二次創作小説(紙ほか)

第16話 アドバイス ( No.41 )
日時: 2013/04/22 01:54
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: ここまで幼い外見のキャラがやたら多い気がする。たぶん白黒の趣味。

 サミダレタウンへと向かう船の中では、ポケモンバトルができるフィールドがいくつか設置されている。どうやら目的地に着くまでの暇潰しや、トレーナー同士の交流の場ということらしい。
 ポケモンセンター地下もそうだったが、つくづくこういう点でポケモンバトルがこの世界に浸透していることを実感するフィアは、実戦経験を積むためにそこでバトルをしていたのだが、
「……勝てない」
 二対二のバトル、十戦中フィアが勝てたのは僅か二戦、それも辛勝。
 たまたま強い相手と当たってしまったとも言えるが、自分がまだまだ未熟であると思い知らされるフィア。それ自体は悪いことではないのだが、それでもやはりへこんでしまう。
「フロルはまだ寝てるし……どうしよう、このまま僕も部屋に戻ろうかな」
 ポケモンを回復し、機械からボールを外した時、フィアはふと声をかけられる。
「ねぇ君、ちょっといいかな?」
「はい?」
 振り返ると、そこに立っていたのは一人の少女だった。
 フロルと同じくらいの身長で、目を引くのは腰まである長い銀髪。黒いプリーツスカートに白いブラウスを着ており、黒いトレンチコートを羽織っている。
 見るからに子供、というような出で立ちの少女だが、フィアはこの少女を見たことがある。
(この子、昨日の大会の決勝でイオン君と戦ってた……)
 確か、ルゥナという名前だったはずだ。
 フィアがルゥナを知っているのは決勝戦を見ていたからだが、ルゥナがフィアを知っているということはないだろう。フィアが試合をしている間はルゥナも試合をしているわけで、ルゥナはフィアのことを知らないはず。
 ならばなぜ、彼女はフィアに声をかけてきたのか。
「えっと……僕に何か用、かな……?」
 たまらずフィアが少女に尋ねる。すると少女は、ゆっくり口を開いた。
「うーんっと、実はさっきまで君のバトルを何回か見てたんだけど」
「え……」
 さっきまでフィアのバトルを見ていたということは、つまりフィアが惨敗する様を見ていたということ。フィアが勝ったのは最初の二戦、後の八戦は全て負けているから、見られているのは負け姿だけだ。
「ちょっとアドバイスしたくなっちゃって。お節介だと思ったら、別にいいんだけど」
「えと……」
 つまり、フィアがあまりにも負けているものだから、我慢できずに助言をしたくなった、ということだろうか。
 フィアとしてはよく分からない申し出は受けたくないし、こんな小さな少女からアドバイスされることに対して恥を感じる程度のプライドはある。
 だがルゥナ昨日のハルサメ大会で準優勝したトレーナーだ。ここは素直に話を聞くべきかもしれないとも思った。
 どうしようかとしばらく悩んだ末、フィアは、
「じゃあ、願しようかな……」
「そう? じゃあちょっと待ってて」
 ルゥナは嬉しそうに顔を明るくすると、ボールをポケモンを回復する機械にセットしていく。彼女もさっきまでバトルをしてきたのだろうか。
 回復が終わってボールを外していくルゥナだが、機械はわりと高い位置にあるため、ルゥナの身長では手が届きにくい。ぷるぷると腕を振るわせながら一つずつボールを取っていくが、やがてルゥナはバランスを崩し、後ろに倒れてしまった。
「ひゃぅっ」
「だ、大丈夫っ?」
 倒れた拍子に、ボールが散らばり、彼女のポケットからも色々と零れ落ちた。それは財布だったりバッジケースだったり、重要なものばかりだ。
「あぅ、ごめんごめん、ちょっと足が滑っちゃった」
「足が滑った……?」
 単に身長が足りなかっただけに思えるが、フィアは深く詮索せず、落ちたボールやバッジケースなどを拾い上げていく。そんな中、一枚のカードを手に取った。
(トレーナーカード? やっぱり名前はルゥナっていうんだ、記憶違いとかじゃなくて良かった。それと、年齢——)
 フィアは目を丸くした。そこに書かれている数字は、フィアが想像していたものからかけ離れたものだったからだ。
「じゅ、17歳……!?」
「? そだよ。私は先週誕生日を迎えて17歳だよ。それがどうかした?」
 フロルの歳は13歳。なのでルゥナの年齢も、自然とそれぐらいだとフィアは思っていた。しかし、
(17って、部長と同い年……いや、あの人は僕よりも背が高いけど、それにしたってこの背の低さで17っていうのは……)
 あり得ない話ではないが、フィアは驚く。フィアにとって年上の女性というのは彼女ぐらいだったので、自分よりも背が低い年上女性というのがいまいちイメージしづらいのだ。
 フィアがそんなことを思っているうちに、ルゥナは散らばった物品やモンスターボールを全て拾い上げた。
「さて、これで全部かな……そういえば、君の名前は?」
「あ、えっと、フィア……です」
 年上と分かれば、敬語を使わないわけにはいかない。少し違和感を覚えないでもないが、フィアは言葉遣いに気をつけながら名乗る。
「フィア君だね。私はルゥナ、長い名前じゃないけど、ルゥって呼ばれることが多いかな」
 いわゆる愛称というやつだ。フロルが博士のことをイーくん、イオンのことをイオくんと言っていたように、この世界にも愛称やあだ名が存在する文化にあるらしい。フィアがいた世界とずれてるのに、変な所で共通しているのだから、戸惑ってしまう。
 ルゥナは名乗りを上げると、なぜか胸を張り、
「あと、先輩って呼んでもいいんだよっ」
「…………」
 呼んでほしいのか。
 フィアは胸中でそう呟いた。
(まあ、確かに年齢でもトレーナーとしても先輩だし、学校では年上の人は皆、先輩って呼んでたし、別に言い慣れないことはないかな)
 むしろ、自分がいた世界と似た感覚に浸れるので、積極的に呼んでもいいかもしれない。
「じゃあ、ルゥ先輩で……」
 控えめにフィアが言うと、ルゥナはまたしても嬉しそうに明るくなる。こうところは、見た目相応に子供っぽい。いわゆる、お姉さんぶりたい性格、なのだろうか。
 フィアがそんなことを思っていると、ルゥナはやっと本格的なアドバイスに入った。
「さっきまでバトルを何回か見せてもらったけどね、フィア君はもう少し特性を意識するといいよ」
「特性?」
 聞いた事があるようなないような言葉だった。彼女や青年から聞いたのか、もしくはターミナルでざっと調べた中にあったのか、はたまたフロルやイオン、イチジクなどが言っていたのか。
 なんにせよ、その特性なるものがなんなのか、今のフィアは把握していなかった。
「特性っていうのはね、ポケモンが一つだけ持ってる特殊な力のことだよ。これを意識するだけで、バトルで有利に立ち回れるんだ」
 例えば、とルゥナは思い出すように人差し指を頬に当てる。
「君が連れてたミズゴロウの特性は激流。体力が減ってピンチになると、水タイプの技の威力が上がるんだ」
「へぇ、そうなんですか」
 今までミズゴロウは、その鈍さが仇となってピンチになったらそのまますぐに押し切られていたため、これは知らなかった。
「それと君のブースターだけど、珍しい特性だったね。特性、根性。これも自分がピンチの時——というより、ポケモンが状態異状になった時に発動する特性で、発動すると攻撃力が上がるんだ」
 ルゥナの説明を聞き、頷くフィア。彼女の助言は、思った以上に役立つものだった。
「特性は技と同じで、ポケモン図鑑で調べられるから、ポケモンを捕まえた時にチェックするといいよ」
「そうですか……ありがとうございます」
 今日だけでフィアが覚えた特性、激流と根性。根性に関してはブースターはまだ状態異状になったことがないのでよく分からないが、ミズゴロウは今後、ピンチになった時は積極的に水技を使った方が良さそうだ。
「役に立ってくれたのなら私も嬉しいよ。それと——」
 にこやかな笑顔を浮かべつつ、ルゥナ一つ、ボールを取り出した。そして、
「——今から私とバトルしない?」



