭い爪でミズゴロウを切り裂いた。
「うっ、ミズゴロウ、こっちも反撃だよ。水鉄砲!」
 ミズゴロウは態勢を立て直し、ガーディに向かって水を噴射するが、
「遅い遅い、躱してニトロチャージ!」
 ガーディはサッと水鉄砲を躱すと、炎を纏ってミズゴロウに突進する。
「ミズゴロウ!」
 ミズゴロウは地面を転がる。効果はいまひとつなのでダメージは少ないが、
『攻撃と同時に素早さを上げるニトロチャージ、鈍足なミズゴロウに対してスピードで攻めるつもりかぁ。苦手なタイプに対する常套手段だねぇ』
 イチジクの言う通り、ここで素早さを上げられるのはミズゴロウにとっては辛い。なので、早めに決めにかかる。
「ミズゴロウ、岩砕きだ!」
 ミズゴロウはガーディに向かって走り出し、岩を砕くような体当たりを繰り出すが、
「バークアウト!」
 直前でガーディはけたたましい叫び声を放ち、ミズゴロウの動きを止めてしまう。
「もう一度、バークアウト!」
 さらに二度目のバークアウトを放ち、今度はミズゴロウを吹っ飛ばす。
「くぅ、ミズゴロウ、水鉄砲!」
 ミズゴロウは起き上がり、息を吸って水を噴射するが、
「ガーディ、炎の渦だ!」
 ガーディも同時に炎の渦を放つ。
 だが普通は、水タイプの技に炎技が勝てるはずがない。これが火炎放射や大文字なら話は別だが、ガーディが放つのは威力の低い炎の渦。このままいけば水鉄砲に打ち消されるのが関の山だ。

 しかし、炎の渦は水鉄砲を突き破り、ミズゴロウを渦に巻き込んだ。

「え……っ?」
『おーっと! ガーディの炎の渦がミズゴロウに決まりました!』
『炎の渦は相手の動きを制限するから戦いづらいよねぇ……それに、バークアウトかぁ』
 フィアも炎の渦で水鉄砲が突き破られるとは思っていなかったので呆然としている。そんなフィアに、イオンは説明する。
「オレのガーディの技の一つ、バークアウト。これは便利な技でねー、攻撃と同時に相手の特攻を確実に下げる技なんだ。その分威力は低いけど、そのミズゴロウに対しては有効だよね?」
「っ……!」
 ミズゴロウがガーディに対して有効打を撃てるのは、水鉄砲と泥かけ。そのどちらも特殊技であるため、バークアウトで威力が下げられてしまっている。
「そんじゃーこのまま決めようか。ガーディ、ニトロチャージ!」
 ガーディは炎を纏い、炎の渦に囚われたミズゴロウに突進する。効果はいまひとつだが、どんどんダメージが蓄積していく。
 そしてミズゴロウの体力が大きく削られ、ガーディのスピードが最高まで達した時、
「燕返し!」
 ガーディは身を翻して、鋭利な爪でミズゴロウを切り裂いた。
「ミズゴロウ!」
 そこでミズゴロウの体力は限界に達し、戦闘不能となってしまう。
『二回戦、決着です! イオン選手のガーディ、今回のバトルも開始から一分三十秒、速攻で試合を終わらせてしまいました!』
 アナウンサーの声と共に、会場が沸き上がる。フィアはミズゴロウをボールに戻し、イオンに声をかけた。
「負けたよ、イオン君。本当に強いね」
「いやー、まあそれほどでもあるかな? このまま決勝戦も速攻で決めて、優勝しちゃうか」
「あはは……頑張ってね」
 自信満々なイオンの態度だが、何度も言っているように彼は強い。恐らく、この大会の優勝候補と言われて当然の実力を持っているだろう。
 なんにせよ、これでフィアも敗退。あとは、イオンの試合を見届けるだけとなった。



