二次創作小説(紙ほか)

第24話 help of the goddess ( No.84 )
日時: 2013/04/29 15:41
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: 謎の少女、フィアに救いの女神到来!

 突然この場に現れた少女。少女はゆっくりとフィアの隣まで歩む。
 同時に、角にピンク色の花を咲かせた鹿のようなポケモンも歩を進める。さっきウソドロを攻撃したのは、このポケモンだろうか。
 そう思いつつ、フィアは図鑑を開くが、

『no information』

「……? 情報がない?」
 砂嵐を背景にそんな一文が表示されるだけで、このポケモンに関する情報が一切開示されない。
「このポケモンは季節ポケモン、メブキジカ。四季の存在する地方にだけ生息するポケモンです」
 フィアが首を傾げていると、少女が端的にそう教えてくれた。
「あの、あなたは……?」
 礼より先に、フィアからはそんな言葉が飛び出す。味方のようだが、素性が分からなくては不安だ。
 そんなフィアの心情を察したのか、少女は嫌な顔一つせず名乗りを上げた。
「私はミキ。わけあってホッポウ地方を旅してます。君は?」
「フィアです……」
「フィア君だね。うん、覚えました」
 少女——ミキはフィアの名前を復唱し、視線を動かす。その先にいるのは、マモンだ。
「さて、それじゃあここからは、フィア君に代わって私が戦うよ。覚悟はいいですか?」
「うーん……あんま可愛い女の子を泣かせたくはないんだけどな。ま、しゃーねーってことで」
 ミキのメブキジカとマモンのウソドロも構え、火花を散らしている。互いにしばらく睨みを合いを続け、
「ウソドロ、辻斬り!」
「メブキジカ、ウッドホーン!」
 共に駆け出す。
 ウソドロの爪とメブキジカの角が交錯し、互いに傷を負わせる。
「自然の力!」
 振り返り、メブキジカは大きく声を上げる。すると海に波が立ち、その波はどんどん巨大化し、大波となってウソドロに襲い掛かる。
「やっぱりさっきの波は自然の力か。ウソドロ、ジャンプ!」
 ウソドロは一息で空高くジャンプし、凄まじい跳躍力で大波を回避する。さらに、
「先取り!」
 跳躍した勢いのまま、ウソドロは落下しながらメブキジカに強烈な飛び蹴りを浴びせる。メブキジカは足を浮かせた瞬間だったため、その攻撃を回避できなかった。
「先取りは文字通り、相手の技を先取りする技。ノーマルタイプのメブキジカには、格闘技の飛び蹴りは効くんじゃないか?」
 勝ち誇ったような笑みを浮かべるマモン。だが彼女の言う通り、メブキジカは先取りされた飛び蹴りを喰らい、大ダメージを受けてしまった。
「……メブキジカ、ウッドホーン!」
「なんど来たって無駄だ! ウソドロ、辻斬り!」
 メブキジカは角を構えて突進し、ウソドロは爪を振りかざしてメブキジカに斬りかかる。
 互いに攻撃を繰り返し、打ち合い鍔迫り合いの様相を呈してきた。
「どうしよう、このまま見てるだけなんて……」
 そんな中、戦えないフィアはそう呟く。
(そう言えば、前もこんなことあったっけ)
 それはこの世界に来る前、闇に閉ざされた遺跡で青年が黒い渦から出て来たポケモンと戦っている時だった。
 あの時は下手に出しゃばったせいでポケモンを傷つけてしまったフィア。しかし、今は違う。
(そうだ、今は……こんな時だからこそ、力を借りるしかない)
 思い出したフィアは、鞄の中から一つのボールを取り出す。
「ごめんなさい、あなたのポケモンの力、少しだけ貸してください……!」
 どこにいるかも分からぬ彼にそう断ってから、フィアは手にしたボールを放る。

