二次創作小説(紙ほか)
- 第23話 マモン ( No.80 )
- 日時: 2013/04/29 13:57
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- プロフ: 盗まれたポケモンを奪還すべく、フィアは駆ける。
ポケモンを盗まれたというフロル。フィアはとりあえず泣きじゃくるフロルをロビーに残し、偶然近くを通りがかったルゥナに彼女を任せ、一人でそのポケモンの捜索に向かった。
盗まれたポケモンは一体。試合には他のポケモンを使っても構わないのだが、そういう問題ではない。
(フロルは、盗まれたポケモンで僕と戦いたいって言ってた……)
フロルが言うにはそのポケモンは博士から貰い、自力で進化させたポケモンらしい。つまり、フロルの一番最初のポケモンだ。
最後、決勝で戦うまで秘密にしたかったということで、サミダレ大会では一度も出していないポケモン。それを、盗まれた。
(絶対に、取り返す……!)
普段は温厚なフィアだが、今だけは怒りの炎を内に燃やし、サミダレタウンを駆けて行く。
ポケモンを盗まれたと聞いてフィアが真っ先に思い浮かんだのは、グリモワールだ。
犯罪者集団、グリモワール。奴らは以前もポケモンを奪うという悪行を働いていた。
だが今回は前回とは少し状況が違う。まず、フロルが盗まれた事実にしばらく気付かなかったことだ。フロルがポケモンがいないことに気付いたのは、飲み物を買ってロビーに戻ったすぐ後。その数分後にフィアが戻って来たらしい。
(飲み物を買う前に、フロルは人とぶつかったって言ってた。で、その人が向かった場所が——)
四番ポートだ。
少々入り組んだ街の中を駆け抜け、フィアは主に貨物船が停泊する四番ポートまで辿りつく。するとそこには、案の定、グリモワールと思しき制服を着た者たちが何人かいた。
「やっぱりグリモワール……!」
数は多くない。下っ端たちは皆、積み荷を貨物船に運び込んでおり、こちらにも気付いていない。奇襲をかけるなら今しかない。
「ブースター、出て来て。火炎放射!」
素早くブースターを出し、ブースターは燃え盛る炎を噴射する。
「ん? なんか暑くないか?」
「そういえば……って、うおぉ!?」
積み荷を運んでいた下っ端たちがサッとその場から飛び退く。もしあと少し反応が遅れていれば、下っ端たちも積み荷のように消し炭になっていただろう。
「な、なんだお前は!」
当然、下っ端の一人が怒ったように声を荒げるが、
「フロルのポケモンはどこだ!」
フィアも負けじと怒声を発する。
その勢いに飲まれたのか、下っ端たちは尻込みしてしまう。その隙に、フィアは駆け出す。
「いるとしたらたぶん船内。走るよ、ブースター!」
ブースターと共に走り、甲板まで侵入する。中にも少数ながら下っ端がおり、フィアの気迫に戸惑いながらも取り囲んでいる。
「な、なんなんだこいつ。わけわかんねぇ……」
「なぁ、これはマモン様を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「そうだな。こいつ、少し強そうだ……ここは七罪人に任せよう」
賢いのか責任逃れなのか、上司と思しき名を挙げ、それに任せようとする下っ端たち。
その時、船の奥から誰かが出て来た。
「んー……なんだよなんだよ、騒がしいなぁ。昼寝くらいゆっくりさせろてんだ」
出て来たのは、若い女だ。二十歳を超えているかどうかというくらいだろう。
背は高めで、後ろ髪が跳ねた黒いショートカット。グリモワールの制服を作業服のように改造し、両手には軍手。上着は腰に巻き、腰の辺りでカットした長袖のTシャツを着ている。
「マ、マモン様!」
下っ端の人が叫ぶ。この女性が、マモンというらしい。
「なんだよ、侵入者? まった面倒なの出て来たなー。お前、何しに来たの?」
「フロルのポケモンを返せ」
率直過ぎるマモンの言葉に、フィアもストレートに要求を突き付ける。
マモンはフィアの言葉の意味を考えるように少し悩んだが、やがて思い出したように手を叩き。
「あー、フロルってあの子か。可愛かったなー、あの子。本当は本人を持ち帰りたかったけど、流石にそれは自重して、ポケモン一匹貰ったんだった。あんまり隙だらけだったから、ついついスっちゃったぜぃ」
おどけたようなマモンの態度に、フィアはさらに怒りを募らせ、
「ふざけるな! 返せ!」
「はんっ、泥棒が返せと言われてほいほいものを返したりするかよ。返して欲しけりゃ——」
と言いながらマモンは作業着のポケットからボールを一つ取り出し、
「——力づくで奪い返してみろ!」
勢いよくボールを投げつける。
「ウソドロ、参上!」
マモンが繰り出したのは、緑色の風呂敷を背負った、直立した黒兎。しかも、かなり悪い顔をしている。
『Information
ウソドロ 泥棒ポケモン
泥棒が大好きなポケモン。
泥棒こそがウソドロの
生き様であり存在理由。』
「ポケモンまで泥棒……グリモワールは泥棒しかすることがないのか」
「んなこたないに決まってら。つってもあたしはウソドロみてーに人モンを奪うのが生き甲斐だけど。なにせ——」
シュッと右手の軍手を外し、マモンはその手の甲を見せつける。
そこには黒く焼きついた烙印があった。繋がった菱形に近い三つの四角形、真ん中の四角には揺らめく陽炎のようなものがある。
「——あたしは強欲の七罪人だかんな」
「……七罪人?」