 そして迎えた決勝戦。イオンの相手は、同年代くらいの小柄な少女だった。
 イオンのポケモンは両腕や頭部に葉っぱを生やした、緑色のラプトル類のようなポケモン。対するは、背中から炎を噴き出しているヤマアラシのようなポケモン。

『Information
 ジュプトル 森トカゲポケモン
 木々が鬱蒼と生い茂る森で生活する
 ポケモン。その素早い身のこなしから、
 泥棒のモチーフにされることもある。』

『Information
 ヒノアラシ 火鼠ポケモン
 背中の炎はヒノアラシの感情の
 変化で燃え上がる。驚いた時や
 怒った時には特に激しく燃える。』

 現在、イオンのジュプトルは相性で有利なはずのヒノアラシを押している。持ち前のスピードで上手く攪乱し、相性を覆しているのだ。
「ヒノアラシ、火炎車!」
「遅い遅い! ジュプトル、アクロバット!」
 ヒノアラシが炎を身に纏おうとすると、それより速く接近し、ジュプトルはヒノアラシを突き飛ばした。
「速い……煙幕!」
「リーフブレード!」
 ヒノアラシはとりあえず煙幕で視界を塞ごうとするが、瞬く間にヒノアラシに接近したジュプトルが、腕の葉っぱでヒノアラシを切り裂く。
 その一撃で、ヒノアラシは戦闘不能になってしまった。
『決勝戦、終了——!』
 アナウンサーの声と、試合終了を告げる合図が鳴り響き、観客たちがより一層沸き上がる。
『イオン選手、タイプ相性で勝るルゥナ選手のヒノアラシを一蹴! 試合時間一分五十九秒と、全試合二分未満で終わらせて優勝です!』
「すごいねイオくん、本当に優勝しちゃった」
「まあ、イオン君ならやるとは思ってたけど、こんなに早く終わらせるなんて……」
 勝敗の結果より、驚きなのは試合時間の短さ。本当にあっと言う間と言えるほど、イオンは速攻で勝負を決めてしまった。
 その後、イオンは優勝賞品であるポケモンの卵を受け取り、ハルサメタウンのバトル大会は終了した。



 そしてその日の夜には船が出港する予定だ。フィアとフロルは次の島、次の街へと向かうべく、その船に乗る準備をしていた。
「フロル、忘れ物とか、ない?」
「うん……たぶんだいじょうぶ」
 旅をするために必要最低限の荷物を確認し、フロルとフィアは船着き場へと向かい、船へと乗り込んだ。もう夜なので、今日は寝るだけ。到着は明日の昼頃になるそうだ。
「わたし、船って乗るの初めてなんだぁ。ちょっと楽しみ」
「そう」
「フィアは乗ったことあるの?」
「うん、まあ。中学の頃の修学旅行で——」
 と言ってから、フィアはハッと口を塞ぐ。
「? 中学? 修学?」
 フロルは言っている意味が分からないとでも言うように首を傾げていた。いや、実際分かっていないのだろう。
(この世界に、中学校とかの概念はないのかな……フロルが知らないだけって可能性もあるけど、本当、あっちの世界とは違うんだな)
 カルチャーショックを受けるほどではないが、フィアとしてはやはり衝撃的だ。普通なら、別世界に飛ばされて旅を始めるなんてことはしない。
(でも、何かしないと、元の世界に帰る手掛かりはつかめないんだよね。部長やあの人を見つけなきゃいけないし、あの黒い渦も——)
 そして、船は出港する。
 次に停泊するのはクナシル島、サミダレタウンだ。



とりあえずハルサメタウン大会、これにて終了。速攻でバトルを終えてイオンが優勝です。察しのいい人は分かるかもしれませんが、イオンは素早さの高いポケモンを愛用する傾向にあります。イチジクがそうであったように、今作ではポケモンごとの戦法というよりは、トレーナー一人一人が独自のスタイルを持っていて、それに合わせた戦法を取れるポケモンを使用する、といった形式にしています。白黒なりにキャラの個性を出しているつもりなのですが、どうでしょうか。それでは次回、船旅で新キャラ登場です。お楽しみに。