二次創作小説(紙ほか)
- 第1話 blackout ( No.7 )
- 日時: 2013/04/16 03:17
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- プロフ: バジールのグラスミキサーは仕様です。そのうち説明します
彼女に教えられたことによると、ポケモンという生き物は技と呼ばれる攻撃を四つまで覚えることができるようだ。さっきの犬のようなポケモン——デルビルというらしい——を倒したのは、バジールのグラスミキサーという技。その技にも物理技や特殊技などがあり、ポケモンによって物理技が得意なポケモンや特殊技が得意なポケモンが存在しているらしい。
他にもポケモンにはタイプと呼ばれる属性のようなものがあったり、特性と呼ばれる特殊な性質があったりと、色々教えられたが、あまり頭には入らなかった。それよりももっと重要なこと。訊きたいことがある。
「あの、部長」
「ん? なに?」
草の竜巻、グラスミキサーで正面のポケモンたちを一掃する彼女は、気楽な調子で振り返った。何故こんな状況でそんな気楽なのかと言いたくなるが、ぐっと堪える。
「どうなっているんですか、これ。今、この街——この世界に何が起こっているんですか?」
ポケモンなんて生物は寡聞して聞いた事がないし、そんなものが急に現れたのもおかしい。彼女はポケモンについて知識があるようだが、それならこの状況、今の世界がどうなっているのかも知っているかもしれない。そう思って尋ねると、彼女は人差し指を顎に当て、
「んー、この世界じゃあないな。変化してるのは、君の世界よ」
と答えた。まったく答えになっていない。
「そんなことよりほら。君も少しは戦っておきなさい。部長命令よ」
彼女は背中を押して前に出させた。目の前には団子状になった黄土色の体が繋がった、芋虫のようなポケモンがいた。頭には一本の針がある。
「毛虫ポケモン、ビードル。まあ腕試しにはちょうどいいんじゃない?」
「いや、毛生えてないですけど……」
ともかく、自分はこのビードルというポケモンと戦わなければいけないようだ。
「イーブイの憶えてる技は、電光石火、噛みつく、目覚めるパワー、手助けの四つよ。じゃ、頑張って」
投げやりとも取れる言動だが、彼女はこういう性格であることを自分は知っている。今更どうこう言うつもりはない。
しかしいきなり戦えと言われてもどうすればいいのか分からない。とりあえず、さっきまで彼女がそうしていたように、技を指示してみる。
「えっと、じゃあイーブイ、電光石火」
するとイーブイは目のも止まらぬスピードでビードルに突っ込んでいき、体をぶつけて吹っ飛ばした。
「凄い……!」
イーブイのスピードに感嘆の溜息を吐くが、ビードルはまだやられていなかった。頭から無数の針を飛ばして来たのだ。
イーブイはその針を避けられず、体に針が刺さってしまう。
「今のは毒針よ。ポケモンを毒状態することがある技で、毒状態になると体力が少しずつ減っていくわ。気を付けて」
「は、はい」
幸い、イーブイは毒状態にならなかったようだ。だが、ビードルはまた毒針を発射してきた。
「避けて!」
イーブイは機敏な動きで毒針をかわす。軌道が直線的なので、避けるのは簡単だ。
「えっと、じゃあ次は……噛みつく!」
指示を出すと、イーブイは駆け出し、ビードルの体に噛みついた。ビードルは悲鳴を上げ、ぐったりと動かなくなる。彼女が言っていた、戦闘不能、瀕死状態というもう戦えない状態になったのだろう。
「うん。まあ、最初のバトルにしてはまあまあね」
「え、えっと、ありがとうございます……」
つい反射で礼を言うが、彼女はそんなことなど気にせず、すたすたと歩き出してしまう。自分も置いてかれまいと、慌ててその後に続いた。
しばらく歩き、丘まであと少しというところで新たなポケモンが道を阻む。
「うーん、どうも邪魔なのよねぇ……」
