二次創作小説(紙ほか)

第22話 mud game ( No.77 )
日時: 2013/04/29 02:37
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 始まるサミダレ大会準決勝、勝利を手にするのは誰か……!

「行くよっ、ギアル!」
 ルゥナが繰り出したのは、目の付いた二つの歯車のようなポケモンだった。

『Information
 ギアル 歯車ポケモン
 歯車の組み合わせは決まっており、
 回転することで生きるための
 エネルギーを作り出している。』

 ギアル、鋼タイプのポケモン。
 ならば、フィアにとっては好都合だ。
「出て来て、ブースター!」
 フィアが繰り出すのは炎タイプのブースター。ギアルとは相性が良い。
「うーん、ブースターかぁ。ここはミズゴロウで来ると思ったんだけど、アテが外れちゃった」
 ルゥナはやや弱った顔をするが、すぐに気を取り直し、
「まあそれでも、負けるつもりはないけどね。ギアル、ギアチェンジ!」
 ルゥナの指示を受け、ギアルはなんといきなり自身の歯車をどこかへと飛ばしてしまった。
「え……?」
 だがそのすぐ後に別のものと思しき歯車がギアルに装着され、事なきを得る。けれどフィアには何がどうなったのか理解ができない。ルゥナはそんなフィアに、バトル中にも関わらず解説する。
「ギアチェンジはギアル専用の変化技なんだよ。ギアを入れ替えることで、攻撃と素早さを上げる技。ギアルは元々そんなに能力が高くはないけど、この技があればその能力の低さもカバーできる。さあ、続けて行くよっ。ギアソーサー!」
 ギアルは続けて別の歯車を二つ飛ばし、切り裂くようにブースターを攻撃。効果はいまひとつだが、ギアチェンジで攻撃力が上がっているので、それなりの威力が出る。
「くっ、ニトロチャージ!」
 歯車を払い除けると、ブースターは全身に炎を纏い、ギアルへと突っ込んでいく。が、しかし、
「鉄壁だよっ!」
 ブースターがギアルに激突し、大きく吹っ飛ばす。効果抜群で大ダメージを与えるかと思いきや、ギアルはそのまま、何事もなかったかのように起き上がった。
「効いていない……!? いや……」
 フィアは以前、この技を見たことがある。
(鉄壁、グリモワールの下っ端のモグリューが使ってた技だ。確か、防御力を大きく上げる技だよね)
 あの時のモグリューは物理技で攻めてもダメージを受けていたが、ルゥナのギアルは素の防御も高いようなので、大きなダメージは見込めない。
「でも、防御が上がるのなら特殊技で攻めればいいんだ。ブースター、火炎放射!」
 フィアの理屈は正しい。相手が防御を特化させるのなら、それに対し特殊技で攻めるのは正攻法だ。
 だが、
「充電!」
 火炎放射が当たる寸前で、ギアルは自身に電気を溜め込む。
 直後に炎はギアルを飲み込んだが、炎が晴れると、そこには悠然とギアルが浮いていた。
「! 効いてない……!」
「充電はね、本来は次に出す電気技の威力を高める技なんだけど、特防が上がる効果もあるんだ」
 つまりギアルは、物理技だけでなく特殊技にも強いということになる。
 充電は鉄壁ほど大きく特防を上げるわけではないが、ブースターの特攻も攻撃より低いので、結果は同じだろう。
「ギアチェンジ!」
「っ、アイアンテール!」
 ギアルがすかさず歯車を入れ替えようとするが、そこにブースターが素早く接近し、鋼鉄の尻尾を叩きつけて吹っ飛ばす。それにより、ギアチェンジは中断されてしまった。
 フィアとしては、鉄壁無双と言っても過言ではないギアルに攻撃と素早さまでプラスされたらたまったものではない。なので、ギアチェンジだけはなんとしてでも防がなくてはならないのだ。
(こっちは攻撃するしか手立てはないし、とにかく攻める……!)



『準決勝Bブロック、決着です!』
 フィアのいるAブロックとは逆のBブロックでは、たった今バトルが終了したところだった。
『見事決勝進出を決めたのは、ギリギリのところで勝利を手にしたフロル選手です!』
 観客たちがドッと沸き上がる中、フロルは疲れたような少しおぼつかない足取りでロビーへと戻る。
 今までならフロルが戻った時には既にフィアがそこにいたのだが、今回はいなかった。モニターを見れば、まだバトルをしているようだ。
『ルゥナ選手のギアル、またしてもブースターの攻撃を止めたぁ——!』
 パッと見ではどちらが押されているのかは分からなかった。アナウンサーの発言からするとフィアが不利っぽいが、モニターを見ればブースターがひたすら攻めて押しているようにも見える。
「……飲み物、買いに行こ」
 試合が長引きそうだと判断したフロルは立ち上がり、自販機のある外へと出る。そしてまだ少しふらついた足取りで自販機へと向かう途中の曲がり角。
 人とぶつかった。
「あっ……ごめん、なさい……」
「おー。気を付けろー」
 フロルは咄嗟に申し訳なさそうに頭を下げたが、相手——若い女だ——は特に気にした風もなく、そのまま歩き去ってしまった。
「……?」
 その一瞬でフロルは漠然と違和感を覚えたが、漠然とし過ぎていたために気に留めず、そのまま自販機へと向かった。