「力を貸して、ダイケンキ!」

 現れたのは、一体の海獣。法螺貝のような立派な角に、屈強な青い肢体。蓄えた白髭と、非常に貫禄のあるポケモンだ。

『Information
 ダイケンキ 貫禄ポケモン
 鎧に仕込まれたアシガタナで
 敵を切り裂く。刀を抜いて戻す
 居合の速度も非常に速く、視認は困難。』

「っ、今度はなんだ!?」
「師匠……?」
 また声を荒げるマモンと、呆然とダイケンキを見据えるミキ。そんな二人のことなど気にも留めず、フィアとダイケンキは二人の戦いに斬り込んでいく。
「ダイケンキ、シェルブレード!」
 ダイケンキは前足の鎧から仕込み刀——アシガタナを抜刀し、その巨躯からは考えられないスピードでウソドロに斬りかかる。
 ウソドロもダイケンキの登場に驚いていたのか、その場から動かず、成すがままにシェルブレードを喰らい、返す刀でさらに切り裂かれ、その場に倒れ込む。
「なっ……ウソドロ!」
 メブキジカの攻撃を受けたとはいえ、ウソドロがたった二回の攻撃で戦闘不能になった事に対し驚愕するマモン。いや、それだけではない。
「なんなんだよ、あのガキとダイケンキは……! あんな奴が、あれほどのダイケンキを使いこなせるわけがねーだろうが……!」
 俗に言う、レベルが高いポケモンは、ある程度の強さを持ったトレーナーでないと命令を聞かないものだ。トレーナーの強さの目安はジムバッジなのだが、フィアの持つバッジは現在一つ。ウソドロをシェルブレード二回で倒すようなダイケンキに命令して、素直に聞き入れてもらえるほどの力はないはず。マモンはそう思っており、実際にはその通りだ。
「なんだよ、なんなんだよ、あのダイケンキ。こりゃ、あたしの残りの手持ちでも厳しい……あっちの女の子も怖いし、どうすっか……」
 追い詰められ、弱ったような表情を見せるマモン。順当に行けば、このままフィアたちの勝利だ。
 だが幸運とは平等なもの。フィアにミキという幸運が訪れたように、マモンにも、幸運が訪れた。

「マモ……何してるの……?」

 どこからか声が聞こえる。しかし辺りを見回しても、それらしい人影はない。
 だがマモンだけはその声の主がどこにいるのか分かったようで、甲板の手すりに乗り出した。
「おぉ、リヴ! 良いとこに来てくれた!」
 などと歓喜の声を上げながら、マモンは手すりを越えて海へとダイブした。その行動に目を見開くフィアとミキも、手すりから目下の海面を見下ろす。
 するとそこには、マモンと、一人の少女。
 全く手入れをしていないような痛んだ黒髪で、片目が隠れるほど左右非対称に前髪が伸びている。服装は傷だらけのグリモワールの制服をエプロンドレス——いわゆるメイド服のように改造しているが、俗に言うコスプレなどのために見栄えをよくしたものではなく、もっと質素で地味な機能性を重視した服装に見える。
 さらにその下。マモンと少女を乗せている一匹のポケモン。長魚のような姿をしており、一言で言えば非常に美しいポケモンだ。

『Information
 ミロカロス 慈しみポケモン
 世界で最も美しいと言われている
 ポケモン。荒んだ心を癒す波動を
 放ち、争いを収める力があるらしい。』

「いやー、助かったー。あいつらマジでやべーって」
「……?」
 リヴと呼ばれた少女は首を傾げるだけで、状況がまだ飲み込めていないようだ。しかしマモンは構わず、
「とにかくサッサと逃げんぞ。戻って来たってことは、終わったんだろ?」
 少女は静かにコクリと頷く。そしてミロカロスに何か囁くと、次の瞬間、ミロカロスは薄い泡のような膜に包まれた。
「んじゃ、ここはとんずらさせてもらう。ポケモンはさっきのコンテナんとこに置いてあるから、好きに持って帰んな」
 マモンは最後にそう言い残し、少女、ミロカロスと共に海へと沈んでいってしまった。
「っ、待て——」
「待つのは君だよ」
 フィアが身を乗り出そうとするのを、ミキは手で制した。
「あれはダイビングっていう、潜水する技。もう追いかけられません。それに、君の目的は別のものでしょ?」
 言われてフィアは思い出した。確かに、自分の最初の目的はフロルのポケモンを取り返すことだ。頭に血が上って忘れてしまっていた。
 フィアはさっきマモンがボールを置いたコンテナへと走り、そこで自分のボール、そしてフロルのボールを手に取る。
「良かった……!」
 安堵の溜息を吐くフィア。ミキは辺りを見回しつつ、フィアに歩み寄って来る。
「下っ端たちはいつの間にか逃げちゃったか……ところでフィア君?」
「はい、なんですか?」
 ミキが少し不安そうな、焦ったような空気を醸し出しながら訪ねてくる。
 そして、その質問の内容は、フィアにとっても重大なことだった。

「一つ聞きたかったことがあるんだけど……君、サミダレ大会の決勝戦に勝ち進んでませんでしたっけ?」

「……あ」
 こちらも、完全に忘れていた。
 フィアは慌ててターミナルを取り出し、現在の時間を確認する。するとフィアの顔は真っ青になっていく。
「しまった……!」
 決勝戦が始まるまでの残り時間は、三分を切っていた。



今回はマモン戦終結、そして前作を知っている方なら分かったであろう少女、ミキの名前が明かされました。今作でも彼女には出てもらいますが、頻度はさほど多くないと思うので過度な期待はしないでください。ちなみに彼女の口調は、今作では常体と敬体を織り交ぜたものとなっています。前作だとほとんど敬語でしたが、それだと他のキャラとの差別化が……という理由です。それと前回、今回で分かった人もいると思いますが、グリモワールの七罪人は、マモンがマモと呼ばれていたり、それぞれ愛称で呼び合っています。なのでリヴというのも本来の名前ではないです。彼女の名前はもっと長いです。いつその名前が明かされるかは分かりませんが。さて、それでは次回、フィアは決勝戦に間に合うのか!? という展開です。お楽しみに。