二次創作小説(紙ほか)
- 第21話 induction ( No.74 )
- 日時: 2013/04/29 01:09
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- プロフ: 追い詰められる二回戦、勝負の行方は……!?
「アイアンテール!」
「体当たり!」
ブースターの振り下ろす鋼鉄の尻尾を掻い潜り、シビシラスはブースターに体当たりする。
ここまでブースターは何度も攻撃を受けたが、シビシラスの攻撃力が低いことが幸いし、まだ戦闘不能ではない。だが、それも時間の問題だ。
(どうしよう……)
攻撃が当たらず、焦りを募らせていくフィア。けれどもその感覚は、どこかで感じた事のあるものだった。
(そういえば、イチジクさんとのバトルでも、こんな気持ちだったな)
彼のエース、ベロリンガに攻撃が通じなかった時と似た状態。あの時はベロリンガの身体的弱点を突いて勝利したが、シビシラスにはまず攻撃が当たらない。フィアは再び図鑑を開くが、最初に開示された情報以上のものは得られなかった。
しかし、
(せめて素早さで勝てれば……素早さ?)
フィアはふと、あることを思い出す。
(シビシラスは電気タイプ。なら……)
フィアは自身を落ち着かせようと、一度大きく息を吸い、吐く。
「ブースター、火炎放射!」
そしてブースターへと指示を出す。ブースターはその指示通り、燃え盛る火炎を前方へと発射する。
「かわしてスパークだ!」
シビシラスは放たれる火炎を迂回するようにして回避し、全身に電気を纏ってブースターへと突進する。
だがこの時、シビシラスの攻撃は少し遅れていた。それは当然のことである。普通に攻撃するのではなく、一度攻撃を躱してから反撃に移っているのだから、そこにタイムラグが存在するのは当たり前のことだ。
そしてフィアは、そのタイムラグに付け込む。
「ニトロチャージ!」
シビシラスが突進する瞬間、ブースターも同じようにシビシラスに向かって走り出していた。その身の炎を纏って。
ブースターとシビシラスが激しくぶつかり合うが、攻撃力ではブースターが圧倒的に上。シビシラスは簡単に弾き飛ばされてしまう。
「っ……さっきの火炎放射はブラフだったか。しかもニトロチャージで素早さ上昇……!」
テイルが呻く。彼の言うように、今のブースターはニトロチャージの効果で素早さが上がっている。素早いとはいかずとも、器用な身のこなしがシビシラスのアドバンテージだったため、それが失われるのは辛い。
しかし、シビシラスにはまだ手が残っている。
「ブースター、アイアンテール!」
ブースターは飛び上がり、鋼鉄の如く硬化させた尻尾をシビシラスへと叩きつけようとする。その刹那、
「シビシラス、電磁波だ!」
シビシラスは弱い電流をブースターに浴びせた。
そのショックでブースターは攻撃を中断してしまい、地面に蹲る。麻痺状態で体が動かないのだろう。
「流石に素早さまで上げられたら敵わないから、ちょっくら動きをとめさせてもらったぜ。さあ、あとは一気にスパートかければ——」
と、テイルはそこで言葉を止めた。その理由は、ブースターにあった。
「なっ、これ……っ」
ブースターは麻痺状態。しかしブースターから発生られる覇気は状態異状のそれではなかった。見るからに凄まじい気迫が発せられている。
『フィア選手のブースター! 突然凄まじい気迫を発し始めました! これはどういうことだ——!?』
『特性、根性ですね』
ウルシが静かにそう告げた。
『状態異状になると攻撃力が上がる特性、根性。しかも今のフィア選手は、それを狙っていたように見えます。ニトロチャージを当てて素早さを上げ、シビシラスから電磁波を誘発させたのでしょうか……?』
アナウンサーとウルシの解説を聞き流しながら、フィアは思い出す。この世界に来る前、闇に閉ざされた遺跡で、青年から教わったことを。
(麻痺状態になると素早さが下がる……つまり麻痺は相手の動きを止めるだけではなく、相手の動きを遅らせることにも使う、でしたよね)
だったら逆に、こちらの素早さを上げれば相手が電磁波を使うことも読める。電気タイプの多くは電磁波を覚えるそうなので、シビシラスも覚えている可能性は高かった、という考えからだ。
なんにせよ、今のブースターは元々高い攻撃力が急増している。下手に攻撃を受ければ一撃で相手を戦闘不能に出来る攻撃力だ。
「ブースター、ニトロチャージ!」
「くっ、躱してスパーク!」
シビシラスは炎を纏って突っ込んで来るブースターの攻撃をなんとか回避するが、炎や突進の勢いが段違いなため、避けるだけで精一杯。反撃に余裕はなかった。
「火炎放射!」
ブースターは足を止め、振り返って炎を放射した。この攻撃は避けられず、シビシラスはその身を焼かれていく。