『……あー、えーっと……激しい攻防が長時間に渡り繰り広げられ、両者ともに疲れを見せず……えーっと、えーっと、何て言おう……』
 いつもハイテンションのアナウンサーだったが、今回ばかりは困ったような声を上げる。
 それもそうだろう。フィアとルゥナのバトルは、フィアのブースターがひたすら攻撃し、ルゥナのギアルがひたすら防御し、たまにギアルが攻撃したりブースターがギアチェンジを止めたりする程度で、それが延々と繰り返されている。
 端的に言えば、泥仕合と化しているのだ。そのせいで観客たちも冷めている。
『あー、えー……解説ウルシさん! この状況に対して何か一言!』
「えぇ!? 無茶振りですよ……まあ、鋼タイプの使い手としては、持久戦に持ち込むことも多々あるので泥仕合はさほど珍しくないですが……こういう盛り上げる場としては、あまりよろしくない展開ですね」
 耐え切れずアナウンサーがウルシに無茶な振りをするも、無難に返される始末。
 はっきり言って、Aブロックの準決勝はかなりぐだついている。
(……この感じ、部長がいない時の部活を思い出すな)
 そんなぐだついた空気の中、フィアはただ一人まったく別のことを考えていた。いや、思い返していた、と言う方が正確か。
(今思えば、毎度毎度よく分からないことを口走る変な人だったけど、小規模なりにあの部活をちゃんと支えていたんだね……あの時、僕らはどうしてたっけ)
 フィアが思い返す部内の空気感。それを打破するには、彼女という一石を投じることで解決していた。ならば、今は——?
「ギアチェンジ!」
 やや不規則なローテーションで動くギアルは、ここで歯車を入れ替えて攻撃と素早さを上げにかかる。今まで通りならここでブースターの妨害が入るが、今回はブースターは動かなかった。
「? 何か考えてるみたいだけど、折角のチャンスだしここは攻めるよっ。ギアル、ギアソーサー!」
 ルゥナは一瞬その静止に不信感を抱くが、すぐに攻めに移る。
 ギアルは歯車を二つ飛ばし、挟み込むようにしてブースターを切り裂く。ギアチェンジで威力の上がったギアソーサーは、効果いまひとつでも防御が低めなブースターにはそれなりのダメージが通る。そもそもこれまでもブースターはノーダメージではないので、今の攻撃でいよいよ体力が残り僅かとなった。
 だが、まだブースターには手が残されている。

「ブースター、起死回生!」

 今までニトロチャージを連発していたブースターのスピードは相当上がっている。その高まった素早さで一気にギアルとの距離を詰めると、ブースターは尻尾でギアルを打ち上げた。
「っ……!」
「もう一度、起死回生!」
 今度は飛び上がり、尻尾を振り下ろしてギアルを地面に叩きつける。鉄壁で防御が上がったとはいえ、体力が限界近くまで減った状態で繰り出す起死回生の威力は相当なものだ。ギアルの体力も一気に削られてしまった。
「ニトロチャージ!」
 最後に炎を纏いながらブースターは落下し、ギアルへと激突する。
「ギアル!」
 怒涛の三連続攻撃をまともに喰らい、ギアルは遂に戦闘不能となってしまった。
『き、決まったぁ——! 泥仕合と化したAブロック準決勝を制したのは、フィア選手だ——!』
 一瞬場内は沈黙したが、アナウンサーの声を皮切りに一気に歓声に満ちる。
「負けちゃったよ。先輩の面目が立たないや」
 困り気に笑いながら、ルゥナはギアルをボールに戻す。そしてフィアの方に向くと、
「ここまで来たんだから、優勝してね。フィア君」
「……はい。出来る限りの力は、出すつもりです」
 Aブロック準決勝を勝ち抜き、決勝へと進出したのはフィア。
 フィアは決勝まで進めたことに対する喜びを噛みしめながら、フィールドを後にした。




「フロルも決勝まで来たんだ、良かった……」
 ロビーに戻る道中。
 BブロックはAブロックよりも早く試合が終わったらしく、次のフィアの対戦相手が表示されていた。その相手は、フロルだ。
 いろいろあったサミダレ大会だったが、なんとかフロルと決勝で戦うという目標は、達成されたわけだ——
「フィアっ!」
 ——とフィアがロビーに出た瞬間、フロルが飛び出してきた。
「っ、フロル……? どうしたの?」
 フロルの勢いに圧倒されながらも、フィアはそう尋ねる。というより、尋ねざるを得ない。
 なぜならフロルの表情は悲愴に満ちており、目尻には涙を浮かべ、今にも泣き出してしまいそうだ。
「何があったの、フロル?」
「フィア……」
 鼻を啜りながら涙目でフィアを見上げるフロルの顔は、ほぼ半泣き。もうすぐで泣き喚いてしまいそうだ。
 それでもフロルは、なんとか踏みとどまって、フィアに伝える。自身の身に起こったことを。

「わたしのポケモン——盗まれちゃった……」



今回はルゥナ戦決着、かなりぐだついたと自分でも思っています。そして最後はフロルがポケモンを盗まれたと告白し、終了です。というわけで次回、フィアが盗まれたポケモンを取り返すべく、奔走します。お楽しみに。