「フィア君は、持ってるポケモンは二匹だっけ?」
「あ、はい。そうです」
 唐突に持ちかけられたルゥナとのバトル。フィアとしても実戦経験は決して無駄ではないし、先ほどルゥナが言っていた特性も、やはり実戦で試して実感したい。なので、フィアは二つ返事で了承した。
「じゃあ二対二でいいかな。私からポケモン出すね」
 勝負は二対二のシングルバトルとなり、ルゥナはポケモンを繰り出す。
「最初はお願いね、マグマラシ!」
 ルゥナの一番手は、頭と尻尾に炎が噴き出した、胴長のヤマアラシのようなポケモン。

『Information
 マグマラシ 火山ポケモン
 炎の熱風で相手を威嚇する。
 素早い身のこなしで攻撃を
 避けながら炎で敵を焼き焦がす。』

「マグマラシ、ヒノアラシの進化系か」
 つまり、昨日イオンのジュプトルと戦ったヒノアラシは、昨日今日で進化したようだ。
「相手は炎タイプ。だったら君しかいないよね、ミズゴロウ!」
 フィアの一番手は水タイプのミズゴロウだ。マグマラシとは相性が良い。
「それじゃあ行くよっ」
 ルゥナの掛け声とともに、マグマラシが駆け出す。それを合図に、フィアとルゥナのバトルが、開始された。



はい、今回は船旅で新キャラ、フィアのちっこい先輩ルゥナの登場です。新キャラと言っても、前回名前だけ出てたんですけどね。さてそれでは次回、ルゥナとのバトルです。フィアは教えてもらった特性を生かせるのか。お楽しみに。