二次創作小説(紙ほか)

第25話 first battle ( No.87 )
日時: 2013/04/29 17:18
名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
プロフ: サミダレ大会ビギナーカップ決勝戦。その行方は……?

 サミダレ大会ビギナーカップ決勝戦。
 決勝は天井のドームを開いた吹き抜けの状態で戦う、開放感溢れるフィールドだ。
 本来ならビギナー同士のバトルでも熱狂する観客たちなのだが、今はそうではない。むしろ皆、シーンと静まり返っている。
『決勝戦開始まで残り三分を切りました! しかしフィア選手、一向に現れません! 一体どうしてしまったのか!?』
『試合開始までに片方の選手がフィールドに来なければ、もう片方の選手が不戦勝になるというルールでしたね。流石に決勝戦にもなると、観客たちの期待も大きいですから、これが不戦勝などという結果に終わってしまうのは、残念極まりないでしょう』
 現在フィールドに立っているのはフロル一人。最初はフィアが来ないうちにフィールドに向かうことを渋っていたのだが、フィアが戻って来ると信じてフィールドに立つよう、ルゥナに押し出されたのだ。
(フィア……)
 物憂げな表情で、ただひたすらに、フロルはフィアを待っていた。



「どうしよう、このままじゃ間に合わない……!」
 試合開始まで、残り時間は二分を切った。しかし現在フィアがいる船着き場からでは、どんなに急いで走っても試合会場まで五分はかかる。どう足掻いても間に合わない。
 しかしそれでも、無に等しい、0%以下の望みに縋るように、フィアとミキは走っていた。
「折角ポケモンを取り返したのに、決勝でフロルと戦えると思ってたのに……!」
 それがすべて、水の泡になってしまう。
 幸い、決勝戦を観戦すべく多くの人は観客席にいるようで、人はいない。全速力で走っても問題ないのだが、そんなことは関係なかった。
 十字路を左折し、ポートから出る二人。そこで、急にミキが足を止めた。
「ミキさん! なにしてるんですか? 早くしないと——」
「どうせ走っても間に合わないんだよ。だったら別の方法を取るべきです」
 と言ってミキが指差すのは、備え付けられているパソコンだった。積み荷を降ろすためのポケモンを引き出したり、試合に出る選手がポケモンを入れ替えたりするために使うパソコンだ。
 ミキは電源を入れ、素早く自分のボックスを開いた。
「今、私の手持ちはメブキジカ一体。それに乗って走っても、さっきの戦いで負傷してるからたぶん間に合わない。でも、このポケモンなら——」
 ボックスからポケモンを引き出し、転送装置に一つのボールが転送される。ミキはそのボールを取り、ボタンを押して中からポケモンを出した。
「このポケモンに乗って、フィールドまで直行するよ!」



『もう残り時間は三十秒です! フィア選手まだ現れません! 本当に何があったのか!?』
 モニターには試合開始までの残り時間が表示され、カウントダウンを始める。刻一刻と時間が進み、試合開始までの時が迫っていく。
 観客たちはもう冷めきってしまい、観客席から出ようとするものまで出て来る始末。もうフィアは現れず、フロルの不戦勝で決勝戦、そしてビギナーカップは終了する。誰もがそう思っていた。
 その時。

 漆黒の鳥が、フィールドの中央に突撃した。

『な、なんだ——!? 突如、黒い鳥ポケモンがフィールドに降ってきた——!』
『いや、飛んできた、の間違いでしょう……しかし』
 砂煙が濛々と舞い、そのポケモンの姿は見えない。だがやがてその砂煙も晴れていき、ポケモンの姿が露わになる。