現れたのは青い体に金色の筋が六本。赤い眼玉が一つという、不気味な姿のポケモンと、黒い平坦な体にこちらも一つの目のポケモン。黒い方は大量に浮いており、体の形が様々。よく見れば、アルファベットに似ているような気がしなくもない。
「アスリスク、アンノーン、か。面倒ね……バジール、グラスミキサー」
バジールは草を含む竜巻を発生させ、アンノーンとアスリスクをまとめて吹っ飛ばす——はずだった。
結果は、アンノーンは吹っ飛んだが、アスリスクは薄い膜のようなものを張ってグラスミキサーを防御したのだ。
「守るね。ますます厄介だわ。時間もないのに……」
ぶつぶつと何かを呟きながら、彼女は辺りを見回す。が、その時アスリスクとアンノーンは襲い掛かってくる。
アスリスクは無数の星を、アンノーンは球状の物体をそれぞれ発射し、イーブイやバジールを攻撃してきた。
「ぶ、部長! どうするんですか? こんなに数が多いんじゃ……」
「ちょっと待ってて、もう少しで何か閃きそうなのよねー……」
「そんなの待ってたらやられちゃいますよ!」
そんな不安を煽るように、アスリスクは熱風を放ってきた。かなり高温で熱い。特にバジールはかなり苦しそうだ。
「熱風か、確かにこれは急いだ方が……お?」
彼女は何かを見つけたらしい。同じように自分も同じ方向を見ると、そこには灯油を運搬する車が停車していた。
「よし、あれで行こうかしら。バジール、こっち」
彼女はツタージャを近くに引き寄せる。何かを指示しているようだ。
「バジール、グラスミキサー!」
バジールは草の竜巻を発生させ、いくつもの灯油缶を宙に浮かべた。
「それじゃ、君も準備して」
「え? なにをですか?」
「私が合図したら、空に向かってイーブイに目覚めるパワーを指示するのよ。いい?」
「はっ、はい……」
「よろしい。それじゃあバジール、そっちはどう?」
彼女が呼び掛けると、バジールは鳴き声をあげた。大丈夫、と言っているのだろうか。
バジールは大量の灯油缶を竜巻に巻き込んで宙に浮かべている。それだけ多ければ相当な力が必要そうだが、バジールは汗一つ浮かべていない。そもそも汗腺がないのかもしれないが。
「それじゃあバジール! やっちゃって!」
彼女の指示でバジールは竜巻を操作し、大量の灯油が入った缶を投げ飛ばした。その方向は、アスリスクやアンノーンのいる方向だ。
「今よ!」
「は、はいっ! イーブイ、目覚めるパワーだ!」
イーブイは空中にばら撒かれた灯油缶に向けて、何発も小さな球体を発射する。何が起こるのかと期待半分でその後を眺めていると、突然、球体が発火した。
「……え?」
唖然とする。灯油が大量に入った容器に火を点けたりすれば、発火して大爆発を引き起こしてしまうではないか。それに今はアス陸素の放った熱風で気温が上昇しているので、なおさら危険だ。
「目覚めるパワーはタイプがいろいろあってね。あなたのイーブイは炎タイプよ」
「そういうのは先に言ってくださいよ!」
それを先に言ってくれれば、決して目覚めるパワーなんて技を指示しなかっただろう。
ともあれ、小さな球体はすべて炎が灯り、投げ飛ばされて落下してきた灯油缶にほぼ全弾命中。そして、
ズッガアァァァァァァァァンッ!
「う、ぅ、うわ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
予想通り、大爆発を引き起こした。
大量の灯油缶が生み出した凄まじい爆風は、アスリスクやアンノーンだけでなく、彼女や自分をも吹き飛ばした。
初めて感じる宙を舞う感覚、浮遊感。そして視界に移るのは轟々と燃え盛る爆炎。そして、丘の頂上の、黒い瘴気——
(あれ……なんだろう。影が、近づいてる……?)
丘に見える不気味な影。それが、自分たちに近づいているように思えた。いや、思えたではない。実際近づいているのだ、あの影は。
影は大きくなり、渦巻いていく。その背後には、巨大な何かが見えたような気がした。自分たちは、渦の中に、巻き込まれて、行く——
「え……?」
そこで、意識は途絶えた。