先ほど下っ端たちも言っていたが、それがグリモワールの幹部の名称なのだろうか。
「ていうことは、この前のサタンっていう人も、七罪人……?」
何気なくフィアが呟くと、マモンは軍手を嵌めつつ耳聡くそれを聞き、
「あ? サタ? お前、サタに会ったのか?」
急に不審な、というより怒りが混じったような表情を見せる。
「あいつ、まった報告サボったな。ったく、ひっでぇ勤務態度だ。大将はなんであんな奴を野放しにしてんのか」
しかも愚痴のようなことまで言い出した。よく分からないが、あのサタンという男とこのマモンという女は、あまり仲が良くないようだ。
「——ま、こんなことをここで言っててもしゃーねぇ。とっとと始めっぞ」
「……戻れ、ブースター」
マモンが好戦的な眼差しを向ける中、フィアはブースターをボールに戻す。そして、
「出て来て、ミズゴロウ!」
ミズゴロウを代わりに繰り出した。
実力的に、ミズゴロウはブースターに劣る。しかしフィアとしては、ブースターは決勝戦で出したい。こんなところで消耗させるわけにはいかないのだ。
「ミズゴロウ、水鉄砲!」
相手はグリモワールの幹部クラス、強い相手であることは確かだろう。なのでミズゴロウは、先手必勝と言わんばかりに先制して水鉄砲を発射するが、
「躱せ、ウソドロ」
スッと、半身になってウソドロは水鉄砲を回避する。非常に無駄の少ない動きだ。
「はんっ、あたしに向かって水鉄砲程度の技なんて、舐めてんのか? そんな技、盗む価値もねー。速攻で決めてやる、ウソドロ!」
マモンの声と共にウソドロは素早い動きで駆け出し、ミズゴロウの脇を通り過ぎていく。
「わっ!」
そしてフィアのすぐ側も過ぎ去り、フィアの背後でカーブ。またミズゴロウの側を過ぎようとするその時、
「辻斬り!」
鋭い爪を振り、通り過ぎる間際にミズゴロウを切り裂いた。
急所に当たったのか、今の一撃でミズゴロウは戦闘不能になってしまう。
「ミズゴロウ!」
フィアの足元まで転がってきたミズゴロウをボールに戻し、フィアは歯噛みする。
(防御の高いミズゴロウが一撃なんて。この人——強い)
この前であったサタンという人物も強者のオーラのようなものを発していたが、このマモンという女も十分強い。グリモワールの幹部は皆このように強いのだろうかと思いつつ、フィアは致し方なく、ブースターの入ったボールを手に取ろうとするが、
「……? あれ?」
ボールをセットしてあるベルトに手を伸ばしても、空振りする。何にも触れなかった。
「ボールが、ない……!?」
まさかこんな大事な時に落としたのかと思ったが、それはまずない。ブースターを戻したのはマモンと戦う直前。その後フィアは大きな動きを見せていないので、ボールが落ちるようなことはないはずだ。
そう思っていたら、マモンは一つのモンスターボールを掲げた。
「お探しものはこれか?」
「っ……僕のボール!」
一目で分かる。それは、フィアの持つボールだ。マモンはそのボールを近くの背の低い積み荷に置きつつ、
「隙だらけ過ぎるっつーの。あたしはただの泥棒じゃないんだぞ? 強盗だって怪盗だって、スリだってする。勿論、ウソドロもな」
つまり、さっきウソドロがミズゴロウを倒した辻斬り。本来ならただ通り過ぎるだけでいいはずなのに、わざわざ大きく回って後ろから斬りつけたのは、フィアのボールを奪うためだったようだ。
「言ったろ? 速攻で決めるってな。お前はもうポケモンを持ってねーだろ」
「あ、う……」
まさかポケモンを奪うなんて方法でこちらの動きを封じるだなんて思いもしなかった。しかもこれはポケモンを人質に取られたようなもの。フィアも迂闊に動けないし、どっちにせよ戦力がなくては動く意味もない。
「さーて、リヴが戻ってくるまでもうちっとだし、いたいけな少年をひん剥いて小銭でも稼ぐかな。追剥やるのは久しぶりだ」
ポキポキと指を鳴らし、勝ち気な眼差しでこちらを見据えるマモン。発言の内容からしても窮地に陥ってしまったフィア。
だが、幸運というのは、訪れるべくして訪れるものだ。
突如、海から大波が押し寄せ、ウソドロを飲み込んだ。
「んだぁ!?」
いきなりの攻撃に声を荒げるマモン。フィアもキョトンとしている。
波が引くと、まだ戦闘不能ではないウソドロが起き上がる。そして、波が押し寄せたのとは逆方向——即ち波止場から船へと上がってくる者が、一人。
「大人が子供相手にそんな真似して、恥ずかしくないのかな。いや、恥を恥とも思わないのかもしれないですが」
振り返ると、そこにいたのは一人の女性——いや、少女と言ってもいいかもしれない。
まだ幼さが残る顔立ちをしているが、歳はフィアよりも少し上くらいだろうか。鮮やかなピンク色の髪を低い位置で長いツインテールにしている。
服装は、セーラー服に似た白いブラウス。青いプリーツスカートと、学校の制服を思わせる意匠。
「でも、流石にちょっと見かねる光景だから——横入り、させてもらいますね」
今回はグリモワールが再び出て来て、新キャラ、強欲の七罪人マモンと少女の登場です。もう分かった人もいると思いますが、今作の悪の組織の幹部クラス、つまり七罪人は七つの大罪がモデルです。ありきたりなのは分かっていますが、どうしてもポケモンに取り込んでみたかったんですよね、これ。それでは次回、マモン戦決着というか終結。少女の名前も明らかに……ちなみに、この少女は前作で出ているキャラです。適当に予想してみてください。では、次回もお楽しみに