『Information
 バルジーナ 骨鷲ポケモン
 骨を集めて巣を作る習性がある。
 骨は他にもバルジーナを着飾る
 ためのアクセサリーにもなる。』

 フィールドに突っ込んできたのはバルジーナ……だけではなかった。その背には、二人の少年少女が乗っている。
「ふぅ……ギリギリ、間に合ったね」
「死ぬかと思った……」
 モニターの残り時間を見つめる少女と、ふらふらになってバルジーナから降りる少年。
 言うまでもなく、ミキとフィアだ。
「私はまだやることがありますから、ここで失礼しますが……応援してるよ。頑張ってね」
「はい、ありがとうございました!」
 手を振って、ミキはバルジーナに乗ってそのままどこかへと飛び去ってしまう。今思えば、彼女にはかなり助けられた。七罪人を退けるにも、この場所に来るにも、彼女がいなければどうしようもなくなっていた。
「フィア!」
 とその時、フィールドの端からフロルが叫ぶ。
 フィアはフロルの方を向くと、ゆっくりとポケットからボールを取り出し、
「フロル! ポケモン、取り返して来たよ!」
 シュッと、フロルにボールを投げ渡す。投げられたボールは、すっぽりとフロルの手の中に収まった。
「フィア……ありがとう」
 フロルは込み上げる喜びを、柔らかい微笑みで表した。
 とそこで、アナウンサーが割り込んで来る。
『なにやら選手二人の間でいい空気が流れていますが、なにはともあれ、サミダレ大会ビギナーカップ、決・勝・戦! 戦うのは、試合開始まで残り七秒というところで空から滑り込んできたフィア選手! お前はどこのヒーローだ——!』
 いつになくテンションの高いアナウンサー。そして狙ったわけでもないがギリギリで滑り込んできたという登場の仕方に、観客たちも意気揚々と沸き上がる。
『そしてそのフィア選手の相手は、紙一重の試合をギリギリのところで勝利していったフロル選手! 逆転勝利を得意とするフィア選手に、その力はどこまで通用するのか!』
 フィアはそんなアナウンサーの声を聞きつつ、フロルとは反対側のフィールドの端、トレーナーの定位置へと移動する。そして、ボールを構えた。
(そう言えば、フロルとバトルしたことってなかったな)
 どころか、バトルを見た事すらない。シュンセイジムではグリモワールと戦い、準決勝まではフロルが映し出される前に試合が終わっていた。
 ここまでの道中、共に支え合ってきた仲だが、バトルをするのはこれが初。そう思うと、妙な気分だ。
『さぁ、いよいよ戦いの銅鑼が鳴り響きます! サミダレタウンバトル大会ビギナーカップ決勝戦! 試合——』
 マイクを握り締めたアナウンサーは大きく間を空け、
『——スタート!』
 最後の試合が、開始された。



「最後は任せた、ブースター!」
「頼んだよ、リーフィア!」
 フィアが繰り出すのはブースター。そもそもミズゴロウがマモンとのバトルで戦闘不能、そこからここまで来るのに回復させる余裕などなかったため、必然的にブースターをだすことになる。
 そしてフロルのポケモンは、クリーム色のスマートな肢体。体の各所からは草が生え、緑色の耳や尻尾には葉脈のような模様や切れ込みがある。

『Information
 リーフィア 新緑ポケモン
 細胞が植物に似ているため、
 光合成が行える。尻尾の葉っぱは
 大木を両断するほどの切れ味を誇る。』

「リーフィア……このポケモンも、イーブイの進化系なんだ……」
 だとすれば今まで見たサンダースやブラッキーのように、なにかの能力に特化していると考えられるが、それを考える以前にブースターは炎タイプで、リーフィアは草タイプ。相性ならブースターの方が圧倒的に有利だ。
 だが、タイプ相性だけでは、バトルは決まらない。
「リーフィア、剣の舞!」
 先に動いたのはリーフィアだ。しかし攻撃せず、その場で剣のように鋭く舞い踊る。
『フロル選手のリーフィア、先制して剣の舞! 攻撃力を上げてきました!』
『相性的にリーフィアはブースターに弱い。しかも覚える技もさほど多くないですから、攻撃力を上げて火力だけでも対抗するつもりなんでしょうね』
 剣の舞は攻撃力を二段階上げる技。これでリーフィアの攻撃は、最低でもブースターに等倍で通るようになった。
「じゃあ行くよ、フィア」
 軽く息を吐き、フロルはリーフィアへと指示を飛ばす。
「リーフィア、リーフブレード!」
 リーフィアは太陽の光に葉っぱのような尻尾を煌めかせ、一直線にブースターに向けて走り出す。
 フロルは本気、そして全力だ。ならばフィアとブースター、全力で迎え撃つしかない。
「ブースター、ニトロチャージ!」
 ブースターは全身に炎を纏い、地面を蹴って駆け出した。
 リーフィアのリーフブレードと、ブースターのニトロチャージがぶつかり合い、交錯する——



いよいよ始まりました、決勝戦。ミキのバルジーナのお陰でフィアは試合に間に合いました。そして始まるフロルとの初バトル。サンダース、ブースター、ブラッキーときて、フロルの持つブイズはリーフィアです。ブースターほどじゃないですが、リーフィアもわりと冷遇されてますよね、個人的には好きなんですが……それはさておき。次回は決勝戦、決着です。そして……次回もお楽しみに。