「シビシラス、チャージビームだ!」
炎が収まると、シビシラスは電気を圧縮した光線を発射。ブースターに直撃させる。
ブースターはそのまま反撃に移ろうと思ったようだが、麻痺で体が痺れ、動きを止めてしまう。その隙に、シビシラスはさらに攻撃を加える。
「もう一度!」
再びチャージビームを発射するシビシラス。特攻が上がっているので、威力は高い。
「ブースターの体力もかなり削られてるはずだし、一気に攻め込むぞ。シビシラス、スパーク!」
とそこで、シビシラスは電気を纏ってブースターへと突っ込む。根性が発動しているとはいえ、残り体力の少ないブースターだ。このまま押し切ってしまおうという考えなのだろうが、それは少し甘かった。
「ブースター、起死回生!」
何も考えずまっすぐ突っ込んで来る相手など、ブースターでなくともいい的だ。特に今のブースターは一撃でもまともに攻撃を入れれば勝利はほぼ確実。外すわけがない。
ブースターは残った力を振り絞り、突っ込んで来るシビシラスを前足で上空へと蹴り飛ばした。
「しまっ……シビシラス!」
しばらくしてシビシラスは落下した。見れば完全に目を回しており、戦闘不能だ。
『Aブロック二回戦、決着ぅ——! 勝利を手にしたのはフィア選手! 一回戦同様、土壇場で特性を発動させての逆転勝利だぁ——!』
アナウンサーのハイテンションな叫び声と呼応するかのように、会場が一気に沸き上がる。
「はぁ、負けちまった……でもま、楽しかったな! またバトルしようぜ!」
シビシラスをボールに戻し、テイルは気さくにフィアにそう言葉をかけたのだが、
「え、あぁ、はい……」
基本的に人見知りするフィアは、そんな風に曖昧に返すことしか出来なかった。
だがテイルはそんなこと気にせず、爽やかに笑う。
「こーいう大会に出てれば、またいつか出会うかもな。次は俺ももっと強くなって、負けねーからな!」
「は、はい……」
フィアはそのテイルの勢いに飲まれっぱなしのまま、フィールドを後にする。なんにせよ、フィアは二回戦突破、準決勝へと駒を進めることが出来た。
「フィア! 勝ったよ!」
ロビーのソファに座っていたフィアが聞いたフロルの第一声はそれだった。フロルの顔には歓喜の笑顔が浮かんでいる。
「良かったね、フロル」
フィアも笑顔を見せつつそう言うが、もっと気の利いた言葉をかけられないのかと少し反省もする。
だがフロルは露ほどもそのようなことを気にした様子を見せず、ただ笑っていた。準決勝に進出することがよほど嬉しいのだろう。
なにはともあれ二人揃って準決勝まで勝ち進んだのだ、これは本当に決勝で会えるかもしれないと希望を抱きながら、フィアは次の対戦相手をチェックする。するとそこには、
「ルゥ先輩……!」
ルゥナの名前があった。
「やっぱり先輩も準決勝まで来たんだ……気は抜けないな」
フィアは一度、ルゥナに負けている。技合成に関しては大きな大会なので使うことはないだろうが、地力だけでも彼女は十分強い。
早くもフィアとフロルの決勝で出会うという目標が崩れつつある中、準決勝を始める準備を促すアナウンスが流れ、フィアとフロルはそれぞれ指定されたフィールドへと向かった。
『いよいよ始まりました、サミダレバトル大会ビギナーカップ、準決勝! こちらAブロックでバトルを繰り広げるのはこの二人!』
やはりハイテンションなアナウンサーの声と共に、モニターにフィアとルゥナの二人が映し出される。
『まずは一回戦、二回戦共に怒涛の逆転劇を見せた期待の彗星、フィア選手! この準決勝でも、まったまた逆転勝利を観客たちにみせつけるのか——ッ!?』
まずはフィアがアップになり、その後今度はルゥナがモニターに大きく映し出される。
『続いてルゥナ選手! 全試合を通じて安定したバトルを展開していました。フィア選手を相手にその安定さはどこまで保つのか!』
アナウンサーの前口上の間、ルゥナはふとフィアに話しかける。
「……実は決勝で会えたらドラマチックだな、とかちょっと思ってたりもしたんだけど、少し早く会えたね、フィア君」
「そうですね。でも、僕にはもう、決勝で戦う相手がいるので、今度は負けません」
「へぇ……それは楽しみだよ。負けられないって思ったフィア君の力、見てみたいな」
「……なら——」
『それでは、試合開始です!』
ルゥナの言葉を受けてフィアがさらに言葉を返そうとしたが、そこでアナウンサーによる試合開始の合図を聞かされ、フィアは口をつぐんでボールを構えた。
今回はテイル戦決着、そして準決勝、ルゥナ戦です。正直書くことが全くないので、あとがきはこれで終了。ルゥナ戦はすぐに終わらせて、最初に行った波乱を起こそうと思います。それでは、次回をお楽しみに。