二次創作小説(紙ほか)
- 第28話 power failure ( No.92 )
- 日時: 2013/05/03 20:50
- 名前: 白黒 ◆QpSaO9ekaY (ID: H6B.1Ttr)
- プロフ: 最近ポケモン小説が増えていて嬉しい。紙ほかにももっと増えないかな?
「ねぇ君、少しいいかな?」
声をかけられフィアは振り返り、声の主をその目で確認する。
まだ若い青年だ。歳はフィアよりも少し上といったところ。藍色のショートヘアーに凛々しさを感じる水色の瞳。昆虫の翅のような模様のある燕尾服を着ており、光を受けて煌めいているように見える。
「あなたは……?」
フィアは人見知りする人間なのだが、それでもやたら派手な格好に面食らう人は多いだろう。フィアは恐る恐る青年の素性を聞く。
「僕はハブラだ、よろしく。それよりさっきのバトル、見せてもらったよ。僕から見ても手強そうだったルクシオの興奮を冷まして、なおかつ倒すのではなく消耗させて追い払うなんてやるじゃないか。僕でもないとあんな芸当は簡単には出来ないんじゃないかな?」
「えーっと……」
青年——ハブラの捲し立てるような勢いに飲まれ、言葉が詰まるフィア。ほぼ完全に並べられる言葉の数々に口を挟むことを放棄したフィアは、しばらくハブラの声を聞き流し、
「——で、そんな君の強さを見込んでのことなんだけど」
遂にハブラが本題に移ったようなので、フィアも聞き流すことを止め、真面目に聞き入る。
「君も気付いているとは思うけど、さっきの停電と今のルクシオはたぶん無関係じゃないと思うんだよね」
「やっぱり……研究所で何か起こったんでしょうか?」
「そう考えるのが自然だと思う。さっきジョーイさんに聞いたけど、他の場所も停電が起こっていて、復旧はまだみたいだ。そもそもこの街では停電はまず起こりうることのない現象だ。ほぼ確実に、研究所に何か異変が起きているはず」
だから、とハブラは続ける。
「僕は研究所に行ってその異変を突き止め、あわよくば解決しようと思っていたんだ。僕一人じゃ何かあった時に不安だったけど、君ほどの手練れがいれば、まあ大丈夫だろう。一緒に来てくれるかい?」
かなり饒舌に語るハブラに押され気味になるフィアだったが、フィアも元は研究所に向かうつもりだったのだ。ハブラとの利害は一致するし、断る理由もない。
「はい、分かりました」
二つ返事でOKし、フィアとハブラは、ライカシティの中央に鎮座するライカ研究所へと向かった。
ライカ研究所が何を研究しているかというと、それは本当に様々なことを研究している。
研究所の中はいくつもの部門に分かれており、ポケモン一つ取ってもその生態、生息環境、起源、進化、卵、力などなど、多方面、他分野に対して研究をしている。
とはいえ最近はアシッド機関との提携により、ポケモントレーナーの研究が進んでいるらしいが、それでも他の分野の研究が滞ることはなく、研究所としての規模は世界有数だ。
そんなライカ研究所のロビーまで辿り着いたフィアとハブラは、とんでもない光景を目にしていた。
「うわ……」
「これは凄いね……」
ロビーには多量のポケモンがはびこっていた。その数は数十匹。小型のポケモンばかりで皆大人しいとはいえ、これは衝撃的だ。
「えーっと、閃光ポケモン、コリンク。磁石ポケモン、レアコイル。発電ポケモン、プラズン……多すぎて検索するのも一苦労だよ……」
「しかし妙だね」
ポケモン図鑑にポケモンを登録していくフィアを余所に、ハブラはポケモンたちを見渡しながら呟く。
「このポケモンたちは全て電気タイプ。しかも、ライカ山道に住むポケモンたちだ」
「ライカ山道?」
当然だが、聞き慣れない言葉にフィアが復唱すると、ハブラが答える。
「ライカ山道っていうのは、ライカシティとオボロシティを結ぶ山道だよ。大きな磁場が常に発生していて、山道の至る所には電気が大量に発生するポイントがあるんだ。だから山道には電気タイプのポケモンが多く生息し、その電気を主食としている。自分で発電できるプラズンも含めてね」
つまりその山道にいるはずのポケモンがここにいるということは、
「山道からポケモンたちが降りて来たってことですか? 電気を求めて」
「そういうことになるんだろうね。となると原因は山道にあるんだけど、今は研究所をなんとかしないと」
受付で縮こまっている係員から話を聞くに、一時的に予備電源が入ったもののすぐに消えてしまい、扉も全てオートで開閉、ロックされてしまうため中にいる研究員は全て閉じ込められているらしい。
「となると、まずは研究員の人たちの安全を確保しないとね。扉に関しては突き破られた跡があるから、移動は困らないだろうけど」
廊下を歩きつつ、大破したいくつかの扉を見て、ハブラは言う。
研究所の中はかなり広く、ポケモンたちが駆け回っている。まだこの辺りのポケモンは人に危害を加えるようなことをしていないのだが、奥の発電施設まで行くと、それなりに凶暴なポケモンがいるのではないかとハブラは予想していた。
「——っと、ここか」
フィアとハブラが足を止めたのは、一つの扉の前。ここがいくつもある研究室の一つで、多くの研究員たちがこの部屋の中にいるそうだ。
「とりあえずここの人たちから助けようか。扉は開かないし、ちょっと乱暴だけど無理やり突き破るしかないね」
と言いつつ、ハブラはボールを取り出した。フィアも続けてボールを出す。
「頼んだよ、ブースター」
「さ、出て来て、メラルバ」
フィアが繰り出したのは、一番パワーのあるブースターだ。
そしてハブラのポケモンは、芋虫のような幼虫の姿をしており、頭部は白い毛に覆われ、五本の赤い角が生えている。
『Information
メラルバ 松明ポケモン
太陽から生まれたと言われる
ポケモン。そのため、一部の
地域では信仰の対象とされている。』
「メラルバ、ニトロチャージだ」
メラルバは全身に炎を纏うと、そのまま扉に向かって突進する。
一撃では壊れないが、金属製の扉は高熱を受けて赤く変色し、脆くなっていた。ここで強い衝撃を与えれば簡単に大破するだろう。
「ブースター、アイアンテール!」
そこにブースターの鋼鉄の尻尾が叩き込まれ、扉は粉々に粉砕された。
フィアは今更ながら、中にいる研究員にも被害が出てしまのではと思ったが、研究員は全て部屋の奥に退避しており、被害はなかった。
「救援です。大丈夫ですか?」
ハブラが不安に駆られた研究員を落ち着かせるように静かな声で言う。すると研究員たちの表情も明るくなった。
しかし、研究員のうち一人がハブラと何か話している。研究員の表情からして、悲報のようだが。
「そうですか……分かりました。その人も、こちらで何とかします。一応、この街の警察にも連絡はしたので、大丈夫でしょう」
歳は二つ三つ程度しか変わらないというのに、フィアと違ってハブラの対応は社会人のそれだった。自分の人としての未熟さを嘆きつつ、ハブラからの話を聞くと、
「どうやら、予備電源が作動した時に発電所の方に行った研究員が一人いるみたいなんだ。電源は予想外に早く消えちゃったみたいで、最悪その人はエレベーターとかに閉じ込められているかもしれない」
「じゃあ、その人も探しに行くことになるんですか」
「うん、まあそうだけど……」
顎に手を当て、ハブラは考え込むような仕草を見せる。しばらくそんなポーズを取っていると、やがて手を離し、
「こうしようか。僕は今からこの研究員の人たちや他の部屋に閉じ込められている人たちを安全な場所まで誘導する。その間、君は発電所の方に向かってくれ。途中で一人残された研究員を見つけられれば御の字だけど、何はともあれ発電所をなんとかしないと。もし手におえないと思ったら戻ってきてもいいし、ターミナルで連絡してもいい。とりあえず僕のアドレスを教えておくよ」
と言ってハブラは自分のターミナルを取り出し、フィアのターミナルとアドレスを交換する。
ともかくこれで方針は決まった。ハブラは研究員の誘導。フィアは発電所の調査だ。
「じゃあ、頼んだよ」
「はい、ハブラさんも気をつけて」
そして二人は、ひとまず別れた。
久々の更新です。最近は部活や学校行事で更新が滞っていました、ごめんなさい。それにしても、GWの真っ只中に京都に行かせる学校はなにを考えているのでしょう……そんな愚痴はさて置き。今回はパーセンターさんのオリキャラ、ハブラの登場です。キャラ崩壊などの不備があれば言ってください。というか、ハブラがなんだか饒舌キャラになっているような気がするのは白黒だけでしょうか……それと、今回でやっと確定キャラ三名が埋まったのですが、これでもまだ試行錯誤段階です。減らすことはしませんが、今後の展開次第で一人増やす可能性が高いので、不採用となった方も諦めないでくださいね。ちなみに第一回とか前に言いましたが、第二回はたぶんないです。最初は考えてたんですけどね……でもこのキャラ数からすると、読者の方が混乱しそうなのでやめます。確定キャラが三名なのもその辺が原因です。さて、久々に普通のあとがきが書けたところで次回、研究所の騒動の続きです。次回もお楽しみに。